はじめる

#龍目文庫

読んでると、
思わず胸がギュッとしめつけられる、
そんなポエムを集めました。

全5作品・



短編小説




『 クロツグミ 』



#1

西沢 と 園田





自分の家族以外の人間に興味はない


正直…… 関わっても

対した利益にならない

赤の他人の

命なんて_













病室の窓から

今日も ぼんやり景色を眺める


「 今日は晴れて

気持ちがいい日だったね」


僕が明るく声をかけると



シュコー…シュコー…



無機質な機械音が返ってくる



「最近 母さんの好きな

カレーの作り方 覚えたんだ

ルー とか使わない方のだよ?

ちゃんと スパイスからつくるやつ

元気になったら

ごちそうしてあげるね 」






遠くからカラスの賑やかな声とともに

夕方6時を告げる 時報が響く


『 浜辺の歌 』

あした 浜辺を彷徨えば_♪








もう こんな時間か…帰らないと…

定期考査が近い 早く帰って勉強しなくては


「 じゃあ、また あした 」


そっと 耳元でささやくと

僕はせわしなくその場を後にした









…ウィーン


病棟 出入り口の自動ドアが開くと

研ぎ澄まされた風が僕の頬をかすめた

「 うわっ! 寒!」

見上げると 乾いた空の中を

粉雪が楽しげにチラチラと舞っていた


「 はぁ… あした からまた

冷え込みそうだな…」


凍てつくアスファルトを蹴って

僕はバス停へと急いだ













次の日 学校に着いた僕は

自分の席に荷物を下ろすと

教室の景色が なにやら

いつもと違うことに気がついた

前の席に 珍しく園田が座っていた

詳しくは知らないが

彼女は持病持ちらしく

最近は学校を休みガチだった


( これは 大雪にでもなるかな?)


窓の外を眺めると

クロツグミが一瞬だけ

姿を現し そのままどこかへ

飛んでいくのが見えた


その時だ



…ガタッ!


教室に 鈍い音が響いた

音の方を見ると

園田が 床にひざまずいていた


「園田さん! 大丈夫!?」

クラスの女子が慌てて駆け寄る

「だ、大丈夫! ちょっと

ドジっただけ あはは…」

園田は おどけた口調で応えた

だが、顔は青ざめていて

誰がどう見ても 授業に参加できるほどの

元気はないのが分かる






「 体調悪いなら

始めから来なきゃいいのに」


___ベシッ!


頭の後ろを 誰かが叩いた

振り返ると 幼馴染みの津島が

怪訝な顔で僕を睨む

「バカ 聞こえる 」

声を潜めて言う

こいつは昔から 無駄に

人情に熱いところがあって


正直 面倒くさい



「 いや、聞こえた方がいいでしょうよ

無理して来るの効率悪いし」


敢えて 声をおおきくする


「お、お前さ! もう少し

思いやりというのを…」


焦ったように津島の口調が早まる


「なんだよ 偽善なお前よりマシだろ」

僕は顔を曇らせながら

皮肉めいた言葉の弾丸を津島に向けた


「 ……… 」


津島は 少し悲しそうな顔をすると

「 休んだほうがいいの

お前のほうな… 」

溜息混じりに 言葉を吐いた



( チッ なんだよ 俺のこと嫌いなら

始めから俺に絡むなよ)

動作がいつもより手荒になる



母さんが過労の末

クモ膜下出血で倒れ

意識が戻らなくなってから

早いもので一ヶ月が経つ

一般的にいう 脳死

最近 親戚から遠回しに

臓器移植のドナーについて提案を受けた

制度が変わったようで

家族の同意があれば提供できるとか






キーンコーンカーンコーン



いろいろと 思考を堂々巡りさせ

授業を聞き流していると

気づけば 夕方になっていた

時の流れが早まったように感じる





また、不穏な思考が

脳裏に影をおとす


__冗談 じゃない…

母さんの臓器は母さんのものだ

それに… 協力したところで

どうせ 金持ちの患者のところに

もっていかれるのが関の山…


それじゃぁ… まるで

母さんの命が

金で買われたみたいじゃないか…



イレギュラーな事態が

悪戯に迷い込んできて

正直 今は気が気でない


他人を思いやる感覚など

何処かに行ってしまった__




「 西沢君…!」


帰路につこうとする僕を

誰かが呼び止めた


__園田だった


「…は? 俺…? つっ、あー…

朝のことなら 気にすんなよ

俺の言うことなんて

君には関係ないから」


これ以上 不必要なトラブルは

抱えたくない

適当な言葉で 本音をぼかす



園田は きょとんとした顔をする


「 あ、いや… その話じゃなくて…

その… なんとなくなんだけど

西沢君から 変な必死さを

感じるというか… 少し心配というか…」




彼女から出た言葉は意外なものだった

これには さすがの僕も面喰らう



急にどうして__



「 ……… 」



僕は どう反応したら良いか分からず

沈黙すると 彼女は慌てたように


「 ああ! なんかごめん!

