「波が来るぞー!」
「早く逃げろ!」
___
猛た波が喰らふは
千の意思と万の生きし
___
荒れ狂った津波が
多くの人の意思と命を奪っていく。
「死にたくない」
___
御霊と一片の祈り八百万掬い給えと
___
波に呑まれる無数の命と
生きることへの渇望を、
どうか神様。
天の上から拾いあげてください。
「誰か……」
「お母さ……ん」
___
その裂けた命乞ふ声さへも
海に響く鼓膜なく
___
終わりかけの命を乞う声も
聞く耳を、海は持たない。
「助けて」
___
今も何処かの海で
絶へず木霊し続けていくのだろう
___
その言葉は今も、何処かの海を
漂っているのだろう。
君から貸してもらっていた
ハンカチは、君の匂いがした。
その匂いを嗅ぐと
君がまだ近くに居るように感じた。
___
君の匂いは帰る場所
___
君の匂いは
自分の思い出の中の君の場所を甦させる
君の居ないこれからを、
俺はどうすれば良いだろうか。
この指で未来を描くには
何か物足りなかった。
___
細い指先は向かう場所
___
あの街並みも
あの家庭も
全て嘘になるのなら真実なんていらない
___
万感の想いで積み上げた今日も
嘘になるなら真実などもう頼らぬ
___
多くの人があらゆることを想い
精一杯積み上げた今日も_
「これからどうしようかな」
自分の乾いた声が
ポツンと独りになり、
消えていく。
___
怒りもせず涙も見せぬ
空と陸の狭間で生きるということは
現を背に 痛みに狂う
我ら似て非なる群れた愚者
___
怒りも悲しみもせず、
何も無いこの場所に
立って生きているということは
少なくともこの苦しい現実から避難し、
痛みに悩まされるということ。
自分達は
考え方も感性もそれぞれ違うけど
群れている愚者だ。
「何もかも無くなっちゃったよ」
今までの出来事を思い出す。
本当に色々あったな。
あの高校、
小さい頃は憧れだったんだっけ。
あの駄菓子屋、
おばあちゃんが優しくて
好きだったんだよな。
___
猛た波が喰らうは千の意思と万の生きし
御霊と一片の祈り
幾年がまとめて刹那に
___
年月を重ねてきた色々なものも
一瞬で襲われ、奪われる。
この形にも無い景色に
何を唄えば明るさが戻るのだろうか。
___
果てた陸に何を唄へば
再び光は芽吹く
___
そんなこと分からないから、
今はただこの歌を唄って
命のある人、無い人に限らず
全ての人達の帰る道しるべとして。
___
今はこの調べを蒔いて
彷徨う友が
帰る道しるべとして
___
君と俺は確かにあの時出逢った。
でももう今は何も無い。
でも、それだからこそ、大事にする。
___
出逢えたから ここに在るこの
空っぽだから 大事にするよ
___
運命か偶然かは知らないけれど、
思い半ばに亡くなった君の命。
君の命と引き換えに得た
この身は、君の形見だから、
大事にするよ。守り通すよ。
___
運命か采か 昨日と今日の
狭間に終えた
君の御霊と引き換えに得た
この身のすべては
形見だから 守り通すよ
___
こんなこと、初めてだ。
足跡も遺さず消えた君に
「この想い、届いてよ」
そう願うのは。
___
はじめてだよ 足跡も無い君に
声を震わせ 届けと願うのは
___
忘れてはならない日
2011年3月11日
by.gasshow