はじめる

#未解決

読んでると、
思わず胸がギュッとしめつけられる、
そんなポエムを集めました。

全8作品・

【ForGetMe~クロとユキ~六花の章 第十一話忍び寄る邪心】




「黒須さん、また明日ね」



「うん、お疲れ様!」



私は、黒須六花。


交通課の女性警察官だ。



もっぱらスピード違反や


駐停車禁止車両を取り締まるのが


私の誇り高き、仕事。




署を出たところで同僚と別れ


帰路を歩む。



車通りの多い道を選ぶ…



最近、いつもそうだ。



すっかり暗くなった街灯の下。



タイヤとアスファルトが


擦れる音で空気を震わせながら


ざー、ざー、っと通り過ぎては


走り去っていく。





「あ、今の車……20キロスピード違反だ」


スピード違反の切符ばかり


切っていると


対抗してくる車が何キロで


走り去るのかわかるという、


特殊スキルが身についた。



「あー、もう!あんなにスピード出してたら危ないんだからねっ」



運転手には


届くはずもない忠告を


私は夜空に響かせる。




体育の成績がいつも



“頑張りましょう”



だった、私。



何処へ行っても


一番どんくさかった私が


警察官になって


いかついお兄さんや


変態さんを躱しながら


業務にあたり点数減点や


罰金を言い渡し切符を切ってる。




これってすごい事だ。




元々、曲がった事が嫌いな私は


存分にその正義感を


発揮出来る今の仕事が


性に合っているらしい。








でも……時としてそれが


裏目に出ることもある。




ヴヴヴヴヴヴ……


ハンドバッグの中で


スマホが振るう。



反射的に肩が震えた。


バッグの中が


ライトで煌々と照らされる。


動悸。


焦燥。


目に映る、文字。





__非通知。



嫌だ、嫌だ、恐い。



幾ら警察官になって


国民の安全の為に働くと


耳にタコができるくらい


聞かされていても


こういう時、恐怖は


虫が湧くように零れ落ちる。




震える手が


スマホに伸びるのは


きっと……自分自身に


負けたくないからだ。




「も、もしもし」


いつものようにスマホアプリの


ボイスレコーダーを起動させ


通話ボタンをタップして


私は細い声を押し上げた。




ザー、ザー、という


車の転がる音に交じる息遣い。




「…………今日は元気………ない、ね……?」



ボイスチェンジャーを使った声


高音の機械音になっていてもわかる。



これは男だ。



まとわりつく様な声が耳に障った。



「……夜道は……危ない…よね、六花ちゃんは……女の子だもんね……スカートはやめた方がいいね。元気で、てきぱき仕事してる警察官の六花ちゃんは……表の顔だもんね……そんな格好していたら…悪い狼にあっという間に……食べられちゃ、うよ?だって……本当は弱くて弱くて弱くて弱くて弱くて…」