いいの! 気にしないで!」


と一言を加え どこかへ駆けていった





遠くでヒヨドリの

けたたましい声がする









_五月蠅い













それからというもの園田は

時折 教室に来るようになった

体調は徐々に良くなっているのだろうか

他人事ながら 少し嬉しくは思う





……妙な優しさを

向けてくることは除いて__





「おはよう!西沢君

なんだか 目の隈が酷いね

ちゃんと寝れてる?」

「 う、うっせぇな!

お前のほうが 顔色悪いだろ!」



「 あ! 西沢君 今日も

不機嫌そうだけど 大丈夫…?」


「や… お前 その言い方

逆に失礼だから」



いや、………これは…優しさなのか




バカバカしい彼女とのやり取りに

呆れつつも 何か温かいものを感じた

心の奥の何かがほぐれていく



そんな ある日のことだった

学校帰りに 母のいる病院に立ち寄ると

偶然 園田に会った


「 あ… 園田じゃないか 珍しいね 」

僕は気さくに話しかける

「 ううん 私 昔からここに通ってるから

珍しいことなんてないよ」

彼女は笑いながら応えた

「 え? そうなんだ 気づかなかった 」


「 まぁ 西沢君は新参者だからね

古参の私は 西沢君が来ていることに

気がついていたけど 」


彼女は得意げに言う

なんだよ…古参って

少しして 彼女は

やや真剣な面立ちに切り替えると


「 あ…あの言いたくないなら

言わなくてもいいんだけど…その…」


少し 心配そうに話を切り出した


「あぁ、身内がね入院してんだよ

対したことない 多分 もうすぐ退院さ」

明るい口調で気持ちを

うやむやにする


「そうなんだ 良かったね

ちょっと気がかりだったから

あ… でも 西沢君来なくなるの

ちょっと寂しいな 」

彼女は悪戯に笑った

「何言ってんだよ どうせ学校で会うだろ?」

僕も笑って返す







そっか… だから___







彼女との他愛のないやり取りが

続いて 一ヶ月ほど経った頃

彼女は教室に全く顔を出さなくなった


体調がかんばしくないのだろうか…

例の病院でも 会わなくなった

受け付けに質問をしたが

個人情報は教えれないと断られた





まぁ いずれ また__





小春日和のある日

朗らかな日差しに目を細め

教室から 窓の外を眺めていると

クロツグミがおどけた顔でこちらを

見ていることに気がついた

ピッ と一声言うと

そそくさとどこかへ飛び去った

冬鳥も 北へ帰る頃だろうか…


呑気なことを考えている

そんな 時だった



ガラガラと 鈍い音を響かせ戸が開いた

暗い面立ちをした担任が入ってくる



「 皆さんに 大事な話があります 」

重々しい口調で話し出す



「 同じクラスの 園田さんについてですが

持病が悪化し…

先週 大学病院の方で__ …」










嗚呼 さっきのクロツグミは







どこへ 行ったのだろう










学校帰り 僕はふらついた足取りで

母さんの入院している

病院に向かっていた


彼岸過ぎて七雪

午後からまた 冷え込む予報だった

僕はあまり 寒いとは感じなかった









『 ___西沢君 』








ふと 懐かしい声が聞こえた

前を向くと


___園田が立っていた



「 お前… こんな所で何やってんだよ」

ドスの利いた声を出す

胸の奥から何か

熱いものが込み上げてきたのを感じる





『 良かった 会いたかったの 』



彼女は安心したように微笑む



その優しい眼差しが

僕の心を逆撫でた





「違うだろ! 早く戻ってこいよ!

ノロマ!

なんで いつも 要領わるいんだよ!」


目から熱い雫が

ポロポロと落ちてくる




『 ごめんね 嫌な想いさせたね…』



彼女は申し訳無さそうに

肩をすくめた






「 別になんとも思わねぇよ!

