『君色に咲く』
「何これおんもっ」
リュックに入り切らなかった
大量の教科書が入ったバック
真夏の帰り道は
太陽に照りつけられて熱い
焼け死ぬんじゃないかと
絶望しかけてたその時
丁度いい所に
同じ部活の碧が通りかかった
「ねぇ碧ぉ…これ持ってぇ」
「えー、やだ」
あまりにも呆気なく拒否られた為
私は何度も頼んでみた
「ねぇ碧ー!持って!」
「うっさいなぁw」
腕がちぎれるんじゃないかってくらい
重いこの荷物
私は車登校だから
ただでさえ体力ないのに
「こんなの持ったら死ぬって…」
ダメ元で呟いてみた
すると
「…また噂されても知らんからな」
そう言って碧は
荷物を私から取って
少し離れた所を歩いた
「…おぉ!!やっさしぃ!」
「マジで噂されたら殴るからな?」
「分かったってぇ!」
その時は思いもしなかった
碧に苦しいくらい夢中になる事を
碧に恋をする事を
次の日
「あ、真凜、今日お茶だって」
「あ、え…」
私と碧は茶華道部で
部活は月に四回
月の予定表が配られるけど
私はいつもそれを無くしてしまって…
「あ、また忘れたんか」
「または酷くない!?w」
「いつもか」
「うざっ!」
必ずと言っても過言ではないほど
茶道セットを忘れてしまう
「あ、やべ、授業始まる」
「うわっ、だる…」
授業って言っても
ほぼノートなんて書かないけど
「有難う御座いましたぁ…」
ボケーッとしてる間に放課後になった
「行くぞー」
「はーい」
部室がクラスの横にある為
移動がとても楽なんだ
「あ、先輩こんにちは!」
「真凜ちゃんこんにちはw」
部室に入ったらまず先輩に挨拶して
荷物を置いて畳を出す
「うわっ…おんも」
畳は少しづつ重さが違う
重いヤツを持った時は地獄そのもの
「ふんふふーん」
鼻歌を歌いながら碧が近づいてきた
と思ったら
私が持ってた重い畳を奪って
「お前持つとなんか危ない」
そう言って運んでいってくれた
急になんだよ
ドキッとしちゃったよ
「今からお稽古を始めます」
「お願いします」
何となくモヤモヤした気持ちのまま
茶道の時間が始まった
「今日のお菓子は…」
部活中はだいたい
碧と目が合う
私と碧と二年の先輩がお客さんで
あと二人の男子と女の子がお点前
「可愛いお菓子やね…!」
「先選んでいーぞ?」
「え、マジ!」
「俺、優しいから」
「何それw」
いつもふざけてるけど
何気に優しいんだよな
「お茶美味しい?」
「ん!美味しいよ!」
「良かった!」
春ちゃんこと
春音ちゃんの立てるお茶は
いつも美味しい
そして照れた時の顔が最高に可愛い
「お前ら本当に仲良いな」
「いーやろぉ!」
「ふーん…キモ((ボソッ…」
「は!?」
やっぱりこいつだけは無理だ
絶対好きにならん
「これでお稽古を終わります」
「有難う御座いました!」
やっと終わったぁ
早く家帰るか
「今日車?」
「今日も車」
「だろーなw」
部活後のちょっとした会話が
本当に楽しい
「じゃあまた明日!」
「うぁーい!」
同じクラスで
席も近くて
部活も同じで
番号も近い
そのせいで掃除場まで一緒
クラスではカップルだとか
変な噂まで飛んでたけど
私と碧は
ただの”友達”でしかなかった
あの時までは
「え、席替え?」
「らしーよ」
「ふーん」
何度目かの席替え
席替えする度
碧の席の近くだったから
今回も近くになれるだろうって
勝手に思ってた
席替えが終わった
碧とは席が離れて
席替えなんてしたくなかったって
心のどこかで思ってしまった
「やっとお前と離れられるなw」
「め、めっちゃ嬉しいんやけど!w」
「俺もw」
あの時の私
ちゃんと笑えていましたか?
新しい席になって
しばらく経った
「ねね、あの二人仲良くない!?」
クラスの陽キャの部類に居る女子が
碧と碧の隣の席の香乃を見て言った
「お、お似合いだと思うよ!」
「だよねだよね!!」
胸がチクリと痛むのに
気付かないふりをして
私は笑った
次の日
「真凜、今日花だって」
「あー、おけ!」
花の時は持ち物が花袋だけで
忘れた場合新聞紙
だからそんな大事にはならない
「先生!これでいいですかね?」
「花のお顔が下向いてるよ」
「上向かせる為には…?」
「こっち向きに入れる!」
「そうです!これでいいよ」
「はい!」
いち早く終わった私は
花を包んで水を捨てに行こうとした
すると
「おまっ…ぐちゃぐちゃすぎやろ」
「え?」
「かーせ」
「ちょ…!」
碧が私の持っている花を取って
包み治してくれた
「うんわ…お前女子やろ」
「なんでいやw」
「包むの上手いもん」
「そーか?」
「そーだよ」
渡されたそれを見てみると
お店から買ったんじゃないかってくらい
丁寧に包まれていた
「ん、有難う」
「おう」
碧と話してると最近
胸がチクって痛む
恋、してる…?
まさかね
次の日も
また次の日も
そのまた次の日も
碧と話す度
胸がチクっと痛んだ
「んん……」
今日も香乃と仲良さそうに話す碧
好き、なのかな
そう考えた時
視界が歪んだ
「えっ…」
何で泣きそうになってるんだろう
目にゴミでも入ったかな
それとも私
”碧に恋してんのかな”
帰り道
碧が近くに居たから
私は思わず聞いてみた
「ねー、碧香乃のこと好きやろ!」
「はぁ?お前に関係ないやろ」
「その言い方、絶対好きやん」
「違うし」
「嘘つくなって、バレバレ」
「ちーがーう」
「すーきーだ」
「ん?俺のこと好きだって?」
「はっ…!?」
こんな事でいちいち顔真っ赤にしたら
認めてるようなもんじゃんか
「ち、違うし!」
「おもろw」
「…うんざ」
何この気持ち
モヤモヤした気持ち
恋、なのかな
恋、なんだよね
認めたら、楽になるのかな?
認めたら、関係が壊れちゃうのかな?
怖いな、認めるの
「ん、どした?」
「んぇ!?」
「なんだようっさいな…」
「あ、すまん」
「明日も部活らしいから」
「ちゃんと華道セット持ってこいよ?」
「あ、わかった!」
「んじゃ」
「じゃ!」
これは恋なんだ
私、碧に恋してるんだ
そう認めた時
少し楽になれた気がした
次の日学校に行くと
クラスの陽キャ女子
望が話しかけてきた
「碧の好きな人分かったよ…!!」
「えっ…?」
「聞いてやった!」
「えっ…誰!?」
私が聞いても教えてくれんだのに
「言わないよw」
「えぇ…!!」
「言ったら命なくなる( ˙-˙ )」
「あー…w」
そりゃそうだろうな
碧、脅し方上手いもんな
もし碧の好きな人が私だったら
なんて淡い希望を持つのは
罪ですか…?
碧のせいで笑えた
碧のせいで苦しくなった
碧のせいで泣いてしまった
でもやっぱり
たくさんたくさん笑わされた
この恋が叶わなくとも
こっそり思ってもいいですか…?
零れ落ちた涙に気付かないふりして
私は笑った