魄・2021-10-01
短編小説
創作
終焉の子守唄
「ねえ君、君はさ。
過去か未来、どっちかに行けるとしたら
どっちに行きたい?」
「過去、かなあ」
「どうして?」
「未来なんて知りたくない。
知らなくていいと思うんだ」
「意外と単純なんだね」
「そう言う君は?」
「__内緒」
「教えてくれてもいいじゃないか」
「仕方ないな。
僕も君と同じで行けることなら
過去に行きたい」
「理由は、あるの?」
「後悔を、消してあげたい」
「__そっか。」
「いつかそれが叶ったら
僕の後悔も消してね」
夢をみました
彼此数ヶ月ぶりの夢を
晴天の蒼空の下
僕はたった一人の
女性に出逢いました
まわりに咲き乱れる花々が
いっそう彼女を
綺麗に引き立たせているようでした
風に靡く焦げ茶の髪は
美しい、と言うべきでしょうか
僕の初恋は
まるで一目惚れでした
左手に白紙
右手にナイフ
窓から射し込む光は
辺りを淡く照らす
今日は何を描こうか
赤く埋めつくした薔薇園か
望月を見上げる僕自身か
今日も今日とて
青く滲んだ穹は美しいけれど
未だ僕の手には届かない
堕落した人生.
僕の人生にそう名付けるのには
まだ少し早い気がした
零れ落ちた愛情
崩れ散った友情
偽りと虚構が染みついた僕は
感情を殺めた
幸せを知る前に
僕は、いかなければいけない
ひとつ、またひとつと
頬を伝う銀白色の流星
僕が墜とした流星は
僕自身の
あるいは僕以外の誰かの
幸を願っていた
もう声は届かないから
こうして僕は唄ってる
世界は美しいと
君は言う
この世界を愛していると
あの日、君は僕に告げた
余程君が綺麗すぎて
流れだした砂時計は
君だけを置き去りにした
午前零時
スマホ片手に
夜の中へ踏み出した
空っぽの空間
僕は黒に溶け込んだ
「一体何の用だい?」
僕は問う
きっと君なら
僕が此処に来た理由も
君が此処にいる理由も
知っている
月明かりが僕等を照らす頃
君は口を開く
唯、声色が僕だけには届かなくて
僕の目に映る君は
静かに泣いていた
酔いに浸る
冷たいものに触れた
指先にのる一葉の雫
白丁花の香りが僕の鼻を擽った