俺は俺の家族のことしか興味ねぇし!」



嗚咽の中からなんとか声を絞り出す



視界が…ぼやけて



何も見えない






『 さいごに 伝えたいことがあって_』









「 駄目だ!!!」


必死になって金切り声をあげる






『今まで 本当に ありが_』




「 黙れ! それだけは 言うな!!!」


彼女の声に被せるように

僕は大声を荒げた






遠くから 時報の音が響く

『浜辺の歌』




僕の早まる鼓動をなだめるように

哀愁を纒ったメロディが

ゆったりと流れていく




はぁ… はぁ…



暑苦しい呼吸を

凍てつく大気が冷やす





時報が鳴り終わると

時が止まったような静寂が訪れた




僕は 恐る恐る 顔をあげた





___!




園田の姿は もうそこになかった


空を見上げると

灰色の厚い雲が

空全体を覆い




粉雪が 楽しげに舞っている





少しして 携帯の

バイブ音に気づいた

涙を拭い

おもむろに電話に出る


「もしもし、西沢颯真さんですか?

鳥羽病院の橋本です。

たった 今… お母様の心臓が_ 」



なぜだか 僕の心は

妙に落ち着いていた



せわしないな まったく




龍目 #小説・2022-02-26
クロツグミ
小説
どんな未来が待とうとも
好きな人
初恋
龍目文庫
感想くれると嬉しいです
鳥目物語




『 もぬけの魂 』


#2


俺がまだ 餓鬼の頃の話だ
仲間と山で遊んでいると…

近場で噂になっていた人喰い熊に出会した

獰猛で 無秩序で 非情な獣
早まる鼓動 心臓も理性も
今にも狂い出しそうだった

その時だ 仲間の一人が
恐怖の余り 奴に背を向け一目散に
走り出してしまった

無惨にも… その子は
獣の餌食になった


恐怖というのは これと同じだと
俺は思っている


恐怖から逃げる事と
距離を置く事は 似て非なる


もし、恐怖の対象に出会した時
背を向けて逃げるのは賢明ではない


逃げる行為は 恐怖心という名の
獣をより獰猛にする


その態度を続ければ… いずれ
あの子のように_



by 火達磨


__ __ __ __ __


みつよ _人身御供の娘

土地神の怒りを慰めるため
奈落の谷にその身を投じた
それを哀れんだ土地神により
妖かしとして蘇る


火達磨 _祟り殺しの法師

地獄炎の術師 法師の責務の傍ら
各地を転々とし祟殺しに勤しむ

__ __ __ __ __



( なんだろ… 暖かい…)


朗らかなまどろみの中
みつよ は薄く目を開いた
どこからか 聞こえる 楽しげな
野鳥の囀りが 耳をくすぐる



__!



目を覚ましたみつよ は
慌てて身を起こす



「 ……いっ !」



その途端 全身に針に刺された様な
痛みが走った…
起き上がりきれず背中から倒れる



「 残火の術を施した
まだ当分 動けねぇよ 」



男の怪訝そうな声
その方を見ると火達磨が
呆れた顔で見下ろしていてた



「火達磨…?何が
どうなっている!?」



驚きのあまり 先程の激痛も
どっかに飛んでいってしまった



「お前… その状態でも
口だけは達者だな…」



火達磨は ぶっきらぼうに
前髪をかき上げると
はぁーと深い溜息をついた



「 妖かし…めんどくせー… 」


そっぽを向いて
わざとみつよに聞こえるような
声で独り言を零す



「 い、いいから 説明しろ! 」


みつよはこっ恥ずかしい気持ちを
隠すように声を荒らげた


「 と・は・言うもののさ…
どっから話したら良いもんかね…?」

火達磨はみつよの方へ
向き直すと腕を組み 気怠げに聞く


「……一先ず 火達磨が
私の妖術に恐れを成して
女の子みたいな悲鳴をあげていた
辺りまでは…記憶にある」

みつよは悪戯に笑った


「………ふーむ…
記憶の改ざんも甚だしいな…」

火達磨も 優しく口角を上げる

「まぁ… 結論から言うと
今回の祟殺し_ 君を滅する事は辞めにした
理由は君に人を祟る気がないから
無駄な戦いはしたくない 」



意外な言葉に みつよは少々
面食らったように 眉をあげた

「 やけに優しいな?
なぜそうと断言できる?」



火達磨は組んだ腕をほどき
頬杖をつくと ニヤリと笑った

「 俺の地獄炎の術を一時的に抑え込んだろ?
あれでピンと来たよ
君にあるのは燃えたぎる復讐心でない
生きる事に対する過剰なまでの執着心
君には更生の可能性が大いにある」




