「んん……」
真っ暗な部屋に
デジタル時計の灯りが
ぼんやりと目に映る
「……えっ、零時過ぎてる!?」
どうやらあのまま
寝てしまったらしい
「……にしたって、六時間以上も
普通寝る?……お母さん
起こしてくれたっていいのに」
着替えもせず、制服のままだ
「そういえば、変な生き物……見たな
夢だったのかな……」
月明かりに誘われるように
窓の外に目を向ける
煌々と輝く今夜の月は
満月のようだ
「ごめんくださーい」
……はい?
今、何か声が……
続いて、僅かだがコンコンと
窓をノックする音まで聴こえてくる
いや、でもここ、二階なんだけど……
「花柄のおパンツ女子は
起きてますかぁ?」
……あの小人、あの時ちゃっかり
見てやがったな!
ひとつ溜め息を零し
私は窓を開ける
「うぅ、寒っ!」
「おぉ、やっと開けたな」
「ちょっと、人のパンツ勝手に
見ないでくれる?」
「なんだ、開口一番パンツの話か」
……お、ま、え、が、なっ!!
「てぇか、お前、着替えてねぇじゃん」
「あー……、寝落ちしてた」
「人を追い出しといて、なんてぇ奴だ」
窓は開けたものの
ドラコンは部屋へと入って来ない
「何か、用なの?」
「振られて落ち込んでるお前を
放っておけなくてな」
「……余計なお世話です」
「ほれ、俺の背中に乗れ」
くるっと背を向けたドラコンは
その小さな背中に乗れと親指を立てる
いや、いやいや……
「どうやって乗るのよ」
思わず笑いが噴き出した
「乗る前に、潰れるよ?」
「おぉ、そうだった、危ねぇ危ねぇ
ちぃと、待っとけな」
そう言ってドラコンは
ベランダの柵の隙間から
ピョンと飛び降りてしまう
「えっ!?」
あまりに衝撃的な出来事に
心臓がドクンとひとつ音を鳴らした
すると、次の瞬間
信じられない光景が目の前に広がる
「……っ!!」
心臓はバクバクと激しく脈を打ち
言葉は出ない
「ほれ、背中に乗れ」
「……え、……え?待って……
ドラコン……なの?」
「そうだ」
なんと、私の目の前に現れたのは
ほんのりシルバーブルーに輝く
龍の姿だった
「どっ、どど、どどどど……」
「なんだその
間抜けな轟音のようなものは」
「どら、ドラゴン!!」
「俺の名前は、ドラコンだ
そこ間違えるなよ?」
「いやいやいやいや、おかしいって!」
見たことのない光景に
驚きを隠せない
しかしこのドラコン
平然と言い放つ
「なーんもおかしくねぇぞ
龍なんてなぁ、その辺にうようよ
飛び回ってらぁ」
うようよ飛び回ってたら
世界中大混乱だ
「乗るのか、乗らねぇのか
どっちだ」
「……ど、どこ行くの」
「ジュコンを見に行くぞ」
「はい?」
「ジュコンが見てぇんだ、俺は」
ジュコンとは……何ですか?
「ほらあれだ、人魚のモデルに
なったやつだ」
「……それって、ジュゴンでしょ?」
「……まぁ、そうとも言う」
何故ジュゴンなのか
何故私を連れて行くのか
甚だ疑問は残るが
ゴクリと喉を鳴らした私は
ベランダの柵に手を掛ける
「これ……まさかドラコンは透けていて
私、落ちたりしないよね?」
「俺を触ってみりゃあ分かるだろ」
ゴツゴツとした肌触りに
硬く逞しいその龍の体
人間の体より遥かに大きな背は
安定感さえ齎した
「や、やば、なにこれっ」
「しっかり掴まってろよ」
「いや、ちょっ、待って」
制止も虚しく、ドラコンは
上空へ高く風を切る
私は必死でドラコンにしがみついた