【君のいる海が呼ぶ】
「……」
ボチャンッ
コポコポ……
ぐすんっ……
……
「ようこそいらっしゃいました」
「ここはどこ?」
「竜宮城でございます」
「あなたは?」
「乙姫と申します」
「……どうして僕はここへ来たんだ?」
「ここへは資格を持った方、もしくは私が招待した方しか立ち入ることはできませんわ
あなたにはその資格があったのでしょう」
「資格って?」
「それは企業秘密ですわ」
「そうか」
「こちらへどうぞ、お食事を用意してありますの」
……
「そろそろ帰るよ」
「まだ良いじゃありませんか」
「どうして、ここには君しかいないの?」
「みな、私よりも先に居なくなってしまいました」
「何があったの?」
「ここは、ある意味はぐれ者の集まる場所ですから」
「寂しくないの?」
「もう、慣れてしまいました」
「……」
「……」
「やっぱりもう帰るよ」
「お待ちになって、まだおもてなしが終わっていませんわ」
「君一人で何をするのさ」
「それは……」
「やっぱり寂しいんじゃないか」
「そういう訳では……」
「……」
「……」
「さっき君は、ここは招かれた者か資格を持った者しか来られないと言ったね」
「はい」
「僕は後者だと言った」
「はい」
「本当は、違うんじゃないか?」
「……そんなことは」
「僕はね、死ぬつもりで海に飛び込んだんだ
それも沖で、それなのに海の中で一瞬泣き声が聞こえた」
「……」
「あれは君だろう?」
「……」
「君が寂しくて、僕を招いたんだろう?」
「……どうでしょう」
「……」
「……ここは、心を閉ざしてしまったものたちが死後に集まる言わば、隠れ家です
ここから出るには、条件を満たしここに立ち入った者に愛し愛されなければなりません」
「居なくなったと言う人達はみんなここを出られたんだね」
「……はい」
「僕は死んでたんだね」
「ええ」
「僕がここから出るには君を愛すしかないの?」
「……いいえ、私が招いた以上、あなたは選ぶ権利のある者です
あなたが望めば、ここから出て転生することも可能です」
「へぇ」
「案内します」
「いいや、恐らく僕もここから出られないだろう」
「……?」
「僕が死んだのは、誰にも愛されず生きる事を諦めたからだよ」
「……そうでしたか、ではあなたも今日からここの一員ですね」
「君は、いつからここにいるの?」
「さあ、もう忘れてしまいました」
「ならさ、もういいんじゃないかな、解放されても」
「……?」
「君がどんな理由で心を閉ざしてここにいるのかは分からない、けど、心を閉ざしたもの同士、傷を知るもの同士、僕達なら上手くやって行けると思うんだ」
「えっと……」
「僕は愛されなかったから愛し方を知らない、けど、君となら愛がなんなのかわかる気がするんだ」
「……私も、愛なんて知りません……それでも良いのですか?」
「だから、いいんじゃないか
これからは僕達だけで僕たちだけの愛を探そうよ」
「……良いのですか?
後戻りはできませんよ?」
「君とならお互いを分かち合えると思うんだ」
「私は、物分りの良い女ではありませんよ?」
「少し強情ぱりなくらいがちょうどいい」
「私は……」
「もういいよ、」
「へ……」
「もう自分を許してあげて、僕も僕を許すから」
「……」
「それとも、相手が僕じゃやっぱり不満?」
「、そんなことありません……!」
「ふふっ、なら決まりだ」
「ですが、お願いがあるのです……」
「?」
「ここを離れたくないのです」
「別にいいけどどうして?」
「今は私しかおりませんが、きっとこの先もここに来る者はおります、その者達が私のように長い時間苦しまないで済むよう、ここに残りたいのです」
「君は傷ついたはずなのに、優しいんだね」
「ダメ、ですか?」
「……ここからでたら、転生するんだろ?」
「……はい」
「なら僕は、ここで君との永遠を過ごしたいよ」
……
「「ようこそ竜宮城へ」」