「更生だと!? ふざけるな!
私は誰からの指図も受ける気はなんて…
………いっ!」

心が乱れたせいか
再び 全身に痛みが走った



「落ち着けよ 残火の術は情動に一定以上
思考が委ねられると発動する
時間はあるんだ 焦るな 」



「これが 落ち着けるか…
急に親切になった貴様の態度も
この妙なまじないも…
そもそも地獄炎に罹った後の
記憶さえもままならん…
…狐につままれた気分だ…」


みつよは諦めたような顔をし
仰向けの姿勢でぼんやり上を眺めた
木漏れ日がチラチラと揺らぐ


「 あぁ… あの時 君は地獄炎を
きっかけに覚醒状態になった
そして、妖気を臨界点まで研ぎ澄ませ
その気をもってして 俺に襲いかかったんだ
正直 俺はあの時 死を覚悟したね 」



みつよ の脳裏に薄っすら
あの時の情景が蘇った

_燃える身体 凍りつく心
火達磨の 悲しげな眼差し




( そうだ… 私はあの時 火達磨を…)

なぜだか 申し訳ない気持ちが沸き起こり
胃の辺りが痛くなった



「だが、君はすんでのところで
俺を殺す事を躊躇った
攻撃は見当違いな方へ飛んでいき
君は自分の動きを操り切れず
そのまま 大木へ激突して気絶した…

……まぁ、正直いうと… ちょっと
間抜けだったな… プッ」


火達磨は思わず吹き出すと
慌てて 手を口に当て
身体を震わせながら
必死で 笑いをこらえた



「……… 」


みつよは 顔を赤らめ沈黙した



「恥ずかしがること…プッ…
なんて…ククッ…ねぇよ…ヒヒッ」



「いや、貴様の その態度だよ!」


その声すらやや裏返ってしまい
更に恥ずかしさが増す
みつよは 右目下を痙攣させた


火達磨は一旦 深呼吸をすると
再び 真剣な眼差しを戻した


「 だがまだまだ安心はできない
確かに君はあの時 怨念を一時的に
制御する事に成功したが
もっと厄介なのが 恐怖心の方だ 」


「……恐怖心…?」



「君の能力、精神ともに
まだまだ発達段階…
大きな変化点を迎える時
必ず 恐怖心に襲われる事になる」


火達磨の顔が険しくなる
風に吹かれた木々たちが
ザァッ…といぶかしげな音を立てた


「君にはまだ 恐怖心と立ち向かう
力があるように思えない
このまま 放って置くと危険だ
いずれ 暴走するのも目に見える 」


みつよは 少し悲しげな顔をする


「 ………それなら尚の事…
なぜ…私を殺さない…? 」


火達磨は 頬を少し緩ませた

「 君には更生の余地があると言ったろ?
俺はこの可能性に賭けたいんだ
みつよ 俺の旅路に付き合え

己の意志で 生きる術を 教えてやる」





龍目 #小説・2022-02-20
妖かし物語
もぬけの魂
小説
伝えたい想い
龍目文庫




『 もぬけの魂 』


#1



もし、全ての命が平等に
扱われるとしたら

そこに広がるのは


命の価値すら消えた
血も涙もない 無の世界__


__ __ __ __ __


みつよ _人身御供の娘

土地神の怒りを慰めるため
奈落の谷にその身を投じた
それを哀れんだ土地神により
妖かしとして蘇る


火達磨 _祟り殺しの法師

地獄炎の術師 法師の責務の傍ら
各地を転々とし祟殺しに勤しむ

__ __ __ __ __



「ふぁー」

火達磨は大きなあくびを一つ零すと
森の木々の隙間から
谷沿いにある小さな集落を見下ろした

法師の傍ら 祟殺しを生業とする彼の
新たな拠点地となる土地

集落はひっそり閑と静まり
殺伐とした雰囲気が漂っている



ピーヒョロロー


見上げると
一羽の鳶が まだ薄暗い荒涼の空に
大きな輪を描いていた

北おろしの風と共鳴するような
寂しげな声が響く







「神の生贄となった娘が まさか
鬼神となって故郷を祟るとはね…
切ないねぇ まぁ 自業自得だが」


火達磨は ククッと怪しく瀬々笑った
からっ風に吹かれ
