トントントン
不規則なドアをノックする音。
「ねえ、開けて、僕なら大丈夫」
今更やってきた貴方に何がわかるの?
早く何処か行って。
トントントン
不規則なドアをノックする音。
「ごめんね。気づけなくて。」
何故貴方が謝るの?
悪いのは私。貴方は無関係なの。
トントントン
不規則なドアをノックする音。
「ねえ、君の顔を見たいんだ。」
見たからと言ってどうなるの?
笑顔の仮面の作り方さえもう忘れたわ。
トントントン
不規則なドアをノックする音。
「それでも、会いたいよ。」
貴方って我儘な人ね。
早くどこか行ってくれないかしら。
トントントン
不規則なドアをノックする音。
「もう、離れないよ。」
その言葉は聞き飽きたわ。
何度信じても嘘でしかないもの。
トントントン
不規則なドアをノックする音。
「もしかして、死ぬ気?」
貴方に言ったって何も変わらないから
特別に教えてあげる。
その通りよ。なにか文句でも?
トントントン
不規則なドアをノックする音。
「僕を中に入れて。」
中に入ってどうするの?
説教?説得?何かしら。
何を言われても今の私には響かないわ。
トントントン
不規則なドアをノックする音。
「僕も死ぬよ。」
何かしら。同情か何か?
そんなくだらないことしないで。
貴方には未来があるのだから。
トントントン
不規則なドアをノックする音。
「君にわかるの?僕の未来が。」
貴方は馬鹿みたいに優しくて
周囲の信頼を得て、
努力をできる素敵な人よ。
そんな貴方を未来が待ってる。
トントントン
不規則なドアをノックする音。
「でもね。僕には君がいないとダメだ。」
あら、私を一度捨てたくせに。
誰にでもそんな軽口叩いてるの?
トントントン
不規則なドアをノックする音。
「僕はダメな奴だから、
僕といたら君は不幸になる。
だから、離れた。それだけの事さ。」
そんな言葉を信じられるほど
今の私は純粋じゃないわ。
トントントン
不規則なドアをノックする音。
「ドアを開けて。お願い。」
ダメよ。
貴方の顔なんて見れないわ。
トントントン
不規則なドアをノックする音。
「なんで、そんなことを言うの?」
貴方にわかるかしら。
私がこの数年、苦しみながらも
貴方が助けてくれると
信じ続けた私の気持ちが。
トントントン
不規則なドアをノックする音。
「ごめんね。」
私ね、あなたに言いたいことがあるの。
ありがとう。
私と出会ってくれて。
トントントン
不規則なドアをノックする音。
「ねえ。君が好きだ。愛してる。」
その言葉をずっと待ってたわ。
今の私は幸せ。
トントントン
不規則なドアをノックする音。
「開けるね。」
ドン、ドン、ドン…!!!
ドアを無理やり開けた貴方は
私の元に駆け寄り、抱きつく。
「君の悪い癖。
一人で抱え込んで、
ドアを閉じ続けてたんでしょ?
月日が経ち過ぎて開けられなかった
そうなんじゃないの?」
「本当は助けて欲しかった、
そうでしょ?」
そんな風に君が優しく私に言う。
ああ、貴方が側にいる。
貴方が、君がいるんだ。
「君が死ぬなら僕も死ぬさ。」
コツコツコツ
不規則な階段を上がる音。
「怖くない?」
怖い。でも、貴方がいるわ。
心強い。
ねえ、最後に愛してるって言って
抱きしめて欲しい。
「愛してるよ。」
そう言って伝わってきた
君の体温は暖かい。
貴方を愛してる。