はじめる

#ショートショート

読んでると、
思わず胸がギュッとしめつけられる、
そんなポエムを集めました。

全81作品・

「ラブレター」



私の兄は、片想いをしている。


「ねぇ、もしかしてそれ…」

「っ!」

慌てたように隠した兄の手元からは、
白い便箋と書きかけの文章が見えた。


「やめときなよ、
どうせ燃やされるだけなんだから」

兄の手紙が、
想い人へ届いたことは一度もなかった。


「…直接届かなくても、いいんだ」

優しい目をして、遠くを見つめる兄。


どうして?という疑問ばかりが頭に浮かぶ。

そんな私に気付いてか、
兄は手紙を書き終え封筒に入れると、
少しだけ話をしてくれた。


「彼女にも、好きな人がいるんだ」

「でも、出会って半年も経つのに、
まだ挨拶すらできてなくて」

そんな彼女の不器用なところを、
兄は"可愛い"と言う。


「だからさ、もし僕の手紙が、
切れ端でもいいから、
彼女に見つけてもらえたら…」

「そんな奇跡が起きたら、
彼女を勇気付けられる気がしない?」


つまりは、願掛けということ?

でも、それじゃあ…。

「兄貴の恋は、叶わないじゃんか」


失恋するために手紙を書くなんて、
頭おかしいんじゃないの?

兄は、そんなことを気にしていないような
清々しい顔をして、封筒を空高く投げた。


宛先は彼方。

美しく輝くあの青い星。


兄の手紙を乗せた封筒が、
あともう少しで届きそうなところで、
パチパチと炎に包まれていくのが見える。


「だから、やめときなって言ったのに」

思い通りの結果に不満を溢した私に、
兄は得意げにこう言った。


「ねぇ、僕の出した手紙が燃えること、
彼女たちの星の言葉で何て言うか、知ってる?」




∴‥∵‥∴‥∵‥∴‥∵‥∴‥∵‥∴‥∵‥∴




あ…。 流れ星。


うん。


明日は、早く学校へ行こうかな。


そうしたら、君と二人きりの教室で、

"おはよう"って、きっと、言えるかな…。

コト・2021-11-23
ショートショート
練習中
低クオリティ注意
伝わるかな
流れ星
46音逆走ショートショート5

「炎天エキストラ」



演技なんて、したことねーし。


「まあまあ、そう言わずにさ」

半ば強引に連れてこられた舞台裏、

演劇部の部長様は、
とんでもないことを言い出した。

「君らには、うちの姫に告白してもらうよ」

なんでも、
姫を慕う兵士の数が足りないんだとか。

切り替わった音楽を合図に、
俺たちは表に放り出された。


『今日も美しいです、姫!』
『私を選んでください、姫!』

え…。

平然と仕事をこなす仲間たちに、
驚きが隠せない。

お前らも演技素人だよな?
台本もねーのに、なんでできんの?


突っ立ったままの俺に、
"お前も行け"と、目線が送られる。

俺は、小さく溜息をつくと、
ひざまずいて姫の手を取った。

見上げた姫は、
淡い色のドレスを身にまとい、
柔らかな笑みを浮かべていた。


ああ、そうか。

きっと、この白いスポットライトは、
彼女の可憐さを引き立たせるためのもので、

なんだかのどかな音楽は、
彼女の人柄の良さを表しているんだろう。


そして俺は、彼女に恋をする兵士。

彼女の女性としての魅力を、
伝えるためのエキストラ。


触れた手に、力がこもる。

顔を上げ、大きく息を吸う。


だけど、ごめん部長。
やっぱり演技は、ポンコツみたいだ。


「好きだ、姫野!」


この夏、
体育館内の体感気温は45℃を記録した。

コト・2021-08-07
ショートショート
練習中
低クオリティ注意
七曜逆走ショートショート

「森の魔女さん」



魔女さん、開けて。


とんとんとん

とーんとーん

ととたとと


使い古された森の奥深く、
木漏れ日に透けた扉を叩く。


何をしているの?

そこに何かあるの?