なんなの…この男


冷や汗が、ツッと背を伝う。



「い、いいかげんにしてください」


私が威勢よく声を張ると


男は一段と気疎い声をあげて


私の耳の奥に


その言葉を突き刺した。




「ああ……あああぁ、今すぐにでも、ころしたい」



「やっ……やめなさい、脅迫罪ですよ!」


理性の欠片もない。


焦燥に駆られた私の喉は


干からびて張り付き


声を金切らせた。



そんな私の戦きを


男は嘲笑う。



くすくすくす、


忍笑いが次第に大きく



ははははは


爆ぜるような音になり


私の耳を汚した。



我慢の限界だ。


慌ててスマホを切ると


私は辺りを見回しながら


足早に自宅のあるアパートに向かった。




あの男が


どこの誰なのかわからない。



でも、嫌がらせが


はじまったその頃は


勇んで駐停車違反の車を


取り締まっていた頃だった。


もしかしたら


交通法違反者の中に


男がいたのかもしれない。



現に男は


非通知で電話をかけてくる度


警察官、と執拗に言葉にした。



いつも、どこかから


不快な笑い声を響かせて


見張られている…


そんな恐怖が在った。






兄や彼は刑事課所属の警察官。



相談しようと思えば


いつでも相談出来る間柄。



だからこそ、


遠のくのかもしれない。



兄はちょっと


とぼけた刑事だし


彼は風来坊に見えて


実はとても心配性。



今は彼らは


事件を抱えている。



大きな事件に


発展しそうだと


この間、ぽつりと


兄が電話で漏らしていた。



こんなストーカーごときの事で



心配をかけるわけにはいかない。





私は警察官。



交通課だって


術科訓練は一通りやってる。



逮捕術なんか


得意だったんだから。



いざとなれば


どうにでもなる。




ストーカーなんて


やっつけてやる。



大丈夫


大丈夫



大丈夫よ




だって相手は素人だもん。





強く、心に言い聞かせる言葉は


とても頼りなく


まるでひとひらの木の葉のように


ひらひらと心の底へ積もっていく。



ふと、彼、友紀を想う。



助けて……。


呟きたかった本音は


伝えずに私は無理に笑った。




「明日は、友紀の家に押しかけちゃお」



本当は


すぐにでも会いたかった。


会って、あの力強い腕で


抱いて欲しかった。


耳元に口付けて


大丈夫だ、って


俺が守るから、って


言って欲しかった。


安心して眠れよって


穏やかな笑顔の友紀が


見たかった。



でも



「今日は、がーまん!」



態と声を弾ませて


やっと、見えたアパートへ歩を進める。




その先で見たのは


私の部屋の前に置かれた、


花束だった。




無数の白薔薇……



友紀かとも思ったけれど…


彼はこんな手の込んだサプライズを


するような人では決してないし



何よりも


その茎は全て手折られていた。




あの男かも……しれない。





べそをかきながら


家の中に入り、白薔薇の


花言葉の意味を調べて


愕然とした。




茎のついた白薔薇の花言葉は純潔




手折られてしまえば


その意味は反転し




____。




確実に、エスカレートしていく、



拭いようもない、恐怖。





「友紀……っ、お兄ちゃん……っ」





否応なく打ち付ける動悸に


私はとうとう、頭を抱え涙を零した。

ひとひら☘☽・2020-05-23
幸介
幸介による小さな物語
ForGetMe~クロとユキ~
刑事
警察
事件
未解決
ホームレス
私の本心
独り言
自傷行為
ストーカー
脅迫
好きな人
友達
腐れ縁
ポエム
辛い
恐怖
怖い

