はじめる

#小説

読んでると、
思わず胸がギュッとしめつけられる、
そんなポエムを集めました。

全15342作品・





〈名前のない物語〉





















「私、あんたのこと嫌いだから」




「……は?」




生まれて初めて




女に嫌いと言われた。
















































事の発端は、担任から雑用を押し付けられた事だった。




「若崎くん、今日の放課後空いてる?」




「少し頼みたいことがあるの」




「空いてますよ」




「ほんと?それじゃあ放課後教室残ってね」




「はい」




頼みたいこととは委員会の資料作りで。




まぁ俗に言う雑用だった。




「じゃあよろしくね」




「はい」




「若崎くんがいてくれて良かったわー」




「こんなこと、貴方にしか頼めないもの」




嘘つけ。




仕事を押し付けたいだけだろ。
自分でやれよ。




そんなことが言える訳もなく。




「大したことじゃないですから」




笑顔で担任を見送る。




誰もいなくなった教室に、自分のため息が響いた。




とっとと終わらせて帰ろう。




無心で作業を進めていく。




「あれ~?つばさじゃん」




「何してんのー?」




ふと顔を上げると入口に女子が二人。




よく絡んでくるクラスの奴らだった。




香水も化粧も濃くてあまり好きではない。
スカートを短く折って、それが可愛いと思っている。




そんなのただ下品なだけだ。




派手な金髪が夕焼けに反射して、目が眩んだ。




「雑用。頼まれちゃってね」




目を細めたのがバレないように笑顔を作る。




「え~可哀想~」




「じゃあ今日遊べないの?」




「せっかく親いないのにー」




「悪いけど無理かな」




「えーつまんなーい」




「また今度ね」




「りょうかーい」




「バイバ~イ」




手を振り去ったのを確認してから作業に戻る。




一時間ほどすると大分終わりが見えてきた。
もう少しだ。




と、ガラリとドアが開いた。
また誰か来たのか。




「あ、つばさくんいた!」




誰だ、この女。




脳をフル回転させるも思い出せない。




「何か用?」




「んーん。用はないんだけど…」




「さっきつばさくんと同じクラスの子達に」




「つばさくんが教室にいるって教えて貰って」




さっきあった二人か。
余計なことを。




「雑用?偉いね~」




「ありがとう」




颯爽と教室に入り込み、隣に座ってくる。




甘ったるい香りが鼻を掠めた。




「つばさくんってほんとにかっこいいよね」




「そうかな」




「そうだよ!」




「私ね、つばさくんが好きなの」




「僕が?」




「うん。本当に好き」




頬を赤く染めて見上げてくる。




緩く巻かれた髪がふわりと揺れた。




「僕のどこが好きなの?」




「え~恥ずかしいよ」




両手を頬に当てて恥じらう。
その手に自分の手をそっと重ねた。




「教えて欲しいな」




「も~つばさくんの意地悪っ」




「ふふ。君だからだよ」




「やだ~~」




「僕のどこが好き?」




「かっこよくて、優しいところだよ」




やっぱりな。
そうだろうと思ったよ。




「ふふ、ありがとう」




この後はどうせ




「ね、つばさくん。私と付き合って?」




「私可愛いし、スタイルも結構いいよ?」




ほら、そう言う。




女なんて単純だ。




優しくすればほいほい付いてくる。




遊ぶくらいがちょうどいい。




「いいよ」




「僕と恋愛、しよっか」




パァっと女の顔が輝く。




「うんっ」




「これからよろしくね、つばさくん」




「私隣のクラスだけど、沢山会いに来るから!」




あぁ、やっと思い出した。
この女、可愛いって噂になってた隣のクラスのやつだ。




まぁたしかに可愛い。
中身はともかく顔は。




「ねぇ、つばさくん」




「ん?」




「あのね、その……」




下を向きモジモジと照れくさそうにする。




「キス……して欲しいなって」




「ここで?」




「うん…ね、ダメ?」




潤んだ瞳で上目遣いをしてこちらを見つめてくる。




正直したくはないけど、断って駄々をこねられるのも面倒だ。




「いいよ」




「ほんとに?」




「うん。目、閉じて」




素直に目を閉じる女。



頬に置いていた手を少し下げ、顎をクイと上げる。




そっと唇を重ねた。




「ふふ、なんだか照れるね」




顔を赤くして恥じらう女。




「僕まだ作業があるから」




「今日のところは帰ってもらえるかな?」




「あ、そうだね。作業頑張ってね」




「ありがとう」




バイバイと手を振って軽やかに教室を出ていく。




ドアが閉まると同時にため息をついた。




時計を見やるとあれから15分も経っていた。
時間を無駄にしてしまった。




「くそ……」




と、またドアが開いた。




なんなんだ、今日は。
来客が多すぎやしないか。




咄嗟に姿勢を正し机に向き直る。




教師にだらしない姿を見せる訳にはいかない。




「あ……」




恐らく無意識に漏れてしまったであろう小さな声。




顔を向けると女子生徒が一人立っていた。




三つ編みのお下げに丸眼鏡。




あー、また名前を思い出せない。
同じクラスだったよな。




「どうしたの?忘れ物?」




声をかけながら席を立ち近づいて行く。





女はこちらを見つめたまま何も言わない。
なんか言えよ。




「おーい?大丈夫?」




「え、あ、はい」




「おお、そっかそっか」




ハッとしたように返事をする女。




「あ、私、忘れ物を取りに……」




「あぁ、そっか」




「はい……あの、隣失礼します」




