白蝶・2019-12-21
天の蝶
恋文
鈴の音が風に乗って木霊する
帰路を示し出すように
揺れる影が遠ざかる
籠を開けてくれた君へ
未成熟で不器用に羽ばたく僕の
幸の鱗粉ふりかけて
天に羽ばたく其の姿を
僕はただ見つめるだけ
呑み込んだ葉をいつかの笑い話に
また君と天を見上げられるのなら
夜を好んだ僕が
音を鳴らし目印となりますよう
初めまして、をもう一度
またいつか
君が今冷たい風の中
天に羽ばたこうとしている
周りから見たら
大したことないかもしれない
けれど僕には美しい蝶として
羽ばたいて見えたんだ
疲れたら鈴の音の聴こえる方へ
また君が羽ばたけるまで
僕は天まで唄い続けよう
誰かに似てきた君は
痛い所に触れては愛と哀を
核の奥で絡まった糸を
ひとつまたひとつと解いてゆく
重ねてきたモノに幼さが隠れ見え
恥ずかしがる暇さえ与えぬ君
「そういうところほんと嫌い」
僕からの小さな愛と哀を君に
暗がりの帰り道に君とふたり
「今日も空にお絵描きしてる」
当たり前にぶら下がった陽
空を見上げた君
其の言の葉に釘付けの僕
「明日も色付けようね」
逆光で君がやけに輝いてみえた
見えない糸で僕等を繋いで
今宵も夢を見る
怖くない、怖くないよ
まるで眠り唄のよう
温もり抱いて
笑い合った最後は
「また明日」
月明かりの元で約束を
「クロワッサンにドーナツ」
雲がせっかちに動く中
指を折りながら出てくる言葉は食べ物ばかり
君の胃袋が尽きないように
僕にも薄れない興味がある
体を二つに折りたたみ肩を小刻みに揺らして
「今日も太ったね」
錆びた其の鈴は
音色を歌うことすらままならず
丹念且つ丁重に錘を摘み取っていく
僅かな天色が僕の瞳で反射する
静かに揺らして奏でてみる
幸福の花粉が蝶に運ばれる
花弁が舞う
淡いピンク色
散った心の埋め合わせ
不器用な蝶が
音を馳せる
霞んだ視界で何を見る?
透けた掌で幻像を掴んで離さない
僕が叱咤しても肩をすぼめて笑うのみ
君の儚さが僕を此処に縛り付ける
鈴の音は弱々しく
天を舞う蝶の鼓膜には響かない
君の“コタエ”を待ちまびる
砂の時計が最後の一粒を無慈悲に落とす
蜜を集めた蝶は冬眠期
白い街には僕と君の色の掛け合わせ
天で舞っていよう
呼び鈴を鳴らす其の時まで