人は誰にも見せない一面があって、
その一面を中心として覆い隠すように
性格が形成されている
よく笑う人はよく泣いた人
へらへらしてる人は過去に何かあった人
こういう言葉が真実を物語っている。
自分を守るために偽ることは
嘘になってしまうのだろうか
それとも正当防衛となるのか
「…疲れた」
頭を使いすぎると疲れてしまう。
「なーに,どうしたの?」
友達の葵が菓子パンを
口に入れながら聞いてくる。
今考えていたことをそのまま口にすれば
きっと変な人、と思われるのだろう
何より私の”キャラ”に合っていない。
「えーだってさ、午前中の授業だけで
こんなに疲れたのにあと3時間も
授業なんて耐えられないよ!!」
そう言って顔をふくらませながら
私はお昼のお弁当をつつく
嘘はついていない。
伝える情報を選んだだけ。
これも傍から見れば
嘘となってしまうのでしょうか
キャラの切り替えは素早い方だ
相手がどんな反応を欲しているかは
一緒に過ごしていくうちに
分かってしまうものだと思う
我ながらピエロになれるよ、ほんとに
「確かに古典先生の声は眠気誘うよね」
そう言いながら紙パックのジュースを
飲みながら友達の美琴は共感してくれる
私の友好関係は意外と広く
名前すら覚えてない人に
挨拶される時もある
でも基本いつも一緒にいるのは葵と美琴
葵は体育会系で言いたいことは言う
サバサバしたような女の子
美琴は図書館が好きそうなおっとり系
なんでも共感してくれる癒し女子
私は桃崎一花(ももさき はな)
みんなからは一花とか桃崎って呼ばれてる
「てか、一花ってさ
絶対ポーカーフェイス苦手だよね」
葵が急に変なことを言い出した
「それ私も思った!もうね、
感情という感情が全部顔に出てるもん」
そう言いながらケラケラと笑う美琴
「そんなことないよー
実は隠すの達人級で上手いんだから」
お弁当のたこさんウインナーを
ぶんぶん振り回しながら私は言う。
「花が隠すの上手かったら私と美琴は
隠すオリンピック出れるわ」と言う葵
心が冷えていく感覚が
自分でもよくわかった
誰も本当の私を見つけてくれない。
でも隠している私からすれば
願ったり叶ったりだろうか
私は自分で自分を隠しながら
誰も私を知ってくれないことに憂いている
誰かに見つけてもらいたいなら
この仮面を解いてしまえばいいのに
心の底から自嘲気味な笑みが溢れても
私の仮面が全てを隠してしまう
こんなことで泣きそうになる
そんな私はきっと弱い子
「やば、5限始まるよ!!」
葵のひとことによって会話が終わったことが
唯一の救いだった。
放課後の屋上が一番好き
誰にも見られない空間
私だけ違う世界にいるような気分
私が私でいられる場所
腰ぐらいの高さのフェンスを
ひょいっと乗り越えた先にある
塀の上に立つことが日常
見下ろせばコンクリートの地面と花壇
遠くからは野球部の掛け声が聞こえる
死にたいわけじゃない
友達もそれなりにいるし
学校で虐められているわけでもない
家で虐待を受けているわけでもなく
ほんとどこにでもいる普通な人間
ただ生きることに疲れちゃっただけ
自分を偽りながら生きることにも疲れた
思ってないお世辞をいう事にも嫌気がさした
面白くもないことに
声をあげて笑うことももう嫌
みんなが私を陽キャと呼ぶから
私は陽キャになりきっているだけ
女優も顔負けの演技力と自分をあざ笑う
インターネットで生きるの疲れたと書いても
見つかるのは心療内科の受診を勧告するばかり
この感情に病名があるのなら薬を頂戴
死について考え続けることも
もう疲れて果ててしまった。
その癖にここから一歩踏み出すことは怖い
はじめの一歩は誰でも怖いと聞いた
私は終わりの一歩すら怖いと感じる臆病者だ
誰かに助けてって言っても
きっとその人は...「なにしてんの?」
急に後ろか声が聞こえて
私の思考回路は強制的に停止した。
誰もいなかったはずの屋上。
後ろから声をかけられた。
飛び降りようとしてるって思われてる。
どうしよう。どうしよう。
どうしよう。
声のした方をゆっくり振り返ってみると
隣のクラスの橘くんがいた。
隣のクラスだけあって話したことはあまりない
あまり話したことが無い人で
とりあえずのところ少し安心した
この人は噂するのだろうか
人の不幸は密の味というから
私の不幸に人が群がるなら勘弁して欲しい
そんなことを考えているうちに
橘くんはフェンスを乗り越えて
どういう訳か私の隣に立っている
まるで捨て犬でも見るような目で。
「…橘くん?なにしてるの?」
率直な疑問をぶつけてみる
本当は聞きたいことが沢山ある
なぜ橘くんがここにいるのか
なぜフェンスを乗り越えてこっちにきたのか
なぜ私にそんな顔をするのか
何を考えているの?この人は
「んーうんやっぱ怖いわ。」
そういって屋上の塀の上に
立ったまま笑う橘くん
さっきの顔は気のせいだったのかな。
憐れじみた顔はいつの間にか消えて
よく廊下で見かける橘くんの顔だった
「怖そうな顔ひとつせずに立ってるから
ほんとうは怖くないかもって思っただけ」
そう言いながら両手を広げたり
塀の上を歩いたりしている橘くん
恐れを知らなさそうだなと思った
毎日ここに来る私でも
塀の上を歩いたりはしたことがない
「でもすっげぇ怖い」
そう言いながら私の隣まで戻ってきた橘くん
馬鹿なのだろうか。この人は
「じゃあ早く下りなよ」そう冷たく伝えた
「えー?でも俺が下りた振動で
桃崎が屋上から落ちたら困るじゃん」
そう言いながら手をひらひらさせる橘くん
あぁ私も塀から降りろって言いたいのね
意図を汲み取った私は
塀から降りてフェンスを乗り越えた
「なぁ俺が声かけるまで何考えてたの?」
優しい声で聞いてくる橘くん
心なしかさっきよりも声が低く
真剣そうな表情だと、感じる
こんな時にふざけるのは失礼なのだろうか
「大した事考えてないよ、
みんな考えそうなこと考えてただけ」
誰だって死について
1度は考えたことがあるでしょう
だからこれも嘘では無いと思う
そう言って、にこっと笑うと
「そっか。」と言って
少し寂しそうに橘くんは微笑んだ
橘くんとは関わらない方がいい。
本能がそう告げていた。
私の作り上げたキャラを
簡単に引きはがしてしまう。
現に明るいことが取柄の私は
この人の前では明るくなれずにいる。
気まずさに打ち勝てなくて
この場から逃げるように去る
屋上の扉に手を掛けたとき
「俺普段見かける桃崎よりも
今の少し冷たい桃崎の方が好きだよ」
そう言ってくれた橘くんに
私は何も言わず屋上から去りました。
--------キリトリ線--------
こんばんは栞帆です
小説書くことに憧れていたので
ぶっつけ本番で書いた初心者です笑
私の価値観をできる限り詰め込んで
誰もが思いそうなことを書きました
感想頂けたらとっても嬉しいです
好評でしたら続き書こうと思ってます!