【ForGetMe~クロとユキ~第九話捜査許可】


俺たちの得た情報で

即座にDNA鑑定が成された。



その結果、六年前に


磯辺大二郎の協力を得て


採取したDNAと


河川敷で見つかったホームレスの


遺体から採取したDNAが一致した。



初見では7、80代と思ったが


被害者遺族ともなれば


心労は一入にかさむ。


苦労が身体に影響を及ぼす事は


ままある事だ。



遺体から指紋がとれなかったのも


磯辺が長年


頻繁に消毒液をつかう医療に


従事していたからだろう。








「六年前の未解決事件の被害者遺族ですよ!これは絶対何かありますって!」


「そうですよ、楠木さん。遺書もなかった、亡くなり方も不審点は否めない」



俺と杉浦が詰め寄ると


上司の楠木さんは唸る。



「言いたい事はわかる。ただ」


「ただ……なんですか」


「想像の域を出ない」


「そ、想像って……大きなヤマかもしれないのに!」


「そう、いきり立つなよ。興味深い話だが、客観性に欠けていて、上が納得するとはとても思えない」


楠木さんにそう去なされ


俺が黙り込むと


今度は杉浦が沈思して


やがて、応戦してくれた。



「では、楠木さんは磯辺大二郎が本当に自殺だとでも?」


静かに睨めつく杉浦に


楠木さんはたじろいだ。


その隙を縫って


俺は言葉をはき出す。



「そ、そうですよ!自殺は通常、躊躇い傷が出来るものですよね。しかし磯辺の手首は傷一つない状態だったでしょう、それに」


「頚部も致命傷になった創傷一つだけ」


杉浦は、俺の言葉を遮り、


楠木さんを追い詰めるように言った。


「テント内も荒らされていなかったというには無理がある状態で、不審な靴跡もあったっていうじゃないですか」


思慮深く黙すると間もなく、


俺たちを力強く見つめた、


楠木さんはこう告げた。




「わかったよ、やってみろ」



え…?


意見はしたものの


警察組織の一員である俺達に


上の決定を覆させる事は


容易い事ではない。



半ば諦めていた俺たちに


楠木さんの言葉が


微風のように通り抜けた。



杉浦と顔を見合わせると


楠木さんは厳しい口調で


言葉を繋げる。


「このままでは不十分だ。自殺として処理される迄にあと三日ある。それまでの間にこの件が六年前と繋がっているという証拠をあげろ…上への報告はそれからだ」



「は、はい…!ありがとうございますっ」


「行くぞ、クロ」


「ああ……っ!」




血肉が沸き立った。


あの凄惨な未解決事件を


覆す事が出来るかもしれない。



何より、磯辺の死と


繋がっていてほしい、と思ったのは


無念を遺したまま逝った磯辺への


せめてもの餞だと思ったのだ。





俺は勇んで、杉浦と共に


茹だるように暑い署外へと出た。



ここ数日、磯辺の親類などを


しらみ潰しに当たってみたものの


「いい人だった」


「恨まれる様な人じゃない」



皆一様に、口惜しがるだけ。



何も有力な証言には繋がらない。



このままでは


埒があかないと判断した俺達は


考え方を一度、改める事にした。



今日、向かうは、


磯辺の働いていた病院だ。







***



病院で


磯辺と交流のあった者を尋ねたところ


柏沖という医師の元へ通された。





「柏沖亮さんでお間違いないですか」


「はい、私が柏沖です」


死亡当時


61歳だった磯辺の知人にしては


柏沖は若く見える。



「失礼ですがお幾つですか」


「今年、36歳になりますが、それが何か?」


「いえ、蛇足でした、申し訳ありません」



やはり、若い。



「…亡くなられた磯辺大二郎さんとは懇意にされていたとか。今、彼が亡くなった件を調べておりまして二、三お聞きしても宜しいでしょうか」


どうぞ、と促され


用意してもらった、


カンファレンス室の


パイプ椅子へと着席した。



柏沖は


持参していたペットボトルの水で


喉を潤すと次第に語り始める。


「大二郎先生には、研修医時代からお世話になっていました……亡くなられたんですね…残念です」



柏沖は眉をひそめて


俯きながら苦笑った。


大二郎先生と


名前で呼ぶところを見ると


本当に仲が良かったと見える。



「磯辺氏のご家族が殺された事件を覚えていますか」



唐突な杉浦の眼光が光る。


「え、ええ……かなり世間も騒ぎましたし、中には大二郎先生を犯人でないかという心無い者もいて……心身共に疲れ果てたんですかね、事件から二年後に辞表だけ置いて忽然と……」


