#徒桜

今日、桜が消えました。























ニュースキャスターの言葉が

やけに耳にこびりついている。





焦げたトースターが不思議と味がしない

つまんない朝のひとつなのに

忘れられない日のひとつでもある。



















ひとりの少女が今日も桜の木を見上げる。




毎日、毎日、夕方みたいな夜みたいな

そんな時間にやって来る。







桜がないのに。










ある時は、髪がボサボサだったり

ある時は、太陽に負けそうだったり

ある時は、雪に染っていたり

ある時は、傘を持っていたり

ある時は、薄ら涙を浮かべていたり



いつだって来ない日はなかった。









少女が何故、この桜の木を見上げるのか、

そんなことを知るわけもない。




そもそも、自分が誰で

どんな存在意義があるのかさえ、

知らないのだから。
















少女は、時々、呟く。





「明日ありと思ふ心の徒桜、」


















そういう時の少女の顔は

いつも曇っているか雨が降っている。






桜が消えたその年、春嵐がやってきた。

桜は全てそれに吹かれて散ってしまった。



だから、

桜が消えました。







世間は、最初のうちは

色々と言っていたが、



数週間程度で

どーでもよくなってきたようで。








咲かない桜に用はないと

言っているようだった。














桜が儚いものとしてか例えられることは

ほとんどの人が知ることである。






囁かな風にも桜は散る。


怒鳴るような風なら尚更であろう。















親鸞上人絵詞伝というのに次の言葉がある


















明日ありと思ふ心の徒桜、

夜半に嵐の吹かぬものかは


















明日もまだ桜は咲いていると思っているが、


夜更けに嵐がきて桜の花を散らすことが


ないといえようか、そんなことはない





というような意味を持つ。





明日、何が起こるかなんて分からない。

誰も知らない。




世界が終わる可能性だって

少なからずある。

















明日を後悔せぬために今日がある


































私は、後悔している。




後悔してもしてもしきれないほどに。







明日なんて桜みたいなもので


この先どうなるかなんて分からない。









隣に居ることが当たり前でいつも通りで




いつも通り、明日も、

傍に居ると思う誰かが私には居た。











春、桜を一緒に見て

夏、海を一緒に見て

秋、空を一緒に見て

冬、雪を一緒に見て






欠けるはずがないピースから

どこかへ落としてしまう。













桜の木を今日も見上げる。





疲れていても

負けそうでも

凍りそうでも

濡れそうでも

泣きそうでも









桜が好きだと言ったから。


桜がどこか似ているから。


桜が誰かを思わせるから。













「明日ありと思ふ心の徒桜、」




時折、ふいに呟くこの言葉も

誰かが私に教えてくれたから。


















「明日を後悔しないために今日がある。」




その口癖が離れない。








今年の桜は目に見えない。


桜がより儚い年の月日が過ぎる。




















桜が消えた今日、

桜のような明日のことを考える。

君が哀しそうに微笑む早春

温もりは春風に攫われ

在りし日の桜雲が涙に濡れる

色を奪われた蒼天と

薄桜に染まる君の影


離れた足は花屑も踏まず

花風に揺れる


これもきっと春のせい

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