『カシスオレンジ』
"合コンでカシオレを頼む女は可愛い"
そんなイメージは通用しない現代。
いわばあざとい代表といおうか。
「生ビール5と...それから」
「カシスオレンジで、お願いします」
彼女もそれをわかりきっているはず。
何度もブリーチをしたであろう
ハイトーンのロングの割に
艶が見られる髪。
両耳に空いた計5つのピアス。
見せびらかすように開けた鎖骨に
這うようにつけられたキスマーク。
彼女を構成する全てが
男性関係の豊富さを隠しきれていない。
今夜は彼女にしよう。
「このあと、二人でどう?」
昔映画で見たような腐った台詞を
今日も決まったように耳元で囁く。
酔っ払っているのだろうか。
顔を赤くした彼女は
照れたように肩に頬を擦付ける。
そこからは早いものだった。
最初の居酒屋を出たあと
皆でカラオケに行こうとなって
こっそり二人で抜け出す。
ホテル街を手を繋いで歩く。
僕らのように歩く男女は多いが
この町のこの場では
誰もカップルではない。
勿論、僕らも例外ではない。
適当な部屋に入りシャワーを浴びる。
まるでここまでテンプレートのように
彼女がベッドに座りコトが始まる。
いつソレが起きてもいいように
切ってある人差し指の爪。
幾ら他人であっても
女性を傷つけるわけにはいかないのだ。
彼女を愛でるように撫で
生温いキスをする。
腕、脇腹、脚。
彼女の外側全てを愛してやろうと
そう思ったとき。
当たった。
不意に口を塞がれる。
次に目を開けたとき
目の前にある彼の姿は
カシスオレンジ程度で酔う
アルコールに弱い女性ではなかった。
右口角だけあがった彼の笑みは
今まで見たことないほど
美しく不気味であった。
僕はどうやら彼の罠にハマったらしい。
帰り際、行きと同じように
手を組み練り歩く。
深夜にしてはやけに賑やかなこの場で
彼のネックレスだけが光り輝いていた。
彼をタクシーに乗せ
煙草の火が妙に眩しく見える
路地裏で気づくことがあった。
カシスオレンジ二杯で
酔えるわけがないのだ。
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