はじめる

#GID

読んでると、
思わず胸がギュッとしめつけられる、
そんなポエムを集めました。

全21作品・

【性と言う名の鳥籠】

あかね編番外~デート





大人な内容が含まれます
閲覧にはご注意下さい。














俺、永倉あかねは


正真正銘、男だ。


ただ、どういったわけか


体と心がちぐはぐに生まれてきた。


俗に言うトランスセクシュアル。


FTMである。





今日は日曜日。


少し遠出をして


東京までいこうと


約束している。





早めに起きて朝食をとったら


サラシ布で胸をつぶす。


高校に入った年のお祝いに

じいちゃんから買ってもらった、


筋トレ用のポールに


サラシの片方を巻き付けて


ぎゅーっと力任せに締めあげていく。



元々あるものを


潰す痛みというものは


並大抵じゃないけれど


年齢制限の為に手術や薬が飲めない今



俺に出来る一番手軽な…


男の体になる方法だ。


その為なら


こんな痛み屁でもない。





真っ平らな胸が出来上がったら


ようやく、洋服選び。



ラフな格好に


装飾品で色を付けてみる。



黒Tに、Gパン

チェーンで

スティングレイの財布を固定する。


ちょっと格好つけて


シルバーのゴツゴツしたリングと


羽根の形のチャームのついた、


チョーカーを下げてみた。




鏡に姿を映してみる。


概ね合格点。


髭でもあったら満点なんだけどなあ。



「ま、しゃあないよなあ」


持って生まれた体が資本だ。


今、無理なものは無理。


俺は、割り切って


待ち合わせ場所へと急いだ。




今日は10回目のデート。


付き合い始めて3ヶ月が過ぎた。



待ち合わせ場所に着くと


俺のアンテナが反応する。




この間ヘアカタログを見ていて


ウェブのかかった髪型が


結奈に似合いそうだねと話した。



早起きしてヘアアイロンでも

当てて来てくれたんだろう。


ストレートな結奈の髪の毛は


軽やかなウェーブがかかっている。



黒いドルマンスリーブに


ジーンズ生地のホットパンツ。


白のスニーカー。



やっべ、すっげえ可愛い。



結奈に見とれていると


俺に気がついて駆け出してきた。



運動嫌いな彼女が


俺を見つけて胸を揺らしながら


走ってきてくれる…



その幸せったらない。





「あーくん、今日もかっこいい♪」


デートの時だけの限定呼び名。


普段あかねと呼んでいる結奈が


俺をあーくんと呼んでくれると


不思議と、自信が湧いてくる。



「結奈こそ、髪、可愛い」



えへへ、と笑った結奈は


俺の腕に縋り


ぴったりと寄り添って


歩をすすめた。



するとすぐに


至るところから


奇異なる視線を感じる。




どんなに結奈が


かっこいいと言ってくれたって


俺は所詮、女でしかない。


女同士がベタベタする事を

特殊な目で見る人たちもいる。



どんなに背伸びしたって低身長。


結奈もヒールの高い靴を


選びたい事もあるだろうに


いつもスニーカーなのは


俺がいつも身長を


気にしているからだ。



どんなに潰したって


サラシが緩めば胸だって


ふっくらとしてくる。




だけど、結奈と付き合い始めてから


俺はだいぶそういう事を


気にかけなくなった。



トランスセクシュアルを


よく思わない人達に


苦しみを覚えるんじゃなくて


まあいいか、


そう軽く考えることで


許せるようになったんだ。



俺は結奈の手を強く握り締め


「結奈、いこっか」


「うん!」


駅の改札を通り、電車に乗り込んだ。



電車はガラガラ。


俺たちが乗った三両目の車両には


ひとっこひとり居なかった。


それをいい事に結奈は俺に


ちょっかいを出してくる。



繋いでいた手。


指先が腿の上をなぞる。


背中が快感に震えた。


こんなところで


発情するわけにはいかない。



「こら」


「えーだめぇ?」


「だめ」


「えー、なんでぇ」


「公衆の面前だから」


「誰もいないよ?」


「誰か来るような場所ではだめってこと」


「……2人の時だってあーくん嫌がるじゃん…」


太腿にあった結奈の手が力なく、


電車のソファに落ちる。



横目に結奈を見ると、


今にも泣き出しそうだ。



こんな時、どうしたらいいんだろう。


試行錯誤を繰り返す。


俺は結奈の頭をぽんぽんと撫でた。



「あーくん…」


「ん?」


「私、平気だよ、色々してもいいよ?だからずっと好きでいて?」



俺が結奈に容易に手を出さないのは


俺自身が


女の体だってことも大きいけれど


結奈のこの考え方が一番の理由だ。



結奈は


体目当ての男とばかり


付き合ってきた。


「やらせてくれない女とは付き合わない」


とか


「太ったらソッコーで別れるからな」


とか


そんな勝手な男とばかり

一緒にいたからなんだろう


結奈は異常なほど


太ることを嫌うし


自分から身体を


開こうと躍起になる。



そうしないと


愛されないと思い込んでるんだ。



「そんなことしなくても俺はずっと結奈の側にいるよ」


「うそ、だってあーくん、男の子でしょ。男の子はそういうものなんだよ」


「あー…俺は違うんだけどなぁ」


困り果てて、頭をかく。


こんな時、都合よく

女だからわかんないなーと

笑ってやれるメンタルが欲しい。



落ち込んだ結奈は


東京に着いても、


なんだか調子があがらない。



電車からずっと


手のひらも離れっぱなしだ。



ずっと仲良くやってきたのに


なんだか気まずい。



必死に我慢して


結奈を大事にしたいのに


これじゃあ何にも意味が無い。


俺は結奈の手をとると


乱暴に引っ張った。



「ホテル、行くぞ」


「え…、う、うん」



幸い、家から離れてる


ここは東京だ。


知った顔もいない。


繁華街の路地裏


勢いづけて俺は結奈と


小さなホテルに入った。



煌々と光る、電光板。


部屋の自動販売機みたいだ。


どうしていいのかわからずに


備え付けの電話機に手を伸ばすと


受話器をとる前に結奈が


「ここがいいな」とボタンを押した。



彼女という存在もはじめてなら


キスだってまだ初心者


こういう場所も初体験。


スマートに操作する結奈を見ると


過去の男にひどく嫉妬した。



ピカピカと


部屋を知らせるライトが点灯する。


結奈は吸い込まれるように


部屋の中へと入り、俺も後を追った。




「ね、お風呂一緒にはいろ」


「え!?俺は…いいよ」


「やだっ、あーくんと一緒がいい」


結奈はそう言うと


俺の手を勢いよく引っ張って


脱衣所へと歩んだ。



恥ずかしげもなく

脱ぎ捨てられていく結奈の服。



顕になる結奈の肌が


俺の視界をチカチカさせた。



「…トイレ行ってから風呂行くから結奈はこれ風呂に入れて入ってて」

「うん!」


サラシをとる姿なんて


見せたくなかった俺は


そう言い残すと結奈に


備え付けの入浴剤を渡して


トイレに入った。



身体を見られたくない、


その為の苦肉の策だ。



トイレに入ると息をひそめて


結奈の気配を察し


風呂の湯が勢いよく


漏れる音を聞いてから


俺はもう一度脱衣所へと戻る。




「結奈ぁ」


「んー?」


「そっち向いててくれる?」


「えーなんでぇ?」


「恥ずかしいから」



そう言うと


結奈はずいぶん不満そうな


「わかった」を響かせた。



結奈が向こうを

向いていることを確認したあと


俺は女々しくタオルを胸から下まで掛けて


結奈の待つ、風呂に入った。



同じ湯に触れると考えただけで


頭が爆発しそうだ。


そんな俺の事などお構い無しで


結奈は嬉しそうに笑いながら


背中を俺の腕の中に預けた。


触れる肌に


心臓は苦しいほど高鳴る。



「あーくんとはじめてのお風呂だぁ」


俺から取り返したタオルに


空気を含ませぶくぶくと遊びながら


結奈はそんな可愛い事をぽつんと囁く。


「そうだね」


何食わぬ顔で俺はそう返したけれど


本当は愛しさが沸騰していた。




「ね、あーくん抱き締めて?」


「……ん」


俺は風呂の縁にかけていた腕を下ろし


にごり湯の中にいる結奈を


ぎゅっと抱き締める。



体温ごとひとつになったようで


深く感じ合う。


柔らかい肌に


心が埋もれていくようで


とても幸せな時間だ。





体の芯から結奈を感じた。




本当は今すぐ


結奈をどうにかしてしまいたい。



結奈もそれを望んでいるんだろう。



でも、ここで欲望のまま


結奈と身体を合わせたら


結奈は一生


身体を重ね合わさなきゃ


愛されないと思ってしまう。




「結奈…」


「んぅー?」


「ん」


結奈の唇にキスをくれてやる。


啄むように繰り返す。


唇を小さく吸う度に


心臓が跳ね上がった。


結奈は

時折、熱い息を吐き出した。



何度も結奈に口付けたあと


俺はとてつもない衝動を抑え、


結奈にこう切り出した。



「やっぱり今日は、やめようよ」


「え、なんで?私、何か失敗した!?」


ほら、すぐに自分のせいだ。


嫌われたくない一心で


結奈は全て自分のせいにする。



俺は、笑って首を振った。


「結奈のせいじゃないよ」


「だったらどうして…?」


「俺は…結奈と今を楽しみたい」


「んん??」


「結奈をもっと大事にしたい」


「うん…」


不安を感じたのか浮かない顔の結奈に


俺は結奈を抱き直して言葉を嗣いだ。



「もちろん…したいんだよ。結奈は、すっごい可愛いし魅力的だもん。でもする前に、俺達にはまだ出来ることがあると思うんだ」


「…たとえば?」


「んー、とりあえず今日は渋谷探索」



結奈は俺の返答に


噴き出して笑った。


ひとしきり、笑ったあとで


「仕方ないよ、いいよ」と言う。



その表情はいつもの結奈だ。


よかった…、俺は胸を撫で下ろした。




「あ、でも待って」



そう叫んだ結奈は


俺の耳元にこう囁く。




「ね、渋谷探索…もっとちゅーしてからでもいい?」



ドキン、また心臓跳ねる。



あー、何もしないとか


早まったかなあ。



この可愛いお姫様に


いたずらしてやれ



なんて、いじわるな俺が


心の影から顔をのぞかせた。



強いジレンマの中で


「ほんっと可愛い」


結奈をぎゅっと抱き締めて


俺は彼女が満足するまで


キスを繰り返したのだった。





性と言う名の鳥籠
あかね編・おしまい♪

ひとひら☘☽・2020-02-06
幸介
幸介による小さな物語
幸介/性と言う名の鳥籠
キス
ホテル
デート
トランスセクシュアル
FTM
性同一性障害
乗り越える
後日談
GID
体目当て
自信
女同士
小説
物語
愛すこと
いたずら
独り言
ポエム
未来の恋の行方

性と言う名の鳥籠
~虎太郎編①~虎太郎目線



心の中は女の子なのに



身体は男の子だった。





女の子のスカートが羨ましかった。


女の子のポーチが欲しかった。


女の子色のランドセルを背負いたくて泣いた。


男の子と野原を駆け回るよりも


女の子とお人形さん遊びがしたかった。



サンタクロースにお願いしても


私の枕元にはグローブが置かれていた。



好きな人はずっと


幼なじみの「紗季くん」だった。





私は私だったはずなのに



いつの間にか着なさいと押し付けられた、



男の子の鎧をかぶるようになった。



私は私だったはずなのに



いつの日か間違った常識が当たり前になって



「俺」…そんな一人称を使うようになった。



きっと、ずっと、素直になれない。



そんな星のもとに私は生まれたんだろう。



死ぬまで偽り続けて



生きていくんだろう。



そう、思っていた。




ある日、高校に入ってから



友達になったあかねが



思い詰めたように私の名を口にした。




「ねえ、虎太郎」



「うん、なに」



「あたしさ、変かも」



「何がぁ?」


「……女の子にドキドキするんだ」



ドキンと心臓が跳ねた。


「そなの?」


平常を装いながら


あかねの話に耳を傾ける。



「ずっと怖かったんだよ」


「うん」


「あたし本当は男なんじゃないかって」


「うん」


「ずっと羨ましかったんだよ」


「うん」


「立ちションがしてみたかったんだ」


「うん」


あかねの中で


それは確信めいたものなんだろう。



あかねは小さくまるまって


大きくため息をつきつつ、言った。



「こんな事、ママには絶対言えない…」


私だって、言えないよ。


「泣くのがわかっているから」



つい、声に出た言葉が


あかねの呟いた言葉と重なった。



あかねは、皿のような目を私に向ける。


私は居たたまれなくなって、目を泳がせた。



「よく、わかるね…」


「わかる、よ」


「変なこと聞いていい?」


「…うん」


「虎太郎は…男?」




虎太郎は、男?