木々の間をすり抜けるように吹く風が、
不思議そうな顔をして通り去っていく。


会いたい人が、いるの。


見えるはずのない光の中の扉、
聞こえるはずのないノック音、

その手は虚しく空を切る。


とんとんとん


それでも、
確かに叩いている。

呼んでいる。
覚えている。


魔女さん、
開けて。


また、あのカフェオレが飲みたいな。
隠し味には、楓の木の蜜を入れよう?

お花もたくさん持ってきたよ。
これでまた、あの頃みたいな花畑を作ろう?


ねぇ、
魔女さん。

あの時の魔法、
使えるようになったよ。



「やだあの子、またあの森に入って行くわ」

「本当に気味が悪いな、こんな天気の良い日に」

「パパ! ママ! お空! きれいね!」



照りつける太陽の下、
いつぞやの風が楽しそうに、七色に輝いた。



キィ

ぱたん

コト・2021-07-17
ショートショート
練習中
低クオリティ注意
七曜逆走ショートショート

これらの作品は
アプリ『NOTE15』で作られました。

他に81作品あります

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「欲張りレンズ」



ねぇ、お願い許して。

きちんと言うこと聞くから。

ねぇお願い、私を捨てないで…。







二つある目をどう使うか。

人それぞれだと思う。

少し大人びた音楽の流れるカフェの中、
くるりと辺りを見渡せば、

外を舞う雪をぼーっと眺める人もいるし、
静かに本を読む人もいる。


私は今、
目の前のコーヒーを見つめてる。

ピンと張った液体の表面に、
反射したあなたの顔が映ってる。


カシャッ


彼はカフェ巡りが趣味だった。

今撮ったものもきっと、
"隠れ家カフェ"とか、
"コーヒー専門店"みたいな
ハッシュタグを付けて投稿するんだろう。


でも、毎回これに付き合うのも、
いい加減飽きてきちゃったの。

カメラロールに溜まっていく料理は、
見ているだけで胃もたれがするようで。


ねぇ、
今日一日くらい、良いじゃない。


こだわりの生パスタじゃなくて、
自家製のドレッシングじゃなくて、

その目にちゃんと、私の目を映して?

私も、
あなたを見つめていたいから…。







「なんで…」

彼の口から溢れたのは、
小さく震えた声。


あぁ、驚かせちゃったかな。

ごめんね?


「今日は、コーヒーを撮ったはずだろ…?」

まるで何かに怯えるように、
足早に店を出ていく。


何も怖くなんかないのに。

ねぇ、まさか…。


馬鹿な私は、後に知ることになる。


「なんで全部、自撮りになってるんだよ…!」


彼が向かう先には、一軒の携帯ショップ。


はみ出した欲が、
きっと私の返品理由だった。

コト・2021-12-05
ショートショート
練習中
低クオリティだけど伝われ
ホラーはゆるめが一番です
46音逆走ショートショート4

「時逢」



おかえり、博士。



ゴウン、ゴウンと低く鳴り響く機械音、
少し埃っぽい部屋の空気の懐かしさに、
"帰ってきたんだ"と直感する。

「やあ、久しぶりだね、ミラくん」

重いまぶたを開けるとそこには、
白髪の老人が椅子に座って、
慈しむようにこちらを見ていた。

「は、か、、せ、、、、?」

「いかにも」

嘘だ。
だって博士はまだ、30代でしょう?

「実験は成功だよ」

未だ状況の掴めない私に、
目の前の老人は優しく諭した。

「XX年後の未来へようこそ」

未来…。

そうだ私、何でもいいから
この人の役に立ちたくて、

説明も聞かずに入ったんだ、
そこに横たわる『ブラックボックス』に。

「昔の博士には、もう会えないの?」

「残念だけど、時間は一方通行だからね」

気づけば、私の両目からは
ポロポロと涙が零れていた。


そうか私、この人と一緒に、
歳を重ねたかったんだ。

同じ時間を生きたかったんだ。


好き、だったんだ。


「ねぇ、次は博士が入ってよ」

ブラックボックスを指差して言うと、
博士は驚いた顔をした。

「私、博士なしでも数十年くらい生きられるよ?」

「だから、老後は一緒に暮らしてみない?」

精一杯の告白に、
ふふっと微笑む博士。

「時は経たずとも、頼もしくなるものだね」

もはやプロポーズなのに。
昔以上の子供扱いがむかつく。


「それじゃ、行ってくるよ」

少し腰の曲がった博士の背中を見送る。

いってらっしゃい、博士。
時が来たら、またこの場所で逢おうね。

コト・2021-08-22
ショートショート
練習中
低クオリティ注意
はじめてのSF
小説初心者には難しすぎました
七曜逆走ショートショート
「時逢」/koto

「朧な貴方」



"人は忘れる生き物だ"と、誰かが言った。


貴方は、覚えていますか?