そう言いそそくさと俺の隣を駆けていく。




机に駆け寄り中を探している。




「あった?忘れ物」




「はい…良かった」




ほっと息をつく。
忘れたものは教科書らしい。課題をやるのに必要なのだろうか。




見た目の通り真面目だな。




「あの……作業の邪魔してすみません」




いつの間にか近くまできていて、申し訳なさそうな顔で謝ってきた。




机の上にあったやりかけの作業を見たのだろう。




「大丈夫だよ。もう少しで終わりそうだし」




「忘れ物、見つかってよかった」




ちらりと上履きに書かれた名前を見る。




「里中さん、気を付けて帰ってね」




「は、はい。それでは」




一礼して教室を出ていこうとした。




「わっ」




が、なにかに躓いて前のめりに転んだ。




「いった…」




地面にうつ伏せになり、小さく呻いた声が聞こえる。
ドジっ子なのか?
それともわざとか?




どっちにしろ、見てないふりも変か。




「大丈夫?」




近くにしゃがみこみ、顔をのぞき込む。




恥ずかしさからか、顔を真っ赤にさせていた。




「だ、大丈夫です!」




「お見苦しい所を見せてすみません!」




「全然そんなことないから大丈夫だよ」




「ケガとかしてない?」




「は、はい。なんとか…」




「そっか」




「でも万が一もあるし、保健室行こう?」




「おぶってあげるよ。ほら、乗って」




「え!?」




「いえ、若崎くんにそんな真似させられません!!」




「いいからいいから」




手を掴み身体をそっと起こす。




「………ぉ…が」




「里中さん?」




「いいって言ってんだろーが!!」




「……え?」




突如声を荒らげる女。




突然のこと過ぎて言葉が出ない。




「さっきから不用意に近付いてきて!」




「ほんと女たらしだな!!」




「女なら誰でも思い通りにいくと思うな!」




「え……は?」




この女二重人格……いや、別人?




言いたいことを言い終えたのか、肩で荒く息を整えている。




俺は未だに頭の中の整理が出来ずにいた。




「あーもう!!」




ガシガシと頭をかく女。




何が起こっているんだ。




「あの……里中さん……」




「なに?」




「いや、あの……え?」




あの大人しい丸眼鏡は何処にいった。




今目の前にいるこの女はまるで別人だ。




「はーバレちゃった……私ったらつい」




額に手を当てため息をつく。




続けて言った。




「この際言っておくけど」




「私、あんたのこと嫌いだから」




「……は?」




生まれて初めて




女に嫌いと言われた。




「あ、ほんとに好かれてると思ってたんだ」




「え……なんで…」




「いや、あんたチャラすぎ」




「女なら誰でも思い通りになると思ってるでしょ」




図星だった。




顔が整っていて優しければ女は誰でもついてくると思っていた。




でも、この女は




「そういうの無理なんだよねー」




今までの女とは違うらしい。




お下げをいじりながらそういう目の前のこいつを見てそう思った。




「はっ」




口が弧を描く。
女が怪訝そうにこちらを見る。




「おもしれー女」




そう言うと、女はニヤリと笑った。




「あのキャラ、作ってたんだ」




「あのキャラ?」




「ザ・人気者の優等生~って感じの」




「あぁ、まぁな」




「その方が女ウケいいからでしょ」




「よく分かったな」




「まーね」



「そういうお前こそ、キャラ作ってんだな」




「あーまぁね」




「なんでだよ?」




「こんな口悪いとクラスの一軍女子に絡まれるでしょ」




「『調子乗らないでよ』的な」




「あぁ……なるほど」




それがめんどくさいから大人しい女子を演じてるということか。




「女子も大変なんだな」




「そゆこと」




と言うと、はぁとため息をついた。




「ほーんとめんどくさい」




「校則破って着飾って何が楽しいんだか」




「それはわかるな」




「あんたに言われても嬉しくないかなぁ」




クスッと笑う。
不覚にもその笑顔に心臓が鳴った。




いやいや、気のせいだ。




なんでこんな




「……?なによ」




こんな眼鏡でお下げの地味な女なんて。




「いや、別に」




「えー何それこわ」




「ま、私みたいに思い通りにいかない女もいるってことよ」




「覚えときなさい!」




ビシッと俺に指を突きつけて不敵に笑うその笑顔が、夕暮れの校舎に妙に映えてて。




今度こそ、胸が高鳴った。




あぁ、これはもう




認めざるを得ないな。




「好きだ」




「……は?」




「お前が好きだ」




「えぇ……むり」




「おい」




「だってチャラいんだもーん」




ケラケラと屈託なく笑うその笑顔を




俺だけのものにしたいなんて。




柄じゃないにも程がある。




女なら誰だっていいって思ってた。




そんな俺を変えたのは




「じゃあ」




「これから落とす」




紛れもなくお前で。




「これから覚悟してろよ」



ユウナ
「夕凪」




目を見開いて驚いて




その後不敵な顔で笑うんだ。




「やれるもんならやってみなさいよ」




「あんたには落ちないから」




俺たちの物語は、これから始まる。

榊 夜綴・2022-07-31
題名思いつかなかった
パッて思い付いてガーッて書いたやつです
ただ"偽優等生チャラ男男子"×"大人しめ風口悪女子"の小説が描きたかっただけ
小説
名前のない物語
恋愛
チャラ男
真面目女子
優等生
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ポエム
独り言
夏休みにやりたいこと
まだ見ぬ世界の空の色は