頷きかけてためらった。




怖かった。



目の前にいるあかねが



例え私と同じ悩みを



抱えているとしても。




でも…




ここで偽ったら



私は一生男のままだ。





「……俺は、女だよ」




目をぎゅっと瞑って



本当の自分を晒した。



うまれてはじめて



女だと、名乗った。




あかねの反応はない。




恐る恐る目を開くと



あかねは泣いていた。




涙を落としながら



「はじめて、同じような人に出逢えた」



そう、呟いた。




その言葉が心に安らぎを落としていく。



気がついたら私も泣いていた。



二人で肩を抱き合って


おいおいと声をあげて泣いた。





当たり前を押し付けられる日々が


私たち、こんなにも苦しかったんだね。




「ねえ、虎太郎」


空高くにあったお日様が


海の向こうに沈む頃


あかねは、私に話しかけた。




「何?」


「明日、出かけようか」


「明日?」


「うん」


「何をしに行くの?」


「あのさ」








翌日、私はMサイズのB系服を買った。



「あかね」


あかねとの待ち合わせへ行くと



あかねも私が憧れていた、


可愛いブランドの袋を持っていた。



「買えた?」


「買ったよ、フリフリのいっぱいついたワンピース」


「……ありがとう、これあかねのだよ」


「ありがとう」



そう言うと、私たちは


互いの手の中にあった、


憧れの自分になる為のアイテムを


チェンジしたんだ。




まだ、外に着ていく勇気はない。


人にだって言えない。


人に見せられない涙もきっとある。




それでも私たちは



自分を諦めないでいようって



互いに誓い合ったから…。





打ち明けられた勇気を育てて



いつか、一人称も



あかねと私



俺を私に、私を俺に



チェンジしたい。




それが当面の私の夢。



頑張ろう、いっぽいっぽ


不器用でもふたり手を繋いで



生きていきたい。




あかね


打ち明けてくれてありがとう


私に勇気を、ありがとう。

ひとひら☘☽・2019-10-29
幸介
幸介による疲れた人へのメッセージ
幸介による小さな物語
GID
性別
勇気
秋の便り
女の子
男の子
当たり前
安らぎ
親友
友達
辛い
苦しい
自分
独り言
本当の自分
ポエム
わかってほしい
一生
心臓、跳ねた
性同一性障害
嘘でもいいから
幸介/性と言う名の鳥籠
㊗オススメ㊗
MTF
MTFを超えて

性と言う名の鳥籠
~あかね編①~あかね目線



「永倉ぁ、客ー」

「あ、うん、わーかった」


私の器は、永倉あかねという。

私の心の名前は…なんだろう。


誰か、かっこいい名前を

つけてくれる子…いないかな。


いないよなぁ。



登校してすぐ脱ぎ捨てた、


制服という名の囚人服。


ジャージの方が幾分マシだ。


ジャージには男も女もない


平等だから。



私はFtMの


トランスセクシュアルだ。



ずっと思ってる。


男になりたい。


診断はまだされていないけれど


「多分」そうなのだ。






私は来客とやらがいる、廊下へと


大股で、赴いた。




「あ……っ」

その人の後ろ姿を見るなり


私は驚いて声を上げた。



それは友人である、

虎太郎の幼なじみ、雫 紗季だった。


虎太郎はMtF


つまり私とは逆で

女の子の心を持った男ってわけ。


そして雫 紗季は

虎太郎の好きな人だった。




雫とは一度も話したことがない。


その私に一体、どんな用があるんだろう。



彼は私を見つけると

仏頂面で近づいてきて言った。



「俺の事わかる?」


「雫、紗季くん」


「知ってんだ……あのさ、突然なんだけど本題」


「ほんと、突然だね」


「硬いこと言うなよ、でさ虎太郎とどんな関係?」


「は…?」


「俺さあいつの幼馴染なんだよ」


「知ってるよ」


「だーかーらー、気になるって言うか」




頭かきながらそっぽ向いて


おまけに眉間にしわまでよってる。




これって、ひょっとして。


私はちょっとしたことを思いつき


彼にこんな事を言ってみた。



「…へえ、付き合ってるとか言ったらどーするわけ?」



「は!?あいつが女と付き合うとかありえねえじゃん!」



「なんでありえないの?虎太郎すごく優しいよ」



「そりゃーわかってるよ、でもあいつ奥手だし、なよっちぃし」



「私が奥手くん大好物かもしんないじゃん」



「だ、大好物っておま…っ」



「可愛いじゃん。雫くんにだって美紀っていう学校公認の彼女いるんだし、私と虎太郎が付き合っていれば彼女談義できるよ、よかったね」



畳み掛けるように言って、彼の様子を伺う。



目を白黒させてる。



可哀想だけど、もう少し。




「だいたいどうしてそんなに気にするのさ。ただの、たーだーの、幼馴染でしょ?」



「……ただの……なのか?幼馴染ってそんな軽いもん?」



「軽いって言うか…フツー幼馴染の幸せなら喜べるんじゃない?雫くんのは…なんていうか」



「あー?なんだよ?」



「誰かと付き合うのがありえない!とか言っちゃって…まるで好きな人に恋人出来たのを認められなくて嫉妬してる人みたい」



そこまで言って私はやっと息をついた。


彼の顔をじっと見つめる。



唖然としていたかと思うと



みるみる顔が紅潮していく。



「な、な、何言ってんだよ、オ、トコ同士でそんなことあるわけねえじゃん!」



「でも、虎太郎…可愛いところもあるでしょ?」



「それは…っそうだけどっ」




図星つかれてあたふたしてる。



ほら、ビンゴだ。



ここまで聞けば、もういいや。



好きなのは充分わかった。




最近ちょっと落ち込み気味の虎太郎に



この情報、サプライズしてやろう。





私は「要件それだけなら行くよ」


そう言って踵を返したけれど




「待てって…!」


彼から飛び出た言葉に振り返る。




「何?」



「やっぱり虎太郎と…付き合」



「ううん、“ ただの”友達だよ」



「え、マジ?」



「あーはいはい、まじまーじ」



「ほんとにほんとなんだな!?」



「しつこーっ」



ひらひらっと手を振り


見るからに嬉しそうな彼を置いて


私は教室に入った。



自分の席に着席する。


一番後ろの窓際。



この場所が一番、私は好きだ。




空が見える。


グランドも見える。



外で陸上部の子達が昼練してる。




あー、走りたい。


苦い記憶が頭を掠めて


私は思わず机に突っ伏した。





私は走ることが大好きだった。


でも中学に入った頃から


爆発的成長を遂げたこの胸が


走る度に邪魔でたまらなかった。



一歩踏み出す度


たゆたゆと跳ねるこの胸が憎かった。




中学の陸上部で同じ部員の女子から



「あかねは胸が大きくていいな」



そう言われて心が折れた。




その子は私の好きな子だったのだ。



好きな子に羨ましがられる胸なんて


虚しいにも程がある…。



私はそれからすぐに


走ることをやめて


座りっぱなしの美術部に


転部した。





モノ
こんな胸、切りとってしまいたい。





「…かね、あーかーね」



ぼうっと空を見上げる私の肩を揺すって


名前を呼ばれて気がついた。


ドキンと胸が大きく跳ねる。



「あ……結奈じゃん」


「もう、何ボーッとしてるの」


「ごめん、考え事してた」


「ねー聞いてよぉ、彼がさぁ」


「まーた彼氏の話かよー?」


「そーなの、ひどいんだよ」




結奈は堪りかねた!というように


私の隣の席の椅子をもってきて


私の腕にぎゅっとしがみつき、


彼氏の女好きエピソードを


あれこれと語り出した。





ふわっと、女子高生には不釣り合いな



エキゾチックな香りが鼻を刺激する。





結奈の胸の弾力…やばい。




この体は時としてとても便利だ。


男の体だったら今頃…私



すっごい変態だな。




まあ、男だったら


結奈もこんなにくっついてはこないか。




こんな時は都合よく



男でなくてよかった



そんな事思ってしまう。





「ねー、どう思う?」


「もう別れちゃえば?」


「えー?」


「そんな女好き、先ないって」


「そっかなぁ」


「結奈だけを見てくれる男、きっといるよ」




例えば、私とか。



そんなこと思ってたって


口が裂けたって言えない。



悲しいかな


私は生物学的には女だから。



「フツーの男」が「フツーの女」に


じゃれ合うように本音混じりの


冗談すら飛ばせない。




言葉の代わりに私は


ありったけの気持ちを込めて


結奈の頭を優しく撫でてやる。



すると結奈は可愛らしく


えへへと笑った。




私だけの笑顔…。


私だけの結奈にしてしまいたい。



でも


そんなこと叶うわけがないんだ…。




机の下に隠した拳を


ぎゅっと、私は握りしめた。


******




夕暮れが咲く放課後。


靴箱で外靴に履き替えていると


虎太郎の姿が見えた。




「あ、虎太郎!」


呼び止めると


虎太郎はにこっと可愛らしく笑う。



こういうところ


女だよなって思う。



せっかく帰りが一緒になった。


これも何かの縁だ。



次に交換する、


購入アイテムの話でもして帰りたい。




「一緒に帰らない?」


私が肩を叩きながら誘うと


虎太郎は眉を下げて笑った。




「ごめんあかね、今日は…」


「どうした?」


「実は…紗季に誘われたんだ」


「お!?どこどこ!どこに!?まさか放課後ホテルかよ」


「ち、ちがうよ……なんでホテルなの」


「雫くんさ、今日私のとこ来たよ」


「え!?紗季が?……なんで?」


「虎太郎と付き合ってるのかって聞きに来た」


「…なんで?」


「さあ?でもさ、違うよって言ったらガッツポーズ決めて喜んでた」

「え?」

「もしかしたら雫くん、虎太郎の中の女の子に気がついてるかもね」

「……そうなの?」



私はポジティブな意味合いで


告げた言葉だったけれど


どうやら虎太郎には


上手く伝わらなかったようだ。



不安そうな顔をして


うっすら涙目だ。


気持ちは痛い程わかる。



私たちは


自分を何処かで蔑んでるから


何処かで…諦めているから


だからこそ


他人にそう思われることが怖い。


ましてや、好きな人にそう思われるなんて


考えただけで鳥肌が立つ。



「虎太郎」


「うん…」


「ちょっとお辞儀して」


「え?なんで」


「いいから」


「わっ、ちょ、あかね」



私は強引に虎太郎の襟を引っ掴んで


お辞儀をさせた。


こうでもしないと


身長の高い虎太郎の頭には


私の手が届かないのだ。



くしゃくしゃと髪を流すように


私は虎太郎の頭を撫でて小声で言った。



「考えてもみなって。虎太郎の中の女に気付いていて、私と付き合ってるんじゃないかって気にして聞きにまで来たんだよ、しかも!付き合ってないって知って喜んでた。これって…ネガティブな意味かよ」


「あかね…」


「どう考えても違うだろ?」


虎太郎はぐすんと鼻を鳴らした。


「泣くなって」


「うん…ポジティブに考える」



ここまで来れば一安心だ。



私は微笑んで虎太郎に尋ねた。



「雫くんとどこ行くの?」


「カラオケ……ふたりっきり」


えへへと笑う虎太郎が可愛い。


「よーし、西野カナのラブソングお見舞してこい」


「さすがにそれはないでしょ」


虎太郎にしては珍しく


歯を見せて笑った後


彼は手を振って私の元を去った。




「虎太郎、がんばれ」


私は、ひとつ


ちいさなため息をつく。



好きな人と両想い。


私たちトランスセクシャルにとって


それは夢のまた夢だ。


本当は喉から手が出る程欲しい。


隠している分


普通に恋する何千倍も


きっとときめいてる。



なのに、


伝えられないのが関の山なんだ。



どうして、何度も思った。


どうして私が、そうだったのか


意味を、理由を探しても


教科書も参考書も


答えなんか教えてくれない。



だから


虎太郎は私の希望だ。



虎太郎が雫くんと恋人になんてなったら



してはいけない期待も


もしかしたら“ してもいいもの”に


なるのかもしれない。



頑張れ、虎太郎


頑張れ


何度も、祈るように


友人にエールを送りながら


昇降口を出ると



「もう、あかねってば遅い!」



黄昏色の夕日を浴びた結奈がいた。



「え?今日帰る約束してた?」


「ううん、してない!」


結奈のイヒッと白い歯が光る。


「なんだそれ」


「王子様を待ってたのだ!」


「ますますなんだそれだよっ」


と、言いつつ、王子様


ふとした男扱いに心臓は躍る。



「あーかね」


「なに」


「一緒に帰ろ」


「ん、帰ろっか」



私は、結奈が好きだ。


諦めた振りをして暮らす中で


やっぱり諦められないと思える瞬間は


驚くほどある…。



夕焼けに長く伸びた影に追われながら


細い道路を二人で歩いていると


「ねーあかねー」


ふと、結奈が甘えた声を出す。



「んー?」


気のない返事をわざとかえすと



結奈はこう告げた。


「いつも彼との事聞いてくれてありがとね」


「だから、早く別れなって」


「そうやって言ってくれるのは結奈のさ、幸せを願ってくれてるからだよね」


ちくん、と胸に針が刺さった。


純粋に結奈の幸せだけを祈って


伝えるアドバイスじゃないからだ。


結奈に近づく男がいなくなればいいのに


本当はいつも、そう思ってる。



「私、そんなあかねが好きだよ」



ああ、結奈ごめん。


そんな事言えなくて



「私も、結奈のこと好きだよ」



抱えた確かな想いを


ごまかして結奈に、伝えた。




日暮れは……近い。



どうか、このまま夕焼け色に


恋の色に染めたままでいてくれないかな


この夢のようなひとときを


終わらせないでよ、神様。





******************


性と言う名の鳥籠


第3段っすー♪



今回もまた長い話になりましたが


読んでくださった方


ありがとうございました



昨日アンケートとらせていただいた下駄箱


靴箱で採用させていただきました


ご協力頂いたみなさん


ありがとーっす(*´ω`*)