柏沖はたじろぎながらボソボソと喋り


またペットボトルに手を伸ばした。



「でも、先生はずっと悔いていましたよ」



「悔いていた、というと?」



「つまらない家憲なんかにとらわれたばっかりに、全て失った、と」


「……なるほど」



俺たち刑事の捜査が


しっかりと進んで、


犯人をあげていたら



僅かばかりといえ


磯辺の想いは


報われたかもしれない…


そう思えば


膝の上で握り締めた、


拳に力が入った。





「柏沖さん…この写真を見ていただきたい」




杉浦は、磯辺が名を語った、


四人の顔写真を胸ポケットから出すと


柏沖に広げて見せた。



しげしげと四名の写真を眺めた彼は


やがて「あ!」と、声をあげる。




「見覚え、ありますか」


「ええ、大二郎先生の患者さんです。いずれの方も胃がんだったと記憶しています」


「磯辺さんは彼らに何か特別な思い入れでもあったのでしょうか」


身を乗り出した俺が尋ねると


柏沖は天井を仰ぎながら


そうですねぇ、と前置いた。



「四人に共通して言えるのは、とても仲の良い御家族がいらっしゃったという事くらいでしょうか」


「仲のいい御家族、ですか」


「大二郎先生自身も家族を大切にする方だったので、思い入れもあったのかもしれません。事件後よく仰っていましたよ、まさか自分が遺されるとは思わなかったと。若い奥様と冴ちゃん、太平くん、大二郎先生は一番歳上でしたしね」


「そうでしたか…」


ざらついた、苦い感情だけが残る。


「ああ、そうそう。あれも事件後だったんじゃないかなぁ。生前の写真をわざわざ御家族から頂いてきたりして」



柏沖は、そう言った。





大二郎は由香らの事を


心から愛していた分


凄惨な最期を遂げた事


そして医師という


身分であるにも関わらず


救えなかった事は


耐え難い苦痛であったろう。




忘れたかったのかもしれない。



全てが嫌になったのかもしれない。




だから地位も名誉も掻き捨てて


ホームレスになり


ひっそりと暮らしていたのだろう。




それでも寂しさに耐えきれず



患者の家族に


在りし日の大二郎の家族を


重ね見たという事か。



そう考えれば


ホームレスの隣人たちに


吹聴して歩いた事にも


一定の理解は出来る。





俺達は、病院を後にした。




「クロ」



病院の玄関で


杉浦は小さく


俺の名を呟く。



「ん?なんだ、杉浦」



「……お前も気になっただろ?」


「ん?」



俺が首を捻ると杉浦は


はぁー、と大きなため息をつき


吐き捨てるように言った。




「……そういえばお前、昔から」


「なんだ?」


「いや、感じなかったならそれでいい」



いつもならどんな時でも


仕事の後の一服を欠かさない杉浦が


思慮深く黙り込んでいた。




「何か気になるのか…?」



「ああ……なあクロ」



「ん?」


「これから、もう一度行ってみないか」


「どこへだよ」


「河川敷」


「あ、ああ、それは構わないが」



俺がそう言うが早いか、


杉浦は衣擦れの音を大きく鳴らせて


あの河川敷へと向かい歩み始めた。

ひとひら☘☽・2020-05-19
幸介
幸介による小さな物語
ForGetMe~クロとユキ~
事件
刑事もの
刑事
繋がり
DNA
独り言
小説
物語
未解決
好きな人
ふとした瞬間
死にたい
ポエム
好きな人
家族
謎解き
私の本心

