蝶番・2023-08-27
call*
そうか
わたしだけが長く長く離れたんだな
なつかしくて
無邪気に手紙を出した
生き延びました
あなたはお元気ですか?
たわいのない話をしたい日がある
特別な秘密を打ち明けたい日がある
いつだって平らかな場所で待っていたいけど
そうじゃないわたしでも
ぶつかったその手をつかまえるから
覚えていて
わたしがここにいること
ここに、いたこと
いくら探しても
どこかにはないんだ
それはいつもここに
円環する道の途上
こころ強く
外側はやわらかく しなやかに
動き出せないなら
そのまま抱えてていいんだ
小脇にさ あえて気軽な感じで
ずっと考え続けなくてもいい
時々下ろして、ちょっとだけ考える
しっくりこなかったらまた抱える
その繰り返し
そのうちモヤモヤする
えいや、って投げ捨てたくなる
そうできるならそれもいいさ
ご飯を食べて ゆっくり歩く
本を眺め 歯を磨く
日々を重ねながら 下ろしては抱え
抱えては下ろしを続けるうち
ふっ、と足が一歩出る感覚
顔を上げると世界にいた
風が吹き抜けていく
わたしの時間を刻む
時計は光を知っている
彼方の朝を運ぶのは
寄り添うわたしと覚悟するわたし
他の誰でもないわたしたちの
触れた
と思ったのも束の間
丁重にご遠慮申し上げられた気分
じゃなくて事実か
面白いなぁ…
面白い
人間の反応って
ても どうせなら閉じないで
違うなら言いつのってよ
予定調和をぶっ壊
さないまでも
無遠慮に飛び越えて
来るものをいつだって待っている
んだよ、たぶん わたしも
新しいことが控えてるとき
どうしても眠れなくなってしまう
もう慣れたから
ことさらに嘆かない
そんなに追いつめないで
あたたかいお茶でも飲んで
昔話でもしようか
わたしは早寝の子どもだったけど
ノンタンなら、おやすみなさい
せなけいこなら、ねないこだれだ
ふしぎな世界が好きだった
みんなはどうだったかな?
どんな絵本が好きだった?
恵まれた物語だったと思う
願いが直線に叶ったわけじゃない
わらしべ長者みたいに
交差した縁が先々で手を取り
細く道を拓いていった
思い描いた小さな夢は
ひとつまたひとつとあきらめたけど
とりあえず歩いた
何もしないでいるなんてできなかった
だからきっと
何もかも放棄するのじゃない限りは
どこかにたどり着くよ
そしてそれは悪くもない眺め
必要のあるものしか必要ないんだったら
わたしのある必要もない
きらきらにも届かないチカチカ
その光の粒
確かに今、わたしを打った
明日は満月だそうです
やさしい嘘をつけるのが
あるべき大人なら
わたしはどうしようもなく子どもで
せめて目を伏せて
あなたの美しい暗号を口ずさむ
そうやって
夜をつないできた
きっとみんなも
いかにも綺麗事に見えるフレーズが
絶望をくぐり抜けた末の境地だったりする
言葉を適切に用いるのは難しい
でも、正しく受け取るのはもっと難しい
できなくなっていくのも変化
できなくなっていくのも成長
好きに呼べばいい
概念はあなたを支える魔法でいい
ゆっくり泳げるくらい回復したら
みんなの泡を
片端から含んで潤す
同じくらいの軽さで十分
が免罪符にはならないとわかってる
罪悪感と背徳感にやんわり包まれながら
泡を吐き続ける
そういうつなぎかたもあるのかな
望みを絶たれた
一点しか見えない
あなたの肩にも
やわらかい風がまとわりつく
他はいっさい変わらず
その苦しみだけ取り除かれる
それだけが成就じゃない
少し譲って
息をつないで
見渡せば
きっと感じられる
軽くなったその色が
意味を求めても
捨ててもいい
息をしやすいように
眠りやすいように
あなたのいいように解釈して
筋なんて通さずに
歪んでも
裏腹でも
迷い続けて
疲れ果て
いつまでも決められなくて
それでも
決断できるまで
とことん迷っていい
どう転ぶかわからない未来
決断を簡単にすれば
願いが叶わなかった時
悔いの深淵に取り込まれる
どんな結末になっても
覚悟するほど追い詰められた
過去の自分を認め尊重する
前に進み続けるための櫂