※神代類の夢小説です。ひねくれ者の夢主。1話完結型ですがタグから前回以降のおはなしにも飛べます。# 嫌いと恋は紙一重
すっ、と何も言わずに手を繋げば少し肩が跳ねてもそれだけできみは何も言わない。手を繋ぐこと自体はそろそろ慣れてきたきみもまだ慣れないものがある。
彼女のひんやりした手より、もっとずっと僕の手は冷えている。冷たい水で手を洗うことだって耐えられるのは彼女のこの反応。さすがに頬に手の甲を当てたときはわざとだろと怒られたけれど、ただスキンシップをしたい風を装えば彼女は何も言わない。そういう単純な、でも優しいきみにいじわるをしてしまう僕はほんとうにどうしようもない。なんて対して思ってもいないからやめられないのかな。
「おい」
「どうかしたかい?」
彼女の雑な呼び掛けには慣れているから恋人同士らしい甘さがなくたって気にもとめない。彼女が、ん! と両手を差し出してきた意図は掴めなかったけれど。
「えっと、どうかしたかい?」
「ハンドクリーム、出しすぎた」
改めて尋ねると恋愛のテクニックとしてかなり有名になってしまったセリフが返ってきた。どこの雑誌で読んだんだい? と思わず口走ればきみは心底意味がわからなそうには? と首を傾げる。ほんとにそういうことではなかったらしく、しばらくして僕の言葉の意味に気づいた彼女の頬がじわじわ赤くなっていく。
「真っ赤っかだねえ」
「ちがっ、類くんの手が乾燥してるから!」
そう言われてハッとする。彼女も、やってしまったと慌て出す。ああそういえば、最近は彼女に触れる直前に意味もなく手を冷やしてみたりしていたね。さすがに機械いじりをするときはかじかむ手ではなにもできないから控えていたけれどその分きみがいるときはうんと冷やしていたから、
自分の手に触れる。かさついた肌、ささくれた指、手のひらも少し白っぽくなっていて、たしかに僕にたくさん触れられる彼女はすぐに気づくだろうと思う。
「フフフ、ありがとう」
礼を言って彼女の手を握る。いつもよりあたたかい手はさっきカイロを握っていたからだろう。それすらもしかして、僕のためなんだろうか。自惚れにも思えることだって悔しそうにしてる彼女を見たら自惚れなんて思えない。
「ねえ」
「なに」
未だ耳まで赤いのに、僕の手に自分のハンドクリームを移すきみ。ほんとうに、きみは僕か好きなんだと実感する度胸の奥がぎゅっと痛むみたいで、ほんとうに陳腐な表現なのにこれほどぴったりな言葉が思い浮かばない。
「好きだよ」
「……あっそ」
きっとしばらく、君の顔の熱は引かないままだ。