この話を最初から見たい方は
タグの#幸介/性と言う名の鳥籠
から、移動してみてください



よろしくお願いします(*´ω`*)



幸介

ひとひら☘☽・2019-11-20
幸介
幸介/性と言う名の鳥籠
性同一性障害
MtF
FtM
GID
物語
幸介による小さな物語
小説
性別
本当の自分
あかね編
神様
トランスジェンダー
迷い
迷走
悩み
青春
ポエム
思春期
性の悩み
恋の足跡
トランスセクシャル

これらの作品は
アプリ『NOTE15』で作られました。

他に21作品あります

アプリでもっとみる


性と言う名の鳥籠
~虎太郎編②~紗季目線



俺には親友がいた。



正しくは幼なじみで親友だ。



虎太郎という男っぽい名前だし



連れションもした事がある。



痛いほど男だと言うことは


わかっているんだ。



わかっているはずなのに


虎太郎に女を感じる事がある。



この違和感は…なんなんだろう。






「キレイだよ、羨ましいくらい」


バレー部の朝練あがり、教室へ行くと


虎太郎が教卓に花を飾りながら


その花に話しかけていた。



くすっと、笑顔が零れ落ちる。




生物委員の虎太郎は朝がはやい。


早く来ては花壇の花に水をあげたり


クラスの花瓶に花を生けたりしながら


朝の時間を優雅に過ごしているようだった。




「コタ、おはよう」


「あ、紗季、おはよ」


俺に笑いかけて


前に垂れていた髪を


耳にかける仕草が女のようだ。


髪…かき上げるなら


もっと男らしくしろよ。




そんなこと思いながら


声を上ずらせた。



「あー、課題やってきた?」


「うん、やってきた」


「答え合わせさせて」


「もおー紗季は…答え合わせとか言って写したいだけだろー」


「ウケる」


俺は笑いながら、ひらひらと手を出した。


しばらく俺を睨むように見つめて、


ため息をついた虎太郎は、


しかたないなあと言いながら


自分の机の中を漁り始める。



「そういえば…紗季」


机をゴソゴソしながら


虎太郎が呟くように言う。



「んー?」


「美紀ちゃんとは…どう?」


心臓が、跳ねた。


美紀というのは、俺の彼女。


原田美紀のことだ。



「あー、まあ、変わりねえよ」


「相変わらず熱いわけだ?」


「あったりまえー」


「ふぅん」


面白くなさそうに相槌をうつ虎太郎。


どうしてそんな態度をとるんだろう。


今、どんな顔をしてる?


気になる…


肩を掴んでこっち向かせて


その顔を、見てやりたい。



とんだサイコパスだ。




「なあ、お前は?」


「うん?」


「浮いた話聞かねえけど、最近どう?」


「俺のことは…いいよ」


「なんで?」


「なんでも」


「秘密主義ー」


虎太郎は苦笑しながら


探し当てた課題のノートを持って


俺へ近付いてくる。



「はい、どうぞ」


「あー、サンキュ」


差し出されたノートをとろうとすると


虎太郎はノートを掴む手に力を込めた。



「紗季、本当はだめだよ?ちゃんと自分でやんなきゃ」


「なんで?」


「なんで、って。将来、困るだろ?」


「あー。じゃあ虎太郎のこと影武者にしてもいい?」



俺はいつもの調子で


そう、けらけらと笑った。


すると虎太郎は突然


悲しそうな顔をして、こう言い放った。





「ずっと、側にいられるわけじゃないよ」




心臓が、止まるかと思った。




「は?お前…何言ってんの?」



俺は戸惑いながら、息を吐く。


今、俺は上手く、笑えているだろうか。



「高校だって俺、紗季のレベルに合わせるの大変だったんだよ」

「でも、入れたじゃん」


「紗季はバレーの推薦で体育大学行くだろ?」


「どうかな、ま、そーなりゃ嬉しいけど」


「うちバレー部、強いもん。インターハイ行けるだろうし、紗季エース候補だろ。俺はスポーツ無理だもん」


息を吐くようにたんたんと虎太郎は口にする。


「大学入ればお互い家も出るだろうし、俺は紗季と一緒にいられるこの三年間で、紗季にきちんと勉強してもらうことを目標にするんだ」


にっこりと笑って、虎太郎はこんなに残酷な事を言う。


「俺がいなくても、ちゃんと出来るようになんなよ?」


悲しくて、寂しくて、腹立たしくて


その後のことはよく覚えていない。



ただ、ぶっきらぼうに


「あー、そーかよ。友達甲斐のない奴」


そんな悪態をついた気がする…。




*゜*゜*゜*゜*゜*゜



「紗季くん、今日放課後待ってていい?」


彼女の原田美紀がチャームポイントの


チワワみたいな目を俺に向けて言った。




「んー…」


今日はそんな気分じゃない。


部活やってさっさと帰って


ふて寝したい気分だ…。



「今日体調悪い」


その場限りの嘘をついた。


でも美紀はごまかせない。



「……今日一緒に居たくない?」



上目遣いでこう言われてしまっては



うん、と肯定することも出来ない。



「あー、いいよ、待ってて」


「よかった!」



美紀はこういうとこ、あざといなと思う。


俺が乗り気じゃないのも


断りきれないのもわかっていて


わざわざ聞くんだから。




*゜*゜*゜*゜*゜*゜


放課後、校内の桜並木の道を抜ける。


桜の葉っぱが色付いていた。


夕焼けに透けて、余計燃えてるみたいに見える。


並木道を抜けた先にある校門に


既に美紀はいた。



「あ、紗季くん」


「おー…早い」


「だって私が遅れたら会える時間自分のせいで減るってことでしょ?そんなの勿体ないじゃない」


「あーそうだね。帰る?」


「うん」



通学路を歩む。



一定の距離が出来たのは


一体何時からだろう。



付き合い始めは



隙間を作るのも勿体なくて


通学路の端っこをぎゅっと


ひとかたまりになって歩いてた。



恋人だったらもっと


引っ付いていなきゃならないだろうか。


でももうくっつかなくたって


そんなに辛くはない。



俺はため息をついた。


世の中ほんと、違和感だらけ。



男だから女だからとか


友達だから、恋人だからとか


そんな常識に


とらわれる俺自身に嫌気がさす。




「ねえ、紗季くん」


美紀が突然、俺の袖を引っ張る。


「んー?」


あれあれと指差す方向を見て


俺は思わず言葉を無くした。



視線の先には


虎太郎が4組の永倉あかねと


仲良さそうに寄り添う姿があった。



公園のベンチに座り


雑誌か何かを見ているらしい。


虎太郎は見たこともないくらい


リラックスして笑っていた。



「コタくんやるぅー、あれ絶対付き合ってるよね」

「…ねえ」

「え?」

「なんにも、聞いてねえ」

「あー、恥ずかしかったのかな?コタくんこういうの初めてでしょ、奥手っぽいもんね。紗季くんにもなんて言っていいのかわからな…紗季くん?」

「あー……」


俺はがしがしと頭をかいた。
気持ちが悪い。動悸が走る。
みぞおちあたりが苦しい。



急にどうしたんだろう。



虎太郎が永倉と笑っていることが
……面白くない。




「……美紀、遊び行こ」


「え、いいの?」


「美紀と一緒にいたい」


「嬉しい、なかなか言ってくれないから」


「いつも、思ってるよ」



そう告げると、


自分が思う違和感のない恋人を演じるべく


ぴったり美紀にくっついて肩を組んで


いつもの通学路を反れ、繁華街へと歩み出した。





いつも、一緒にいたいなんて



……嘘だ。


本当はもう夫婦みたいな感覚になってる。



いても、いなくてもいい。



どっちだっていい。



美紀と二人で生きるには


俺はもう自立しすぎてしまったのかもしれない。




その日、美紀とカラオケを楽しんだあと


俺は彼女をホテルで抱いた。



抱いたら迷いとか戸惑いとか


いらないもの全部吹っ飛ぶような気がしたんだ。


でも、憂さ晴らしのようなそれは


俺の中に罪悪感をもたらしただけだった。




「いつまでも、何してるの!電話にもさっぱり出ないで!」


夜更けに帰った俺は


母さんの小言を聞き流しながら


中二階へ向かい自室に入った。




ブラインドを締めようとした時


向かいの虎太郎の部屋がふと目に入る。



「まだ…起きてるのか」



閉め切られたカーテン。


煌々と漏れるあかりを見つめていると


虎太郎の影がふわふわと


動いているのが見えた。



「…いて」


ちくっと刺されるような胸の痛みを自覚した途端


俺の目からは涙が滔々と流れ出した。



胸の痛み、胸のもやつき


溢れる涙、言い様のない喪失感


この感情の行き着く先がなんなのかなんて


そんなこと俺は考えたくもなかった。





――――――――――――


前回の虎太郎&あかねの続きのお話です♪



ちょうど通学路入ってたんで


企画に突っ込んじゃいました笑



前回が気になる方はタグの


#幸介/性と言う名の鳥籠 をクリックして下さい



今回はちょっとごちゃごちゃしちゃって


物語に入り込みにくいかもしれませんね


(;´Д`)


駄作…、申し訳ありませんでしたっ!


土下座_| ̄|○

ひとひら☘☽・2019-11-06
幸介
HM企画STORY
HM通学路
通学路
GID
花が好き
好きな人
青春時代
思春期
幼なじみ
親友
幸介/性と言う名の鳥籠
高校生
性同一性障害
好きな人と結ばれたい
MtF
幸介による小さな物語
小説
物語
夜空に浮かぶ君の顔
トランスセクシュアル


【性と言う名の鳥籠】
虎太郎編③~紗季目線




※本作品はBLではありません。








「久しぶりだね」


「んー?」


「カラオケー」


「おー」


「ねえね、紗季は何歌う?俺は何歌おっかなー、米津玄師とかいいなー」



カラオケ屋へ向かう途中。



虎太郎は上機嫌で鼻歌まじりだ。



虎太郎を見つめる俺の視線に気がついたか



虎太郎は口元に手を当てて



「えへへ」と笑った。



その姿は、女そのものだ。



男友達に女を感じるなんて


本当、どうかしてる。


本当に重症かもしれない。





見つめていた事を


不審に思われないように気を配る。


「やけに機嫌いいじゃん」


「…え?」


虎太郎は、一瞬、目を丸くして


俺を見下げると、慌てて言った。



「あ、ほらほら、勉強忘れて騒げるから!」



まるでとってつけた言い訳のようだ。


悪戯心に花が咲く。



「とかなんとか言ってさー、俺と一緒にいられんの嬉しかったりする?」


「あー…そりゃあ幼馴染みだからね」



つん、と顎先をあげて虎太郎は


少しばかり不機嫌そうに呟いた。



その姿を見て俺にも不機嫌が伝播する。



“なんだ、幼馴染みだから…か”


そんな事考えてしまってから


はっとして俺は顔を赤らめた。




男友達相手に、何、考えてんだ。





虎太郎を盗み見ると


サイドに垂れた髪の毛を


指先でくるくると弄っていた。




やっぱ、こいつの仕草


女っぽいよなあ…



そう思って虎太郎を見ていると



「あ、コタ」


髪に小さな葉っぱが


絡みついている事に気がついた。



こいつ、トトロの森から来たのかよ。


不意に笑いが込上げた。




「え、何笑ってるのさっ、なんか俺おかしい!?」



急に焦り出して


髪やら服装やら気にし出す虎太郎が


とても可愛らしく感じる。




「コタ、ちょいまち」


微笑んだ俺は


虎太郎の頭についた葉っぱを


摘んでとってやった。



「あ。葉っぱか」


「トトロに会ってきたんだろ?」


「なんでそうなるの」


虎太郎は、噴き出して笑った。




俺の目線より少し上の虎太郎の頭。


身長では虎太郎に勝った試しがない。



「お前、今、身長何センチあんの?」



「あー、198センチ」


「でかっっ、身長くれよっ」


「あげるよこんなの、いらないもん」


「男のタッパはあった方がいいぜー?」


「…うん」


「コタ、お前、なんでバレーやんなかったんだよ。俺、お前と一緒にやりたかったのになあ」


「俺は……」


何か考え込むように俯いた後


一気に紅潮した顔を片手を立ててサッと隠した。



「は!?なにそれ」


「い、いや、あの、触れないでっ」


「いやいやいや、気になる、何その反応!」



嫌がられると聞きたくなるのが人間だ。


俺は虎太郎の手首を無造作に掴んで


虎太郎の顔をまじまじと見つめあげた。




「や、め」


日に焼けていない不健康な虎太郎が


茹で上がっていた。



桃色のほっぺたは、ほんの少しだけ



虎太郎を健康的に見せる。




「なんでバレー部入んなかった?」



「な、なんでって」


「そのタッパでお前中坊ん時からバスケにバレーに引っ張りだこだったじゃん」


「俺が昔から運動嫌いなの知ってるじゃん」


「違う、お前は運動嫌いなんじゃねえよ、いつも側にいる俺が目立ってただけ」

睨むように見つめると、虎太郎はばつの悪そうな顔をして言う。



「……なんで、そんなとこばっかり鋭いんだよ……」


俺には分かる。これは、虎太郎の白旗だ。


俺は虎太郎の手首をゆっくりと離し


勝ち誇った顔で尋ね直した。




「で?」


「笑わないでよ?」


「笑わねーよ」


「ほんとかなぁ…」


訝しげな表情を浮かべる虎太郎に


俺が眉を顰めて応戦すると


ようやく虎太郎は話し始めた。




「……俺は紗季を」


「ん?俺を?」


「見ていたかったんだよ」


「ん?」


「だ、だから、プレイに夢中になっちゃうより、紗季から目を離さずに……応援、したかった、っていうか……」








は?













