【花が散る、その時まで。】第四章
し、手術……?
あんな人が……?
いっつも無愛想で
何でもなさそうにしてる
あの人、が?
呼び止めるお姉さんの声も
まるで聞こえないかのように
病室を抜け、駆け出す。
向かう先なんて1つしかない。
もう何時間待つだろう。
辺りには秒針の音だけが響いて
余計それが焦りを増す。
チッ、チッ、チッ……
もうこれ以上聞きたくない。
と、「手術中」という
ランプの明かりが消えた。
同時に扉が開き
数人の医師らと
ストレッチャーで眠ったままの
藍斗が運ばれてきた。
「……。」
名前すらも呼べなかった。
藍斗が、もう二度と
目を覚まさないんじゃないかって
怖かったから。
だから、ただ運ばれていく藍斗を
遠くで見守ることしかできなかった。
私も病室戻ろう。
藍斗が待ってる。
その後、夜まで藍斗は目を覚まさなかった。
「ん、あれ……今何時?」
眠たい目を擦るそんな藍斗に
つい笑ってしまう。
そんな私に気づいて
「何笑ってんの、お前……」
不機嫌そうな声。
そんな声聞いたら、泣いちゃうじゃん。
「よかった、藍斗……お帰り!」
ドギマギした顔にまた笑う。
久しぶりだな、こんな笑ったの。
「泣いたり笑ったり、意味わかんねー。
でもまあ、ただいま。」
藍斗ってこんな風に笑うんだ。
たまには人間らしいとこもあるじゃん。
こんなこと、照れくさいから
本人には絶対言わない。
何時か言うべき、その時まで
大切に心に仕舞っておくよ。
「そーいやさ」
いっつも唐突。
出会った頃と変わらないね。
まあ、それが藍斗だけどさ。
「前の手術、成功した。
それと、俺もあともう少しで
退院だってさ。
お前よりは遅いだろうけど。」
「え、そうなの?!おめでとじゃんっ!!」
素直に嬉しかった。
その反面
もう話せなくなるって考えると
心のどこかで悲しんでる
そんな自分も確かにいた。
「お前、どこ住んでんの?
いや、別に言いたくなかったら
言わなくてもいーけど……
なんつーか、退院しても
また話してーなって。」
本当は私から聞きたかった。
でも、聞かれたからには
ちゃんと答えなきゃね。
「ここの道を真っ直ぐ行って……
それでこの橋を渡った先のとこ。」
「お前、説明下手くそかよ。
つーか、割とこの病院から近いんだな。」
「うん、一言余計だけどね?」
他愛もないこんな話も
いつしか"過去の思い出"となっていて
いつの間にか退院する日が
あと数日、というところまで
迫っていた。
退院したところで
別に何も変わらない。
ずっとそう思っていた。
-continue-