同じ夕焼けを・2024-04-18
夕顔の背中
夕顔の背中
30/50
普段目立たないボクが
大袈裟な態度をとったので
クラスの注目を浴びた
そしてキミもボクを
見つめていた
その眼差しは
ボクを祝福するようだった
負けて悔しとか
憎いといった
見苦しい感情は
全くなかった
だからキミに
勝ってしまったという
悪いことをしたという
感情が起こった
キミを励ますつもりなら
他の方法もあっただろう
でもそれは
取り越し苦労だった
もう一人の100点は
キミだったから
夕顔の背中
19/50
エアコンが効き始めて
ボクは微睡んできた
夢と現実の境界にいる
そんな気分だった
そうしている間に
眠りについていた
寝ている間は
全ての苦しみから
解放された
せめてもの救いだった
苦しくて眠れなかったり
目を覚ますことはない
ただ目が覚めた時
苦しみが癒えているのか
継続しているのか
予測はつかなかった
だからこそこの苦しみから
意識を支配者されている
苦しみの正体や治療法は
全く分からない
ただ苦しみから抜け出せる
唯一の手段は眠ることだけだった
夕顔の背中
38/50
期末テスト最終日に向け
夜遅くまで勉強をしていたら
いつの間にか眠っていた
ラジオの音で目が覚める
勉強のお供に適当な局を
流していたけど
つけたまま
眠ってしまったようだ
ラジオからは淋しげな曲が
流れていた
今のボクには
その淋しさが心地良かった
カーテン越しに
朝にもかかわらず
夏の強い光が差し込んできた
どうせなら
夜を思わせるような
曇り空であって欲しかった
曲が終わったら
ラジオのスイッチを切り
少しばかり床を見つめていた
夕顔の背中
17/50
中間テスト最終日の
6月はじめ
とても暑い日だった
テストの出来は
ひどいものだった
それでもテストの日に
休むことがないだけで
安心出来た
学校の帰り道
容赦なく日が照りつける
高い日差しと
梅雨入り前とは
思えないような
乾いた空気が
ボクのこころを
焼こうとしているようだ
なんとか駅まで
たどり着こう
気持ちを強く持って
歩を進める
しかしボクは勝てなかった
激しい嘔気が込み上げた
夕顔の背中
25/50
そんなキミが
ボクの斜め前にいる
自然と意識は
そちらに向かう
近くで見ると
夏服に衣替えに
なったことも相まって
か弱さが際立った
そんなキミは
悔いのない高校生活を
送るために
しっかりと勉学に
励んでいた
正しく言うと
勉強をすることが
キミには当然のことで
テストの結果は
日々の積み重ねを
チェックする作業でしか
なかったのだ
尊敬すべき日常だけど
一生で3年間だけの
高校生活を
勉強以外に楽しみは
しないのかと
思ってしまうのだった
夕顔の背中
22/50
翌日は学校へ行った
気分は優れなかったけど
梅雨入りを告げる
どんよりした空が
自分に合っていたので
外に出たい気分だった
学校に着いて
席に座ろうとすると
様子が違った
隣の席の生徒も違う
どうやら昨日
席替えがあったようだ
ボクの席を確認したら
窓側の後方だった
席に着くなり
ぼんやりと曇り空を
見上げていた
前後と隣に
誰が座っているか
気になることもないほど
ボクは自分と曇天しか
見えていなかった
そのはずだった
キミが席に着くまでは
夕顔の背中
37/50
6月も後半になり
期末テストが始まった
まともに勉強を
していないボクには
落第を意識しなくてはならない
及第点目指して
テスト勉強をする
キミと勝負をかけていた季節とは
大違いだった
何よりも悔しいのは
今の自分が情けないと
思うことさえ出来ない
精神状態に
慣れきってしまったことだ
夕顔の背中
41/50
自分の顔を見て
みじめになった
頬は痩せコケて
髪はパサパサで
目に生気がない
もはやただ生きているだけ
こころはドンドン沈んで行く
ふと朝のラジオの曲が
頭で流れだした
ボクは俯いて目を閉じた
もの淋しい曲なのに
爽やかな気持ちになった
ボクはカッと目を見開いて
鏡に映る自分を睨む
そして自分に向けて決意する
もう体が治ることは諦めよう
今の自分を受け入れて
それに見合った生き方をしよう
夕顔の背中
26/50
ボクの考えは
違っているのではないか
そう思う出来事があった
キミが髪型を変えたのだった
初めは後ろ髪を
束ねるといった
シンプルなものだった
暑いから束ねている
そう思っていたけど
キミはいろいろな髪型に
結うようになった
好奇心からか
異性を意識してか
分からないけど
普通の女子高生なんだと
そう感じたボクは
キミに惹かれるようになった
夕顔の背中
21/50
月曜日になり
かかりつけの病院で
診察を受けた
一昨日の一部始終を
話したけど
急に暑くなったから
陽気にあたったのだろう
そう診断されて
様子を診ることとなった
思い返すと
この症状が出たのは
今年一月の終わり
初めはすぐに治る
そう信じていた
しかし症状は変わらない
それどころか
ボクの不安を増大させた
いくつかの病院を
受診したけど
体に何も異常は
みられなかった
だから治療法はない
あるのは絶望感だけだった
夕顔の背中
16/50
中間テストを控えた
五月の終わり
体調は戻りつつあった
梅雨の走りだろうか
雨を降らせない
暗い色の雲が
空を覆っていた
その雲から
吹き出されたような
湿気を帯びた風が
体を撫でる
風は草や木の葉の薫りを
飽和状態に含んで
呼吸をすると
乾いたこころが
少し安らいだ
夕顔の背中
40/50
無事家に着いた途端
激しく胃が痛んだ
立つことは疎か
椅子に座ることも出来なかった
テストの緊張と
炎天下の帰り道から
解き放たれ
体の悲鳴がようやく頭に
伝わったようだ
お腹を抱えて
うずくまっていたら
いつの間にか長い日が
沈みかけていた
もうお腹は痛くなかったけど
夕ご飯は食べないことにして
シャワーを浴びた
パジャマに着替えて
鏡を覗きこんだ
夕顔の背中
15/50
四月は体調が良くない日が
少なかった
このまま体調が戻ることを
期待するほどに
穏やかで暖かな
季節だった
ゴールデンウィークが明けると
体調が思わしくない日が
増えて来た
学校も何日か休んだ
自分の体を元に戻すため
せっせと階段を
上っていたのに
一気に転落した気分だった
こうなると
気持ちを維持するだけでも
大変なことだった
夕顔の背中
31/50
その日から
キミはボクに振り向くことが
多くなった
確かに英語では
キミに肩を並べることが
出来たのだけど
それ以外の成績は
惨憺たるものだった
そんなボクを
意識してもらえることが
ただただ嬉しかった
でもキミは
ボクをどのような存在として
意識しているのだろうか
新進気鋭のライバル出現
それはそれで光栄だけど
ボクが望んでいるものと
大きくかけ離れている
やはりキミには
一人の異性として
見て欲しいのだった
夕顔の背中
29/50
一週間後に
英語のテストが返された
100点の者は
一番最初に返される
先生は答案用紙を
机の上でトントンと揃えている
その顔は満足げだった
ボクは100点の生徒がいる
そう確信した
先生は声高に
このクラスに
100点が2人いると言った
そして名前を呼ぶ
その一人はボクだった
ボクはクールに装うつもりが
テストを受け取った瞬間
派手にガッツポーズを
してしまった