私の初めてのなりたい人。
その人に会うまで
なりたい大人なんて居なかった。
大人にはなりたくなかった。
はっきり言えば大人になるまでに
どこかで死ぬつもりだった。
出逢ったのは中学生の時。
音楽の先生と生徒として出逢った。
初めて見たときは何とも思わなかった。
せいぜい思ったのは性格が私より明るすぎて
ちょいと苦手な分野の人だと思った。
優しい人で心も広く見えると思った。
信用は申し訳ないけどしてなかった。
でも、ある日を境に変わった。
私の心の中で何かが動いた。
その日からずっと先生になりたかった。
あんな素敵な人に
毎日のように笑顔で人と接する事のできる人に
優しくて温かいと思われる人に
いつもいつもなりたかった。
中学時代の半分を先生に捧げた。
何をするのも先生のため。
見返りなどは求めていない。
先生に会うために学校に行く。
先生の授業のために
死にかけてでも苦手な授業を受ける。
音楽が元々大嫌いで
テストはせいぜい60点くらいだったのに
学年1位にまで上り詰めた。
毎回音楽は私が1位を占めていた。
ピアノ歴半年で卒業式伴奏もした。
生きているだけで精一杯な私が
私の大切な人を笑顔にさせたくて
頑張っていた足跡が残っている。
ただただ純粋に先生が大好きで
先生のそばにいたかった私が
その足跡に映る。
卒業するのが怖くてたまらなかった。
毎日のように涙を流した。
卒業したら二度と先生には会えないんだ。
話したりさえもできないんだ。
分かっていたのに涙が止まらない。
その気持ちのまま卒業式を迎えた。
悲しくて死にそうだった。
卒業式なんて休んでやろうかと思った。
でもその日初めて私は本物の幸せを味わった。
新型コロナウイルス感染症の影響で
3年生を送る会がなくなり
各先生への手紙と学級一人一人からの寄せ書きを
音楽係だった私が渡すことになった。
卒業式本番前に渡してしまおうと思っていたのに
先生には会えないまま式が始まった。
卒業式後泣きながら教室に帰り
自由時間ができた。
その時ずっとポケットに入れたままだった
手紙諸々持って先生を探した。
職員室をみると先生が誰かと話していた。
その会話が終わったのを見計らって
私は職員室には入り先生に渡した。
心臓が飛び出そうだったのを
今でも鮮明に思いだせる。
緊張により全く泣けなかった。
これで私の大切な人とは終わり。
そう区切りをつけお辞儀をして
帰ろうとしていたとき先生が腕を広げた。
職員室のほぼ真ん中で
中学校生活最後の日に
私がずっと密かに願っていたことが叶った。
想像もしなかった。
その時から私は
先生とより仲良くなっていった。
廊下や階段で会えば
私には眩しすぎる笑顔で
私の名前を呼んで話してくれる。
連絡先も交換した。
ご飯も一緒に食べた。
二人きりでお話だってできた。
先生からハグもしてもらった。
言って貰いたかったこと
してもらいたかったこと
中学校時代に願ったことばかりが
目の前で叶えられていった。
時が過ぎていく度
先生との思い出が増えていく。
それと同時にその時が愛おしくなる。
先生がいなくなったとき
私はどうするのだろうか?
どこで死ぬつもりなのだろうか。
先生以上の愛は誰にも向けられない。
なぜならそれが私の愛の限界だから。
でももしかしたら先生に向けた愛くらい
愛を向けられる存在が
将来できるかもしれない。
その時私は死ぬのだろうか?
それとものうのうと幸せに
ごく一般的な生活を送り続けるのだろうか?
先生のことだから嘘だとしても
『幸せになってね』
とかいうんだろうな。
私の大切な人とこの世でまだ
生きていけるように頑張る。