「な、なんだその理由!!」


俺の方が赤面だ。


女みたいな事言いやがって。


不意打ちもいいところだ。




「なんだ、ってなんだよー、恥ずかしいの我慢して言ったんだから!少しは感謝したらどう?」


「……あ、そか、……おう、あ、りがと…う」


「あ、珍しい、紗季が素直だ」


虎太郎は嬉しそうに笑いながら


後ろで手を組んで


俺の数歩先を歩み出す。


その手を……俺はとっさに掴んだ。



くんっ、と引っ張られて虎太郎は


驚いたような顔をした。



「ど、どうしたの?」


どうしたのかなんて


自分でも分からない。


ただ、駆け回る馬の蹄の音のように


心臓が高鳴っている。



「あ……あ、えっと」


言葉にならない。


おかしく、思われる。


でも、この手を離したくない。



「俺…っ、嬉しかったぞ!」


「え?」


「応援してくれて、ありがとなっ」


「あ、…うん」



虎太郎は笑った。


嬉しそうに笑って


恥ずかしそうに


口元を隠した。



仕草が可愛い。


抱き締めたい。


男同士なのに


虎太郎が女に見える…。










そこで初めて俺は自覚した。




俺は虎太郎が好きだ。




ずっと一緒にいた。



一緒にいてくれた。



この先もずっと一緒にいたい



そう思えるのは


彼女の美紀じゃなく



虎太郎だ。











「……別れてくんねえかな」




次の日、俺は彼女の美紀に


別れを切り出した。



身勝手だとは思うが


虎太郎への想いを自覚した以上


嘘をつくことは出来なかった。




世間でいう変態ってやつでも


虎太郎が相手なら


それはそれでいいのかな


そう思える。



美紀は、顔を強ばらせて尋ねた。


この泣き出しそうな顔……苦手だ。




「どうして……?私、何か悪いこと…した?」



「…ちがう、美紀は悪くねえよ」



「どういうこと?」



「好きな男が、いる」



「お、男!?」



美紀は衝撃を受けて、目を皿のようにした。


そりゃあ、そうだ。


俺ですらまだ頭では


よくわかっていないのかもしれない。


そんな事を今から別れようという彼女に


話す必要があったのかと躊躇いを感じたが


ここまで来たら後に引くすべはない。





「俺……コタが気になるんだ…」


「コタ……くん」


「だから、美紀……ごめん」





唖然としていた美紀は


徐々に激高して


俺をその手のひらで打った。




「ほんっと、サイテー!変態っ!」



そう吐き捨てて走り去っていく。


頬が痛い。


でもこれは、当然の痛みだ。


こんな俺を信じて


付き合ってくれていた、美紀を


俺は裏切ったんだから。




本当はこうなる前に


別れるべきだった。



俺の中で、美紀の存在が


なきゃ生きられない空気じゃなく



あることにも気づけない空気になった時点で。




「はああああ………俺、何やってんだ」



廊下に頭がつくくらい


腰を低く落とし


しゃがみこんで項垂れる。



未だ引かない美紀の


平手打ちの痛みを噛み締めながら


想う人はやはり虎太郎だった。



きっと思いは伝えられない。


どんなに俺が虎太郎を


女として認識していようが


虎太郎はれっきとした男なんだから。



今まで培ってきた虎太郎との想い出や


関係性をぶち壊したくない。



それなら、一生1番近い親友の


幼馴染みで構わないと思っていたんだ。



この時までは…。




明日、俺たちの関係が


壊れるような大事件が起こるなんて


この時、俺は知る由もなかったから。





--------------------------------


お付き合いいただいてありがとうございます


久しぶりの虎太郎編!!


と言いながら


お相手の紗季目線が


続いています(ㅇ_ㅇ)



いよいよ


佳境へと差しかかってきました。



虎太郎編は次で完結かなあ♪̆̈



その次まであるかなあ♪̊̈笑




あ、その前に、茜編、ですかね


うーーーーん


どうしよう笑



みなさんいつも


俺の小説読んでくれて


ありがとうございます(*´ω`*)



すっごく嬉しいです!



幸介

ひとひら☘☽・2020-01-11
幸介
幸介による小さな物語
幸介/性と言う名の鳥籠
トランスセクシュアル
性同一性障害
GID
FTM
MTF
学生
高校生
性別
向き合う
別れ
彼女
彼氏
片想い
男同士
物語
小説
独り言
ポエム
2020年に叶えたいこと
叶わぬ恋
言えない
関係
女の子
男の子
本当の自分
心臓、跳ねた



性と言う名の鳥籠
~あかね編②~結奈目線(前編)




いつも縋っていないと

いつも彼氏がいないと

駄目になりそうで怖かった。



だからあたしは依存してた。

満たされない心が満たせる相手なら

誰でも良かったのかもしれない。











鞄をふてぶてしく担いで

帰ろうとする彼の腕を掴んだ。





「ひどいよ、京平!」

「何がひどいわけ?」


私の手には

他校の女の子と彼、柘植京平との

Kissプリが握られてるっていうのに。


彼は全く、意に返さない…。



溜まった涙を流さないように

細く息を吐き出してあたしは答えた。



「浮気……してるじゃん」
「浮気?」


「結奈とキスとかするくせに…他の子ともこんな」



すっと涙が落ちると、

ああもう止まらない。


泣いてるあたしに、

京平は無情なため息を吐きかけた。



「あのなあ、思い出してみれば?初めの時お前なんて言って俺に縋ったの?二番目でいいから、彼女にしてって言ったの、お前じゃん」
「…そうだけど」



二番目どころか今はもう

何番目かすらわからない。

今がとても苦しかった。

京平の怒りはおさまらない。



「ちゃんとデートの時は結奈の好きなとこ行くし、気持ちよくだってさせてやってんじゃん、感謝出来ないわけ?」

「でも」



あたしが口にした打ち消しの接続詞が

京平の怒りに拍車をかける。



「めんどくせーなあ、もう別れる?」



別れる?

その言葉に肩が震えた。


彼を失うなんて考えられない。



「え、ごめん、やだ!」


あたしは彼に縋り付く。

彼は腕に縋ったあたしを

振り払って言った。




「だってさぁ、うざいよ、お前」



本当にうざたらしそうに、

怒りをため息で逃しながら…

このままじゃ彼に、嫌われちゃう。



だからあたしは


「もうウザいこと言わないから、お願い、別れるなんて言わないで」


思ってもいない言葉で

上辺を繋ぐんだ。




「次、こんなこと言い出したら次こそ別れる」
「うん…ごめんね」


彼が去っていく。

部活を休んで帰ってく。


きっとこの後

他の子とデートなんだ。


もしかしたら

Kissプリの子かもしれない…




夕暮れに染まる校内

涙を、落としながら

あたしはさまよい歩く。



きっと彼女を探してる。



彼女…永倉あかねは

あたしの親友だ。


高校の入学式で

意気投合した。



少しツンデレで

男の子みたいなあかねが面白くて

ずっとあかねの後を追いかけていた。




いつしかそれはあたしの中で

安らぎに変わっていった。





誰とも

付き合った事がないあかねに比べて

あたしはもう京平で5人目だ。



でもそれがあかねと比べて

幸せなことかと言ったらそうじゃない。




いつも泣かされて

いつも苦しくて

いつも浮気されてフラれる…。



1ヶ月すら続かない事もあった。


あかねはそんな馬鹿なあたしの話をいつも


「そんな男とは別れろ」って

「あかねにはもっと相応しい奴がいる」って

そう言ってくれる。



その言葉がいつも、

あたしを落ち着かせてくれた。



今日もきっとその言葉が

聴きたくてあかねを探す。




「でもさ…は……じゃない」
「うん…だけど…しいんだ」



あかねだ。

階段の踊り場から声がする。

男子と話をしているらしい。


あかねの声を聴いたら

ほっとして涙がまた溢れ出した。


話が終わるまで待とうか…

それとも今出ていこうか


迷っていたその時
予想もしなかった言葉が飛び込んできた。




「あかねは、ちゃんと男の子の心持ってる。かっこいいよ」


「だけど私の体…女だ。ホルモン治療だけでもいい、…早く髭が欲しい、喉仏が欲しい。低い声、骨ばった体が欲しい。本当の自分の体に戻りたいだけなのに、なんで年齢制限なんかあるんだよ…馬鹿げてる」


「あかね…」

「もう、こんなの嫌だ、この体のせいで私は、好きな子にも告白できない」



何を、言っているのか

理解できなかった。


あかねが男の子?

ホルモン治療…って何?




好きな子って、誰?




衝撃を受けて言葉も出ない。

身体中から

血の気が引いていくのがわかる。



あたしはその場を静かに立ち去った。

あかねに知られないように、そっと。


話を聞いていたことがわかったら

あかねはどんな顔をするんだろう。


恐かった。

とてつもなく恐かった…。




家に帰った私は

自室のベッド際の壁にもたれ

クッションを抱いて、

くるくるとあかねの事を考えていた。




あかねの心が男の子って…なんだろう。


思い立ってスマホで検索を掛けた。



弾き出されたのは


「性同一性障害」
「トランスセクシュアル」



男の子になりたい女の子
女の子になりたい男の子



どうしてそんなことになるのか

サイトの文章を

何度も読み返すけれど

理解できない…



ホルモンシャワーって何??

結局障害なの?

生まれつきの病気なの?




わからない。




でも…


「あかね、苦しそうだったな」


あんなあかねの声を

あたしは聞いたことがない…。



いつもあたしの前で笑ってるあかねが

今日は涙に濡れた声を絞り出してた。



好きな人が出来たら

あたしはすぐに告白してしまう。

黙っていることが出来ない。


あかねは…

好きな子に伝えたくても

伝えられないって言ってた。


きっとそれって、すごく辛いこと。



「あたし…信頼されて、ないのかな」


相談、してくれなかった。

なんだかとても悲しくなって

あたしはクッションに顔を埋めた。




ピロン


しばらく経つとLINEが鳴る。

開いてみると京平だった。




「明日帰り遊ぶ?暇だから」



うん、遊ぶ!

いつもなら打てる言葉。

待ち望んでたLINE。



だけどこの日は…

送信をタップ出来ない。

嬉しくも…ない。



うん、遊ぶ。と打とうか

今回はいいや、と打とうか

何度も打っては消しているうち




あたしは

深い眠りに落ちてしまっていた。

ひとひら☘☽・2019-12-17
幸介
幸介による小さな物語
幸介による疲れた人へのメッセージ
幸介/性と言う名の鳥籠
トランスセクシュアル
性同一性障害
男の子になりたい女の子
本当の自分
GID
MtF
FtM
依存
彼氏
本当に好きな人
一緒にいたい
友達
親友
学生
プリクラ
LINE
性別
トランスジェンダー
切ない
物語
小説
怖い
ポケット
独り言
ポエム

【性と言う名の鳥籠】

虎太郎編④後編~虎太郎目線






結局、放課後の放送が聴こえるまで


私は保健室の


ベッドのひとつを独り占めした。




保健医が起こしに来て


私の顔を見るなり驚く。




「虎太郎くん…、あなた大丈夫?」



いくら声をころしても、


泣き腫らした目は隠せない。


保健医が私を心配そうに見つめた。




「大丈夫です…帰ります、ありがとうございました」


「そう?気をつけてね」


私は保健医に会釈をすると、廊下に出た。




下駄箱に繋がる長い廊下が


オレンジ色に染まっていく。



紗季と一緒に下校して


カラオケに行った一昨日は


夕焼け綺麗だねって


笑い合っていたのに…


今日の夕日の残影は何故、


こんなにも悲しいんだろう。



目尻から零れるくらい


また、涙が溜まった。





下駄箱のあたりに誰かいる。


女子だった。


私は慌てて涙を拭い、窺い深く歩み寄る。



「あ……」



原田美紀……紗季の彼女だった。


今朝の騒ぎを原田も聞いたはずだ。



正直今は会いたくなかったけれど


紗季の為だ、一言、違うよと言っておきたい。


私に背を向けている原田に声をかける。




「原田、あの」


原田はビクッと肩を震わせて


勢いよく私を見た。




「こ、コタくん」


「あの…さ、今朝の……知ってる?」


「まあ、そりゃああれだけねぇ、大騒ぎしてれば耳悪くたって気付くよねえ」




嘲笑に近い笑みを浮かべて私を見る原田の目。


睨まれているようで落ち着かない…。




「あれ、違うから。紗季とは幼なじみでしか……ないよ」


「わかってるよ、紗季くん、男だし、コタくんも男だもん」


「…うん」


「でもさ、紗季は普通だけど、コタくんに問題あるんじゃない?」



「え?」



「男のくせに、なんか他の男子と違うじゃん?男子なのに花好きで、ほら、カバンのチャームもテディベアって…普通男子もつかな?それに男の子とつるまないし、不思議ちゃんチックだし。そういう所からこういう噂って出るんじゃないの?男子なんだからもう少し男子らしくしたらいいよ。髪も長過ぎ!紗季、まるっきり被害者だよね」



