本小説は少し大人な内容となっております。
閲覧には充分お気をつけ下さい。
「は、恥ずかしぃぃぃぃ!」
「黙れって」
「や、やだって言ってんでしょっ」
「往生際悪いぞ、観念しろ」
【りっぷすてぃっく】
「美里、こっち来れるかー?」
夜八時きっかり、
約束の時間に彼の家を訪れると
片付けができない彼の家は
まあ、ひどいもので。
やれやれ、と
乱雑に放置された洗濯物を
片付けている最中
彼が、私を呼んだ。
「んー?何ー?」
「5、4、3……」
「待ってって」
いつものカウントダウン。
ゼロになるまで彼のところに
駆けつけられないと
こちょぐり地獄が待っている。
こどもみたいなことをする彼、たくやに
私は笑いながら歩み寄ると
ガサッと
紙袋がソファの上に投げ出された。
「えー?なになに?」
「プレゼント♪」
「えー!うれしっ」
中を見てみると、
リップスティックが入っていた。
「口紅なんて珍し……ん?」
パッケージをよくよく見ると
「本品は食べられます」
と、書いてある。
「食べられます!?」
彼の目を見ると
にんまり、何かを企んだ顔して
不敵な笑みを蓄えている。
「な、なに?」
「それ、チョコレート」
「は!?」
「体温でいい具合に溶けるらしいよ」
「あのぅー…まさかこれ」
嫌な予感がして上目で彼を眺めれば
あっという間に私の手の内から
リップチョコを取り上げて
パッケージの箱をポイッと放り投げた。
「あ、また!私せっかく片付け…っ」
彼の顔がずいっと近づいて
私は思わず息を飲んだ。
「黙れよ、今からメイクすんだから」
「め、メイクなら間に合ってますけど!」
「うるさい」
彼のサディスティックな一面は
いつも心地よく私を刺激する。
切れ目な彼の瞳の中に
愛を感じる瞬間。
でも、
目を閉じて互いに溺れるキスとは大違い。
彼の目は大きく開いて、嬉々とする。
唇のケア……最近そんなにしてない。
鼻の角質……やばいかも。
メイクとれてない?大丈夫かな
普段は遠目で
隠れてるアラまで目立つ至近距離に
一気に色んなところが気になり出す。
「や。ややっぱ、無理…っ、無理ーー!」
「あ、こら逃げんなっ」
彼の腕の隙間からソファの下へ
転げると、彼もソファから落ちてくる。
足の間に彼の足が潜り込み
顔の両サイドには彼の肘。
逃走失敗。
さっきより
やばい状況になってる。
必死に抵抗した。
「やだ!」
「やだじゃない」
「恥ずかしい」
「駄々こねんなガキでもあるまいし」
「…子どもみたいなのはタクヤでしょ」
「体はちゃんと男だけど?」
今にもキス、という距離まで来て
そんな事を囁く。
心臓がいくつあっても、足りない。
「恥ずかしいの」
「だめ、塗らせろ」
「塗ってどうするの」
「美里ごと食うに決まってんだろ」
「く…っ、食うとかいう露骨な表現やめてくれます!?」
にやにやと笑って
彼はリップスティックの鞘を抜き
くるくる、と
真っ赤な口紅部分を出した。
いよいよだ。
でも、やっぱり…
「は、恥ずかしぃぃぃぃ!」
「黙れって」
「や、やだって言ってんでしょっ」
「往生際悪いぞ、観念しろ」
「たくやなんか嫌いっ」
「好きにさせる」
こんな不利な状況ってないでしょう?
目の前には大好きなたくや。
今の状況を楽しめるS気質。
体は見事なまでのフォールド状態。
嫌いっていえば好きにさせるって
自信に火のついた目で見つめられながら
耳元で囁かれるなんて…。
口紅と私の距離は
じりじりと詰められて
とうとう、スーッ
私の唇にチョコレートが引かれた。
満遍なく塗ろうと
真剣になるたくやに
ちょっとだけ母性がくすぐられる。
「出来た、鏡見る?」
「い、いいよ、恥ずかしい」
「へぇ、早くキスしてくれって?」
「そんなこ……っ」
そんなこと言ってない
そう言いたかったけれど
言わせてもらえなかった。
あっという間に
唇はたくやに塞がれてしまう。
普通のキスと違って
唇についたチョコレートを
なめとろうと必死になるから
たくやの柔らかい舌先が
私の唇を多分に攻め立てた。
「んまい…、もっと塗っていい?」
「……やだ」
「塗るけどね」
何度も何度も
チョコを塗られて
キスを落とされる。
頭の中が痺れてきて
もうどうにかなりそう。
熱い息。
潤む瞳。
切ない心地良さ。
「なあ…」
「ん…?」
「…他のところにも塗っていい?」
「口紅は唇に、塗るもの、ですけど」
上目で彼を見つめる私に
たくやは、たはっ、と
白い歯を見せ笑った後で
「俺ルールじゃ、だめ?」
そう、聞いた。
普段は狼みたいなたくやも
我慢が限界になると
可愛らしい子犬に
なっちゃうんだね。
母性本能がくすぐられて
私はたくやの頭を優しく抱き締めて
「仕方ないなぁ、特別ね」
と、体の力を、抜いて笑う。
その日、たくやからもらった、
チョコレートの口紅は
一晩のうちに跡形もなく
なくなってしまった。
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本当はホワイトデーまで
とっておきたかったお話ですが
この写真がピッタリすぎて
もう、ね
書くしかないかなって。
(*´ω`*)
幸介