小説書いてみました。
コメントは(ギリ)OKですが、誹謗中傷等は受け付けておりません。
読みたい方だけどうぞ。
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いつものサッカーの練習が終わった後、僕と篤希は夕日が照らす道路を2人並んで歩いていた。
「そういえばさ、颯汰って今年の体力テスト、50m走何秒だった?」
と篤希が僕に聞く。
「7秒3だった。」
「うわ!負けた!僕、7秒6だったんだけど!」
「速いじゃん。てか、そんな〝負けた〟とか言っても0.3秒しか変わらないじゃん。」
そう言って僕は篤希を励ます。
「颯汰、そんなこと言ったら監督に『試合で0.3秒速く動いただけで、其が勝利に繋がることもある。』みたいなこと言われるって。」
と篤希は最もなことを言う。
(そうか...0.3秒ってすごく短いけど、それだけ貴重なんだな。僕も、あと0.3秒速ければ、7秒ぴったりだったんだ。)
この時、僕は初めて、〝0.3秒〟という刹那の大切さを知った。
□■ ■□ □■
数日後ーーー。
この日は、サッカーの試合でサッカー専用スタジアムに来ている。
バスで来る途中に、フォーメーションの確認や、アディショナルタイムの選手交代の把握をして来た。
あと、1時間後。
あと、1時間後に、試合が始まる。
そう思うと、試合に出られる喜びや、緊張などの色々な気持ちが混ざりあって、少し気分が悪くなった。
とりあえず、気持ちを落ち着かせようと、篤希に話しかける。
「...篤希。」
そう言うと同時に彼の背中に両手をあてる。
こうすると、少し安心するのだ。
さっき、普通に話しかけたつもりが、緊張からか、微妙に声が震えてしまった。
「どうしたの?颯汰。声、震えてるよ。」
篤希は勘が鋭く、変化にすぐ気付くため、一発でそれに気付かれた。
「うん。ちょっと緊張してて。」
そう言うと、篤希は僕の背中を2、3回さすると、
「大丈夫。いつも通りでいいよ。」
と言ってくれた。
「あぁ。」
□■ ■□ □■
試合開始1分前ーーー。
僕は今、猛烈な緊張に襲われている。
手汗がひどいし、足は、左足を曲げないと立っていられない。
冷や汗がこめかみをつたる。
心臓が体内で暴れ回り、恐らく隣にいる篤希に心音が聞こえているだろう。
あと30秒。
胸が締め付けられるように苦しい。
篤希の手が僕の背中に触れる。
「大丈夫...。」
と篤希が小声で言った。
そして、笛が鳴り、試合が始まった。
一つのボールだけを見て、走る。
その時、篤希が一瞬僕を見て、「いくよ」と目で言った後、僕にパスをくれた。
でも、緊張からか、すぐに相手にボールを取られてしまった。
一歩先をいかれる。まさに、そんな感覚だった。
---------「颯汰、何食べた?また、上手くなってんじゃん!」
「何も食べてないよ。てか、何か食べて上手くなるくらいなら、練習しないって。」
「そりゃそうか。」---------
篤希、僕には、まだまだ課題はたくさんあるし、もっと練習しないとって思うよ。
お前からのボールをしっかり受け取れないなら、僕にはこのコートに立つ資格はない。
そんなことを考えているうちに、前半戦終了の笛がコートに鳴り響いた。
前半戦は、1-1で引き分けだった。
もし、篤希からのボールを必死で守っていれば、一点取れていたのかもしれないと考えると、責任の重さが僕の胸を締め付けた。
ベンチに座って、ポ○リを飲んでいると、篤希が僕の左隣に座った。
そして、
「颯汰はこの試合勝ちたい?」
と聞いてきた。
「何言ったんの。当たり前じゃん。勝ちたいに決まってる。」
とタオルを頭に被りながら言った。
「〝勝ちたい〟んじゃなくて、〝勝つ〟んだよ。」
と篤希が僕の目をまっすぐに見つめて言った。
「でも、勝負はまだ----。」
「颯汰、何であの時、僕のパスを相手にボールを取られたの?」
思わず黙ってしまった。
何と言って良いのか分からなかった。
「そ...それは、緊張してて...。」
となんとか話をつなげた。
すると、篤希から思いがけない言葉が返ってきた。
「相手はいるんだけど、〝敵〟ってやっぱり自分自身なんだよね。僕、いつもの颯汰ならあのボール敵から奪い返せてたと思う。でも、颯汰は諦めた。違う?..........颯汰の友達から聞いたけどさ、体育でシャトルランの練習した時、本当はもっと走れたけど、苦しかったから、途中でやめたって。だからさ、諦める理由を探すんじゃなくて、諦めない理由を探してみたら?そしたらさ、〝勝ちたい〟が〝勝つ〟に変わるかもよ。後半戦、絶対に諦めないで。あと、ーーーーーーーー。」
そう言って僕の方をトン、と叩いて立ち上がった。
その言葉は、僕の心臓に突き刺さった。
今まで、つかなかった電球がピカッと光ってついた。
そんな感じがした。
「...。分かった。」
そう言って、僕はコートに向かって歩き出した。
後半戦開始ーーー。
僕は篤希からのパスを素早く受け取り、敵を掻い潜ってシュートを決めた。
その瞬間、前半戦の悔いや緊張、全てが吹き飛んだ。
後半戦終了のホイッスルの音が、コート全体にこだまする。
シュートが決まったのが嬉しくて、篤希とハイタッチをして笑い合った。
試合は、1-2で僕たちのチームが勝利を飾った。
■□
「篤希、ありがとう。僕、篤希があのことを言ってくれたから、諦めなかったし、またお前のパスを受け取れたよ。本当にありがとう。」
シュートを決められたことの喜びで、心はすっかり晴れやかになっていた。
「僕は、何もしてないよ。..........ごめん。颯汰。さっきはちょっと言い過ぎた。〝諦めてる〟なんて言ったけど、颯汰なりに頑張ってたのに...。」
「全然。気にしてないよ。篤希が言ったことは事実だし、〝0.3秒〟本当に短いけど、僕が後半戦で0.3秒遅れてたら、シュートを決められなかったかもしれない。.......やっぱり僕たち、二人で最強だね。」
「それな。」
ーーー『後半戦、絶対に諦めないで。あと〝0.3秒〟だよ。頑張ってね。』ーーー
ふと空を見上げると、僕らの心を映し出しているかのような、澄みきった青空が広がっていた。
【完】