*ForGetMe本回は
残酷、残忍な表現があります。
自己責任でお願いします。


【ForGetMe~クロとユキ~第八話仏の過去】



津田の妻に


そそくさと頭を下げて


慌てて帰った署内の


埃っぽい資料室で


俺は杉浦と二人



当時の捜査資料を


血眼になって読み漁った。





***



六年前の


茹だるような暑い夏の事だ。



木々を揺らす暑い風。


何処ぞから鳴く、


カナカナというヒグラシの聲。



集合体となった大音量のそれは


避暑地でもなければ


煩わしいだけだ。



「今年は暑いし、別荘にでも行ってきたらどうだ?」



そう、声をあげたのは


医師、磯辺大二郎だった。



当時、大二郎は55歳。


40代の頃に死別した妻との間には


冴という25歳の娘がいた。



50歳の時に


15歳年下の由香と再婚し


4つになる太平という長男と


前妻の子の冴


四人で仲睦まじく暮らしていた。




大二郎はとても仕事真面目な男で


気がつけば


スーパードクターと呼ばれるような


胃癌治療のエキスパートになった。







事件が起きたのは8月15日



ちょうど、終戦記念日の事だ。


大二郎の祖父は


大日本帝国、海軍の


夏潮という、一等駆逐艦に


乗っていたが


スラウェシ島の沖合いで


潜水艇S-37に雷撃され大破。



雷撃された際


何人もの一等兵が


海に投げ出され


生命を落とした者もいたが


大二郎の祖父は


犠牲者の中のひとりだった。



戦中存命だった祖母も


その頃まだ乳飲み子であった、


大二郎の父も


終戦記念日には必ず


祖父の死を悼み、


家族揃って黙祷を捧げるというのが


磯辺家の習わしだったのだ。




大二郎は成人してからも


その習わしに背くこと無く


毎年、この日には


家族揃っての夕食をとり


祖父の死を悼むことが


年課となっていた。





大二郎の勧めもあって


早々と別荘へ避暑へ


行っていた由香らだったが


この日だけはと、


家憲の為、帰宅した。




大二郎が帰宅したのは


夜の二十時を回った頃。


その日は患者の容態が急変し


帰りが少し、遅くなった。




「ただいま」



いつもなら


お父さん、と駆けてくるはずの


太平の姿がない。



家の中も暗かったという。



一歩家へ踏み入れると


病院でよく嗅ぐ、


ある匂いに気が付いた。



まだ天寿を全うして


時の経たない


真新しい“死臭”だ。



途端に冷や汗が


全身から噴き出した。



得体の知れない恐怖


「ゆ、由香!冴、太平!!」



思い乱れて大二郎は


電気をつけることも忘れ


妻や子の名を


何度も呼びながら


家の中へと入っていく。





「ぎゃはははは!」








突然、笑い声が聞こえて


一瞬立ち止まり様子を窺う。



リビングのドアが開いており


チカチカと七色の光が


点滅している事が目視できた。



慎重に歩を進めると


どうやらそれは


つけっぱなしになった、


テレビのようだった。




「なんだ……テレビか」


ほっと胸を撫で下ろした瞬間



「……あ」


大二郎は気付いてしまった。



リビングでつけっぱなしになった


テレビの光に照らされて


ソファの脇から


人間のふくらはぎが見えていた。



そればかりか


照りつけられた光に


艶めいているのは


おびただしい量の


