はじめる

#喫煙所

読んでると、
思わず胸がギュッとしめつけられる、
そんなポエムを集めました。

全5作品・

【ForGetMe~クロとユキ~第二話レフト】




杉浦はいつもの様に


署の屋上で煙草の煙を吐き出す。



立ち上る白い煙は


まるで身元不明のあの仏の弔いの様だ。



歩き回ってへとへとの身体を


ガード柵に預けて俺は杉浦を呼んだ。



「なあ、杉浦ぁ」


「なんだよ」


「あの仏、嘘ばっかついてたのかな」


「あー?」


「ひとつも証言が噛み合わなかっただろ?」


「あー、でも」


杉浦は


屋上から見える


建ち並んだビルを見つめた。


「何か…あるかもな」


「ん?」


「嘘の共通点」


俺は杉浦を見つめる。


杉浦の長い前髪が


風に揺れていた。




「嘘の共通点、ねえ」


「クロ、調べてみるか」


「そうだな」



このまま、どこの誰なのか


誰にも知られず


天国へ昇らせるのは


どうしても忍びない。



杉浦にも


きっとそんな想いが


あったのだろう。



杉浦は煙草を地面へ落とすと


事もあろうに靴でもみ消し



「行くぞ」


そう言ったかと思うと


あっという間に


階段へと歩み寄る。



「おい、杉浦、吸殻!」


「あー…よろしくー 」


「え、あ、おい!!」



全く…信じらんねえ奴。


俺は杉浦の吸った煙草を


自前のポケット吸殻入れの中へ


滑り込ませ、彼の後を追った。



まず、最初は


スルメオヤジの証言


本当にあの仏が


レフトの元社長とやらなのか


それを調べてみよう。






…クレシエンス支社.支社長室…




レフトといえば


質の良い文具メーカーとして


まだ、記憶に新しい。



しかし、


事実上倒産したのは


10年も前の話だ。




新製品を開発するなど


手は尽くした様だが


世界的な紙離れにより


文具離れも


加速していった。



結果として多額の負債を


抱えた元レフト本社は


外資系企業の乗っ取りを受け


今やもう


クレシエンスという社名に変わった。



当時の社長は負債を


抱えた責任をとり辞任。



本社であったこの立派な建物は


一夜にして


クレシエンスの支社となり


支社長の座についたのは


当時の社長の息子であった。




「お忙しいところ、アポもなしに申し訳ありません」


丁重な謝罪を入れ、


名刺を手渡すと


支社長は思いのほか友好的に


俺たちを迎えてくれた。



「いえいえ、クレシエンス支社長を勤めております、瀬崎透也と言います、どうぞ、お座りになって下さい」



「はい、失礼します……っておい、杉浦っ」




促される前に


杉浦はどっかりと


質のいいソファの上に


腰を下ろしていた。




本当に恥ずかしい奴だ。


いつもコンビを組まされる、


俺の身にもなってほしい。



「それで……ご用件というのは」


苦笑いをひとつ瀬崎は


訝しげに首を傾げた。



さあ、聴き込みの開始だ。



「レフトだった頃の社長さんは瀬崎大造さんで間違いありませんか」



俺の問いかけに


深く頷いて瀬崎は言う。



「ええ、そうです、大造は私の父です」



あのホームレスの言っていた、


仏の名前が……合致した。



これはもしや、


一件目から身元判明という


ミラクルに見舞われたのでは。



俄かな期待で、杉浦を見つめる。



しかし、杉浦は


なにやら難しい顔だ。



「10年前の事とはいえ、あの騒ぎじゃずいぶんと心労も多かったでしょう、親父さんは健在で?」


出された茶をすすりながら


杉浦が瀬崎に聞くと


彼は眉を下げ声をあげた。



「いえ、残念ながら。もう七年になります」


「な、亡くなっているんですか!?」


「ええ、気丈な父親でしたがやっぱり心労が重なったんですかね…」


瀬崎は、


ふいに悲しげな顔を浮かべたが


戸惑う様子の俺を見て


無理に笑顔を作った。



杉浦は事の顛末を


瀬崎に語る。



「実はすぐそこの河川敷で、ホームレスの遺体が発見されましてね」


「ああ、ニュースで…お気の毒な事です」


「その男が生前、ここの社長をやっていたという話を耳にしまして、こうして確認にきたわけですよ」


「そ、それが父だと?」


困惑している様子の瀬崎に


杉浦は言った。



「ご遺体の写真だが、確認してもらうわけには?」


「……い、遺体……」


瀬崎の顔が強ばる。


俺は間髪入れずに瀬崎に助け舟を出した。



「もちろん、任意ですので、写真確認をしたくないというのであればそれで結構です。こちらで大造さんの死亡は確認できますので。ただ、亡くなった方が大造さんの身分を借りていたとなれば、顔見知りだった可能性がありますので…」