軽く身震いをすると
火達磨は集落の方へ歩みを進めた





ことの詳細はこうだ


いにしえよりこの集落には
人身御供という習わしがあった

それは 土地神を慰めるために
集落の若く美しい娘を生贄にすること

百年に一度 その儀式が行われるのだが
昨年がその年で
みつよ という16になる娘が
人身御供として奈落の谷に身を投じた

元々 みつよ は戦で侍に親を殺された
身寄りのない孤児であった
集落の人々の情けが無ければ
この歳まで生き延びることは
出来なかったであろう

だから その身をもってして
この土地の人々に
恩返しをするのは当然のこと__

みつよ は志半ばに人身御供の役を
買って出なくてはならなかった

祭の夜 丑三つ時 彼女は
奈落の谷に 身を投げた

『 この時の為に延ばされた命なら
はじめから…情など かけなくても
良かったものを__』


娘は心悲しそうな顔で
最期にそう呟いたという




それから 一年後の今 死んだはずの
娘が再び集落に舞い戻ってきた

姿形は16の若い娘そのものだが…

その 本性は

血の流れる生きた人間と
似て非なる 疫病神の化身であった




「祟りが人を襲う前に 疫病神を討つ」


それが 異郷の地へ
遥々 やって来た 火達磨の
主だった目的である





集落へ歩みを進めるさなか
火達磨は 祟殺しの段取りについて
思い起こしていた その時だ







___ヒュオッ!



殺気立つ研ぎ澄まされた
冷ややかな風が
火達磨の首筋をかすめる

これは 自然の風ではない
火達磨の長年の勘が叫ぶ

この風は 妖術の類 あるいは_



火達磨は 咄嗟に身構え
風の吹いた方向を見やる



そこには 先程までいなかった
藍染 絣の着物を纏う娘が立っていた

艷やかな黒髪の奥に
灰色の瞳が 獣の如くギラリと光る

顔は美しく整っているが
温かみのない肌をし
無情な面立ちは
まさに 心ここにあらず
といった具合だった



「おっとなんだ、話が早いな?
君が 人身御供の娘 みつよ かい?」


火達磨はひょうきんな口調で訪ねた





「 だったなんだと言うか?
貴様… 私の敵であろう…」




娘は顔を曇らせ 細い腕を固く強張らす
周囲の木々はキシキシと悲鳴をあげた




「 フッ あぁ お察しの通りさ
俺は君を滅するために遥々参上仕った
祟殺しの法師 俗名 火達磨」



火達磨は一呼吸置き
憎しみの炎を灯す娘の眼を
真っ直ぐに見詰めた


「自分でも薄々勘付いているだろうが…
君はもう人ではない
怨念故に蘇った物の怪
いずれ人の世に災いをもたらす 」


火達磨の顔が険しくなる
決意を固めた眼差しが
朝焼けの光に照らされ 赤み帯びる


「悪いが みつよ いや、__もぬけの魂よ
ここでもう一度 死んで貰うぞ」




娘はその言葉に…一瞬
幼気で 悲しげな顔を見せた
が、首を横に振ると 厳しい表情をし


「誰も助けてくれなかった癖に…
なぜ、最後の願いすら
奪われんとならんのか…」


…と 小さく呟いた






「!!」





その時だった 火達磨の身体に
身の毛のよだつ悪寒が走る
身の危険を感じた火達磨は大きく身を翻し
近くの大木に身を隠した




___ピシュッ…!


火達磨の肩から血しぶきが上がる
まるで 鋭利な刃物で斬りつけられような
痛々しい傷がそこにはあった




「 畜生… 油断したな 殺風の妖術…
妖力は土地神級といったところか…
人型の妖かし それも餓鬼ときてる
情動が理性を剥奪し暴走するのも
時間の問題だろうな…
ちっ! 分が悪い…」



娘は浅い呼吸を繰り返し
込み上げる感情を必死に
抑えているかのようにも見えた


「あいにく私は
人の世というものに愛想が尽きた

名誉も 愛もいらぬ
私はただ生きたいだけだ…
それだけが 私の最後の望み

…例え 人の世に憎まれる
存在にならうが構わん!