……血液ではないか。



全身をわななかせながら


大二郎がリビングへと入ると


そこには目も当てられないような


光景が、広がっていた。



「あ……ああ、あああ…」


涙が否応なくその頬を濡らす。


反射的に嗚咽が細く絞られた。





ソファやクッションは


斬りつけられ


引き出しという引き出しが


全て開けられている。



ソファの脇から見えていた、


ふくらはぎは妻の由香だった。



冴はソファの上で


仰向けに倒れている。



二人とも一糸まとわぬ姿だ。




太平の体の一部は


無惨にも切断され


ダイニングテーブルに


ちょこんと置かれており


他は庭に捨てられていた。



大二郎は警察と


救急に電話をかけながら


奇跡的にまだ息のあった


冴の応急処置を試みたが


やがて、


「お…とう、さん…さむ、い」


と言い残し


大二郎の腕の中で息を引き取った。



その際、冴は


サカナツリ


と、謎の言葉を遺す。




警察が到着した時


三人の血に塗れた大二郎は


抜け殻の様だったという。




検死の結果


死亡推定時刻は


午前四時から七時の間。



夕方の犯行であったにも関わらず


目撃者はいない。



由香と冴は


亡くなってから


いたずらされた形跡が


見られる。



凶器は


見つかっていないが


どうやら刃渡り32センチの



鋭利な刃物のようだ。





太平の切断にも


同じ刃物を使ったと見られる。



終いは刃物が


切れなくなっていたのだろう。


断面は叩き斬られており


引きちぎる様だったという。



金銭や


由香と冴の宝石類の他に


大二郎の服が


一式無くなっていたこと


風呂場にも血痕があった事等から


犯人は三人を亡き者にし


処理を終えたあと


悠々と風呂に入り


大二郎の服に着替えたのだろう。


しかし、着替えた服は


その後の捜査でも


見つからなかった。



本件は


家族が別荘に行っている事や


更には大二郎の不在を知る者の


物取りの犯行と見られた。



指紋はなし。



ただし


手袋痕に残された繊維と


冴の体内から


犯人と思しき体液が採取され


これらは同一人物のものであり


足跡からも犯人は単独と思われる。



当初、顔見知りを疑い


大二郎の周辺を徹底的に洗ったが


何も出る事はなかった。





ざらついた感情だけが



残る事件だった__。





***




未だ犯人は見つからない。


俺は、唇を噛んだ。



「なあ、杉浦…」


「ああ……繋がっているな」


「お前もそう思うか?」


「当たり前だろ」



俺達は、拳を握り締めた。


静寂が俺達を包み込む。



こんな凄惨な事件の犯人すら


捕まえられない俺達刑事は


クソだ。



無力感が襲う。



ふいに、杉浦が呟く。



「クロ、大二郎の…血縁者を当たるぞ」


「あ、ああ」


「絶対、逃がさねえ」


杉浦から

ギリッと奥歯を噛み締める音が

聞こえた気がした。



こいつもやっぱり、


刑事だなぁ…


そんな事を感じて


不謹慎にも俺は


僅かな喜びを感じていた。

ひとひら☘☽・2020-05-12
幸介
幸介による小さな物語
ForGetMe~クロとユキ~
刑事
警察
家族
事件
未解決事件
未解決
独り言
残忍
終戦記念日
解明
繋がる点
テレビ
友人
腐れ縁
友達
ふとした瞬間
あなたは知らない私の気持ち
ポエム
小説
ポエム
好きな人