あの花が咲く丘で君とまた出会えたら




忘れないで

あの日のこと



































私の大叔父は戦時中

陸軍士官学校に在籍していた

戦地には行かなかったため

無事帰ってきたそうだ

私が産まれる前になくなってしまったけれど

1度会ってみたかった。


戦争の記憶

恒久平和を祈って

西宮・1日前
戦争
小説
この夏
戦後77年
恒久平和
独り言

【今度こそ、躊躇うことなく引き金を】



『好きって言ってよ』

君は私の顔を不満そうに覗いている。

「絶対いや」

『なんで』



言葉は凶器

幼い頃誰もが聞く言葉だろう。

一度放ってしまっては、もう取り返しのつかない。



「…言葉は残ってしまうから」

体に、心に、弾丸がはまってしまったかのように。

心に穴を開け、きっと深く入り込む。


私が言うと、君は少しだけ笑う。

『僕の存在を今世でずっと噛み締めてよ』


わがままにも程がある。

私は嫌だと言っているのに。



きっと、君は私の言葉を聴いたら満足してしまうんでしょう?


『これが最後にするからさ!』


最後にする、と言いながら君は真っ直ぐに私を見る。

今までのらりくらりとかわしてきたツケがここで回ってきたのだろうか。

今日の君はどんな手を使ってでも私に言わせる気だ。


『…お願い、言って?』




……分かった、分かったよ。

もう、観念するしかない。



「言ってしまったら、私は…っ」

私は今、彼に渡された銃を握り、彼自身に銃口を向けている。




私が、



私自身で、大切な人を

















「__。」
















































拝啓 神様

私が放った好きの言葉で

彼は成仏できたでしょうか

            敬具

琉・2022-07-20
今度こそ、躊躇うことなく引き金を
拝啓、神様
星巡り
小説書きたい欲が抑えられなかったです
好きです、なんて言えない
小説

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ひとくち小説「妹の居ない日常」

「俺は…バカだなぁ」

アルバムの写真を見ながら
俺は1人泣いていた。

昔の写真だ。小さな頃の思い出が詰まった
妹との思い出の写真だ

その写真には笑顔で笑ってる
妹が居る

何故、俺はあの時止めてあげられなかった
何故、俺はこんなにも大事な妹を

助けてあげられなかった

寧ろケンカまでして、泣かせて、
仲良くなくなって。

「ごめん…ごめんな…」

今になって泣きながら。
謝り続ける。

失って手遅れになった今
やっと気づいた

大好きだった妹を
助けられなかった後悔
イジメてしまった罪悪感

そして幸せに、してあげられなかった
守ってあげられなかた

「うぅ……うわぁぁぁん!!」

ぐしゃぐしゃな顔になって
泣き続ける。

心が苦しい、あぁ…もう…

どうしたら良いのだろう…

俺は…

俺は…

泣き疲れて眠りにつく。

チュンチュン…

朝になって、目が覚める。
コレからは
もう妹が居ない、
親の声が聞こえる…

俺は部屋を出て下に降りる。

そして妹の居ない人性が

ココから始まった。  

ひまたん(。>ω<)丿・2022-07-21
一口
小説
好きです、なんて言えない
心境
ストーリー
因みに
続きは
ありません
辛い
ポエム





1.



勝手に自分を縛り付け勝手に惨めな思いをしている私はきっと、なぶられるのが好きなのだ。


もっとラフに生きたい。肩肘張って生きている自覚はあるが、生憎肩も肘もさして骨ばってはいない。



手を洗いそのまま部屋に直行してレジ袋から取り出したハニーラテを飲んだ瞬間、私は帰りに引きずっていた行き場のない自我の吐瀉物を浄化することに成功した。


ハニーラテは幸せを呼ぶ。


しあわせをよぶハニーラテ、とか謳い文句をつけて売れば私のような何も考えずに生きている誰かが、ぼけっとしながらレジまで運ぶだろう。


ハニーラテの売り上げ。



クーラーの電源を入れて目を閉じると、やけに凝ったカラーシャツに身を包み颯爽とキャンパス内を練り歩く千葉君の姿が浮かび上がる。


剃刀みたいに鋭い顔つきをしているくせにどこか言葉に覇気がなく、意外と妥協しまくりで且つ誰にも優しく接する千葉君の良さを知っているのは私だけだ、と少なくとも学科の女子のうち四割くらいは思っているに違いない。


もちろん私もそのうちの一人で、けれど私は千葉君とは一度たりとも話したことはない。



千葉君とよく二人で下校している女の子、ミルクティーみたいな色の髪を後ろでラフに縛り、カメラレンズのようにくるくるとした黒目がちな瞳を持つあの子の名前を、私は知らない。


ので、私は勝手に彼女のことをミルクティーと呼んでいる。



しあわせをよぶハニーラテは美味しい。


ミルクティーに対抗すべく、私はハニーラテで幸せをゲットしようとしたのだろうか。



まずはハニーラテ色に髪を染めて、つぎにそれを後ろでゆるく縛ることから始めよう。


そもそもハニーラテ色の髪ってなんだろう。


ストローは芯までも甘い。



『毒にも薬にも綿菓子にも』

深波.・2022-07-19
小説
【毒にも薬にも綿菓子にも】


『口無し』



梔子が詰め込まれた箱はきっとそこだけ、切り取った天国だった。たった一歩が、濁世には痛い。人生を無理やり塗り潰したような不自然な白は、清廉すぎて腹が立つ。死人に口なし。君は何も囀らない。僕に朝は来ないね。死人に梔子。エスコートなら必要ない。どうか香りがする方へ。君に口なし。口付けても変わらない。語らって明かした夜を数えて。君に梔子。笑ってしまうほどに花が似合わない。君は、死にたがりでもなかったくせに

舞雪・2022-07-26
ぴったり200文字で小説書いてみようチャレンジ
小説
試験がやばい私より愛をこめて





7.