…私の最後の望みを妨げようものなら
…火達磨 貴様を殺すまで…! 」



娘の無念がひしひしと
火達磨の身体を伝う…
止血の為 手ぬぐいを
肩に巻き きつく縛ると

ふぅ… と深い溜息をついた



「 なるべく穏便に逝かせてやりたかったが…
止むおえん…!」


火達磨は右手の人差し指を
口元で立て
静かに 念じた


_____ボォォオ!


娘の身体から火の手が上がった


「 !!! 」


炎はすぐさま 身体全身を覆う


「___熱い! 痛い痛い痛い 痛い…!」


先程までの禍々しい口調と打って変わり
娘は弱々しい 悲痛な声をあげる


「 俺の地獄炎の術は
敵の心の闇に潜む怨念を燃やすもの
抗えば抗うほど 憎めば憎むほどに
その炎は激しく燃え上がる」


赤黒い炎は娘の苦しむ声など
気にも留めず
火の粉を高く舞い上がらした

娘は泣き声をあげながら
両手を顔に押しあて 爪を立てる
更に声高に叫ぶ


「 嫌だ嫌だ! このまま死にたくない
生きたい…!」


火達磨は心の隙に背徳を感じつつも
その手を休めようとはしなかった

情動と理性の狭間に迷いがあれば
それが 術の質の悪くし
殺すべき対象を余計に苦しませる事になる


「 悪いな ここは大人しく
成仏してくれ…」


火達磨の右手の構えに力が入った


( 憎い憎い憎い…全てが憎い…)
娘の脳裏に 過去の苦々しい記憶が
沸々と再生された


( これは…まさか 走馬灯__ )


侍の戦で 無関係であるはずの
家族を殺された事

集落の情けで生きながらえるものの
そこに 自由はなく
結局は 大人どもに利用され捨てられる
運命であったこと


___何も無い もぬけ…の道


娘の中で 何かがふっと
事切れるのを感じた


心の奥深くに眠る
静寂な空間が 大きく広がる


情動と理性の狭間
そこに 己の道を見つけたのだ



「 ____こんな処で
挫けるものか
生きてやる…
今度こそ 自身の意志で…!」




娘は両腕を下に下ろし
カッと目を開く
瞳孔を狭め 灰色の虹彩は
赤黒い炎の中で 銀色に光る




「…! 」















娘の身体を覆っていた地獄炎が
徐々に小さくなる

そればかりか 炎の色は
おぞましい赤黒い色から
蒼い厳かな色へ変わっていくではないか



「………! そんな馬鹿な!」


火達磨は呆気に取られ
その場に立ち尽くした


「 …まさか 己の意志で怨念を消したのか
いや… あれは…消し去ってなどいない…
自身の信念が…
…怨念を従えさせている!?」


火達磨にとって 今までに
経験のない事態であった

怨念に取り憑かれ生きるはずの
黄泉返りの妖かしが
己の信念でその怨念を操るなど
到底 不可能のはず …ましてや
精神的な発達が間に合っていない
16の娘に…など…




「 驚いている暇はないぞ…
この 無粋法師!!」



娘の 毒づいた声に
火達磨は ハッと我に返る
慌てて 携えた薙刀を構えた


…が、時は 既に 遅かった















































龍目 #小説・2022-02-17
妖かし物語
というジャンル
小説
タグ紹介
もぬけの魂
伝えたい想い
龍目文庫

これらの作品は
アプリ『NOTE15』で作られました。

他に5作品あります

アプリでもっとみる



物語を書く上で気をつけたいこと
自分に向けて (^^ゞ



前提として 登場人物の心情の変化が
含まれていないものをわざわざ
物語として綴る意味はない
それはただの現状説明
変化があってこそ 物語は生きてくる



無駄な描写は書かない
心理描写、何かしらの伏線
婉曲的な状況説明
それ以外は極力書かない
伝えたい内容が入ってこなくなる上に
物語構成の捻じれを誘発しかねない


登場人物の心情を
身体の動き 風景の変化
などで間接的に描くと
物語を絵としても想像しやすいため
より無駄のない綺麗な文になる



ある程度 科学的知見に
沿った内容も含める
そうした方が 理に適った内容に近づく
例 脳の恐怖回路は
体験回避を繰り返すと強固になる
→ 恐怖から目を背け
より泥沼にはまる主人公

