【長文】『夏の日の妄想』
夏の日の妄想。
校外のとある行事で先生に会えるから、普段よりもずっと気合いを入れて身支度をした。
去年デパートで買ってもらったワンピースを初めて着て、
淡いピンクメイクに重ねるように、ラメを乗せた。
思わずスキップしそうになりながら、目的地まで歩く。
遂に到着した時、心臓が持つかさえ心配だった。
入口の前に立って、去年の誕生日に友達がくれた鏡を見て髪を整え、一応思い出の自撮りもしておく。
そして扉を開け、姿勢を崩さないように会場を探そうとしたその時。
「おー、(Pure.)!」
思わず振り返ると、そこには普段通りの先生がいた。
「先生!」
「よー来たな!」
私服姿の先生。
先生の名前も知る前に会った時は、怖そうで、教科担任にはなって欲しくないとさえ思っていた。
今はもう、先生の私服姿に虜になりそう。
挨拶を交わし、会場に案内してもらった。
その道中の廊下で。
「先生」
「ん?」
「この日が、待ち遠しかったです」
「俺も。誘ってくれてありがとうな」
嬉しくも恥ずかしくて顔を上げられない私と、大人の余裕がある先生との会話。
先生が来てくれて、嬉しくて、今にも騒ぎ出しそう。上がり続けるテンションを抑えて、私たちは会場に向かった。
私が行った行事、言い換えれば調理を通した青年向けの交流会。
先生はカメラマン兼参加者。
年齢的に、明らかに青年だと思うけど。
知り合いはたくさん参加している。主催者が2人と、そのご家族、友達。あとは私の学校の友達。他にもいる。
でもこの日だけは、先生にしか目がいかない。
学生時代一人暮らしだったからか、その先生の調理の手際の良さに、1人で見惚れていた。
というよりかは、ガン見していた。
「どしたん?(笑)」
「いや、先生上手だなーって…」
「(Pure.)もやる?」
「えっ、先生ほど上手にはできませんけどね(笑)」
先生は、「上手いかどうかは関係ないやろ」と笑いながら私と交代してくれた。
先生に見られて緊張で手が震えた。
「結構上手いじゃん、いい感じ」
「そうですか…?難しいですね、これ」
何とか完成し、全員が食事の席についた。
少し間隔は空いているが、もちろん先生は私の隣。
食事が終わると、お菓子を囲んで思い思いに話す時間がある。
先生はコーヒー、私は紅茶を淹れ、先生と話す時間は至福のひとときだった。
先生は私の学校生活を心配してくれた。
私は、先生が顧問の委員会や部活の様子を聞いた。
お互いに心配性なのが面白くて、つい笑ってしまった。
「先生、写真撮りましょ!こんな貴重な機会ないので絶対投稿しませんよ!」
「すぐ俺の肖像権どっか行くんだよなー」
「先生お願いします!」
「わーった、投稿するなよ?」
「はい!」
先生と写真を撮った。
加工無し、フィルター、そして1晩かけて決めたスタンプ。
流石の先生も照れていて、私も恥ずかしくなった。
こんな幸せ、そう簡単には得られない。
しばらくして、自己紹介の時間が始まった。
自己紹介の文章も、今回はちゃんと考えてきた。
「(Pure.)です。久しぶりに交流会に参加できて、喜ばしい限りです。先生も参加して頂いて、本当に幸せでいっぱいです。」
この後は自己紹介へと続いた。
続いて、先生の自己紹介。最初に担当科目と名前を言っていた。
「和気あいあいとして、アットホームで、学生時代とはまた違った交流会に、最初から最後までずっと楽しませて頂きました。生徒の学校とは違う(笑)姿を見ることができて、こっち(=交流会)でも頑張ってるんだな、って思いました。」
皆の拍手が温かい。
たくさんの人とまた出会えて、大好きな先生にも会えて、今までの大変な経験とか、勉強のつらさとか、全部がリセットされた。
また頑張ろ、って思えた。
終わってほしくないからこそ、楽しい時間には限りがある。
日の入りが遅い夏も夜になれば、外は真っ暗。
後片付けも終わって、先生と話していた。
「先生、今日はありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ楽しかった、また参加しようと思ってるからその時はよろしくな」
「学校以外でもお会いできて嬉しいです!こちらこそ、またよろしくお願いします」
「じゃあな、気をつけて帰れよ。歩き?」
「はい、家から近いんで歩きです」
「そっか、見送るよ」
「いいんですか?ありがとうございます!」
真っ暗な外。
帰るのが惜しい。
このまま先生と2人の時間が続けばいいのに。
気がつけば、先生をじっと見つめていた。
「どしたん?帰れるん?」
「いえ、なんでもないです!
…次回も、また来てくれると嬉しいです!」
先生に別れを告げて歩き出した。
思い切って手を振ってみると、先生も手を振り返してくれた。
嬉しすぎて、幸せすぎて、思わずスキップしそうになった。
という夏の日の妄想。
本当は3月末に行われる予定だったが延期になった。
どうか、私が高校を卒業するまでに開催しますように。