川辺を漂う夏草と火薬の香り

ひと口かじっただけのりんご飴

人波に流されてできた草履の擦り傷


夜空には咲かなかった花火


周りの悲鳴が、うるさかったよね。


ふと、風鈴の音に紛れて、

懐かしい声が聞こえた気がしたけれど、

それが貴方のものだったのか、

はたまた虫の音だったのか、

判別が付かなくなってしまったみたい。


もう、

"人"でも"生き物"でもないのに。


どうして…?



「早く、目を覚ましてくれよ」

コト・2021-08-15
ショートショート
練習中
低クオリティ注意
七曜逆走ショートショート

「三日月屋」



ここは、私の働く『三日月屋』。

その名の通り、
29.5日に一度、三日月の日に開かれる。

最近人気のプランは、
定員二名、完全予約制の『夜空のクルーズ』。

日が沈み始めてから夜になるまでの小一時間を
三日月の上で過ごせるロマンチックなプランだ。
記念日やプロポーズに利用するカップルが多い。

私の仕事は、
ここでレストランのディナーを出したり、
オーケストラの演奏を企画したりすること。


今宵のご予約は、ソメヤ様。
お客様を迎えに、月乗り場まで足を運ぶ。

しかし、予約表の名前を見た時から、
もしかしたらとは思っていたが…。

「え、如月?!」

予感は当たっていたらしい。
彼もびっくりした顔をしている。

「染夜…。 卒業ぶりだね」

私たちは大学の同期で、同じ学部だった。

もう会うことはないだろうと思っていたのに。


「そういえば、相対論の講義やってた教授、
行方不明になったって知ってる?」

「あぁ、未来に行ったって噂でしょ?」

さすがに嘘だよね。
と、内輪ネタで盛り上がる。

この瞬間が、ずっと続けばいいのに。

夕日のオレンジ色に照らされた染夜の笑顔に、
一度蓋をした気持ちが溢れそうになる。

でも、期待したってダメなんだ。
だって、彼がここにいる理由は…。

「実は、さっき彼女から連絡あって」

ほらね。
ちょっと遅れるとか、そういうのでしょ?

「今日、来れなくなったみたいで」

「え…」

「だからこれ、如月にあげるよ」

渡されたのは、予約のペアチケット。

もし、この時私が受け取ったのが
一枚だけだったとしたら、
あなたはどうしていましたか?







「ありがとな、如月」

「いーえ、仕事ですから」

空には星が、地上には灯りが、
キラキラと煌めく。

今宵のご予約は、ソメヤ様。

もしもタイムスリップができるなら、
再会したあの日に戻りたいな、なんて。


「結婚おめでとう、染夜」

大量のバルーンと紙吹雪に紛れ、
期限の切れた二枚のチケットが、
ひらりひらりと夜に溶けて消えた。

コト・2022-01-09
ショートショート
練習中
低クオリティ注意
三日月の日に投稿したかった
失踪した教授は過去投稿「時逢」の博士です
「時逢」/koto
46音逆走ショートショート4

「メリー・クリスマス」



「っ、どうして」

今年は、他の人と行くって…。


「遅いから、迎えに来た」

家のドアを開けると、
昨日ケンカをしたはずの彼がいた。


「悪かったよ、
でもやっぱり俺にはお前が特別なんだ」

こんな一言で許してしまう自分は、
相変わらずちょろいなと思う。

でも。


「ケーキ、お前の分買ってきたから」

ぶっきらぼうな彼なりの優しさ。

そんなの、嬉しすぎるよ。

思いがけないプレゼントに、
さっきまでとは別の涙が溢れ出す。


「ほら、泣いてねーでさっさと乗れって」

にやける口元を手袋で押さえながら、
彼の後ろに飛び乗った。

やっぱり、僕にとって君は…。


「そのプレゼント、ガキどもに配りに行くんだろ?」

最高の相棒だよ、トナカイくん。



シャンシャンシャン

シャンシャンシャン



白い雪が柔らかく街を包む聖夜。

一台のソリが空を駆け、
その音を軽やかに響かせたのでした。

コト・2021-12-24
ショートショート
練習中
低クオリティ注意
クリスマス
イケメンにしようと思ったら
柄悪くなってしまったトナカイくんと
泣き虫設定にしたため
乙女化してしまったサンタさんの話
素敵なクリスマスをお過ごしください
46音逆走ショートショート4

