STRAWBERRY MOON
特別編
すれ違い
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華帆Side
PM10:30
『はぁ…』
夜遅く、私は一人溜息をついた。
今は10時30分。
赤井さんはまだ帰ってきていない。
最近は忙しいらしく、帰りが遅くなると言っていた。
少しできるようになった料理をして、赤井さんの夕食と、《お疲れ様です。おやすみなさい》と手紙を添えてテーブルに置いておく。
はぁ…、ともう一度溜息をついた。
AM4:00
隣にある温もりで目が覚めた。
いつ帰ってきたのだろうか、グッスリと眠っている彼を見る。
『……おかえりなさい、』
静かにそう呟いた。
そして、眠ろうとした時だった。
『……ん、?』
微かに香水の匂いがした。
いつも彼がつけているものではなく、甘いような濃い匂いの、。
だが、微かにだったので気のせいかと再び眠りについた。
AM8:00
朝起きると、隣に赤井さんはいなかった。
『……赤井さん、』
出掛けるときには起こしてほしい、と頼んだことはある。
でも、それは断られてしまった。
“いつ出掛けるかもわからない”
“気にするな、”
優しく微笑んだ彼の顔を思い出す。
最近は全然話せていなかった。
彼との食事も、会話も、何週間か、ろくにできていなかった。
悲しみを紛らわすように、私は起き上がった。
着替えをし、朝食をとった。
夜用の食材で足りないものを少し買いに行こうと思い、家を出た。
少しの気分転換も含めて、。
AM10:00
歩いて徒歩圏内にあるスーパーに来た。
赤井さんがいつも使っている調味料を見つけ、それと別の種類のを買った。
すると、
コ「ねえねえ、お姉さん」
『…?』
決して知り合いではない眼鏡をかけている子供に声をかけられた。
『…どうしたの?』
コ「……ひょっとして、赤井さんの彼女?」
『…え、?』
どうして、この子はそんなことを知っているのか、少しの疑問が浮かんだ。
『…なんで、知ってるの、?』
コ「あ、僕とははじめましてだよね。僕の名前は江戸川コナン。赤井さんの知り合いなんだ」
にこっと笑うコナン君。
『………赤井さんの、?』
そう言われ思い出す。
私達がまだ付き合う前、公園で泣いている私を見つけてくれた赤井さんは、
“ある少年たちが”
と言っていた。
『…私のこと、調べた子?』
コ「うん、そうだよ」
『…そう、なんだ。…あ、。あの時はありがとう、』
お礼を言わなければと思い微笑む。
コ「いえいえ!…ねえ、赤井さんは?一緒じゃないの?」
『……うん、今仕事忙しくてね、』
コナン君の言葉に、少し返事が遅れる。
私は笑えているだろうか、。
もしかしたら、泣きそうな顔をしてしまったのかもしれない。
コナン君は私の顔を少し見つめた後、言った。
コ「華帆さん、だっけ?…今から暇?」
『…?うん、』
コ「お昼食べに行こうよ!僕、お腹空いちゃった。お父さん達今仕事でいなくて」
『…いいけど、コナン君、一人でここ来たの?』
考えればそうだ。
子供一人でスーパーに来ないはずだ。
首をかしげた。
コ「違うよ、安室さんと来ているんだ」
『…安室、さん?』
コ「うん、ポアロっていうお店やっているんだ。」
すると、
安「コナン君、勝手にどこか行ってはだめですよ」
片手に袋を持ち、歩いてきたその人を見る。
コ「あ!安室さん!」
『…こんにちは、』
安「こんにちは、…おや、コナン君。女性にナンパとは、」
コ「違うから!」
『……ナンパだったの?かわいい、』
コ「華帆さんひどい!」
本気にするコナン君に笑みが漏れる。
久しぶりに笑えたような気がした。
コ「…華帆さん、やっと笑ったとこ見れたな」
『え?』
コ「さっきは泣きそうな顔していたからさ!」
にこっと笑う彼。
安「この子が迷惑かけていませんか?」
『いえ、逆に慰めてもらった感じです』
安「よかった、」
安心そうに微笑む彼。
コ「あ、そうだ。安室さん、今から華帆さんとご飯食べたいんだけど、ポアロでいい?」
安「ああ、今から開けるからそのまま来てくれればいいよ」
コ「だってさ、華帆さん行こ?」
私の手を引くコナン君。
久しぶりの手の温もりに少し安心した自分がいた。
『…うん!』
微笑み彼らについていった。
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コナンSide
スーパーで見かけた後ろ姿。
いつか見た、その彼女に声をかけた。
確か、名前は海波華帆。
高校を卒業した、18歳だったはず。
