友達の前では強い子を演じて
親の前では扱いやすい子を演じて
先生の前ではいい子を演じて
そうしているうちに
演技だけが上手になっていった
相手にとっての
都合のいい人間を演じるほどに
誰かが私を好きでいてくれた
でも、そうやって演じるほどに
人から嫌われることが怖くなった
気がついたら私は
他人の人生の傍役になっていた
自分の人生も、自分自身が何なのかも
分からなくなっていく
本当の私はどこに置いてきたんだろう
私は傍役になりたかったわけじゃない
自分の人生を
音楽と、大切な人と歩みたくて
生きてきたはずなのに
いつから
“嫌われない自分 ”でしか
生きていけなくなったんだろう
音楽を続けることも
世界でたった1人の大切な人を愛すことも
自分自身で選んだ道
でも、そんな“私 ”が望む人生は
“私を大切に思う人 ”が望むような
「普通で安定した人生」じゃない
それが分かってるから言えなかった
分かってるのに私は
大人が望む道に
逆らって生きることを望んでる
本当の私はきっと
大人にとっての「悪い子」なんだ
私だって
音楽以外で自分に
出来ることがあったらって
みんなの言う「普通」みたいに
男の人を当たり前に好きになれたらって
何千回、何万回も思ってきた
普通になりたいって願って
できるだけ普通な人を演じてきた
「普通」ってなんだよって思った
でも、周囲の空気が
私に無言で「普通のあり方」を示した
私が言えない空気を
私に言わせない空気を作っていった
迷ってるうちに
その空気はどんどん大きくなって
もっと言えなくなっていく
まるで、見えない壁が
どんどん厚くなって
私を追い込んでくるみたい
その壁は今日も迫ってくる
明日も明後日もこれから先も
私が諦めない限りは
きっと永遠に続いて行く
親も担任も顧問も
きっと分かってはくれない
自分達は普通と呼ばれるの恋愛をして
普通と呼ばれる結婚をしたんだから
本当の意味で理解なんてできるわけない
恋愛は内側からじゃないと
“ストーリー ”が見えない
外から見えるのは
“普通の恋愛かどうか ”だけ
その2人の中でどんな
感動的なストーリーがあったとしても
他人はそれが普通じゃなければ
内側の思いも知らないまま
簡単に否定を突きつける
それが社会
どんなに「多様性の時代」と言って
社会の表面だけを塗り替えても
学校で毎年、多様性の授業をしても
みんな心の中では無意識に
「普通じゃないもの」に分類する
言葉にしなくたって伝わる
当事者はそういうものを敏感に感じ取る
この社会には
普通に恋バナをする子達には
きっと理解されないけど
私はたしかにここにいて
今この瞬間も普通じゃない恋愛をして
幸せなことにそれが今報われて
隣で笑ってくれる彼女がいる
それが内側で起きているストーリー
それが本物であることを
せめて一生覚えていたいし
他の何を犠牲にしても
一生この本物の愛を守り抜きたい
親は私を大学まで卒業させる気でいる
それは嬉しかった
ただ、親が望むその進学先が
何の大学なのか
少なくとも音大でないことだけは
嫌でも理解できてしまった
高校の音楽科の資料が目に止まったとき
「オープンスクール行ってみる?」
親の方からそう聞かれた
高校は他に普通科で行きたい所がある
でも、もしかしたらって思った
もしかしたら音大
行かせてくれるんじゃないかって
だけど親は
ほんの少し考えた後にこう続けた
「でも、音楽科は
音大とかに進学する人が行くところか」
まるで、私が音大に行かないのは
当たり前みたいな言葉
その一言で余計に言えなくなった
私がもっと強ければ
「音大の打楽器専攻に行って
音楽を仕事にしたい」
そう言えたかもしれない
でもそんな強さはどこかに置いてきた
本気なのに、強気になれない
1年生の三者面談の時
親が担任に向かって
「音楽を仕事にできるほど
上手いってわけでもないですし」
そう言ったことを
今でもはっきりと覚えてる
もう何の話をしてたのかも忘れたのに
その声だけが今も頭の中で流れてる
あの時、親は一瞬も私の顔を見なかった
その時に分かった
親にとって私の人生は
自分の所有物の人生みたいなもので
親は私に自分よりいい人生を
周りに誇れる人生を歩ませたいんだ
私は娘である前に
1人の人間のはずなのに
親にとって私はたった1人の娘だから
代わりはいない、お前しかいない
そう言われてるような気がする
親は私に期待する
理想の人生のベースを
もうすでにもってる
そこに突然現れた吹奏楽
しかもよりによって簡単そうな打楽器
それだけでも十分予定外だったんだろう
私のパートが決まった日に
親が発した「え?」
そのほんの一瞬の声が
今も私に圧をかけてる
私が「音大に行きたい」
「打楽器を仕事にしたい」
そう言ったら
きっと親はすぐに反対する
それできっとまた
話も聞かず、私の表情も見ずに
否定するんだ
それが怖いから
「現実を見ろ」って
はっきり言葉にされるのが怖いから
私は勇気を振り絞っても
続けることと
上手くなることしか出来ない
私ももう中3
きっと高3なんて
あっという間にやってくる
私はそれまでに言える?
それまでに強くなれる?
否定されたらなんて言おう
「家も出ていく」「大学は奨学金で行く」
そんなこと言える強さも
本当にそんなことが出来る行動力も
持ってないのに
意思だけはどんどん強くなっていく
私は本気で打楽器を仕事にしたい
私が音楽に救われたように
自分の音楽で誰かを救いたい
私が先輩の打楽器に魅了されて
夢中になったように
私も自分の力で
打楽器をもっと輝かせて
人に打楽器を伝えていきたい
私は親の所有物じゃない
そう言えるくらい強くなりたい
だから、もう演技もやめる
管理だってされない
「ああしなさい」「こうしなさい」
そんなこと言わせない
小さいことかもしれないけど
これは私が自分の人生を
自分で生きるための第1歩になる
そう信じてる