「ん、で終わったら負けね」




「ねぇ、しりとりしない?」

『いいけど、急にどうした?』

「たまには面白いかと思って…。どう?」

『うん、わかった。じゃあ僕から始めるよ?』

「よろしくお願いします♪」



『スズメ』

「メダカ」

『カラス』



「好きな人、ってどんな人?」

『とぼけないで。わかってるでしょ?』



「ヨーグルト」

『トースト』

「トルコアイス」



『好きな人、そっちこそいないの?』

「ノーコメントで」



『デネブ』

「ふたご座」

『サテライト』



「といえば、月」

『今日も月、めっちゃ綺麗だわ』

「私もそう思う」



『ウインターコスモス』

「スターチス」

『スズラン』


















*Afterword*

最後まで読んでくださりありがとうございます。
花言葉を置いていきます。

ウィンターコスモス
…淡い恋

スターチス
…変わらない心

スズラン
…幸せ

今月の満月は十五夜ですね。
晴れますように。

コト・2021-09-03
ショートショート
練習中
低クオリティ注意
一人しりとりって切ないなとか
考えたら負けなんですきっと
トルコアイスが食べたいよ
46音逆走ショートショート5

「変幻自在なそのヒカリ」



「笑った…。」


「ねぇあなた、ヒカリが笑ったわ…!」


それはまるで、暖かな春の光に包まれたような感覚だった。







僕らの住む街の外れには、白いレンガで造られた立派な洋館がある。古くからあるそれは、今は誰も住んでおらず、窓は割れ、大きな門には伸びた草が巻き付いている。また、子供の悪戯だろうか。ガラス張りの天井には、白い落書きがあった。


「君、解体作業は初めてかい?」


「はい。」


話しかけてきたのは、職場の上司。鍛え上げられた筋肉と、日に焼けた肌。いかにもな"ガテン系"の人だ。


僕の勤めている会社は、建物の解体工事をしており、今日からこの洋館の解体が始まる。この場所には、近々ショッピングモールが建つらしい。


「それなら、何か建物の一部を持って帰ると良いよ。うちの会社のジンクスでね、初めての現場で拾った物は、お守りになると言われているんだ。」


「そうなんですね…。」


中身は意外と乙女チックなんだな。と思ったことは、口には出さないでおこう。


僕は、なんとなく気になった、落書きされた天井のガラスを手のひらのサイズにカットし、持ち帰ることにした。







奇跡が起きたのは、家に帰ってからだった。


「笑った…。」


"奇跡"と呼ぶのは、大げさだろうか。


「ねぇあなた、ヒカリが笑ったわ…!」


それでも、僕らにとっては十分な"奇跡"だった。


僕らの息子、ヒカリは一歳になるが、周りのものに興味を示さず、音のなるオモチャを渡しても投げてしまうし、絵本を読み聞かせてもぼーっと聞くだけで、全然笑顔を見せない子だった。


そんなヒカリが、声を出して笑ったのだ。


きっかけは、僕の作業着のポケットから出てきたあのガラスだった。向きを変えるとキラキラと光るそれに、ヒカリは夢中になった。


楽しそうに遊ぶ息子の隣で、妻が子守唄を歌っている。目に薄っすら涙を溜めて、安堵に満ちた表情をしていた。僕もつられて泣きそうになり、それをごまかすように、慌てて言葉を発する。


「その子守唄、初めて聴いた。」


「『Iris』っていう歌よ。花の名前なんだけど、私の故郷で"希望"を表す花なの。これからも、ヒカリが笑顔で過ごせますようにって。」


ふと、上司に言われた言葉を思い出す。


"お守りになると言われているんだ。"


(馬鹿にして、すみませんでした…。)


