[捨て猫]
スーパーの帰り道に通る公園。
同い年ぐらいの子供たちは、みんな、
遊び疲れて温かい夕飯に心躍る頃。
一人でとぼとぼと歩いていた。
『______』
音が鳴る先に視線を送るとそこに
おじさんはいた。
ギターと飲みかけのココア。
目に入る限りの手持ちはそれだけ。
「な、に、ゆって、る?の?」
おじさんが音を止め、こちらを向く。
綺麗な目だけれど、悲しそうだった。
「ゆってる、かぁ」
「歌っているの?は、よく聞くけどなぁ」
“歌っている”とい言葉がよく、
分からずをに首を傾げてしまっていた。
「___を言ってるんだよ」
幼い記憶じゃ、大事な部分が欠けている。
何て言っていたっけな。
おじさんが図書館を教えた。
司書へ俺を紹介してくれた。
毎日、公園へ足を向けた。
軽いビニール袋を片手に公園へと。
いつもギターと飲みかけのココアと一緒。
何だか、ココアに憧れた。
おじさんがおにいさんだって言っても
ずっと年上の人でおじさんと呼んでいた。
おじさんはいつも、暖かい歌を歌った。
歌詞の意味がよく分からなくても
眠気を誘う心地よい歌声だった。
「またな。」
いつものバイバイではない言葉に
違和感を感じた。
何だか、二度と会えない気がした。
おじさんの背中が砂粒みたいになるまで
ずっと手を振り続けた。
明日もまた、会いたかったから。
おじさん以外、誰もいないから。
おじさんは、来なかった。
夏なのに風が冷たかった。
ギターも飲みかけのココアも無い。
昨日のおじさんの足跡も
遊んでいた子どもの足跡で消えていた。
その日は、泣いた。
でも、その日以来、泣かなくなった。
その日以上のことなんてなかったから。
涙雨 雫玖 ☔︎・2021-02-24 #[捨て猫] #小説☔︎ #小説練習¿ #小説 #長編 #よん #寂しい理由