結衣といると、昔の自分を見ているようで胸騒ぎがする。


マイナーなゆるキャラモチーフのペンケースを使っていることも、耳たぶだけでなく軟骨にまでも派手なメタリックピアスをつけていることも。



高校生の頃、駅のホームで電車を待つ間、風に吹かれてピアスがほんのり揺れているような揺れていないような、そんな感覚に陥るのが好きだった。


私のピアスを口ではカッコいいねと褒めつつも、自分は絶対に可愛らしい小ぶりのイヤリングしかつけなかったのっち。


のっちは、成績が振るわないと言いつつも、しれっと難関お嬢様大学に合格し、そのことを私に告げてきた。



私は、のっちになりたかったのかもしれない。


取り立てて派手なわけでもモテるわけでもないけれど、どこか涼やかで、品のある仕草が印象的だったのっち。


のっちは高校時代、ずっと同じ人と付き合い続けていて、それは大学生になった今も継続中らしい。



のっちの本名は紀子。


名前すらも気品が漂う。


私なんて充希だ。


充分な希望などあるわけがないのに。



結衣は一人称が統一されておらず、私とか俺とか僕とか、いろんな風に自分を呼ぶ。


これまで自分のことを俺や僕と呼ぶ子と仲良くした経験がなかったので、初めはかなり困惑したが、一緒にいる沙也加が気にも留めずに結衣と会話を弾ませているのを見て、あまり気にすることではないのかもしれない、と最近では思い始めている。



ジェンダーは選べるもの。


そのことを文化人類学の講義で知り、衝撃を受けた。


性別に関する文化にひどく疎い私は、そういうものはてっきりトランスジェンダーの人たちだけの特権だと思っていた。


けれど最近では、ネットで占いや性格診断をしていると、性別の欄を無回答にできるようになってきた。


私は自分が女性だとこれまで信じて疑わなかったため、初めて無回答を選んだときには新しい自分に出会えたような不思議な心地になった。



ジェンダーについてスマホで調べてみると、大量のネット記事がヒットした。


試しにいくつか読んでみたが、ジェンダーの種類があまりに多すぎることや名前がどれもややこしいことにうんざりした。


まるで服を着飾るみたい。


ジャンル分けして、自分をそのうちのどれかに当てはめて安心して理解した気になって、これはファッションか何かなのだろうか。


私がウサギにペンをぶち込んでいるのとそう変わらない残虐さを垣間見た気がして、すぐにタブを閉じた。
 


『毒にも薬にも綿菓子にも』

深波.・2022-07-24
小説
【毒にも薬にも綿菓子にも】

…音が聴こえる

「どうしてここにいるんだっけ」
僕はポツリと呟いた

でも、答えは帰ってこない
思い出すこともできそうにない。

この青い得体のしえないものが行き来するのを見ていると不思議と心は落ち着いた

上は真っ青で。
下も真っ青で。
僕は真っ白だ。

どのくらい

ボーッとしていただろう。

いつの間にか上は真っ赤に染まっていた。

僕は真っ白なままなのに。

そうやって深く考えることも無いまま

ふと自宅に帰ろうと思った。

でもどこなのか分からない。

だから後ろにあった、

どこか既視感のある

コテージに入った。

中には誰もいないのに

清潔だった。

つい最近まで誰かが過ごしていたみたいに。


部屋は2部屋だったけど、

僕は迷わず左を選んだ。

右は入ってはいけない気がした。


ベランダにある、

ハンモックに乗った。

部屋にはベッドがあるけれど

もう、何も考えたくなくて

直ぐに瞼を閉じた


















どれくらい経っただろう

短いのに長くて、長いのに短い夢

満月の夜、満点の星空の下で僕は目を覚ました

頬を何かが伝う

冷たくて、しょっぱくて。

温かくて、甘かった。






「ねぇ、君は何処へ行ったの…?」






そんな僕の世迷いごとは

満月が吸い込んで、
返事が返ってくることはなかった



















【見つけて欲しい】












そんな声が聞こえた気がした。









【ここだよ】










誰かが呟いた気がした。




でも。






もう、分からない。


僕は君を思い出してもいいんだろうか。
夢の中では顔も見えなくて。
声ではなく、筆談で。
手足は隠されていた。
















僕に残ったものは何も無かった。

aria(ヘッダーに好きお願いします!)・2022-07-19
好きです、なんて言えない
ポエムもどき。
ポエム
小説
面白い?
感動
分からない
冷たくて
しょっぱくて
暖かくて
甘い





2.