男、男だから、男なんだから

男なのに、男のくせに



何度も、言われてきた言葉


その度にお腹の中で泣いて


上辺を取り繕ってきた。



だけど、上辺を取り繕えないくらい


原田の言葉は身に染みてキツかった。



紗季が被害者なら……私は、そっか





加害者なんだ。




私のせいで、なんて、分かりきったこと。


だけど


面と向かって言われるとこんなにも苦しい。




「ごめん、俺、なよっちいからな」


飲めない涙を無理やり体の奥へ押し込めて


私は原田に笑いかけた。



「もーホントだよ、もうちょっと男らしく!気をつけてよ、こたくん!」


原田もにっこり笑って、私の背を平手で


べしっと一度強く叩いて下校していった。



その後ろ姿を見送って、やっと私は涙を拭うと


自分の靴箱のドアを開けた。




「え…?」



そこには一枚のルーズリーフが入っていた。



赤いボールペンで書き殴られた文字。




驚きのあまり、私は


誰かから私に宛てられた「手紙」を手放した。



ひらひらと、舞い落ちたルーズリーフには






男女


変態


異常者


学校来んな





そう、書かれてあった。









…とぼとぼと帰路につく。



心無い言葉が書かれたルーズリーフ


どうしていいのかわからずに


まるめてポケットへ突っ込んだ。



まるでポケットのある右足の方から


血の気がなくなっていくようだった。



今さら涙なんか出ない。



私が「異常」だということは


わかっているから。




でも


どうして



どうしていけないんだろう。



女の子が羨ましくて


メイクだってしてみたいし


スカートだって履きたい


そう思うことの何が悪いの?




真っ平らな胸なんて嫌で



男の子のシンボルが


自分の体に生えていること自体


気持ち悪くてたまらない



こんなに苦痛なのに


それでも男で


い続けなきゃならないの?




せめて人と変わらずに


接して欲しかった。




「異常」かもしれないけど



私は、みんなと何も変わらない、



一人の人間なのに。





「はあ……」


ため息を吐いて見つめた空は


もう、一等星が輝き始めていた。





「紗季……大丈夫、かな……」





紗季の名を口にした途端


涙が込み上げて地面に落ちていく



「紗季ぃー……」



助けて。




スマホを抱き締めて



それでも求められない救いに



心が、壊れそうだった。






…………………………………


まだまだ終わりそうもなかったっす笑


もう少しお付き合い下さい^^;


幸介

ひとひら☘☽・2020-01-15
幸介
幸介による小さな物語
幸介/性と言う名の鳥籠
トランスセクシュアル
性同一性障害
GID
FTM
MTF
学生
高校生
性別
向き合う
彼女
彼氏
片想い
男同士
物語
小説
独り言
ポエム
叶わぬ恋
言えない
関係
女の子
男の子
本当の自分
心臓、跳ねた
いじめ
嫌がらせ
心無い言葉

【性と言う名の鳥籠】
あかね編④~あかね目線


心地いい風が吹き抜けていく。


「んーーっ、屋上!ひさしぶりー」



呼び出した屋上で


はしゃぎ気味の結奈は


息を吐きながら


思いきりのびをした。



ふと気付くと、左手の薬指に


黄色いリボンが見える。



「結奈、その黄色いリボン、マニュキュア?」


「うん、へへ、可愛いでしょ」


「うん、可愛い。でも、なんで薬指だけ?」


「おまじないだよ」


「どんな?」


「内緒ー」


結奈の甘え声に目眩を覚える。



「で、あかね」


「ん?」


「話って…?」


結奈は上目遣いで


私に尋ねた。



急に心臓が跳ね上がる。


そうだった…私、


結奈に告白するために


屋上に呼び出したんだ。



「あー、えっと……あー……」


あんなに強い決意をもって


「俺」になると決めたのに


土壇場で怖気付く。



結奈の笑顔を


凍りつかせたくない。



でも


後戻りは出来ないから。





「あのさ」


結奈の肩を掴む。


力加減が強すぎたのか


結奈は少し驚いたような


視線を私に向けた。



茶色の綺麗な瞳。


くるんと巻いたまつ毛。


整えられた眉。


嫌味のないチーク。



リップを塗った唇は


……美味しそう。




鼓動が跳ねとんだ。



「私さ」



「うん」



「ゆ、結奈のこと、好きなんだっ」



ぎゅっと目をつむって


叫ぶように告げた。


きっと驚いてる。


女の子なのに?


そんな風に思われるに違いない。


補足しなきゃいけないけれど


全力を出し切ってしまったらしい。


声が出なかった。



「うん」


結奈は、そう答える。



「私もあかねのこと好きだよー」


結奈はありがとう。と笑う。



受け入れてくれたのかと


結奈を見つめる…。



何も変わらない笑顔が


そこにあった。



あー、これ


完全に勘違いしてる。



私の結奈への「好き」とは

違う「好き」を私は結奈に送られたのだ。


とんだ誤算だ。


言い方が悪かったのか
それとも元々脈なしだったからなのか




そう簡単に上手くいくわけがないか。
正真正銘の男が女に告白するのとは
わけが違う。


淡い期待も、今や何処吹く風。
馬鹿げてる。涙が出そうだ。


だけど、この告白を
勘違いされたまま
薄ら笑いで終わらせる気には
なれなかった。



せめてもの悪あがきと
私は声を絞り出す。


「違う」


「え?」


くるんとした大きな目が


私を覗き込んだ。



ちくしょう、かわいい。


「私が結奈を思う好きと、結奈が私を思う好きは違うよ」


「え、おなじだよ?」


「私。本気で…」


「あたしだって本気だよー」



結奈は天然全開


いつもの調子だ。


伝わらない。



「違うよ結奈」


「え…違うの?」


「うん、ごめん」



やっと視線をあげ、見つめた結奈は

さっきまでの笑顔が凍りつき

今にも泣き出しそうな顔だった。



好きな女に、こんな顔させるなんて


結局私は、「男」になれない。




私はその場に居るのが忍びなくなって


結奈を置き去りにすると


逃げるように屋上をあとにした。




何とも格好悪い幕引きだ。




とぼとぼと歩く。


夕暮れの通学路は切ない。



「あー…やば、つら」


本気の好きが、わかってもらえない。


それは、きっと今までの私が


女だということを


利用してきたからだ。



心の底では


男になりたい


そう思いながらも


女で居ることで


結奈と密接に関わっていた。



女同士で仲良くなったからこそ


男と女の友達ではありえないような


濃厚な触れ合いがあったんだ。



その濃厚な触れ合いに


脳みそが爆ぜ飛ぶような


甘い快感を得ていたのも確か。



私はずるい事をした



これはその罰。


そして、報い。




「……どうすればよかったんだよ……っ」



好きだと気付いた時に


気持ちを伝えていたら


「本気」と、わかってもらえたろうか。



いや、それでも結果は同じ。


私はきっと振られるんだろう。



「どうあっても、無理…ってことか」


GIDという障害を理解できない人には


私は所詮、女でしかないんだ。



突き上げるような悲しみが押し寄せて



私はたまらず、しゃがみ込む。



堪えろ、堪えろ

何度も自分に言い聞かせたけれど


目じりに浮かんだ涙は止められない。


重力のままポトポトと落ちる涙は


アスファルトを黒く濡らした。




「虎太郎……っ」


助けを求めようとスマホを取り出す。


だけど、騒動に巻き込まれ心を痛めて


学校すら出て来れない虎太郎を


困らせることは出来ない。



私はスマホを握りしめたままで


涙が枯れるまでそこに留まり続けた。








よくやく家に辿り着いたのは


もう十時を回った頃だった。



玄関で靴を脱いでいると


心配していたのか


母さんがリビングから顔を出す。



「あかね、心配したわ」


「別になんも無い」


「だって遅いから」


「私、もう高校生だよ、先輩らと集まりあればこんくらいの時間にはなるさ、心配しすぎ」


「そう?」


「そうだよ」


母さんは、身長が小さくて


緩いウェーブのかかった天然パーマ


大きいバストとヒップ


化粧だってしなかった日はないくらい


お洒落に気を遣う人だった。



女らしい体。


この影響をそのまま受けたのが私だ。



にこにこと笑う母さんを


壁に押し付けて


なんでこんな体に産んだんだ


何度もそう言っている夢を見る。



本当は一番、傷つけたくないくせに。




「ねえ、あかね、目が真っ赤じゃない」


「あー…」


やばい、見られた。


すっかり忘れてた。



私は僅かながら黙り込んで


必死に言い訳を探す。



まさか女の子に振られたなんて


言えない。



「あー…映画見てきたんだよ」


「映画?」


「そー、泣けるやつ!」


「えーいいなあ、お母さんもあかねと一緒に見たかったぁ」



こういう絡みつくような仕草


ふいに結奈を思い出す。




結奈を思えばまた涙が溢れそうで



私は母さんに


「あー、また今度ね」



永遠に来ないだろう「また今度」を武器にして


階段下の自室に入った。




「結奈……っ」



思い出しただけで


男がくすぐられるような


あの視線遣い、あの香り。



「俺の……もんにしたかったな」



叶わぬ願いをふいに口に出せば


やっぱり涙は零れ落ちる。



普通の男でも


失恋したらこんな風に泣くのかな。



それとも私の体が女だから


こんなに弱いのかな。



頭の中はぐちゃぐちゃだ。




「え、違うの?」


結奈の好きとは違う、そういった時の


結奈の顔つきが忘れられない。



凍りついた笑顔。



本気の好きは伝わっただろうけど



明日が……怖い。




「虎太郎みたいに、俺も明日休もうかな」



そんな言葉を投げ捨てて



私は大きなため息をついた。



寝転んだ布団。


すぐ側の窓からは


三日月が見えた。


その月明かりが妙に寂しくて



私の目からは音もなく涙が流れ



「ちくしょう…っ」


言葉にならない憤りを


呟きながら


枕を濡らし続けたのだった。







※※※

あかね編


次で完結予定っすー♪

ひとひら☘☽・2020-02-01
幸介
幸介/性と言う名の鳥籠
幸介による小さな物語
時間
本当の自分
あなたと私の物語
小説
物語
大好き
FTM
mtf
GID
男の子になりたい女の子
女の子になりたい男の子
告白
不登校
学生
青春
高校生
高校生活
放課後
雑誌
可愛い
笑顔
独り言
ポエム
心臓、跳ねた

【性と言う名の鳥籠】
虎太郎編⑤~虎太郎目線 ㊦



-Last episode-


「お前は男だ。女が好きだと思う。俺も男だ。今までは女が好きだった。でも今はお前が気になる。変態だと思われるかもしんないけど、仕草がすげえ可愛いと思う、タッパ俺よりでかいけど…本気で守りたいと思う。この一週間、ほんとに寂しかった。この一週間…死にそうだった」




これは、さっきの



夢の続きなの……?



涙が溢れる。




そして、紗季は告げた。



「びっくりさせてごめんな、でももうただの幼馴染みなんて嫌なんだよ」



私を真っ直ぐに見つめて


口をへの字に曲げて


少し潤んだ目で。




「お前に彼女出来るとか考えただけでズキズキすんだよ」




そして紗季はとうとう、



確信を


私がずっと言えずにいた想いを


はっきりと、告げた。





「俺はお前が好きなんだ」




もう、涙が止まらない。




「紗季ぃー……あー……」


おかしな声をあげて泣きじゃくる私に


紗季は今まで


見たこともないくらい戸惑っていた。




「な、泣くなよ、謝る!謝るから!邪な気持ち抱えたことは悪かったよ、なあコタ、ごめんな」



違う、違うんだよ紗季。


嬉しいんだよ紗季。



言葉にならない想いを


少しでも伝えたくて


紗季の制服の裾を小さくつまむ。



「コタ…?お前どうしちまったの?」


紗季は、やっと


私が嫌悪感で泣いているわけでないことを


わかってくれたみたい。



ためらいがちに


私の大きな背中に手のひらを置く。



拒絶されないことを確かめるように


ゆっくりと背中を撫でて


優しく、抱き締めてくれた。




やっと叶う?


叶うの?



気持ち、伝えても



いい?





