ぎゅっと結んで蝶々結び
“結んで。”
僕の目の前に白く綺麗な足を何の躊躇いもなく出したのは僕の彼女。
クラス1人気のある彼女は何故かなんの取り柄もない僕と付き合っている。
容姿、性格ともに綺麗で可愛い。
少し短気で甘えんぼだけどそれすら彼女の長所に思える僕は彼女に甘い。
今日も自分で結べるくせに解けた靴紐を僕に結ばせる。
これはもう僕らの日課のようになっていた。
彼女は当たり前のように僕の前に足をさし出す。
僕は当たり前のように跪いて彼女の足に手を伸ばす。
彼女の白い靴紐を両手に持つ。
両方の紐に輪っかを作って、その2つの輪っかを固結びする。
彼女はその動作を見つめる。
僕がもう片足をしようとしている時、いつも黙っている彼女が口を開いた。
“私、かっくんの結び方好き。”
“結び方に違いなんてあるの?”
斜め上の告白に思わず顔を上げる。
彼女の短いスカートの中が見えそうになって慌てて靴紐に目線を落とす。
彼女はクスッと笑うと、跪いて僕の靴紐をスっと解いた。
“普通は輪っかを1個作って、その輪っかにもう片方の紐を巻き付けて、その間に紐を通すんだよ。”
説明しながらテンプレの結び方をササッとする。
この結び方は幼き僕が大苦戦の結果、出来なかった結び方だ。
それからは1度もやらなかったからすっかり忘れていた。
“でも、私はかっくんの結び方が好き。”
彼女は僕にテンプレの結び方を見せつけときながら斜め上の告白をもう一度する。
“なんで?”
正直、僕の結び方は時間がかかるし、スマートじゃない。
彼女はまた僕の靴紐を解いた。
そして両方の紐に輪っかを作った。
“こっちはかっくんで、こっちは私。”
そう言って、少し大きい輪っかを僕、小さい輪っかを彼女と名ずけた。
“かっくんの結び方って2人でハグしてるみたいでしょ。”
そう言って大きい輪っかを小さい輪っかの方に回して、ぎゅっと固く結んだ。
彼女の細長い指に絡まりながら結ばれていく白い靴紐を僕はぼんやり眺めた。
出来た蝶蝶結びは綺麗で固く結ばれていた。
“確かにそうだね。”
少し照れくさくなって顔を隠した。
“かっくん。”
彼女は両手を目一杯広げて、僕を呼んだ。
僕は彼女に答えるようにゆっくり彼女を抱きしめた。
彼女も嬉しそうに手を僕の背中に回した。
“これからもいっぱい抱きしめてね。”
“うん。”
この蝶々結びのように、何度も。