黒いリュックを背負ったショートヘアの影がこちらに近づく。


おはよう、と声を出すタイミングを見計らいつつも、気がつかないふりでプリントや教科書を取り出す。



「はよ」


「おはよう」



ごく自然な流れで顔をあげ挨拶する。


結衣は隣の空席にリュックを置くと、パキパキと音を鳴らしてペットボトルのジュースを開封した。



相変わらずアイメイクが濃い。


引き伸ばされたアイライン、オレンジ色のアイシャドウで色付けされた上まぶた。


涙袋がほとんどノーメイクに近いせいもあってか、より一層目力が強く見える。



結衣は空気を読まない。


沈黙に耐えかねて変なことを口走ったりもしない。


登校してから講義が始まるまでのこの絶妙な時間、自分が話したいことがないときは、いつもスマホをいじっている。



私も結衣に倣って本を開く。


結衣が好きなことをしているのならば私も本を読んでやろうという魂胆だ。



「そういやシバヤマさ」


「なに?」


「テストの時間割見た?」


「うん見たよ。英語が最終日だった、最悪じゃない?」


「まじか、やっぱりもう出てるのか。あとで確認してみよ」



そしてまた結衣はスマホに向き直る。


私は結衣の前では柴山で、だが実は未だに苗字で呼ばれることに慣れていない。



ドスっという鈍い音がしたかと思うと、結衣が座っていないほうの隣の席に、トートバッグを抱えたまま思い切り座り込む沙也加の姿があった。



「あれ、おはよう。今日は来たんだ」



沙也加は眠い目を擦りながらペンケースを取り出す。



「さすがにやばいから来た」



いつだって等身大で生きる沙也加は爽やかで美しい。


眠いときは顔の力を抜き、講義がつまらないときは突っ伏し、好きな人がいるときは顔を綻ばせる。


その素直で飾らない性格を、私も見習いたい。



私は他人に見られることを過度に気にかけ、常に見栄を張り、角が立たないよう発言には細心の注意を払っている。


自分という膜の内側に外的物質が侵入するのを極度に恐れているのだ。


だが一方で、私の警戒心には目もくれずに、土足で壁の内部にずかずかと踏み入る迷惑者の存在を切に願っている自分もいる。


このジレンマに耐えられなくなる日も、そう遠くはないかもしれない。



「ねえ充希、あたし今日部活行くべきかなあ」



結衣以外の人にとって私は充希であり、それは高校時代から続く呼称のため全く違和感がない。



「あ、先輩のこと?」



バスケ部に所属している沙也加は、三年生の先輩に目をつけられている。


二人がよく一緒に下校していることを、これまたバスケ部のひとみに聞いた。



「ひとみが行くなら一緒に参加すれば? どうせ一人で行っても帰り、先輩の誘い断れないでしょう沙也加」



そうなんだよね、と困り顔で呟きながらも、沙也加はもう既に部活を休むことに決めたのだろう。


先ほどよりも沙也加を取り巻く空気の輪郭が鮮明になったのを感じる。


誰かの一押しが欲しかっただけなのだ、きっと。



沙也加が好意を寄せている相手は、同じ学科の千葉秀樹。


本人の口から直接聞いたわけではないので確証はないが、私の勘では、二人は同じ講義を受けていたことが発覚して以降、急速に距離が縮まっている。



沙也加は、先輩などにかまけている暇はないのだ。


もちろん恋は暇だからこそ発生するものでもあるけれど。



『毒にも薬にも綿菓子にも』

深波.・2022-07-24
小説
【毒にも薬にも綿菓子にも】

【秘密】


あの子のお葬式があった。厚い雲が、太陽の光を遮っていた。

「あんなに、いい子だったのに」

担任がハンカチで目元を抑えながら話す。いつものジャージとは違う、真っ黒なスーツに身を包みながら。

ぽつりぽつりと、先生はあの子の思い出を語った。
蒸し暑い空気が私達を包み込む。先生の声だけが、静寂の中響いている。

いつもは明るい声でハキハキ喋る先生。笑顔が絶えない優しい先生。そんな人も、今日は言葉を詰まらせ、顔を悲しみで歪ませながら話している。

「いつも明るく元気で、勉学に一生懸命で、それで、それでいて、皆のことを考えられて・・・!」

ついにこらえきれなくなった涙が、先生の目から溢れた。

それに応じるように、周りからも音が聞こえ始める。悲しさで満ち溢れた音。
あの子の名前を口に出す人、ただただ涙をこぼす人、大きな声であの子の死を嘆く人。

先生は一人で話し続ける。一人で悲しみに酔っている。


皆悲しみに酔っている。


私だけが、ずっと前を見据えていた。

「・・・とても悲しいです、〇〇ちゃんのいない教室は。だけど、だけど、あの子はきっと皆の笑顔を見たいはずです。だって、誰かの笑顔のために頑張れる子だったから。どうか、安らかにお休み下さい。」


二年五組一同。


そう締め括り、先生の弔辞が終わった。
拍手が起きたわけでもない。のに、称賛のような何かが辺りに漂った。

お通夜ももうすぐ終わる。あの子とのお別れの時間がくる。

皆の泣き声がいっそう強まった気がした。

空はまだ曇っている。どこかで蝉が鳴いている。

「・・・俺が、アイツのことをもっと分かってやれてたら」

隣でそんな声がした。横を向くと、あの子の彼氏がそこにいた。

「そうしたら、こんなことには」

俺がアイツともっと喋っていれば、俺がもっと一緒の時間を過ごしていれば。

俯きながら、そんなことばかりずっと呟く。私より高いはずの背がとても小さく見える。涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃだった。

