#崇拝

もしも神様に逢えるなら。

私はきっと、泣きながら乞うのだろう。

「ずっとずっと、
貴方のお側に置いてください」と。

神様に代わって

まるで、神様みたい。


あなたは神様。

私の唯一。

ねぇ、そうでしょう？

君を想って綴る言葉がどれも丁寧で

自分がどれだけ大切に愛されていたのか、今更

私はあなただけ見つめてる

世界は大嘘吐き

だけどどこか憎めなかった

完全に恨めなかった　

君に裏切られたって憎めない恨めない

君は世界の全てだから

君が隣に居た時の横顔が
また見たいな。

貴方への「好き」の言葉は
この流れ星のように
流れてしまった。

心さえ操るきみの声帯を

取り出したなら食べてしまいたい

私を君色に染めて。

みんなが貴方を神様じゃないって言っても私は信じない
だって貴方が神様じゃないなら
誰がそうだっていうの

彼が神、というのは安直すぎた。神以上の存在、この世に関わらない神と違い我ら凡人に生きる希望を与えてくださる。なんと慈悲深いお方だ。どこまでも心を掴んで離さないその歌声は人間の枠に入れて置くのがもったいないほどのもの。美しいだなんて使い古されてきた安っぽい言葉をかけるのすら烏滸がましい程の容貌。なんと褒め称えれば良いものか、陳腐な表現しか出来ない自分が憎たらしい限りです。

お前は､何であろうが“人間”で､
俺にとっては“神”だった｡

悲しみは全て呑み込んでしまおう。
怒りも全て呑み込んでしまおう。

そうして己を分析するのだ。
暇潰しには調度良い。

＊

悲しみは全て呑み込んでしまおう。
怒りも全て呑み込んでしまおう。

喜びは惜しみ無く出そう。
さすれば人は嫌な顔をしない。

＊

悲しみは全て呑み込んでしまおう。
怒りも全て呑み込んでしまおう。

私の周りの世界は
私の脳が認識しているのだから。
私が冷静になれば認識している世界も変わる。

世界は何も変わることはないが
私に影響を及ぼす私の世界は変わる。

＊

悲しみは全て呑み込んでしまおう。
怒りも全て呑み込んでしまおう。

そもそも選択肢はあれども
その選択をする許しは与えられていないのだ。

＊

憂鬱な日に乾杯しよう。
憂鬱な日は幸せが見えやすいのだ。

全ての憂鬱な日に存在する全ての人に。
貴方は幸せだ。幸せなのだ。
不幸を探す必要はないのだ。
貴方自体が幸福なのだから。

＊

憂鬱な日に乾杯しよう。
悲しみは全て呑み込んでしまおう。
怒りも全て呑み込んでしまおう。
喜びは惜しみ無く出そう。
さすれば人は、貴方は嫌な顔をしない。

＊

憂鬱な日に、私に、この日に、貴方に。
乾杯しよう。乾杯しよう。

そうして踊ろう。笑おう。眠るのだ。

　カフェに入ったとき、当たり前のように彼女はソファ席へ座った。そういう人だった。

「何にする？」

　私が声をかけても生返事で携帯をいじっている。ようやくメニューに向かった彼女は五秒で決めてしまう。私に至っては、五分経っても決められていなかった。

「決まった？」

　彼女から声をかけられるまで、どんな甘味とコーヒーをマッチングさせるかというシミュレーションに没頭してしまっていた。結局デニッシュパンのケーキとブラックコーヒーを合わせることに落ち着き、「ごめん、待たせちゃって」と詫びて呼び出しベルを鳴らす。彼女の注文は、声が小さく店員はおろか私すら聞こえなかった。彼女はメニューを小さく指さして、店員はようやく理解したようだった。私は、それが何かは見えなかった。

「お待たせ致しました」

　かちゃりと少し音をたてて置かれたホットのブラックコーヒー、向かいはアイスカフェオレ。頼んだ甘味だけ唯一被った。こうも違うかとそっと苦笑した。

「いただきます」

　そっとフォークをデニッシュパンに差し込む。思ったより弾力があって、切り分けるのに苦労した。そのうちに手が滑って添えてあるクリームが手についたりして、もたもたしながら一口サイズに仕立てた。まずはそのままプレーンで食べるのがマイルールなので、ただのデニッシュパンを口に運ぶ。美味しいけど、デニッシュパンの味だという以外の感想が出てこなかった。その後にようやく蜂蜜をかけたり、クリームをのせたりして楽しめるようにした。
　それをよそに、彼女は私が切り分けている横で蜂蜜を回しかけ、クリームをたくさんのせて丸々頬張った。そういうことなので、早々に食べ終わった彼女はカフェオレを飲みながら私の奮闘をただ眺めていた。時々「ゆっくり食べなよ」とか、「大丈夫？」などと声をかけてきた。それにコクコクと頷きながら、マイルールのうちの『五分の食事ゴールデンタイムのうちに食べ切れ』を死守すべく黙々と食べた。

「あのさ」

　いつもの話しかける口調で彼女は続けた。私は忙しなくフォークをカチャカチャ鳴らしていた。

「私といて楽しいの？」

　最後の一口がぴたりと止まった。彼女の言葉が私の顔を秋風のように掠めていった。その感覚が嫌に冷えていて身体が震えた。そっと彼女の顔を見る。その顔は至って穏やかだが、笑ってはいなかった。

「え……」
「いや、楽しくないんだったら別れちゃってもいいんだって」
「違う」

　こういうとき、私は声を張って自分のフィールドとして支配しようとする。悪い癖かもしれない。

「楽しいよ。だって何年友だちやってきてるの？逆にあんたは楽しくなかった？」
「いや別に」

　楽しい、とは言わないんだなと要らない考察をしてしまう。よく彼女はこうしてあっさりと行動を共にしなくて良い、無理しなくて良いと口走る。卑下しているのか、私のことが嫌いで絶妙に遠回しに絶交したがっているのか分からなかったから、ひたすらに不安が募るだけだった。

「無理してそうで、さ」
「無理してないよ」
「私なんかと一緒にいたら不幸になっちゃうかもよ」
「不幸じゃ無い」

　きっと彼女が求めている答えはこれじゃないんだろうと感じている自分に苛立ちながら、そもそも答えってなんだ？とつまらない頭で考えあぐねる。一生かかってもこの人の頭にはなれない。そう感じる私に、私はまだ彼女を崇拝しているのかもしれないと思った。
　必死に握りしめたフォークとスプーンは、知らず知らずのうちに汗で濡れた。彼女はふぅん、と小さく頷いて再び携帯をいじりだした。ちらりと端に避けられた皿を見た。蜂蜜がたくさん残った彼女の皿と、パンくずひとつ無い自分の皿を見比べながら、また小さく絶望した。