蝶番・2024-09-06
diary*
眠ってばかりいると
夢か現かわからなくなってくるから
やらなきゃはひとつずつ
すぐ逃げ出すやりたいをすくって
手のひらにのせた
おはよう
まずはお茶をのもうか
夢ばかり見る
失ったものや叶えられない
きらきらした夜の欠片たち
こうして眺める側になったと
何年も見送っていたけれど
まだ夏の折り返しにすら届いていない
考えようによってはね
日々に飛び込む
夜明け前
毎日のように目が覚めて
薄明かりに文字を並べていた
あの頃と同じ白い朝の手前
だけど同じじゃない
同じくらい切実だけど
1500日が過ぎたということ
気温が上がりすぎれば
熱を冷まそうと雨が降る
終わりの見えない夏にも
いつも通り秋の香が立った
一時、揺れても
バランスはいつも保たれてる
自然の一部であるわたしたちもきっと
そう信じられるまで
あと何回かかるだろう
海を見ていると
わたしが遠ざかって
混ざり合っていく
曇天の海
ずっと前に描かれたような
油彩のグレー
今日は足し引きはいらなかった
最初から過不足なく
海はわたしそのものだった
そんなに機微がわかるのなら
そんなに上手く表現できるのなら
みんなに伝えなくちゃいけないね
あなたたちの生きた証
魂を削って差し出した物語に
わたしは今日も抱きしめられて
わたしは目の前の仕事をする
遠くの屋根をさざなむ
まばゆい金色の波
ちらちらと囀ずる葉の揺らぎ
風の行方をわたしはじっと見ている
やっと一区切り
春の準備を終え
新しい始まりを待つ
前夜、ささやかな祝祭を
人のまばらな午後3時
レタスにきゅうり
ミニトマト、ハム
ツナ缶とパンをかごに入れ
何を作るか
どんな役柄か
もしかしたら明日の予定も
想像できるようなステロタイプ
小さく笑みがこぼれる
ストライプの雲が
気軽に縁取りした空
この気分こそがいかにもステロタイプなのは
幸福な呪いとしておこうか、今日は
長く終わりを夢想してきても
いざ目の前にすると恐れが立つ
経験してみないとわからなかったことが
これから年々続いていくのだろう
振り落とされないよう
飲み込まれないよう
己を叱咤し赦しながら歩を進める
どれだけ心は鍛えられるだろう
これを成長期と言わずして何と言うのだ
風を避けると歩くのは朝になる
ようやく散歩する時間が取れ
足を延ばした先には
数年前に切り倒されたカブトムシの森
真っ平らになっていた場所に林立する枯れ木で
新たな林が作られていたと知った
つくしを探しながら歩を進める
なずな、ホトケノザ、オオイヌノフグリ…
蕾を開こうとしているタンポポひとつ
お目当ての垂直はまだのようだ
遠くから人声
遅れて打球の音が響く
頬に当たる感触で
風速も測れるようになった
限界値であることを確認し踵を返す
車も増え始めた
ピピートゥトゥトゥ
行きに聞こえた
特徴的な鳥の鳴き声はもうない
朝と午前の境目は七時半というところか
水仙、クリスマスローズ…と
家々の植栽を冷やかしながら
帰途につくマスク越しの鼻先に
くっきりと甘い香りが絡む
思わず振り返ると
沈丁花が裏庭にひっそりと佇んでいた
白い花房を前に足が止まる
香りが姿より先に現れるのは
沈丁花にくちなし、金木犀…
どれも季節を知らせる花だ
鋭角的な香りに愁いを含む
そのイメージは、先日足跡を消した
美しい人を思い浮かばせた
はっきりと漂う甘い香りが
手では決してつかめぬように
春の別れはいつもより物悲しく
うずうずと胸を絞る
不意に初夏めいた風に背を押され
離れる瞬間わたしは目を閉じた
光、声、ぬくもり、香り…
たくさんの星が彼女の上に降りしきらんことを
選ばなかった方の道を
想うことがある
こんなふうに夢に見るほど
選ばなかった、、
つまりあなたを選ばなかった方の道
あるいは
どちらの手も離さなかった道
想像して
これで良かったと納得できないから
何度も架空の生き直しを繰り返す
わたしに必要なのは
シミュレーションでも
肚落ちでもなく
あっさりと手放したそれを
今、この状況から手に入れる方法だ
中空の光、耀う
潔く風は吹き抜けて
春は、もうそこに立っている
束の間の光を浴び
窓を一つずつ開けていく
家中に風を通す
自分をコントロールできている
ささやかな積み重ねが
心を平らかにする
決してまじわらないと思っていた世界に
今、触れている
今日も日が暮れる
群青と緋色のグラデーション
やっとやっとやっと
年末の仕事が終わった
規則正しい生活は尊いけれど
ペースを乱してでも走り出さないと
跳べないことも多い
怠惰なわたしに
いつの間にか降り注ぐ月煌々