これからも、この子の笑顔が守られますように。


そんな祈りを込めてガラスを見つめる。息子の手の動きに合わせて、多方向に光が放たれる。


まるで、夜空を彩る流星群みたいに。

コト・2022-02-04
ショートショート
練習中
低クオリティ注意
短編繋げたら長編になるチャレンジ
第ニ話
一話から読んでいなくても伝わるように頑張ります
全十話予定
赤ちゃんに割れ物はアウトかと思うのですが
遊び始める前にお父さんが
危なくないように加工してくれたと思うので
暖かい目でスルーしてやってくださいすみません
46音逆走ショートショート3

「もしもの話」



私は知っている。

「私、こっちの人と付き合うことにしたの」

その台詞が嘘だってこと。







世間はクリスマスのはずが、
私は連日バイトに明け暮れていた。

全国にあるイタリアンのチェーン店。
店の端で、この時期だけのツリーが輝いている。


ふと奥の席に目をやると、
常連の女が一人と、これまた常連の男が一人。

そして、知らない男が一人。


「私と別れよ?」


修羅場だった。

"新しい彼氏ができたから別れろ"

だいたいそういう内容だ。


一見普通の別れ話にも聞こえるが、
彼女の場合はタチが悪い。

だってその"新しい彼氏"、
実際に付き合ってるわけじゃないのだから。


どうして私が知っているかって?

彼女は男と別れる時、
いつもその"彼"を連れてきては、
"新しい彼氏だ"と紹介しているからだ。


そもそも、彼氏役の彼だってそうだ。

告ってしまえばいいのに。

"僕は演技じゃないよ"って。

"本当に君が好きなんだよ"って。

今のままじゃ、
彼女の良いように使われているだけじゃないか。

そんな不憫な片想いをずっと続けるくらいなら、
私が…。


ピンポーン


「佐倉さん、レジお願い!」

「かしこまりましたー」


まあ、彼の気持ちなんて全部私の想像で、
"もしもの話"に過ぎないのだけれど。


「お支払い回数は一回でよろしかったですか?」


お会計の時にだけ見せる切なげな表情が、
少し気になってしまっただけだ。

コト・2021-12-24
ショートショート
練習中
低クオリティ注意
クリスマス
過去投稿「氷熱」のサイドストーリーだったりします
「氷熱」/koto
クリスマスシーズンの飲食バイト
時給アップがありがたい
46音逆走ショートショート4

「わがままひとつぶ」



「我はピクシー。 其方の願いを叶えよう」


月明かりの一つもない、深い深い夜のこと、
虫たちもみな寝静まり、静寂に包まれた夜のこと。

何をするでもなく、たたじっと、
部屋の小窓から外を眺めていた私のもとに、
それは現れた。


「その代わり、我にそれをくれぬか」

"それ"とは、ベッドの横に置いてある、
キャンディのことだろうか。

桃色のものを一粒取って渡すと、
手のひらほどの小さなそれは、
嬉しそうにキャンディを抱き抱え、
くるくると回ってみせた。

薄く透き通った羽が風を扇ぐたび、
キラキラと光の粒が舞う。

綺麗だ。



「して、其方の願いは何なのだ」

今日の空には、大きな満月が見えている。

空色のキャンディを一粒手に取ると、
私はこう言った。

「明日もここに来てください」


はあ、と盛大に溜息を吐かれる。

「其方、何時も同じではないか」
「何でも叶えると言っておるのだぞ?」

私はきゅっと目を閉じて、
首をブンブンと横に振る。

言いたい言葉は、出てこない。


しばらくすると、それは諦めたように、
空色のキャンディを受け取った。

「まあいい、また明日も来る」
「それまでに考えておけ」

スッと窓から飛び降りると、
月の影に吸い込まれるように消えていく。

その後を追って、
キラキラ、キラキラ、光の粒が舞う。


私は今日も、祈るように眠りについた。


(いつか、お友達になってくれませんか…。)

コト・2021-09-11
ショートショート
練習中
低クオリティ注意
46音逆走ショートショート5

「氷熱」



冷めないうちに、どうぞ。

研修マークを付けた女の店員が、
こちらの空気を察してか、
そんな言葉を残し去っていった。


「…っ、どうして!」

運ばれてきたパスタには手を伸ばそうともせず、
向かいの席の男は声を張り上げる。


「だって、好きになれなかったんだもん」

店内がうるさくて助かった。

こんなクズい会話、誰かに聞かれてたら、
営業妨害で追い出されちゃうね?


