『奇病棟』第一話
「ピーポーピーポー………」
命を乗せた揺り籠か、棺か…少なくとも、霊柩車ではない。狙うは延命。薄く長く引き伸ばし、少しでも余生を、時間を、延命を、延命を、延命を。
そんな気がするサイレンだ。そこのけじゃまだ、退け退け、御命様のお通りだ。自動車が次々と後退し、空いた一本道を紅白の車が眩い光を散らし進行する。行き先が、クソ溜めの肥溜めの豚箱とは知らずに命は弄ばれた。
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最初に、目覚めたのは…というか全人類、何なら全生命体、いやいや全星人…まあ眠らない宇宙人が殆どだとは思うが…兎角、その寝床で私は目が覚めた。
「朝だー♪いい天気〜♩そうだ!今日は買い物に行こう♫」
変な目覚まし時計だと毎回思う。言ってる内容はともかく、怪獣の叫び声と思うほどに拡張された爆音は、我が鼓膜をたまに打ち破る。
「くあぁ〜…」
眠気に体が鈍重になってる最中、おもむろにカーテンを開ける…
「……何が、いい天気だよ」
ザーザー降りの土砂雨だった。音声に惑わされて、勝手に晴れだと思っていた。こうも、湿気の多い空間だと気が滅入るので、雨は嫌いだ。
「五時…か…」
改めて、スマホを見て時刻を確認する。そのまま、ようつべ、でハイロックで陰気な日を吹き飛ばそうとしたが、
「あっ!」
切れた。充電が切れた。思えば、昨日オカルト動画をオールしようとして、そのまま寝落ちして充電していなかった。やはり、雨は嫌いだ。
「ははは…連日、陰鬱、憂鬱、鬱屈…動きたくないなぁ…」
心は、そう訴える。怠い、かったるい、動きたくないと。しかし、僕が停滞していても、世界は回る。時間の一番嫌なとこは、一方通行性なのは違いない。
おもむろに、体は取り憑かれた様に洗面所へ向かう。習慣というのは、つくづく呪いみたいなものだ。死ぬ気で詰まらないのに、やらなければ自分が自分になれない。体に拒否反応がありながら、無いところがよっぽど気持ち悪い。生きるという存在意義による強迫観念…みたいなものじゃないだろうか?
「だからなんだって話だが…」
ジャブジャブと、水音を立て不細工に映る鏡を見る…相変わらず酷いクマだ。
「ふー…お早う、自分」
無為に響いたそれは、ただただ虚しく聴こえた