これらの作品は
アプリ『NOTE15』で作られました。

他に8作品あります

アプリでもっとみる

【ForGetMe~クロとユキ~第十話疑惑の一致】



ササササ……ッ


風が走る。


生温かな風は


肌に吸い付くようで


心地が悪かった。




杉浦は、堤防から


磯辺のテントを見下げる。



何かを沈思する様な面持ちの杉浦に倣い


俺も磯辺のテントをぼうっと眺めた。



未だ張られた規制線が生々しい。




「クロ、行くぞ」



突然そう言ったかと思うと


風のように走り出した杉浦に


俺は声を投げかけた。




「あ、おい、杉浦待て」


「どんくせぇな、早く来いよ」


「お、お前がいつも勝手なんだからな!」


「あーそうかい」



薄ら笑った杉浦は



どうした事か


磯辺のテントを


横目に通り抜けると


仏の名がレフト社長の


「瀬崎大造」と言った、



スルメを噛んでいたおっさん


もとい、じいさんのところへ


一直線に向かっていく。



一体……何を考えているんだ。


杉浦の頭の中が、わからない。




「よう、じいさん、元気かい?」



杉浦の呼び掛けで


テントの奥から


這い出してきた男は


やはりスルメを噛んで


俺たちを凝視した。



「ああ、なんだ…刑事さんらかい……確か、黒須さんと、杉浦さんだ」


「その通り、よく覚えていたな」


男がへらぁっと笑うと


テントの中を指差した。



覗き込むように視線をやれば


あの日の聴き込みで渡した、


黒須世名の名刺と


杉浦友紀の名刺が


無造作に貼られていた。





「じいさん、そこのテントの大造さんなぁ」


「……犯人でもわかったかい」


「いや、名前がな大造さんじゃなかったよ」


「……そうかい」


僅かな間が


胸を叩く。



なんだ、この違和感。


俺は顎を撫でて黙り込んだ。



「なあ、じいさん」


「なんだい」


「じいさんの名前、なんて言うんだっけな」



確か初日に名前を聞いた時は

はきはきと

シカ ノブオ
志賀喜夫と語った。



しかし、男は


くちゃくちゃと


不愉快な音をさせながら


スルメを噛みつつ、


ずいぶんと時間を稼ぐ。




「………志賀……喜夫」


眉が動く。


眉間には皺が蓄えられた。



ずいぶんと弱々しい声で


自信なさげに呟いた名。



生まれた時から


ずっと付き合い続けている、


言わば相棒のような氏名。


尋ねられた時


こうも、悩んで口にするだろうか。



その名が嘘だとしたら?



何故、嘘をつく?



俺達が警察だから


警戒しているのか?




もしそうだとしても


警察に虚偽の報告をするという事は


疑われて然りだろう。



俺がその穴を突こうと


口を開いた時だ。



杉浦が後ろから俺のケツを蹴り飛ばす。




反動でテントの中に飛んだ俺は



事もあろうにスルメ男の土手っ腹に


頭を突っ込む形になってしまった。




「な、何すん……!!」



杉浦を振り返り文句のひとつも言おうと



息を吸い込んだその時、



ある匂いに気が付いた。






魚の臭い……?






杉浦は何も言うな、と



言わんばかりに目を伏せ


男に言葉を投げかけた。



「なあ、じいさん」


「ん?なんだい」


「じいさんは何でホームレスなんか始めたんだ?」


「……事業に失敗してね」


「どんな事業だ?」


「……もうずいぶん昔の事さ。忘れたねぇ」


「へえ……そうかい。でも、おかしいな」


「え?」



舐めるように睨めく杉浦は



言葉を繋ぐ。



「このテントにゃ、真新しい生活必需品がたくさんだ。それに……このスルメイカ」



そう告げると杉浦は


男が噛んでいたものを取り上げ、



事もあろうにその歯で


噛みかけのスルメを噛みちぎる。



「何気に珍味って高い、よなぁ?それがほら、あんなに積み上がってら。あれは一体、いくら分だ?そんなに好きかい?」



杉浦の指先を辿れば


確かにテント内の端に


堆く積まれたスルメイカの


袋が窺える。



男を覗き込み


意味深に告げた杉浦の言葉は


男の目をまるで


魚のように泳がせた。



しどろもどろに


途切らせながら


男は言い訳がましく言葉をはく。




「市の……ボランティア団体の情けもあるし、ごみ捨て場漁ったらお宝も結構、あるもんだ。それに、微々たるもんだが収入だってあるんだよ。その金をそいつに使ったって、いい、だろ?」