大人っぽい姿は、未成年には見えなかった。
「お姉さんって、赤井さんの彼女?」
そう聞くと、彼女は驚いた顔をした。
最初は少し、不思議そうな顔をしたが、すぐに打ち解けた。
よく見てみると、意外と可愛かった。幼い感じが少し残っているような人だった。
赤井さんといないのは、今仕事だからということだ。
だが、そういう彼女はどこか悲しそうな顔をした。
話を聞こうと思い、一緒にお昼をどうかと聞くとOKしてくれた。
一緒に買い物に来ていた安室さんとも合流し、ポアロに向かった。
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華帆Side
AM11:30
『わぁ、おいしそう』
目の前に出されたここのオススメだとコナン君に言われたサンドイッチ。
そして、コーヒーが飲めない私に、と作ってもらったカフェオレ。
安「どうぞ」
エプロンをしてポアロの店員さんとして私と向き合う彼に言われサンドイッチを口にする。
『…おいしいです』
素直な感想だ。
心が落ち着くような空間で食べるサンドイッチはこんなに美味しいのかと感動した。
安「よかったです」
コ「僕もここのサンドイッチ大好きなんだ!美味しいよね!」
『うん、とってもおいしい』
心から笑えたのは久しぶりだった。
赤井さんがいない間はとても寂しかったが、今はとても楽しい。
一人ではないからだ。
素直に微笑む。
安「……かわいいですね、」
……。
『……え、?』
コ「ブッ、!」
驚きで固まる私と、驚きでコーヒーを吹き出すコナン君。
安「フッ、…いえ、つい」
おかわりをお持ちしますね、と立ち上がりカウンターの方に行く彼。
『……え、?、どういうこと、』
コ「…華帆さん!だめだからね!赤井さんいるんだから」
小声でそう言う彼を見る。
『え?』
コ「だめだよ!二股は!」
『ふ、二股?!そ、そんなことするつもりないから!』
コ「…はぁ…、安室さんの方に行ってしまうのかと……」
『…かわいいだけで動かされないし、そんな軽くないから』
赤井さんが大好きということは自分でも自覚するほどだ。
二股などもってのほかだ。
コ「…最近、うまくいってないの?赤井さんと、」
私を伺うように聞くコナン君。
『……そんなことは、ないんだけどね』
帰りが遅くて、中々会えない、と言うとコナン君は心配そうな顔をした。
コ「僕、いつでも相談乗るからね」
微笑む彼はとても優しそうな顔をしていた。
『ありがとう』
安「何が、ですか?」
『わ、!』
コ「い、いつの間に、」
いつからいたのか、安室さんはコーヒーを片手に微笑んでいた。
安「先程から、こそこそとお話されていたようなので、」
コ「な、なんでもないよ」
にこー、と笑う彼は何かを隠したいような顔をしていた。
よくわからず、私はカフェオレを口にした。
『…おいしい、』
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コナンSide
PM5:00
すっかり話し込んだ。
今日は客も少なく、静かだったせいか、彼女はテーブルに伏せて眠ってしまった。
すると、寒いので、と言いながら安室さんは華帆さんにブランケットをかけた。
紳士な彼ならいつもやりそうだが、少し疑問が浮かんだ。
軽くものを言うことは決してないのだ。
さっきの、かわいい、と言った彼を見る。
コ「……安室さんってさ、華帆さんのこと、好きでしょ?」
安「……一人のお客様としてですよ」
コ「…手出しちゃだめだよ、彼氏、いるから」
安「……そう、ですか」
笑顔を崩さない安室さん。
表情からは読み取れない男。
『…ん、…あれ、?寝ちゃってました?ごめんなさい、』
眠っていた彼女が目を開けた。
安「いえいえ、寝顔が幼くて可愛かったですよ」
悪びれもなく微笑む安室さん。
そんな彼に顔を赤くする彼女。
(こんな所、赤井さんに見られたら殺されるな、安室さん……)
ハハ、と薄く笑う。
安「もう、夕方なのでお送りしますよ」
『え、!だ、大丈夫ですよ、子供じゃないし、』
コ「でも、ここらへん夜危ないよ?安室さんに送ってもらったほうが安心だと思うな、」
この前、この通りで殺人事件がおこったのは本当だ。
まだ未成年の彼女が一人歩くのは危険だろう。
安「さぁ、行きますよ」
そう言いエプロンをとり、彼女の手を引く彼を見る。
コ「……」
狙っている。
そう思い、俺は華帆さんと一緒に立ち上がる。
夕日が沈み始めている。
俺達はポアロを出た。
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