わたしは かつて
お花屋さんに勤務していた フローリストでした。
お客様から 日々 様々なオーダーを いただいて
幾つも幾つも 花束を 手掛けて来ましたが、
いまだに いい想い出として
記憶に残っている《花束》を 3つ挙げてみると。
★1つ目は《フリージアの花束》★
松田聖子さんの 歌で『旅立ちはフリージア』
という ヒット曲が ありましたが、
そのお客様は 近々 海外に赴任する ご友人に
《フリージアだけの花束》を 贈りたい、と
おっしゃっておられました。
そのお客様は、
実際の『フリージア』という花を ご存知なく、
わたしが ショーケースから3色 フリージアを
取り出して お見せしましたら、大感激されて。
ちょうど 市場からの入荷が あってよかった!
黄色・ワインレッド・薄紫色の フリージアで
ご要望に お応えすることが 出来ました。
★2つ目は《カサブランカの花束》★
こちらもまた、当時 流行っていた歌謡曲から
手掛けることになった、『カサブランカ』という
真っ白で大輪の花を咲かせる品種の ユリだけの
花束でした。
こちらをオーダーされたお客様は、
街中で『カサブランカ・グッバイ』という 歌を
お聴きになられて CDを買い、実にそれが……
失恋した自分と 重なる歌、だったそうです。
「ドアの前に置いておくから、夜まで萎れない
ようにだけして」とおっしゃるので、茎の切り口
に補水し、リボンも無しで、お渡ししました。
★3つ目が《大輪ひまわり15本の巨大花束》★
お店にいらしたのは、若い男性のお客様でした。
その方、お店に入るなり「ひまわり、お店にある
ぶん、全部ください!!何本ありますか?」と。
聞けばその方、お付き合いしている女性に今夜、
プロポーズをするとのこと!!その際に、彼女の
大好きな ひまわりの花束を 婚約指輪と一緒に
渡したい、そういったご希望でした。
いやぁ、恐縮すぎて…。
そんな 人生を左右するような 大切な場面に、
わたしが手掛けて、本当にいいのでしょうか……
かなり緊張しましたね。しかも、ショーケースに
あったひまわりは、数えたところ、15本!!
……わたしは、手が ただでさえ小さいのです。
そして、ひまわりは頭が重たいぶん、ポジション
が なかなか決まらない。正直、苦戦しました。
でも、どんな女性かは もちろん分かりませんが
このひまわりの花束を、プロポーズの言葉と、+
婚約指輪と……一緒に渡された時の、彼女の顔を
思い浮かべながら……精一杯、作らせていただき
ました。
若い男性でも、抱えるのが大変な花束。
でも、そのお客様は、これ以上ないってくらいの
笑顔で、「今夜、頑張ります!!!」と、走って
行かれました。
人生、いろんなシチュエーションが ありますね。
その端々を 彩る お花たち。
渡す人も、受け取る人も、想う気持ちが 膨らんで
嬉しさが 倍増するような…… それこそが、
《花束の 役割》だと わたしは思っています。
思い返せば、多くの方々の 様々な場面の傍らに、
そっと寄り添う花を手掛け、関わることが出来た、
冥利に尽きる フローリスト時代。
幸せでしたね。