『お姉ちゃんの背を越せたら』
『結婚して欲しいの』
『私より高くなったらね笑』
『約束だよ?』
『うん、約束ね__』
#いつか追い越す背丈
人は誰かを愛することに
理由を欲しがる。
これも
〝愛〟に言い訳をする
二人の少女のお話。
『速報です。今日の感染者は約128人でした。』
『最近多いですね。〝眠り姫症候群〟』
『いつか世界の全ての人が眠りについてしまうのではと心配になります』
「ゆうー、テレビ見た?」
「見た見た!」
「すごいよね、」
「「眠り姫症候群」」
「あれって原因不明の流行病なんでしょ?」
「んー、でも眠り続けるだけだよね」
「でもそれが大切な人だって考えたら辛いよ」
「ところでゆず、今日こそはちゃんと二年の階でご飯食べなよ?」
「え…」
「また来る気だったの?
友達いなくなっちゃうよ?」
「でもゆうちゃんの好きなデザート持ってきたのに…」
そしてゆずはカサっと静かにチョコの入ったクッキーを見せた。
「そ、それ私が一番好きなおやつ…」
「ばかゆずめー!」
私はゆずに抱きついた。
私たちは1つ違いの幼なじみ。
ゆずは私の後ろをいつも着いてきていた。
そして私よりも背が高くなったら
結婚しようとプロポーズまで。
私が八歳の時だったかな。
だけどその約2年後
眠り姫症候群は流行りだした。
原因不明
感染経路不明
感染すればもう治らない。
治療方法なんてない
段々睡眠時間が長くなり
いつの間にか目を覚まさなくなる
そして衰弱死
だが、稀に目を覚ますという例もあるらしい
それでも残った後遺症から
日常生活に支障をきたす。
幸い私たちの周りには
感染者はまだいない。
はずだった。
「えー、HRを始める。が、その前に報告がある」
報告?いつもは連絡なんてないのに
珍しい。
「実は、ずっと欠席だった2組の山内なんだが…眠り姫症候群に感染していたようなんだ」
「「え?」」
「連絡が遅くなってすまない」
「え、待って学校あっていいの?」
「でも感染原因は接触だとも限らないし」
「やばくね?」
そんな声が飛び交った。
そうなるのも無理はないと思う
私たちは安心していた
原因が分からないからこそ
この病気は遠いものだと。
そして、この1つの渦から
感染は広がった。
「隣の山田さんのお宅の息子さん。
もう3日も目を覚まさないんだって」
「あの人が眠りについてから
もう2週間が経ちました」
道を歩いていると
そんな会話が聞こえてくる。
「ゆうちゃん、大丈夫だよね?」
「うん、大丈夫」
「ゆずは私が守るから」
「私もゆうを守りたい」
「その前に私より大きくならないとね」
そして私たちは手を繋いで帰った。
「ただいまー」
「おかえりー、ゆずちゃん今日は来ないの?」
「うん、今日はお父さんが帰ってくるらしいよ」
「そうなのね!」
普段は私の家でご飯を食べて帰るのだが
ゆずの家は父が単身赴任で会える回数が少なのだ。
だからこういう時はいつも
自分の家へ帰る。
「ふわぁあ…ちょっと寝る」
「ご飯はー?」
「いらなーい」
疲れてるのかな。
今日は色々あったしなぁ…
なんて考え事をしながら私はベッドに潜った。
朝。母の大きな声で目が覚めた
「ゆう!!遅刻じゃない!!」
「んぇ?」
時計を見ると9時10分
「え!?」
確か昨日横になったのって、20時じゃなかったっけ?
「ね、寝すぎた…」
そして私は急いで学校へ向かった。
案の定遅刻で怒られた。
「反省文5枚笑」
「しっかり者のゆうが遅刻なんて珍しいね」
「もうホントやらかした…」
「あーあ。次社会だよ?
担任じゃん文句言われるね」
「ほんとに…」
「あ、チャイムなった」
私たちはすぐに席に着いた。
こんなにも寝たのなんて初めてかもしれない。
なんだろう。
今日は少し頭が重たい。
スゥっとゆうは眠りについた。
授業は終わり、昼休み
いつもみたいにゆずが来た。
「ゆうー」
「あれ?」
「ゆずちゃん!ゆう寝て起きないんだよね」
「ごめんね?」
「ゆう起こせませんか?」
「それがねー、起きないのよ全然」
「え、あのゆうちゃんが?」
「そうなの…」
「これってやばくない?」
「そうだよね、もしかして…」
「違います。ゆうは病気になんか掛かってません」
ゆずは少し怒って教室の中へ入った。
そしてゆうの前に座り
静かにパンをかじり始めた。
「んー…」
ゆうが鼻息を鳴らした。
「あ、ゆうちゃん起きた?」
「んふ…なに?ふわぁあ」
そして大きく背伸びをして起きた。
「大丈夫、だよね?」
どうしたんだろう。
ゆずは凄く青い顔をして
心配そうにこちらを見た。
「大丈夫、って?」
そして、少しの間とともにゆずが口を開いた。
「私にはゆうしかいないから」
「ゆうがいなくなったら世界中の全てが眠っているようなものなんだからね」
なんでそんな事言うんだろ…
その言葉を最後に
私は目の前が真っ暗になった。
ドサ「え?ゆう?」
「ゆう!?」
「ゆうちゃん??」
クラス中が大騒ぎ。
私は眠っていた
けど、誰かの声が聞こえていた。
ずっとずっと誰かに呼びかけられていた。
これはゆず?
深い深い眠りについた。
『ゆう、私ゆうがいないと世界で1人だけになっちゃう』
『ごめんね、一人にして』
『私もそっちいっていい?』
『ダメだよ、ゆずはここにいて』
『ゆうちゃん、結婚しようって言ったよね』
『うん、私より大きくなったらね』
『ねぇ、もう同じくらいじゃん』
『あともう少しだよ』
『好きだよ、ゆうちゃん』
『私は__』
そういう前に
ゆずは私にキスをした。
『愛してる』
__その言葉と共に
白い光が差し込んだ。
「…んー」
なんだか、凄く幸せな気分。
長い長い夢を見ていた気がする。
私が眠り続ける夢
「身体チェックの結果出ましたよー」
「あ、はーい」
「やばい寝ちゃってた」
「はい、これどうぞ」
「ありがとうございます」
「いつもいつもゆうさん大変ですね笑」
「そんな事ないですよ。大切な大切な婚約者ですから」
「ふふ笑 そうだ、身長伸びてますよ」
「え、ほんとですか?」
血液型 AB型
誕生日 7月25日
体重 41キロ
身長 166cm
あ、ほんとだ
やっと、私より大きくなったね
「ゆず、やっとだよ。」
「待ってたんだからね」
「ゆずが言ったんだから」
『もうゆうちゃんを誰にも傷つけさせたりしないからね』
『私が大きくなって守るから待ってて』
「ずっと待ってたのに」
「早く起きてよ、ゆず」
私は夢のお返しに
そっとゆずの額に唇を落とした。
彼女が目を覚ますのは
もう少し先のお話____
眠り姫症候群
原因不明
感染経路不明
治療方法無し
死亡確率60%