「・・・使いなよ、ハンカチ」

ハッとしたようにそいつはこっちを向いた。私が差し出したハンカチを、なにか珍しいもののように見つめている。

「・・・ありがとう」

そう言ってハンカチをそっと取った。目を擦るようにしながら涙を拭く。
薄いピンクのハンカチが、コイツには不釣り合いだと思った。

あの子の方が似合っていた。

「落ち着いた?」

「あぁ。・・・ごめんな、ハンカチこんなにして」

「別にいいよ。次会った時にでも返して」

前を見てそう答える。コイツはクラス内ではそれなりにモテるほうだった、らしい。あの子から聞いただけだから定かではないけれど。でもそんなことを言うあの子も男女問わず人気があったし、好意を持つやつは少なからずいただろう。

それで、あの子とコイツはお似合いカップルだのなんだの言われていた。どっちもモテるから、なんて理由で。

「●●はすごいな」

「え?」

不意に吐かれた言葉に驚く。それが私に向けられた言葉だと理解するのに、少し時間がかかった。

「●●はさ、アイツがいなくなって寂しくないのか?」


お通夜始まってから、一回も泣いてないだろ。


それがさも珍しいことのように、泣くことが当たり前のように、この男は言い放った。

なんて非道いことを言うんだろう。私が寂しくない?馬鹿を言わないでほしい。

あの子のいないこの場所に、もう価値なんてないのに。

「・・・あの子はさ、いつも笑顔だったし、周りの人も笑顔なのが好きだったじゃん」

思ってもいないことを口から出す。

いつも笑顔だったなんて、嘘。

私はあの子の涙を知っている。

「だから、皆泣いてるんだから、私くらいは笑って見送りたいんだよ」

そう言いながら口角を上げる。嘘くさい笑みを顔に貼り付ける。
それが良かったのか、コイツには私が涙を我慢しているように見えたらしい。

「そうか・・・そうだよな。お前だって寂しいし、我慢してるよな。・・・アイツだって望んでないよな、皆が、俺が泣いているのは」

独り言のようにそう呟く。何かを考えている様子の瞳と焦点があう。

ソレはまるで哀れなものを見るように、慈愛を込めて私を見つめてきた。

「なあ、難しいかもしれないけどさ。時間があったら、アイツの話一緒にしないか?料理が得意だったとか、可愛いものが好きだったとか、そんなのでいいからさ」

悲しみしか浮かべていなかった顔が、少しだけ笑みを見せた。

「・・・そうだね、難しいかもだけど」

哀れなやつだなと、思った。

あの子の彼氏だからって、あの子に一番近かったわけではない。だから、コイツじゃあの子の代わりにならないし、あの子との思い出を語る相手にはならない。


私はあの子との日々を誰かにあげたりしない。


だいたい、お前はあの子のことを全然知らない。あの子は料理が得意じゃなかった。特にお菓子作りなんか、焦がしたり、生地がちゃんと混ざっていなかったりしてた。でも一所懸命に作ってる姿が可愛くて、「下手くそだなぁ」なんて笑ったりして。私しか知らない大事な時間だった。

お前が見ていた料理上手のあの子は、頑張って練習した後のあの子なんだ。本当のあの子じゃない。

あの子の本当を知っているのは私だ。私だけだ。

あの子の短所も涙も何もかも、私だけが見られる特権だった。

きっとあの子もそう思っていた。だから私とあんな約束をしたんだ。

確かあの日は雨が降っていた。電気を消した薄暗い教室。雨の音だけが響いていたそこで、あの子は言った。



『一緒に自殺しよう』



あのときのあの子の綺麗な顔は今でも覚えている。

あぁなんて、あまりに汚くて、許されない、特別すぎる約束なんだろう!

もちろん私は頷いた。首を横に振る選択肢は最初からなかった。

それからは色々試した。二人で自殺するのは上手くいかなかったから、先にあの子だけ自殺を図った。結果がこの日だ。

あの子はきっと喜んでいる。計画が成功したから。そんな素晴らしい日に、どうして泣いてなんていられようか。


次は私の番。


ふと、遺影のあの子と目が合う。花のように笑みをあふれさせた顔。この場所には不釣り合いだと思った。

君は、もっと綺麗なところで笑うべきだよ。

それで、その笑顔を一番近くで見るのは私がいい。

誰にも聞こえやしないその独り言を、口の中で咀嚼した。

いつの間にか雲は去り、太陽の光が控えめに差し込んでいる。


私はポケットの中の、あの子とはんぶんこした薬を握りしめた。


大事な秘密を守るように。



















『・・・それでは、続いてのニュースです。豊後中学校二年五組全員の死亡が確認されました。全員が異なる場所で同じ死因をしており、警察は事件性を視野に入れながら捜査しています。・・・』

無月・2022-07-25
小説
雲隠の月
好きな人
地の文ま〜〜〜じむずかったです
短編小説





3.


