「この串団子、激うま」
「うん、おいし」
甘党の日向頼と
私、坂上里緒。
二人は友達以上恋人未満
という、微妙に
アオハルな関係では
決してなく
ただのスイーツ同好会仲間
で、ある。
それでも
毎週日曜日
活動と称して
頼を誘う私には
多少の“下心”はあるのだ。
しかし、この男
日向 頼は
そんな気持ち
てんで、お構い無しだ。
「あ、次、あのソフト行こーぜ」
「アイサー、了解だぜぃ」
男みたいな口調で
返す私も悪いのかもしれない。
恋人になれたら
それはもう天にも昇るような
気持ちだろうけど……
想いを伝える勇気も
さらさらない私
さらに、
もともと、女として
全く意識されていない私は
男友達のように
安心出来る女友達を目指すしか
頼と一緒にいる道は
残されていないように思えた。
それでも
頼の側に居たかった。
とろっ、と溶けるソフトクリーム。
甘くて、ほんのり
牛乳の優しい香り。
ダイエットを頑張った、
自分へのご褒美には
丁度いい、甘さ控えめの
ソフトクリーム。
「わー、おいし」
「これうまいもの百貨店のマップに入れとこ」
「そうだね、みんな喜ぶー」
頼が口にした“うまいもの百貨店”とは
私たちスイーツ同好会のメンバーが
いくつかのグループに分かれ
食べ歩きしたおいしいものを
書き込んでいくマップだった。
ソフトクリームを食べ終えて
次のターゲットを探す。
「なあ、里緒」
「んー?」
「今更なんだけどさ」
「うん」
「こんなに食べてんのにお前細いよな」
「え!?マジ!?嬉しい!」
「そこ、女なら、そんなことないよ、とか言えよ」
頼は眉を下げて
やれやれと笑う
「だって、嬉しいじゃん、女なら細いって言われたら」
「そんなもん?」
「そうだよぅ」
それを言ったのが
好きな人なら余計だ。
人知れず、努力はしてる。
週末の頼とのスイーツデートの為に
普段は大好きな米をセーブして
水分を多目にとり、
毎日、ストレッチに勤しむ。
もちろん間食もゼロに近い。
名折れのスイーツ同好会員だ。
「ジョギングとかしてる?」
「あー、走るの苦手だからストレッチしてる」
「俺、ジョギングしてんだ」
「へえー、頼も筋肉質だもんね、努力してんだね」
「いきなり褒めんなよ、恥ずいじゃん」
僅かばかり
顔を赤く染め上げて
そっぽを向いた頼と
お洒落な小路を並んで歩く。
これで、手なんか繋げたら
疑いようもなく
恋人同士、なんだけどなぁ。
性格の相性はいいと思う。
頼とは話が尽きないし
彼も私も会話という言葉のやりとりを
心の底から楽しんでいる。
なのに、どうして
両想いという天国への階段は
こうも険しいのか。
このままで、いい。
仲良くさえ出来ていれば。
そんなの、ただの言い聞かせに過ぎない。
母親が子供に言い聞かせるように
私は自分の心を騙している。
本当は、両想いになりたい。
きゅんと、胸が苦しくなった。
「あ、里緒、あれあれ」
「ん?」
「こんなとこに、キャンディ屋がある!」
「わ、ほんとだ」
「入るっきゃ」
「ないっしょ!」
私たちは顔を見合わせ笑うと
天然素材を謳うキャンディ店の店先で
味の違う小さな
ぺろぺろキャンディを選んだ。
私は、ベリーベリー。
ブルーベリーとストロベリーの
紫と赤が優しいキャンディ。
キャンディの前で
鼻を動かせば
甘酸っぱい香りが私を
幸せへと誘った。
頼は、メロンミルク。
夕張メロンのオレンジと
オフホワイトのミルクキャンディ。
「せーの」でキャンディを口の中へ。
くるくる、柄の棒を回すと
口の中で歯にぶつかり
カラカラと可愛らしい音が鳴る。
私は飴を舐めていられない。
噛んでしまう派である。
卑しいと思われたくなくて
ゆっくり口の中で溶かしていたのは
はじめだけ。
気がつけば、
可愛くて美味しいキャンディは
最早胃袋の中だった。
しまった……。
これじゃあ
ガリガリバリバリ
あっという間に
食べちゃう
飴食いのライオンみたい。
ひとり、羞恥に頬を染めると
未だ口の中からカランカランと
音をさせながら
頼がとんでもないことを
言い出した。
「なあ、里緒」
「何?」
「そっち食わせて?」
「は!?」
「俺もこっちやるからさ」
キャンディのシェアなんて
聞いたこともない。
と、言うかだ。
さっき私
バリバリすごい音させて
食べてたのに気づかなかった?
なんたる、不覚……。
間接チュー、ならず、だ。
「……ごめん、頼。私、噛んじゃった」
「えー、マジか残念」
「ごめん」
「どうだった?美味かった?」
「うん、とーっても美味」
そう苦笑すると
頼は口の中にあったキャンディを
すっと取り出して
「へえ」
低い声でそう言ったかと思うと
あっという間に私の目の前に顔を寄せ
私の唇を食むようなキスをした。
この、状況、何?
突然のことに
思考回路が停止した分
感覚は研ぎ澄まされる。
頼の熱い粘膜に
包み込まれる唇が
溶けてしまいそう。
メロンとミルク
いちごとブルーベリー
混じり合ったハーモニー。
唇が離れると
互いの熱い息がぶつかる。
「ほんとだ、うまいね」
「あの、頼……」
「うん」
「これって、ただの味見?」
潤む目を頼に向け尋ねると
頼はこう言って笑った。
「そこのキャンディ店、俺、実は常連」
「ん?」
「ベリーベリーも食ったことあるよ」
「え!?じゃあ、なんで!?」
回転をやめた脳が
いくつもの疑問符を吐き出させる。
目眩すらしそうな私の腰を
頼は抱き寄せ
「里緒と、キスしたくて一計を案じた」
そう言って、はにかむ。
「つつつつつまり」
「付き合わない?俺たち。きっと楽しいよ」
私を覗き込む頼はきっと
私の返事を待っているんだろう。
唇が震える。
心が弾む。
口元がにやける。
ときめきがやまない。
返事はもう
聞かずもがなでしょう?
「……私も、そう思ってた」
やっとのことでそう答えると
頼は小路の細長い空に
拳を突き立て
「よっしゃ!」
喜びの声をあげた。
私も、ようやく
リア充の仲間入り、だ。