「へえ、そうかい」



杉浦はそう言い


ゆっくりと立ち上がった。




そして踵を返すと


後ろ手に手を振る。




「まーた来るわ、じーさん」



わざとらしく、


軽快にステップを踏んで


遠ざかる杉浦を


何も言葉を発せぬまま


必死に追いかける。



その時、ふと振り返った男の顔は


絶望にも似た色を蓄えていた。




「す、杉浦…」


名を呼んだ杉浦の顔は


何時になく怒りに満ちている。



「なんだよ」


「ど、どういう事か説明しろよ」


「あー?自分で考えろバーカ」


「悪かったな、考えの及ばない馬鹿で」



唇を尖らせて


自分の至らぬ点を認めれば


嘲る様に鼻で笑った杉浦は


こう、告げた。



「あのじいさん、事業に失敗したなんて嘘だ」


「う、嘘?」


「何らかの理由であそこに住んでる。大方、誰かからの援助を受けてな」


「え、援助……」


「何を根拠に…っ」


杉浦の後を追いつつ、


言葉少なに疑問をぶつける。



杉浦は呆れた様なため息をつき


俺に教えてくれた。




「テントの中にな、あったんだよ」


「あった…?何が」


「郵便物さ」


「ゆ、郵便だと?」


「さあ、住所も持たないじいさんがどうやって郵便物を受け取るんだろうな」


「宛名は……なんて」







核心を急くと


杉浦は勿体ぶった笑いをひとつ作って



こう、言った。




カシオキマモル
「柏沖 衛様」



「か、柏沖!?」



「あのじいさん、恐らく柏沖の親父だよ」



言葉を失った俺のこめかみから


ツツッ、と汗が伝ったが




磯辺の教え子とも言える柏沖亮と


ホームレスとなった磯辺の隣人が親子。




偶然とするには


出来すぎた事象。


高まる期待に心臓は脈動を打った。




杉浦は珍しく自分の手帳を開くと


何やらボールペンで文字を書き始める。


覗くように凝視すると


杉浦のもつペンの先は



【柏沖】カシオキと共に


【志賀 喜夫】と


男が語った名前を書き出した。



「なんだ?」



「まだ気付かないのかよ、相当の馬鹿だな」



杉浦は俺の頭を


ボールペンで弾くと


再び手帳に書き込んでいく。



「しか のぶお。喜の字を音読みに直して入れ替えると」


「かし、おき……」


「一度目は忘れないようにそうやって自分の名前と関連付けた偽名を俺たちに語ったんだろうが、二度目は戸惑いが生じたな。ざまあみろ」


杉浦は皮肉って笑う。



こいつ、ここまでの推理を


あの短時間滞在しただけの


じいさんのところで……


いや、違うな


きっともっと前からだ。



「杉浦……お前、亮のところを出た時点で、あのじいさんと亮が繋がっていると睨んでいただろ」


「ああ、確信は持てなかったがな」


「一体どうして」


俺が首を捻って尋ねると


杉浦はこう言った。



「匂い、だよ」


「あ…そういえば、じいさんから魚の匂いが」


「お前は昔から鼻炎だからな。近づかないと気付かなかったろうが、あれと同じ匂いが柏沖亮のところでもした」


「亮のところでも?……なんでだ」


「それは知らんな」


「なんだ、知らねえのかよ!」



杉浦はあっけらかんと


そう言うと笑みを蓄えて


後頭部で手を組み空を見上げる。



「でも、ようやく見えた、手がかりだ。逃さねえ」


「早速、上に報告だな」


「おー」




漆黒に染まる空を仰いで


俺たちは淡い期待に肩を組んだ。

ひとひら☘☽・2020-05-22
幸介
幸介による小さな物語
ForGetMe~クロとユキ~
刑事
警察
事件
未解決
ホームレス
私の本心
独り言
自傷行為
好きな人
友達
腐れ縁
病み
ポエム
辛い

「相談してね」って言ったって

どうせ解決出来ないんでしょ?

“やめて”とか“死なないで”ってしか

言えないでしょ?

・2020-05-31
未解決
どうせ無理
非協力的

結局なにも解決していないことに
 君は気づいてはいない。

流星・2018-07-17
未解決



幸せなんだけどね。


不意に、

この幸せが

壊れる時を考えたら

きっと私泣いてしまう。


どうしようもないよ。

-儚-・10時間前
未解決
幸せ

『常識』
『普通』
『当たり前』

これって、
いったい誰が決めたんですか?

みやちゃん♪・2018-03-20
疑問
不思議
未解決

他に8作品あります

アプリでもっとみる

その他のポエム

独り言
952360件

自己紹介
85108件

花に浮かれて
679件

ピンクムーン
1189件

ポエム
507571件

433014件

好きな人
298665件

トーク募集
74369件

辛い
167894件

苦しい
53508件

死にたい
87636件

恋愛
184368件

片想い
217512件

先生
105635件

片思い
176055件

失恋
101484件

好き
192516件

31352件

別れ
19128件

会いたい
43601件

ありがとう
56990件

すべてのタグ