口調も考え方もどこか男っぽく、つけているアクセサリーもメタリックでゴツゴツしたものが多い結衣は、恋愛に興味がないという素振りを常日頃から見せている。


素振りを見せているというより、見せつけていると言ったほうが正しいかもしれない。


恋愛に人生を左右されないことこそが崇高だと思う人はきっと、私たちの世代には一定数いるのだと思う。


一人で満足できる趣味が一般的になり、多様化し、私たちは趣味を媒介しながら、孤独に孤独と向き合うことが上手くなったから。



私たちは生まれてから死ぬまでずっと孤独で、それはごく当たり前のことのはずなのに、友人や恋人ができた途端に孤独から脱却できたと思い込んでしまう愚かな生き物だ。



異性に興味がないんじゃなく、異性に興味を持たれずに生きてきたのだと思う、結衣は。


でも結衣はプライドが高いからそれをありのまま肯定することが許せなくて、無意識のうちに恋愛に関する物事を否定するようになった。


あくまで興味を持たれなかったのではなく、そもそも私が異性に興味を持っていないだけなのですよ、と。



こんなに周りの人間を考察している私って気持ち悪いかな、そんなことわかっているけれど止められない。



私は千葉君が好きだけど、別に沙也加とライバルになる予定はない。


だって沙也加は千葉君と付き合うことを望んでいるかもしれないけれど、私はそうじゃないから。


あくまで千葉君を好きでいる、というポーズをとっていたいだけ。


だってあの瞳を、私は知っているもん。


千葉君の良さ、良さというと陳腐だけれど、光るもの、秘めているもの、みたいなものを、わりと早い段階で透視できた。


それは私と千葉君が同じタイプの人間だから。



話したことはない。千葉君が私を認識しているかどうかも怪しい。


けれど少なくとも、私は千葉君のことを解っている。


 
『毒にも薬にも綿菓子にも』

深波.・2022-07-24
小説
【毒にも薬にも綿菓子にも】





9.


週末、美容院に行った。


本当は近所のドラッグストアでテキトーに黒染めスプレーを買う予定だったのだけれど、せっかくなら髪も切りたいなと思い立ち、予定を変更した。



美容師さんと翌日には忘れてしまいそうな他愛のない話で盛り上がりながら髪に薬剤を塗布してもらう時間が堪らなく好きだ。


美容院のカードには前回来店した際に染めた色の名前がメモされていた。



美容室では九割の事実の中に一割の嘘を混ぜる。


このあと予定あるんですかと聞かれれば友達と映画を観に行くと言うし、週末の過ごし方を聞かれれば恋人と過ごしてますと笑顔で返答する。



髪型はミニボブにしてもらった。


床には私の残骸が散らばっており、それなのに執着心や虚しさはまったく感じなかった。



髪先が首に触れる感覚が懐かしい。


黒に戻った私の髪は、以前よりも少しだけ、生き生きとしている気がする。



ハニーラテ色にはしなかった。


日々は着々と進んでいくから、私はそれに追いつけなくて、だけど、それに追いつこうとしない私があっても、いいんじゃないかと思う。



猫も杓子も恋愛ばっかり。


恋してる人が偉くて愛する人がいると敬われる。


関係性に名前をつけると安心しちゃうのかな、だから恋愛は気持ち悪いのかな。



高校時代、模試の試験監督に来ているバイトの人とか、オープンキャンパスで案内役を務めている人とか、大学生を見るたびに、私もこうならなくちゃいけない、と制服の中で胸をざわつかせていた。



私はウサギが嫌いなんじゃなくて、ウサギのことを好きな素振りを見せておきながら、身体のなかにぎゅうぎゅうにペンを押し込むのが嫌い。



ウサギが好きだし、のっちが好きで、結衣はカッコいいし、だけどひとみと風香だって、山崎や大河と、なんとか結ばれるといいな。



暑さにやられて立ち入ったコンビニでハニーラテを手に取る。


もっと千葉君と話してみたい、とふと思った。


害もなく益もなく、かと言って甘く頬が綻ぶわけでもない、そんな毒にも薬にも綿菓子にもならない片思いを続けている私がそんなことを感じたのは初めてだったので、沙也加に怒られちゃうかも、と少しだけ自分を笑ってみせた。
 
 



『毒にも薬にも綿菓子にも』

おわり

深波.・2022-07-29
小説
【毒にも薬にも綿菓子にも】





6.


ぬいぐるみみたいな形のペンケースが一時期流行って、クラスの女子たちは、こぞってライオンやウサギの身体にシャーペンや蛍光ペンをぶち込んでいた。


私はというと、私なんかが動物のペンケースなど使っていいわけがない、という訳の分からない呪縛にかけられ、結局中学生の頃から使っていたお古のペンケースを卒業するまで使った。