なんとか御協力を。


と、言いたげに瀬崎を見やる。



「……そちらで確認して頂きたい。父はもう死んでいるんです。全盛期を考えれば、充分とは言えませんが葬儀もやったわけですし」


結果は惨敗だ。


先輩方のような舌が欲しい。



「……そうですか。わかりました。御協力有難う御座いました」


落胆した表情を隠せない俺に対して


杉浦は飄々と軽く頭を下げ


支社長室を後にした。



俺は深々と頭を下げ


杉浦の後を追う。





「杉浦…だめだったな」



入口に向かいつつ


俺は杉浦に


声を潜めて語りかけた。



「こんなに簡単だと思ってたのか?」


杉浦は薄ら笑う。


俺は名前が一致しただけの事で


身元が割れるかもしれないと


安易に考えた自分を恥じた。



「いや…そんなことは」


あるくせに、


プライドが邪魔をして


言葉を濁した。



入口から外へ1歩踏み出す。


その途端に胸ポケットに手を伸ばし


煙草を取り出すと


杉浦は一言、意味深に独白す。



「点つなぎ」


「は?」


「事件は点つなぎと同じだ。思わぬ点が繋がる事もある。大造は死んでた、それが点になるかもしれねえだろ」


「まあな」


そりゃあそうだ。


杉浦は型破りで


いつも手を煩わすが


俺と比べて冷静沈着。



先も見据えられず


有頂天になって


その道が事件解決へ


繋がらなかった時


落胆しやすい俺を


いつも引っ張りあげてくれる。





んー、と伸びをひとつ。



「次の証言、調べてみるかー」


俺が青い空へ言葉を投げると


「おー…」


相変わらず


気のない返事がかえってくる。


杉浦を横見れば


煙草に火をつける間際だ。



「あ、おい、タバコ、ここダメだぞ」


「あー?」


「喫煙所いけよ」


「堅苦しいこと言うなよ」



これだから、杉浦は。


俺はいつものように


杉浦の額をベチリと叩いて


彼に無言の叱咤を与えた。

ひとひら☘☽・2020-04-21
幸介
幸介による小さな物語
ForGetMe~クロとユキ~
刑事
身元不明
叱咤
喫煙所
ヘビースモーカー
警察
事件
解決
点つなぎ
事件性
好きな人
あの日に戻りたい
弔い
独り言
外資系企業
屋上
ポエム

街影はスポットライトが当たる喫煙所

春くん・2025-02-17
街影
喫煙所
どんな未来が待とうとも
ポエム

以前にも投稿しましたが、昔の職場の喫煙所のこと。

喫煙所(ヤニーズ事務所)に所属する愛煙家は、

次にヤニーズ事務所にタバコを吸いに来た人に

「いらっしゃいませ。ヤニーズへようこそ」言う。

したら、返答は

「一名、私もよろしいか。」と返す。

なぜか、よろしいか。

そうして、ヤニーズ事務所で喫煙。

へんな、仕事場。

おもしろかったけど。

ちなみに、小さな工場でのこと。

んー。

今は、その会社あるのかな。

あってもヤニーズ事務所は、無いだろーな。


懐かしい。

蔵 クナイ・2021-09-10
喫煙所

これらの作品は
アプリ『NOTE15』で作られました。

他に5作品あります

アプリでもっとみる

他に5作品あります

アプリでもっとみる

その他のポエム

見つからないもの
4061件

独り言
1049988件

好きな人
337938件

ポエム
568930件

468556件

片想い
238574件

自己紹介
102409件

1241件

恋愛
208092件

辛い
195592件

失恋
113205件

トーク募集
93786件

片思い
191365件

好き
201340件

死にたい
103091件

同性愛
29917件

48923件

先生
112514件

病み
73378件

人生
47006件

苦しい
64617件

すべてのタグ