#一かけらの今

「もしもの話」

もしあなたが居なくなったら
私は泣いて
時間に運ばれて平気を探す

もしあなたが居てくれるなら
私は笑って
あなたのために朝食を作る

ありがとうと毎日伝えるよ
もし、よければだけど

「確かな感覚」

文字で書くあなたの名前も
音になったあなたの名前も
とても美しいと思う

これは愛なんかじゃなくて
神様からもらった感受性みたい

そういう遠い
でも確かな感覚で
強くそう思うよ

「鼓動」

変わらない日々と
変えられない思い

モラトリアムを脱することの
果てしない難しさ

あなたが誰を愛そうと
あなたが誰から愛されようと

ブランコは揺れる
世界のすべてを無視して
わたしの鼓動を無視して

「頼りないけど繋がっている」

晩秋の影に逃げ込んで
2人で笑う午後

本当に話さなくちゃいけないことなんて
そんなにないのかもしれないね

胸元のリボンが揺れる
頼りないけど繋がっている気配

「朝に消える」

もうすぐ迫る暁紅は
鋭い光でまぶたを叩くだろう

だけどもう少しだけ
待っていて

今はまだあの人との思い出が
残っているから

たとえそれが朝には消える
運命だとしても

「クレセント」

花火が消えた
夜闇の青も

撃ち落としてくれた
安物の景品も

溢れるほどにせつなくて
忘れられるはずもない

果敢に閉じた瞳
私は願う

「あなたが二度と
私に恋などしませんように」

「はじまり」

気づけば
はじまっていた

星の下
手を繋いだ

優しい眼差し
“愛おしい”が伝わった

大切そうに触れる手に
“愛おしい”が伝わった

あぁ
もうひとりじゃないんだと
静かで温かい夜

「グレーの決断」

言葉で
伝わる気がしないから

まずはネイルを
グレーに替えよう

誰か気が付かないくらい
髪を思いっきり短くしよう

そんなこと考えているだけで
胸が苦しくなるのに

言葉で伝える
勇気がないから

「大人になるその時」

白く淡い光のような
優しさ振りまくあの人が

極彩色の感情
さらけ出せる対象は
妹のような私じゃない

あの人のカゴの中
無邪気なフリ

友愛を装って
大人になるその時を

息をひそめて
待っている

「空を失くして」

地下鉄に乗って
戸惑う私を
あなたはからかった

怒ったふりをして
不安になる

私の知らないあなたと
はぐれないように
手を繋ぐ

かすかに
震える指先は
速度計の針みたいに

「好きの破片」

恋模様みたいに
プレパラートはよく割れる

粗末に扱ってる
わけではないけれど

それすら過程
なのだというなら

それ相応の結果を
出してみせてよ

そうじゃなければ
もっと大事に扱って

「視線」

光に透ける淡い髪
柔らかそうな猫っ毛

頬にしたたる汗
レブロン18の
バスケットシューズ

忙しなく眺めていたら
意味ありげな隣の視線

目配せをされて
ようやく気づくの

わたしは
彼を

「chair」

古道具屋で見つけた椅子
日の当たる場所が
君は好きだった

二人で聴いたレコード
針を落とす

お気に入りの場所
そっとそこにいて
全てを受け入れる

そんなふうに私も
なれたらよかった

「刹那なあなた」

年齢を重ねれば落ち着くと
親切ぶるよそ者が口を出す

お願いだから放っておいて

刹那なあなたの見る先に
なにがあるのか知りたいだけ

最後まで付き合うと
決めたんだ

「ギフト」

計り知れない
幸せを手に入れて

どこまでも続く
笑顔をもらえた

それなのに
心のどこかで
寂しさが居座っている

そばにいればいるほど
愛されれば愛されるほど
寂しさがこみ上げてくる