なりたい大学生像が明確にあった。


ゆるく内巻きにしたミルクティー色のミディアムヘア、淡い色のチュールスカートを履いて、クリーム色のスニーカーと合わせる。


もちろんペンケースはウサギ。



大学生になった途端に髪を茶色く染めることを中身がないと揶揄する人たちもいるけれど、私はまさしく中身がなくてごく普通のありふれた子になりたかったのだ。


汚いスライムだとバレないように。



大学生になればこっちのもん、みたいな精神でなんとか生き繋いでいたので、残りの高校生活は惰性で過ごした。


卒業式は泣かなかった。


地方に行く友達が一人もいなかったせいもあるかもしれない。


会おうと思えばいつでも会えるこの時代、卒業式に涙なんて流さない。



確か大学で受けた初めての講義は英語で、そのとき二列ほど前に座っていた人が、ぼろぼろのペンケースを使っていた。


それを見た瞬間に自分のウサギがひどく残虐なおもちゃに思え、以来、その人のことを観察するようになった。


あの人は優しい。


だってあんなにボロボロのペンケース、中学の頃から使い倒していなければ、ああはならないから。



私は高校卒業をきっかけにしてこれまでの自分をころしたのに、あの人はいつまでも自分を大切に扱っている。



後に彼が千葉秀樹という名前だと判明し、そしてそのさらに数週間後には、沙也加が千葉君と仲良くなっていることを知った。


なんとなく自分は千葉君に好意を寄せていると思っていたので、嫉妬心が全く湧き上がってこないことに、少しだけ困惑した。
 


『毒にも薬にも綿菓子にも』

深波.・2022-07-24
小説
【毒にも薬にも綿菓子にも】

特別になれなかった夏




 ふたりで東京に行こう、と約束した姉が地元の専門学校に入学して当たり前のように一人暮らしを始めた。

 SNSで誰かが「逃げてもいいんだよ」とつぶやくたびに救われる人がいるように、私たちもかつてはその逃げ出したい人の内のひとりだった。行き先が明確に決まったわけでもなく、ただここでは無いどこかへ逃げ出したくてたまらない、そういう田舎の女たちが憧れる夢の国は共通して東京なのだと思う。




 ドリンクバーを頼む。窓際の喫煙席を選んだ制服姿の私を店員がいぶかしげな目で見ている。ドアの開閉のたびにベルが揺れて、少し待つとひときわ弾んだベルが鳴った。

「禁煙席でも良かったのに」

 半年ぶりに会った姉の巻き肩が治っていることに驚いた。ベージュのシャツにニットベストを着た姉の髪は落ち着いた茶色になっている。一人暮らしを初めて一年目のときに会った姉は、無理に明るくした髪と骨の浮きでた背中に重い空気を溜め込んで酷くやつれていた。父の真似か彼氏の真似か、タバコを吸っていたことを覚えていたけれど、一週間も経たずにやめたという。

 ニットベストも暑苦しさを放たなくなっていた。
 気付けば八月三十一日になっている。




 かつて高校生だった姉と中学生だった私は、なにかの音楽に影響されて夜のコンビニに出かけたことがある。クーラーをつけていないと眠れないような七月にクーラーが故障していた日だった。雨の音がすぐ近くにある。額に張り付く汗を手で拭うと手の甲にベッタリと汗がついた。そのとき、ドアが開いた。暗闇の中で開いたドアに目を凝らすと、コンビニ行かない? と姉は言った。

「かき氷食べたいでしょ」


 ビニール傘をさして歩く夜の街に不安がないわけでは無いのに、普段とは姿を変えた街に気分が高揚していた。雨の降り続くアスファルトを疲れた車が走ってゆく。青信号が点滅して、私たちは止まる。

「夏の夜って、エモいから好き」

 ヘッドライトがビニール傘に守られた私たちを照らしては流れていく。雨と光が混じり合わないままに私たちの逃避をフィクションみたいにしていた。どこかのロマンス映画に出てきそうな光景を、姉はエモいと言った。私が夏を好きになったのはその日だ。

 歩道を歩きながら、私たちは夢を語った。女優だとか、歌手だとか、そんな現実味のない、今にも離れてしまいそうな夢だった。そのひとつに、東京行きを入れた。女優や歌手や東京に憧れた私たちは、もしかしたら、ただ特別になりたかっただけなのかもしれない。





「同棲しようと思ってて」

 姉の話に出てきたのは「百人一首サークルの彼」だった。以前のバンドマンとは別れ、姉を正しく導く人と出会えたことを素直に喜べずにいる。

「いいね」

 三文字で肯定した私に、姉は何かを言いかけてやめた。もしそれがあの約束だったとしたら、姉にとって忘れて欲しい約束なのだろう。

 怒りはなかった。裏切りだとも思わなかった。ただ少しだけ、東京に行かなくとも充実している姉の日々を羨ましいと思った。誰かの特別になれた姉を羨ましいと思った。




 夏が好きだ。
 空を見上げると、ただ空の端を縁取るだけの入道雲がこの街を見下ろしている。これが最後の入道雲かもしれない。クーラーが直接当たっていた腕に寒さを感じた。夏が微睡んでいる。

声・23時間前
小説
0522:
文化祭に出すやつです。締切当日に書いたなんて言えない





1.


大丈夫?って聞かれなきゃ自分が大丈夫じゃないことを話せない人が苦手だし、大丈夫?って聞かれて、大丈夫じゃないのに大丈夫だよって笑って答えておきながら闇抱えてる人はもっと苦手。


不誠実なコミュニケーションだなって思う。


私のこと信用してないから本当のこと言わないんだろうな、って悲しくなるよ。


誰かのために死ぬのってそんなに美しいことなのかなって、もしもカンパネルラとザネリがいたら尋ねてみたい。



おでこにちゅーしてくれたら全部つながれるのにね。


複雑な言葉も行為も、実はなんにも意味をなさないから。



春野君はあんまり話さない。


特定の友達といるときしか声を発さない。


発表の時間があるときも、小さな声で、しかも身体を少し震わせながら、それでも気丈なふりをして、必死に声を張り上げてる。



今の時代、珍しいよな。


ああいう誠実な人。


誠実っていうのは、自分の感情に嘘がつけない不器用な人って意味で。


だから春野君に激突して怒らせてみたいんだけど、でも私は春野君との接点なんてひとつも持ち合わせていないから、そんなことしたらただのテロリストでしかない。


『ボイス』

深波.・2022-07-31
小説
【ボイス】

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