「だからね、こっちの人にすることにしたの」

隣の席の男と目を合わせ微笑むと、
視界の端に、絶望に満ちた彼の顔が映った。


あーあ、辛そう。

ごめんね。
今この瞬間、世界で一番好きな人。

どうか、私のウソに気づかないでね。


「今まで、ありがとう」

ありがとう。
私に恋心をくれた人。

"最低な女"だったと言われても構わない。
何なら、その記憶から消してくれてもいいよ。

私の心に灯った熱が残るなら、
他の些細なことはどうだっていい。


だからほら、
この想い冷めないうちに、どうぞ。

「私と別れよ?」

コト・2021-07-31
ショートショート
練習中
低クオリティ注意
七曜逆走ショートショート
「氷熱」/koto

「ヲトメの憂鬱」



金曜日、講義終了の鐘が鳴る。

メイクを直し、髪を整えたら、
スキップをして向かう先は快晴。

今週も、来てくれるかな?



*Attention*

投稿を開いてくださりありがとうございます。

この小説、腐様向きかもしれません。。。あ、でも、腐様にとっては物足りないのかも。。。?どうなんでしょう。

とにかく自己満足のために作ったものですので、どんなジャンルでも来い!という方のみお進みください。
ごめんなさい。
















オシャレなカフェや美容院の立ち並ぶ、
賑やかな通りから一本外れた細い路地。

その曲がり角には、
可愛らしいお花屋さんがある。


「こんにちは! お姉さん!」


小さな店内によく響く、明るい声。
今週もまた、来てくれた。


「こんにちは。 今日もアレンジメント?」


名前も知らないけれど、
この子は一週間の癒し。

最初は、少しお話しできるだけで、
ううん、見ているだけで満足だったのに。


「うん! ピンク系で、あとはおまかせで!」


お花にも負けない、その愛らしい笑顔に、
時々、好きが溢れそうになる。

でも、この気持ちは伝えてはいけない。

それ以上の秘密を、
打ち上げることなんてできないから。


「はい、どうぞ。 いつもありがとう。」


この子に似合うお花を選んで、
手渡すだけで精一杯。

少しは仲良くなれたかな?なんて、
その先を期待しちゃ、ダメだよ。

この子がアタシに懐いてくれてるのは、
アタシがお姉さんだから、なの。


「ありがとうお姉さん! また来るね!」





小さな路地を、てくてくと歩く。

アレンジメントのお花に付いた、
水滴に映る自分と目が合った。



勘違いしちゃ、ダメなんだ。

お兄さんがボクを好きなのは、
ボクが女の子だから、でしょ?

コト・2021-09-05
ショートショート
練習中
低クオリティ注意
46音逆走ショートショート5

「ロイヤル珈琲、いかがです?」



店内を漂う珈琲の香りに、あなたを想う。

小さな丸いテーブルの、
反対側に座るあなた。

珈琲を注文すると、
決まって分厚い本を広げるあなた。

ページをめくるあなたの指先は、
物語に魔法をかけた。

あなたの声で、文字の羅列が息をした。
人になり、鳥になり、空へと羽ばたいた。

私は夢中になって、その音を拾い集めていた。


「ここのオススメは、ロイヤル珈琲だよ」

そう言って分けてくれた黒い液体は、
何だか変な味がして涙が出そうだったけれど、

少しだけ、大人になれた気がした。
一口分、あなたに近づけた気がしたんだ。


ふわり、

いれたての珈琲の香りに、
懐かしさが込み上げる。

慣れた手付きでカップへ注ぎ、
ミルクを添え、お客様のもとへと運ぶ。


そういえば、
あの日あなたが教えてくれた物語は、
どんな結末を迎えたのだろう。

もしも私が主人公なら、
ハッピーエンドはきっとこうだ。


カランカラン

「いらっしゃいませ」


「"ロイヤル珈琲、いかがです?"」

コト・2021-09-12
ショートショート
練習中
低クオリティ注意
46音逆走ショートショート5

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