男同士という想いを抱いての告白は


どんなにか怖かっただろう。


だからこそ、嬉しい。



その恐怖を乗り越えるだけの


価値が私にはあったんだと思えた。



今度は、俺の……ううん


私のことを知ってもらいたい。


どんなに恐くても


もう。逃げたくない。






「紗季……っ、俺、俺ね」



「うん」



「ほんとはね………っ」






「俺」は「私」なんだ


そう真実を伝えたら


紗季に好きと言われた私と同じくらい


あんぐりと口をあけて

驚いていたけれど


紗季はこっちが拍子抜けするくらい


意外とあっさり



「そうだったのか、辛かったろ?」


そう言って受け入れてくれた。




その上、



何故だかすごく嬉しそうに



私の手を握りしめる。




「不思議だな…。女だってわかった途端、こんなにでかい手なのに、か細く感じる」


でかい手、は余計だけど…紗季らしい。


思わず笑みが溢れると


目に溜まった涙も一緒に零れ落ちた。




私には紗季にもうひとつ


伝えなきゃいけないことがある。



私は深呼吸を何度も繰り返して


やっと、長年の想いを吐露しようと口を開いた。




「中途半端な、体だけど……っ、俺はちゃんと」



紗季が好き、伝えようとしたら紗季は



指先でちょんと私の唇に触れて言う。




「もう無理しなくていい、コタは女なんだろ、「私」でいいんだよ」



ああ


何も恐がる必要はなかった。


たとえ誰に受け入れてもらえなくても


幼い時からずっとそばに居てくれた


紗季を信じればよかったんだ。



紗季はいつ私が打ち明けても


きっとわかってくれた。



今更……そんなこと


しみじみ感じる。





目は酷く、腫れていると思う。


大造りな男の顔は可愛くなんてないだろう。


髭だってそのままだし


パジャマ姿で髪の毛だってきっと寝癖だらけ。


高い喉仏から発せられる声は


男のそれで間違いない。



夢のように理想の私じゃない。





だけど、伝えたい。



ちぐはぐな性という鳥かごに


苦しみながらも


紗季を一途に愛したんだという事。



私は口を開く。



飛びっきりの笑顔を向けた。




「私は、紗季が好き」





その瞬間、私はやっと


紗季にきつく抱き締められる幸せを得た。





性と言う名の鳥籠⑤

虎太郎目線~Last episode



-了-







------------------------------------

5回に及ぶ虎太郎編


ようやく完結です。


長い間、お疲れ様でした


(*´ω`*)




この後の後日談と


少し未来の4人のお話を


あかね編が完結したあとで


書く予定ではありますので


もうしばらくお待ちください。




この話はとてもとても


俺の中で大事に


大事に書いてきたお話です。



虎太郎は女の子になりたい男の子で


自分の体を嫌っていますが


同じような性に悩む人に


心の性別が体の性別に


成り代わることが


出来るのだということを


知って欲しかった。


そして性同一性障害に対し


最近ではメディアの介入で


だいぶ寛容な人達が増えていますが


やっぱりまだ理解は不十分です。



その人たちにも


知って欲しかった。



男の人が好きな女の人がいる。


女の人が好きな男の人がいる。


性別のちぐはぐな人がいる。


男の人が好きな男の人も


女の人が好きな女の人もいる。


男の人も女の人も愛せる人がいる。




怖いと思わないでください。


誰彼構わず好きになるわけじゃないんです。


みんなと一緒です。


ひとつの想いを大切にしている、


一人の人間なんです。




( ゚∀ ゚)ハッ!


あとがき長くなりましたが


読んでくれた方々に感謝します♪̆̈



あかね編もどうかお楽しみに!

ひとひら☘☽・2020-01-28
幸介
幸介による小さな物語
幸介/性と言う名の鳥籠
GID
MTF
FTM
性同一性障害
最終話
不登校
いじめ
分かち合い
女性
男性
ちぐはぐ
男の子になりたい女の子
女の子になりたい男の子
可愛くない
小説
独り言
ポエム
ベッド
別れ
破局
隔たり
疲れた
3つの宝物
想い
好き
片想い
恋人
あなたと私の物語
理想の自分
理想
可愛い女の子
本当の自分
告白
あとがき
物語


【性と言う名の鳥籠】
虎太郎編④前編~虎太郎目線





「なー、明日朝練ないんだ、一緒に学校いこーぜ」



「うん」



紗季とそんな約束をした翌日のこと



クラスに足を踏み入れたら



そこは昨日までの心地いい教室ではなかった。




ガヤガヤという喧騒の中で



ひそひそ、くすくす



奇異なる目が私に向けられる。



気が…遠くなった。



私は今…何を見ているんだろう。




黒板の大きな相合傘。



片方には「虎太郎」……私の名前。



もう片方には…紗季の名前。




一体……どうして?



必死に隠してきた想いが露呈した。





「ねえー、何これー?」


「何、お前ら出来てんの?」



クラスメイトが嘲笑しながら


私たちに話しかける。



わ、らわなきゃ。


笑い飛ばさなきゃ。


早く……


おかしく思われる。





でも、どうやって


笑ったらいいの?




紗季はどんな顔してる…?




すぐ隣に感じる温もりを


見つめることが恐かった。




何も言えずに俯いた私に


ヘラヘラと笑った2人組の男子の


とどめの一言が飛んできた。



「まさかマジかよ」


「コタ&サキへんったーーい」




目の前が、暗い。


体から血の気が引いていく。


指先が冷たい…。




「お、俺……ちょっ、とトイレ」


一番、ベタで疑いが確信に変わるような


はぐらかし方をして私は教室を飛び出した。



やばい、どうしよ


終わった


終わっちゃった


きっと私の気持ちが


クラスメイトの誰かにバレたんだ


紗季に迷惑をかけた





どうしよう


どうしよう



頭が正常に回らない。



涙ばかりがこぼれ落ちる。




「う……」


必死に声を押しころして


心の中で紗季の名を何度も呼んだ。




その時


「おい、コタ」


背から紗季の声が聴こえる。



ぴくんと反応した私の体は


硬直したように動かなくなった。



紗季は私の肩を叩く。



「小学生でもあるまいし、なあ!馬鹿馬鹿しいったらよ。俺とコタが?なにあれ」



無理に笑いながら、紗季は私に言う。





私は小さい頃、心の中の女を隠しきれずに


小さないじめにあったこともあったけれど


紗季は真っ当な男子だった。



友達と外で遊ぶことも好きだし


多少適当なところをのぞけば


人あたりのいい性格だ。



…クラスメートから


あんなこと…言われて


動揺しない人なんていない。




震える声から


紗季の動揺が痛いほど伝わって


馬鹿馬鹿しい、その言葉に傷ついた。





ねえ、紗季


「俺」は、本当は「私」なんだよ。


本当は紗季が大好きなんだよ。




伝えられない想いを噛んで私は言い放つ。





「もうさ、一緒にいるのやめない?」


「え…、なんでだよ」


「こんな噂まで立つんだよ、男同士でこんな疑惑立ったら彼女出来ないじゃん。普通に嫌だよね」


「気に、しなきゃいーじゃん」



戸惑った紗季の声。



心が痛いけど……


「幼なじみっていったって何時までも一緒ってわけにはいかないし、何より俺が気になる。しばらく近付かないで。お願い」




私となんか一緒にいるべきじゃない。



紗季は正常なんだから。



異常な私なんかが側にいちゃいけないんだ。




「待て、待てって、コタ!虎太郎!」



何度も私の肩を掴む紗季の手を


とうとう私は振り切って、保健室に逃げ込んだ。




具合が悪い…、そういう事にして


白いカーテンが揺れる保健室のベッド


布団を頭から被り


親指を噛むと私は涙を零し続けた。



すすり泣きすら漏れないように


ぐっと息までひそめて泣いた。





紗季……好きだよ


紗季……ごめんね


私……普通じゃなくてごめん


普通の男友達じゃなくてごめん


好きで……ごめんね



好きとごめん


入り混ざった想いで


心も頭もぐじゃぐじゃだった。

ひとひら☘☽・2020-01-15
幸介
幸介による小さな物語
幸介/性と言う名の鳥籠
トランスセクシュアル
性同一性障害
GID
FTM
MTF
学生
高校生
性別
向き合う
別れ
彼女
彼氏
片想い
男同士
物語
小説
独り言
ポエム
叶わぬ恋
言えない
関係
女の子
男の子
本当の自分
心臓、跳ねた
いじめ

