#糸電話で掛ける未来の自分へ

〝糸電話で掛ける未来の自分へ〟

ある日､引越し作業中に糸電話を見つけた｡
ほぼ当時のままで綺麗に保存されていたようだ｡
この糸電話は､誰かと話すのではなく､未来の自分に電話したいと電話だ｡
学年が上がるのが怖く､未来の自分だったらどうするのだろうと電話をかけたのだった｡
確か内容は…


｢あー、あー、｣
｢聞こえてるかな…｣
｢何年後かの自分へ､言葉を送ります｣

｢好きな人はできましたか？良ければどんな人かも教えてください｣

｢どんなことをしていますか？仕事でもなんでも教えてください｣

｢上手くやれていますか？自分を押し殺していませんか？｣

｢毎日は楽しいですか？泣く我慢とかしてませんか？｣

｢辛くなったら､また聞きに来てね｣

｢では、また｣


その時の自分の声のトーンや表情を思い出すと､涙が溢れてきた｡
ボロボロと大粒の涙が頬を伝う｡
過去の自分へ届くように､質問に答えていく｡


｢何年か前の自分へ､少し答えてみようかな｣

｢好きな人はできたけど､すぐ終わりが来たよ｡昔想像してた性格の人だよ､多分君も好きになるんじゃないかな｡｣

｢夢見ていた仕事には就けていないけど､人間関係も上手く行ってるし､そこそこいいんじゃないかな｡｣

｢上手くやれているとは思ってる｡…自分の意見､昔はいえなかったけど､今は言えるよ｡自分の思いを人に上手く言えるよ｡でもたまに､通じないこともあるから､また練習しないと｣

｢毎日楽しい､とは言いきれないけど､前よりはマシかな｡人前では泣かないけど､ストレス溜まったら泣くようにはしてる｡もう義務になっちゃったかな､なんて…｣

｢届いてるよ､ありがとう｣

｢またね｣


糸電話を仕舞い､少し晴れた心持ちで外に出る｡
太陽が､世界が､笑いかけてくれた気がした｡