龍目 #小説・2022-02-19
自分へ
龍目文庫


短編小説




『 ウグイス 』



#2

ザッキー と ソノ





まだ少し肌寒い 快晴の空の下

私は湖畔のベンチに腰を下ろし

スケッチブックを開く

豊かな自然の揺りかごに抱かれ

まどろみの中 自由に絵を書く

私にとって 至福の時間


嗚呼 なんて私は 幸せ者なのだろう…





とある 幽霊の少女に

付きまとわれていることを除き__





『 __ザッキー! 大変大変! 』



ヒヨドリ以上にけたたましい声が

鼓膜に直に響く


「 キャッ! 」


驚いた拍子に手に力が入り

鉛筆の芯の先が折れた

黒鉛の粉が 不格好に落ちる


私の額に 青筋が立つ

「 ソノ! 絵を描いている時は

話しかけないでって言ったよね!?」



幽霊少女は、すこし申し訳なさそうにして

白い両手のひらをこちらに向けた

『 一羽だけハクチョウが残ってるの…

もう 春なのに… このまま夏を向かえたら

暑すぎて 死んじゃうかも…』

大きな瞳を潤ませ 肩をすくめる


「死んでる…あんたに騒がれる

ハクチョウもちょっと…惨めね… 」


私は 黒鉛の粉を払いながら愚痴を零す

せっかくの絵が、余計に汚れた…

フフフ… 顔を曇らせ瀬々笑う…



『 …どうしよう… 』


それは こっちの台詞なのだが…


「 きっと、シベリアの方に

帰りたくなかったのよ 」

溜息混じりに言葉を返し

黒鉛で黒ずんだ自分の手を眺める



『 どうして…?』

幽霊少女はきょとんと首を傾げる



「 いろいろとね……」


手持ちのハンカチを取り出し手を拭く

汚れは…取り切れない…


『 どういう意味…?』


「 いいの、知らなくて…

生きている側の問題だから…」


不気味なほど平穏な空を眺め溜息をつく

自分のことだけでも手一杯なのにね…





ホー ホギョッッ!


どこからか聞こえる下手っぴな

ウグイスの声が私を嘲笑った

余計に調子が狂う…







友達なんて いらなかった私

何が嬉しくて ど天然 幽霊少女

とつるんでいるのだろう___





『__ ザッキー!ねぇ、聞いてるの?』



幽霊少女の声に ハッと我に返る

そうだよ 本来この子と関わる義理はない

生前の彼女と接点は無かったのだから!



聞こえないフリ見えないフリ…



『…? あれ?ザッキー?

本当に聞こえないの?

ねぇ? ザッキー?

おーい…? ねぇってば

ザッキー? さっきまで

反応してくれてたよね?』


…耳が…こそばゆい_


「 …__だ、だから馴れ馴れしい

って言ってるでしょ!」


無理だった…

だいこん役者以前の問題だ…

我ながら 呆れる


『 ごめん…でも 反応して

くれないものだから…』


「 論点 そこじゃないんだけど…」

黒ずんだ絵を眺めながら

ぶっきらぼうに言う

まぁ…これはこれで

悪くはないかもしれない

この絵は、これとして残しておこう…


『……でもね… 頼れるの…

ザッキーだけなの…

他のひとには私のことが

見えないみたい…』



ふぅ… 昔から 限定 と言うワードに

弱い私… 動きます…


「 で… 私に付きまとう理由は何?

何をどうして欲しいの…?」


その言葉に幽霊少女は一瞬だけ

顔を輝かすと 一呼吸置き

真剣な眼差しで私の顔を見る

空気が 張り詰めるのを感じる


『 その… 私の好きな人を…

助けてほしい 』


これは…簡単な人助け

レベルの話ではない

私の脳は反射的に

断る言い訳を考え始める


「 でもさ… それ…かなり厳しくない?

私… 真っ赤な他人だよ?

下手に深入りすれば 私… 不審者扱い…」


『 きっと… 打開策はあるよ 』



「 話が戻るけど その…人には

ソノのこと見えない訳…?」


『 ……… 最期にお別れを言いに行った

時までは見えていたみたいなんだけど…

私が成仏に失敗してからは全く…』


ふーん… そういうものなの……?


『 多分 心を閉ざしちゃうと

駄目なのかなって…』


「そっか…」

なんだか…嫌な予感がする…


『 だからその閉ざされた心を

こじ開けて欲しいの… 』










ケキョケキョケキョケキョ…


若いウグイスの

気の抜けた声がする







___煩わしい






そこからもう少し 彼女の事情を聞いた

持病持ちで体が弱かったこと

自分の通う病院に クラスメートが

通っているのに気づいたこと

心配で声をかけるうちに

次第に打ち解けあい 特別な

感情を抱くようになったこと__





私の知る世界とは

__かなりかけ離れていた





髪を撫でる そよ風が

太陽の香りを運んでくる

私は 軽く 鼻をすすった







『 …ハッ!そうだ!