【性と言う名の鳥籠】
あかね編⑤~あかね目線㊦

-Last episode-



「ま、ま、って、あかね、も、走れな…」



無我夢中で駆け抜け


校舎裏まで来た時


私は結奈の声で我に返った。




元といっても陸上部。


普段から運動不足な結奈に


私の全力疾走はきつかったようだ。



「ご、ごめんっ」


足を止めると同時に私は


結奈の腕を掴んでいた手を


離そうと力を緩めた。



すると結奈は乱れた息を整えながら


私の手を握り直す。



「私……っ、手まで、離してなんて、言ってな…いよっ」

「ご、ごめん」


勢いで結奈の細い手のひらが

折れそうなほど握り返したけれど


この状況を

まだ私は理解出来ていなかった。



結奈は泣いていた。


ぼろぼろ涙を零して泣いていた。


「ゆ、結奈…どうして泣くんだよ」


「だって、悔しい……っ」


袖で一生懸命


涙を拭いながら


結奈は告げる。



「あかねの事まで馬鹿にされたっ、あかねは何にも悪くないのに。あかねは普通に男の子なのにっ」


やっぱり夢じゃない。


私が男だって、結奈はそう言ってる。



「結奈…いつから……?」


「え…?」


「いつから私のこと男だって…」



結奈は涙を拭いきると

うつむき加減で呟いた。


「…少し前、踊り場で。あかねと鈴木くんが話してたの、偶然聞いちゃったんだ」


「それ、ずいぶん…前じゃん」


「うん、黙っててごめんね」


頭を下げて謝る結奈に


私は首を振った。



結奈は、やっぱり知ってたんだ。


ひた隠しにしてきた私の性の悩みを


知っていて、黙っていてくれて


見守ってくれていた。


その上、私に


笑顔を向けてくれてたんだ。






涙が抑えられない。


お前、男なんだから泣くな


そう自分に戒めても無理だ。



結奈はこんなにも優しい。


どうしよう


溢れ出したら涙が止まらない。


かっこわるくて仕方ない。



「え、ごめ!ほんとごめんね、あかね…泣かないで」

「違う、違うよ……謝らなくて、いい」



そう言いながら私は


すぐさま涙を隠そうと


腕でガードしたけれど


結奈はこじ開けようと


私の腕に手をかける。



「ちょ、やめてよ…泣いてるからっ」


「私だって泣いたじゃんー…私の涙見たのにずるいー、あかねは泣いてるとこ見られるの嫌なの?」


「ふ、普通に……嫌だよっ、恥ずかしいっ」


「んー…じゃあ、えぃ」



結奈は私の気持ちを汲むと


今度は私の身体を抱き締めた。


そして、こどもをあやす様に


「よしよし、大丈夫だよー」


と、優しい声をあげる。



「やめっ、誰かに見られたらっ」


突き放そうにも


結奈の力は意外にも強い。


じたばたと暴れ始めた私に


結奈は言った。



「私は……気にならないよー…?」



傍から見たら「女同士」


女同士で抱き合う事に


なんの躊躇いもないなんて。


冷静に状況を読む頭とは裏腹に


心は安らいでいく。



夢にまで見た、


全身を包む結奈の温もりだ。



ずっと包まれたいと思っていた。



ドキドキして


興奮して


何より落ち着いた…。



ぐずっと鼻をすすって


私は結奈に語りかける。




「結奈……私のこと…どう思ってたの?」


「うん?どゆこと?」


これじゃあ駄目か。


結奈の頭上に

クエッションマークが


並んで見えた。



結奈には直球でないと伝わらない。



「私が男って、知った時どう思った……?」


「私、調べたよいっぱい、でも私、馬鹿だから全然分かんなかった」


ちゃっかり背中に回した手のひらが感じる。


結奈の笑顔。



「でもね」


結奈は続けた。



「ずっと私を守ってくれたあかねは女の子じゃなくて男の子なんだ、って思ったら、好きにならないわけないよねー」


「好きって…恋愛感情?」


「そーだよ、でもあかねは違うんだよね…」


「…は?」


そんなわけない。


私を抱き締めていた結奈を

引き離して見つめ合う。



結奈は、あの時の


泣き出しそうな顔をしてた。


【私が結奈を思う好きと、結奈が私を思う好きは違うよ】

私がそう告げた時の…。



「あ……」


ようやく、合点がいく。


同じ気持ちだったのに

私が捻くれて結奈の想いを否定したんだ。



結奈は潤んだ視線を


一心に私に注ぎながら伝えた。



「だからあたしね…っ、あかねに好きになってもらえるように頑張ることにしたっ!だからね、もしうざかったりしたら遠慮なく言…」



結奈は、前向きだ。


私の勘違いで、傷つけたのに


好きになってもらうことを諦めない。




それに比べて私は…


俺は、意気地無しだ。



しっかりしろ


男だろ


女の子に言わせて


どうすんだよ



私は心の中の自分の頬を張り、


結奈を勢いに任せて


きつく抱き締めた。



「あ…かね?」


「ちがうんだ、結奈…。わた……俺はっ、男として結奈が好きだ」




張り裂けそうな心臓。



足の先から頭のてっぺんまで

身体中に通う血液が

蒸発するような熱さを感じた。




結奈は私の一世一代の告白に、笑う。




「何で…笑う?何かまずかった?」



不安になって腕の中の結奈に尋ねた。


結奈は小さく首を振って、囁く。



「あかねの、俺、初めて聞いた」


「変、かな?」


「ううん、かっこよくて、心臓ぴょーんって跳ねた!」



…可愛くて、たまんない。



私は今まで我慢を重ねた分


ありったけの想いを込めて


「好きだよ結奈」


更に結奈を抱き締める。



「えへへ、私もあかね大好き」


くぐもる様な結奈の声。


柔らかい体を肌で感じた。



やっと報われた想い。

なんて幸せなんだろう。


余韻に浸る。


そこに言葉なんか必要なかった。



ただ、愛しくて抱き締めれば


きゅっと可愛く抱き返してくれた。


愛しさが吐いて捨てるほど


湧き上がってくる。




「ねえ、あかね」


ふいに、結奈が名を呼ぶ。


「…ん?」


「あかねが男の子でよかった」


「身体は…女だよ」


そう苦笑すると


結奈は私の腕の中で


んーーー、と長く唸ったあとで


「あ、ほらほらあれだよ」


こう言葉にした。




「一粒でニ度美味しー男!」

「なんだ、それ」


私は、噴き出して笑った。



常にポジティブな結奈の前では


私が長い間、悩んできた、


「鳥籠」のような性は通用しない。


あんなに悩んできたのに


結奈の想いに触れたら


そんな自分が


馬鹿馬鹿しくさえ思える。




「最初からあかねにしとくんだったー。高校生活ちょっと無駄にしたー」




そう言って口を尖らせる結奈は


きっと「俺」を好きになった。


心を好きになってくれた。





トランスセクシュアルの俺たちは


「鳥籠」の中でいつも悩んでる。



世間一般の、常識に。


男と女の在り方に。


理想の自分の姿に。


一致しない心と身体に。



死にたいくらいの願望が


今の「自分」を


ありのままの自分を


認めさせてくれない。



だけど、


生まれ持ったものは仕方がない。



きっと多数派の女の子が


もう少し胸が欲しいとか


きっと多数派の男の子が


もう少し身長が欲しいのと同じこと。



俺はたまたま心と体が


チグハグだっただけなんだ。




でも俺は結奈のおかげで気がついた。



鳥籠を抜け出してみたら


そこに居るのは


みんな何も変わらない


ただの「ひと」なんだ。



結奈はきっと


「俺」を好きになった。


心を好きになった。


「俺」という一人の人間を


好きになってくれた。





自信を持とう。


両親にも友達にも


いつか胸を張って


「俺」は男です


そう言えるように


今は強くなろうか。




この先ずっと


結奈を守っていけるように


でかい男になろう。




だから、今、


一歩前へ


自力で進む。



「結奈」


私は腕の中にいた結奈を


ゆっくりと引き離して


結奈を見つめ、言った。





「俺と、付き合ってくれないか?」



結奈は


「やった!」


にっこりと微笑んで


頬に小さなKissをくれた。




積極的な結奈に


俺はたじろいでそっぽを向いた。



今日は本当に天気がいい。



校舎裏から見た四角い空は


俺の心と同じ、晴天だ。






お・し・ま・い♪






あかね編も終了です。



後日談などありますが


短くなると思うので


一応これで締めくくり。


長い間、性と言う名の鳥籠を


読んでくださった方


ありがとうございました



虎太郎もあかねも


これからも色々な壁にぶち当たって


その度に悩んで泣いて


辛くて、苦しい


そんな想いも沢山あるでしょう。



でもそこには紗季や結奈がいるから


立ち上がり挑み、乗り越えて


幸せだねって笑えるはずです。



虎太郎編の最終話の時も書いたので


ここでは多くは語りませんが


俺の伝えたかった事が


皆さんの心の中に


少しでも届いたら


俺はそれだけで幸せです


(*´ω`*)



幸介

ひとひら☘☽・2020-02-05
幸介
幸介/性と言う名の鳥籠
幸介による小さな物語
時間
本当の自分
あなたと私の物語
小説
物語
大好き
FTM
mtf
GID
男の子になりたい女の子
女の子になりたい男の子
告白
不登校
学生
青春
高校生
高校生活
放課後
雑誌
可愛い
笑顔
独り言
ポエム
心臓、跳ねた
完結編
未来の恋の行方
自分

【性と言う名の鳥籠】
あかね編③~あかね目線






「虎太郎ーーー」


LINEを送る。


既読になってしばらく待っても


一向に返信が来ない。



「既読無視かよっ」



そう入れると


「(๑o̴̶̷᷄﹏o̴̶̷̥᷅๑)」


その顔文字だけが入ってきた。



私はため息をつく。




虎太郎が


学校に出てこなくなってもう四日だ。


騒ぎを聞いたのは三日前


二時間目の業間だった。



クラスメートが


はしゃいだような素振りで


話しているところをみた。




「ねえねえ聞いた!?一組の鈴木虎太郎と雫紗季って出来てるらしいよ」

「え、まじ?どゆこと」

「ねー、ほんとにそういうのあるんだね」

「てか美紀は?雫くんと付き合ってたんじゃないの?」

「実は男好きだったんじゃない?」

「うわ、悲惨、男に寝とられたって?」

「かもよー、美紀可哀想ー」

「男同士で好き合っちゃうのもなんかさー…ノーマルじゃなくて可哀想だよね」




平気な顔をして通り過ぎたけど


心臓が張り裂けそうだった。



人の事情に土足で踏み込んで


面白おかしく噂に加担する人間は


誰のことも可哀想とも思っていないだろう。



ただ人を「可哀想」と思える自分に


酔ってるこいつらが「可哀想」なだけだ。



そもそも、虎太郎は男じゃない。


女なんだ。


お前らより心が綺麗な女だぞ。


叫びたかった。






すぐに虎太郎にLINEを送ってみたけれど

その日は既読にもならなかった。




虎太郎と話したい。


私なら、気持ちがわかるはずなんだ。


私だって男になりたいだとか


結奈の事が好きだとか


他の人間に知られたら


生きていけないくらい落ち込む…。



虎太郎は今どれほど


辛いことだろう…。




虎太郎…


返信のないスマホ画面が


スリープする…。



「ちくしょう」


私は大きな息をついて


机に突っ伏した。





その時だ。


「あーーかーーねっ」


ぎゅっと後ろから抱きつかれた。




ふわっと甘くエキゾチックな香り。



すぐに分かる。


私の大好きな結奈の香りだ。





「結奈!びっくりするじゃん」


「へへへー、何してるの?」



無防備にくっつく結奈の胸が私の腕に当たる。



やばい、心臓が跳ね上がる。



結奈の裸が瞬時に頭の中を駆け巡った。



必死に脳内モードを切り替える。




「あの、あー、と、虎太郎の、ことさ考えてた」


「あー…鈴木くん今、学校来てないんでしょ?」


「うん…」


「鈴木くんとあかね、仲良いもんね」


「…まあね」




仲良いもんね


そう言われて、一瞬戸惑った。


私も、同じだと思われたら…


その想いが先にたってしまう。



友達だって誓い合ったのに。



私だって最低な人間の部類じゃないか。





ぎりっと唇を噛むと


結奈が落ち込んだ私に気が付いて


私を覗き込み、すこぶる不機嫌そうだ。




「な、なに?」


「ねー、あかねってさぁ…鈴木くんが好きなの?」


「は!?え?ない、ないないない」




虎太郎と私は言わば同志だ。


いくら


ちぐはぐな性別を一致させたら


今の体の性別が逆になって


あいつは女、私は男だったとしても


虎太郎が好きだなんて。





そんな風に見えるのかな。



私がじっと結奈の顔を見ると


結奈はほっとしたような表情で


胸を撫で下ろした。




「そーだよね!びっくりした!」


「なんでびっくりするのさ」


「んーなんでだろ…あ、ねえねえ、それよりこれ見て」




ジャーン!と大袈裟に言いながら


結奈が後ろから取り出したのは


ティーンエイジャー向けの雑誌だった。




パラパラと雑誌をめくりながら



「ねー、あたし、どんな髪型が合うと思う?」


「あたし、どんな服装似合う?」



と、結奈は私にしきりに聞いた。



そしてあげくには


「ねえ、あかねはどんな女の子が可愛いと思うの?」


なんて上目遣い。




心臓がもたない…。



最近、こんな事が頻繁だ。



ちょうど結奈が


馬鹿男と別れたあたりからだから


きっと情緒不安定なんだろう。





「ゆ、結奈はさ、どんなことしたって結奈だよ」



「えー?ちょっとでもかわいくなりたいじゃん」



「結奈はどんな格好しても可愛いよ」



「……え?」



結奈の顔が紅くなっていく。


な、なんなんだ、その反応…



調子が、狂う。


ふと窓に映った自分の顔も、紅潮していた。


恥ずかしい。



「や、やだ、急に可愛いとか、恥ずかしーじゃんっ」


「あ、ごめん」


「ううんー、へへ、うれしっ」



結奈は私の大好きな笑顔をつくる。


無防備に笑われると、


私の中の男心が首をもたげた。




結奈が髪をかきあげるその手を掴んで


その心ごと“俺のもの”にしてしまいたい。



この唇にキスしたい。



その胸に、この手で触れてみたい。




衝動をとめるのも、一苦労だ。





結奈みたいに天真爛漫で天然で


少しだけ弱くて守りたくなるような


そんな女、他の男が放っておくはずがない。




また直ぐに新しい彼氏が出来る。




そうしたら私はまた傷つくんだろう。




そう思うと心臓が


鷲掴みにされたように痛い。



たまらず自分を戒めるために聞いた。





「結奈……あのさ」


「ん?」


「新しい男、まだ出来ないわけ?」


「んー…それがねぇ」


「うん」


「しばらくいっかなあ、って」



意外な言葉が返ってきて思わず息を飲んだ。



「…なんで?」


「え。だって私にはあかねがいるし」


「は?」


「え。迷惑?」


「いや。迷惑とかは、ない、けど」


「よかった!」



安堵して微笑む結奈は、また私に抱きついた。



もしかして


もしかしたら



浅はかな期待を胸に抱く。




虎太郎は


もし私が結奈に告白したって言ったら


自分も後に続けと思ってくれるかな。



こんなところで諦められないと


思ってくれるかな。



また、学校出てきてくれるかな。






これは神様がくれた、チャンスかもしれない。





虎太郎を立ち直らせる為の



そして、私を本当の「俺」にする為の。



いや。やめよう


ううん、でも。



そんな葛藤の中、頭一つ分


低いところにいる結奈を見下げる。




私の視線に気がついて


結奈は私を見上げた。




視線と視線が


キスをするようにぶつかった。



朗読をする時


1、2、3、句読点に休むよりも長く


結奈と私の目が合う。




やがて結奈は徐々に顔を紅くして


へへへと、可愛らしく笑んだ。





その笑顔を見た瞬間、私は決めた。





私は「俺」になろう。



勇気を出すんだ。




俺は、結奈が好きだ



そう、伝えよう。



例えどんな結末になろうと


後悔しない選択をするんだ。




こんなに可愛い結奈を



もう、誰のものにもしたくないだろう。



もう。誰にも泣かされたくないだろう。



だったら心を決めろ、俺。




本当はずっとこの手で



幸せにしてやりたかったんだろ。




何度も言い聞かせて私は



「結奈、放課後…時間ある?」




そう、結奈に伝えた。





つ、づ、く♪̆̈

ひとひら☘☽・2020-01-21
幸介
幸介/性と言う名の鳥籠
幸介による小さな物語
時間
本当の自分
あなたと私の物語
小説
物語
大好き
FTM
mtf
GID
男の子になりたい女の子
女の子になりたい男の子
告白
不登校
学生
青春
高校生
高校生活
放課後
雑誌
可愛い
笑顔
独り言
ポエム

