【ぽぷりの 童話 その8】
『 天使の失くした輪っか 』
ある日の 昼下がりのこと
わたしは 心を閉ざし 悲しみに暮れていた
突然 親友を事故で亡くし 涙が止まらずにいた
そこへ ふいに 天使が 降りてきて 言った
『神様から 授かった 頭の 光る 輪っかを
あなたの 心の海に 落っことしてしまった
あの輪っかが無いと 天使でいられなくなる』と
わたしは すぐに 潜って 探した
けれど 出てくることは なかった
わたしは かわいそうに思って しばらくの間
その天使を 心の森に かくまうことにした
わたしと 天使は 大の仲良しになっていった
月日は流れ 天使は 自分が
何故 地上に 降りてきたかをも 忘れきって
地上での 暮らしも すっかり 楽しんでいた
わたしも 天使に 深くは 追求しなかった
むしろ 天使に 戻って欲しくはなかった
そんな ある日のこと
天国から ふいに 2人の天使が来て 告げた
『輪っかを失くし 天使としての務めも 忘れて
ここに かくまわれている堕天使を 連れて帰る
だから あの堕天使を 呼んできなさい』 と
わたしは 2人の天使に 言った
『天使の務め とは どんなことなのですか?
もしそれが 人を癒すための祈り だとしたら
あの方は わたしのために 毎日務めています
もはやあの天使は わたしには必要な存在です』
すると わたしの心の海が 真っ青に 光を放ち
あの日 探しても見つからなかった 輪っかが
水面に きらめきながら 浮き上がって来た
その瞬間 2人の天使も 水面の輪っかも
すぅーっと 消えて 辺りは 静寂に 包まれた
振り向くと 森の大樹の陰に 怯えながら
天使が 身を隠して じっと こちらを見ていた
わたしは 近寄って行って 天使の肩を抱きしめた
『もう大丈夫です あの天使たちは 去りました
あなたを 連れ帰らないで行ったから 大丈夫』
泣きながら 天使は わたしに 尋ねた
『あなたは 恐くなかったのですか?
こんなわたしを 長らく かばっていたのに
あなたまで 咎めを 受けるかもしれないのに』
わたしは 震える天使を 慰めた
『わたしにとってもう あなたは必要な人だから
わたしに 喜びを もたらしてくれたから
天使でなくても いいのですよ わたしには』
それから もう再び
あの 2人の天使は 訪れることはなく
わたしたちは 楽しく穏やかに 一緒に暮らした
《おしまい》