手作りお菓子を贈るのはどう?

もしかしたら それで打ち解けるかも!』


「…へ?」

思わず すっとんきょうな声を出す


『 その人と共通の趣味があって

それが料理だったから… 』


「 まてまて… 今の話の流れだと

それを本人に渡すのって…」


ソノは私の方を向き 静かに頷いた


「 あは…さすがに 無理かなぁー 」

私はおどけて返す


『大丈夫 私が作り方教えるから 』


「 論点 そこじゃない

落ち着いて考えて欲しいんだけど

ましてや、心閉ざしてる人にさ

他校の見知らぬ人間が近づいて

手作りお菓子を持っていって

仲良くしてねって… これ…どうなのよ…」


過激派オプティミストのソノも

さすがに 口籠る


『………せ、せいしゅ…』


「 不審者だから 普通に__ 」











__バシャッ!


湖畔の水面にアイガモが

勢いよく水着した









ここで じっとしていても

何も進行しない… 不安でも何かしら

行動をおこさないと何も始まらない

そんな気がした




「まぁ、渡し方はともかく

共通の趣味からアプローチするのは

悪くないかもしれないね…

丁度 明日も休日だし__」



『 じゃあ 早速 材料の買い出しだね!』


無邪気な態度に文句を零しかけたが

屈託のない ソノの笑顔には

逆らえなかった






…でも待って…


肝心の材料費って 誰が__





材料を揃えると 私の家で

奇妙な儀式が始まった

これ… 客観的にみると私一人で

お菓子作りを始めているようなものだよね…

家に誰もいなくて良かった

『まずは… __』

しゃかりきるソノが微笑ましい





作業を進めるうちに ある疑問が

脳裏をかすめた

もし、ソノが中途半端に

姿をくらます事なく

亡くなる前にちゃんとした形で

お別れを言えていたら

関係がこじれることなど

なかったのではないか…?


「 ねぇ… ちょっと聞いていい?」


『何…? あ、駄目だよ

そんなに混ぜちゃ…』


「料理の話じゃなくて

ソノの話なんだけどね…

どうして病状が悪化して

大きい病院に移った時

教えてあげなかったの__? 」





暫く 沈黙が続いた




ひょっとして…地雷を踏んだかもしれない


焦燥感に耐えれず 私が 謝ろうとした


その時



『そう思うよね…』


私より先に ソノが沈黙を破った

胃の辺りに軽く痛みが走る



『 在り来たりで笑うかもしれないけど…

好きな人には 美しい姿だけ見せて…

そのまま去りたかった…』




「 ………ソノ… 」

目頭が熱帯びるのを感じる


『 私… さいごの方

本当にひどい姿だったから…

言葉通り 骨と皮だけ… 』



私は前に詰め寄ると

彼女の瞳を真っ直ぐに見詰めた…


「ソノ… あのね… 頑張る女の子は

皆 平等に 美しいんだよ… 」


……何 言ってんだろ…私… 柄でもない…



少しして… ソノは小さく呟いた


『 __ザッキー………

………なんか焦げてない?』



「 へ? 」


変な臭いとともに黒煙が上がる

わっわっ あっつ!!

騒々しい音が 台所に響く


暫くして


リビングのテーブルの上に

無惨な姿の黒ずみが置かれた


『 ザッキー… 大丈夫

誰にでも失敗はあるよ』


ソノは優しく背中を擦る

…幽霊なので 動作のみ


『あ、あと さっきの言葉…

とても心に刺さった… ありがとう

死ぬ前にザッキーに

会えていたら…なんて…』



私は 黙り込んだまま

悲しげに 黒ずみを見詰める










「 材料費 勿体無い…」


『 ……… 』







…ニヤリ





「 ップ クハハハ!」


『 え? なんで急に笑うの!?』


「ヒヒッ だって ソノの顔… プッ!」


『 え?え? 何何…?!

説明してよ!』



「 フフフ… いーの こっちの話 」


『 …余計に気になるよ 』



「 なんだか いろいろと吹っ切れたなぁ…」


『 …ザッキー さっきから…おかしいよ…』


「 お菓子だけに? フフフ」


私は テーブルの上の黒ずみを

手に取り 軽く力を込めた

黒ずみはパラパラと崩れ

なにやら 香ばしい匂いが鼻をくすぐる





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