【性と言う名の鳥籠】
虎太郎編⑤~虎太郎目線 ㊥



-Last episode-




「な、なんで!?」


「おっ…と」


突然、開いたドアに


身をひいた紗季と目が合う。



幼馴染みとして育った。


物心ついた時から


一緒にいた。


幼稚園も小学校も中学校も高校も


ずっと一緒だった。



1週間も会わなかったことはない。



久しぶりに見る紗季の顔は


ほんの少し、やつれたように見える。




「コタ、やっと会えた」


照れくさそうに笑う紗季がいた。



「話したいから、中、入ってもいい?」


カーテンが締め切られた、


真っ暗な私の部屋を指差して


紗季は鼻の頭をかく。



その表情は安堵に満ちていた。


こんな顔されたら


断るわけにいかないじゃない。



「…いいよ」


私は部屋の入口に立ち塞がっていた身体を


少しだけ、ずらす。



紗季が部屋に入る。


ふわっと鼻をくすぐった紗季の匂い。


なんだか、たまらなく、恥ずかしい。



勝手に紅潮していく頬。



紗季に悟られる前に


僅かでも平常に戻そうと


紗季の後を歩きながら


熱い顔を両手で包んだ。





紗季は当たり前のように


私のベッドの枠に背中を預けて座る。



私の部屋に来た時の


いつもの紗季の居場所だった。




私は、机の椅子へと腰をおろす。


目の前の鏡に私のパジャマ姿が映し出された。




そういえば、パジャマのままだ。


お母さんが買ってきた、青の。


こんな色、本当は嫌い。


ピンクがいい。


紗季の前でパジャマ姿も恥ずかしいけれど


男、という枠組みにはまる自分も許せなかった。



きっと私は


苦虫を潰したような顔をしていたんだろう。



「コタ?」


我に返ると心配そうに


私の様子を窺う紗季がいた。



「ううん、なんでもない。ごめんね、こんな格好で」


「いや、仮病だろ、パジャマぐらい着とけ」



いつもの調子で笑う紗季に、心底ほっとする。


私は紗季につられて


1週間ぶりにやっと笑うことができた。




「それで、原田と別れたって…?」


「あー、うん」


「なんで?」


「ちょっと思うところあって」



紗季はそう、言葉を濁す。


私にはきっと、言い難いことなんだろう。



その心の内を読んで黙り込むと


紗季はあぐらをかいた足に


頭を寄せた。




「ごめん!」


突然、謝られて訳も分からず聞き返す。



「え?何?何で紗季が謝るの」



謝らなきゃならないのは


私の方なのに。



私のせいで紗季まで…


そう思った矢先、頭を下げ続ける紗季から


思いがけない言葉が飛んできた。





「黒板の相合傘、美紀の仕業だった」


「え…、なんで」


「俺が振った腹いせで」



驚いたけれどすぐに合点がいった。



あのルーズリーフも



私の靴箱に入れたのはきっと原田だ。



だから声をかけたあの時


あんなに焦っていたんだろう。



だけど、それでも腑に落ちない事がある。



「紗季に振られた腹いせであんなこと…するの?俺、原田の機嫌損ねるようなこと何か……」


「コタのせいじゃ…ない」



紗季はそれっきり、黙り込む。


沈黙が重い。


一体、どうしたっていうんだろう。




紗季は深呼吸を何度か繰り返す。



私にまで緊張が伝わってくるようで


落ち着かない…。



やがて紗季は私に告げた。





「俺が別れる時に、言い方悪かったつーか」


「言い方?」


「あー、でも、この言い方もあれか。本当のこと言っただけだし」


「本当のこと?」


いまいち要領を得ない紗季の顔を


私が覗き込むと、その瞬間


紗季の目に光が宿った気がした。



ドキッと一度高鳴った鼓動は


もう止められない。



切れ長なのに


瞳の大きい紗季の目に


吸い込まれそうだ。




「な、なに?」



「俺」



「うん」



「美紀に、コタが好きだって言って別れた」















え……?












なんて言った……?




私が、好きって



嘘…聞き間違い……?





言葉にならない。


唖然と口を開いた。


挙動不審に目が動き出す。




私の様子をしげしげと見ていた紗季は


私が嫌悪感を抱いているとでも


勘違いしたんだろう。



必死に想いを伝えてくれた。

ひとひら☘☽・2020-01-28
幸介
幸介による小さな物語
幸介/性と言う名の鳥籠
GID
MTF
FTM
性同一性障害
最終話
不登校
いじめ
分かち合い
女性
男性
ちぐはぐ
男の子になりたい女の子
女の子になりたい男の子
可愛くない
小説
独り言
ポエム
ベッド
別れ
破局
隔たり
疲れた
3つの宝物
想い
好き
片想い
恋人
あなたと私の物語
理想の自分
理想
可愛い女の子
本当の自分
告白

【性と言う名の鳥籠】
虎太郎編⑤~虎太郎目線㊤



-Last episode-




「虎太郎、学校、何時まで休む気なの?」

「……」

「もう7日よ、どうする気?何があったの」

「別にずる休みじゃないもん…」

「それならそれで病院行かなきゃならないでしょ」

「頭痛いだけだってばっ」

「それくらいなら学校行けるでしょ?」



上手く伝えられない。


考えてみれば当たり前だ。


私がお母さんにかける言葉は全て


「嘘」と等しい。


自分の一人称すら、まやかしだ。



お母さんにもし


「俺」は「私」なんだって話せていたら


靴箱に入っていたあの殴り書きの手紙の事も


相談できただろうか。




ううん



出来っこないよ……。


お母さんが傷つくもん。


思いを深めるほど、悲しみは溢れ出す。





「もう俺のことは放っておいてよっ!」



とうとう私は心配するお母さんに


苛立って声を捨てた。




「虎太郎…今日も紗季くん待っててくれてるのよ」


「…っ」


紗季…その名前を聴いただけで涙が浮かぶ。


会いたい。


会いたい。


でも


会いたくない。


会えない。



諦めたお母さんが


階段を降りていく気配を感じながら


私は布団をかぶって


パジャマの袖で涙を拭った。



スマホが鳴り画面が光る。


LINEだ。


何度も鳴る小刻みな音に


思わずポップアップを見ると


次々にメッセージが表示されている。




「コタ、学校出てこいよ」


「この間のこと気にしてんなら」


「もう誰もなんも言ってねえよ」


「俺も何も気にしねえし」


「コタも気にするな」


「コタがいねえと学校灰色笑」



しばらくの間。


紗季はきっと待ってるんだ。


放置された沢山の言葉


未読のLINEが既読になるのを。


LINE画面


紗季の名前、タップしようと思い悩む


親指が戸惑っては動きを止める。




「…俺、お前がいないと寂しいわ」



寂しいなんてそんな言葉反則。


心臓が抉られ、決心が揺らぐ。



『 俺とはいない方がいい』



確かにそう思ったし


確かに紗季にはそう伝えたのに


涙を零しながら


紗季とのトーク画面を開こうとしたけれど


あの日のクラスメートの言葉と


ルーズリーフの、赤文字。



男同士


変態


異常者



心無い言葉に当てこまれた私は


すっかり自信をなくし


自分がわからなくなっていた。





「学校……やめたい」


口にする想いは本音だろうか。


紗季がいない場所はきっとつまらない。



「独りでどこか遠くに行きたいな」


独りでなんて本当は嘘。



頭の中では紗季が笑ってるくせに。



痛む心を抱えたまま、


不眠気味の私はいつの間にか


夢の中へ誘われ、


ふわふわと舞うように


眠りへと落ちていった。






深い眠りの底で、夢を見た。


光の中で紗季が手を差し伸べている。


私はその手を迷わずとった。




「コタ、綺麗だよ」


魔法の言葉がかけられる。


するとどうだろう。



「俺」の真っ平らな胸は


ふっくらと膨らんで



死ぬほど嫌だった髭も


喉仏もなくなった。



コンプレックスの長身も


ありえないくらい小さくなって


あっという間に紗季を


見上げられる可愛い女の子になれた。



淡いピンク色の


可愛いワンピースの裾を


はたはたとはためかせて


つばの広い帽子を被っている。




「紗季」


高く細い声が


私の口から零れ落ちる。




夢にまで見た、


なりたかった「私」だ。



「コタ、可愛い」


紗季はそう言って


私を抱き締める…



今こそ


素直になれる


好き、やっと言える。



そこで目が覚めた。



幸せすぎる夢の余韻。



胸の膨らみはなくなり


朝には剃ったはずの髭も


不精に伸びていた。


喉に触れると喉仏の骨が出っ張っている。




「……「俺」だ……」



嘘をつき続けて生きる、「俺」だ。



何一つ、進まない現実に


夢の中で伸ばした指先が震える。




「も、疲れた…っ」


涙が浮かんでは零れ始める


その時だった。




インターホンがなったかと思うと



「失礼しますっ」



聞き覚えのある声。



聞き間違えるわけが無い。



紗季だ。




「ちょっと紗季くん!」


お母さんの言葉と共に


バタバタと階段を駆け昇る音がして


やがていっときの間ののち


戸惑いがちな紗季の声が


ドアの向こうから聞こえた。





「コタ…」


声が出ない。



私はベッドの上で体を小さく丸めた。




「コタ…起きてるか?」


「……帰ってよ」


「どうして」


「もう関わらないって言った…じゃん」


紗季は大きく息をついて、疲れた声を絞り出す。



「ここ…開けてくんね?」


「やだったら!」


今の私は

拗ねてわがまま言いまくる子どもみたい。


自分でも思う。


私、可愛くない…。


こんなだから神様は


私にちゃんとした体を


くれなかったのかもしれない。



そう考えたら


胸が苦しくなった。




「しかたないな、このまま話すから聞いてほしい」



ドア一枚隔てた向こうの


紗季の低い声が耳に響く。




「俺さ、美紀と別れたんだ」





は……



え?



別れた……?




唐突に突きつけられた事実


一瞬、頭がついてこない。



理解した瞬間


私はベッドを飛び抜けて


ドアを縋り開けていた。

ひとひら☘☽・2020-01-28
幸介
幸介による小さな物語
幸介/性と言う名の鳥籠
GID
MTF
FTM
性同一性障害
最終話
不登校
いじめ
分かち合い
女性
男性
ちぐはぐ
男の子になりたい女の子
女の子になりたい男の子
可愛くない
小説
独り言
ポエム
ベッド
別れ
破局
隔たり
疲れた
3つの宝物
想い
好き
片想い
恋人
あなたと私の物語
理想の自分
理想
可愛い女の子
本当の自分

【性と言う名の鳥籠】
あかね編⑤~あかね目線㊤

-Last episode-



「お母さん、あのさー…」

「あら、あかねおはよう」

「今日さー…」

「うん、だめよ」

「え、まだ何も言ってないじゃん」

「ず・る・や・す・みはダメよ」



朝から


ハイテンションのりのりな母さんに


ズル休みを交渉する気も消え失せて


私は学校へ向かう支度を始めた。




「行ってきます」


「あかね、待って待って」


「んー?」


母さんはエプロンで手を拭きながら

玄関に走ってきたかと思うと

私の前に立ち

太極拳のようなポーズで


「はぁーーーーーー!!!!」


と、地を這うような声を出す。


「な、何!?」


「頑張る気、送ったから!これで大丈夫!」


母さんは無邪気に笑うと


私に手を振った。


母さんなりの心配の形なんだろう。


たまに少しウザイけど…


どんなに落ち込んだ日も

クスッと笑わせてくれる。


これは


感謝しなくちゃならない。



それでも素直に「ありがとう」


そう言う事が照れくさくて


「そりゃどーも。じゃね」


私は後ろ手を振り


家を後にした。





外は嫌味かと思う程にいい天気だ。




それに比べて私の心は沈んでいる。



結奈とどんな顔して会えばいいんだ。



昨日、屋上にひとり

置いてけぼりにしてきたことを

今更、後悔してる。


好きの取り間違いが


どんなにショックだったからといって


夕方、好きな女をひとりで


帰すようなことするなんて


やっぱり私には覚悟が足りない。



中途半端な男だ。




「はぁ…結奈、ごめんな」


そう呟いた時だった。


「何がごめんなのー?」


後ろから突然、かけられた声。


「うわあっ」


わざとらしい程


驚いて振り向けば、そこには


いつもと変わらない結奈がいた。



くるんとした目で、

私を覗き込む。



「おーはよ、あかね」


「あ、ああ、おはよう」


「一緒に学校行ってもいい?」


「え…うん、いいよ」


「よかった…!」


結奈は胸をなでおろすと

いつも通り、私の腕に絡みついて

学校への道を歩み出す。



男として結奈のことが


「好き」だと伝えたつもりだ。


結奈のあの時の


凍りついた笑顔。


今にも涙を落としそうな目。



絶対引かれたと思ったのに


一体どういうことなんだろう。



登校中の結奈は


終始笑顔だった。


お喋りが止まらない。


「あのね、あのね」


「聞いて、聞いて」



たくさん話しかけられる。


いつもより遥かに多く。


私に気を遣っているのかな。



そう思えばなんだか申し訳なくて


私の表情は曇っていった。

ひとひら☘☽・2020-02-05
幸介
幸介/性と言う名の鳥籠
幸介による小さな物語
時間
本当の自分
あなたと私の物語
小説
物語
大好き
FTM
mtf
GID
男の子になりたい女の子
女の子になりたい男の子
告白
不登校
学生
青春
高校生
高校生活
放課後
雑誌
可愛い
笑顔
独り言
ポエム
心臓、跳ねた
完結編
未来の恋の行方
自分
すれ違い
片想い

他に21作品あります

アプリでもっとみる

その他のポエム

独り言
1038775件

ほっと一息
3394件

トーク募集
91587件

自己紹介
100287件

ポエム
557674件

辛い
192577件

好きな人
332756件

失恋
111119件

片想い
234641件

463939件

恋愛
205009件

45053件

片思い
189343件

死にたい
101631件

苦しい
63438件

消えたい
34483件

61652件

先輩
59995件

疲れた
25360件

友達
69418件

未練
5579件

すべてのタグ