🐼えにし🐼・2021-07-09
小説
感想聞かせてください
方向転換
眼前に広がる景色が崩れ落ち暗転する。
規則正しい電子音で意識が戻り、ピッピッと言う音に困惑しながら目を開ける。
見知らぬ真っ白な天井に張り付く蛍光灯、40形の長い明かりが2本仲良くこちらを照らしている。
起きた事に気付いたのか、隣りに居た看護婦が目を見開いて一言
「やっと目を覚ました!」
あぁそうさ。今目を覚ましたよ。好き勝手アタフタして・・・、なんて口も動かず考えているうちにいつの間にか1人になっていた。
保険はかけておくものだ。金をかけてるだけあって私は小さいながらも1人用の病室でゆっくり出来ている。
体調管理を怠ったせいか、身体が動かない。肘から先は何とか動くが、二の腕がどうも動かない。コレでは起き上がるとこすら出来ない・・・。状況を理解して行く度に欲が出てくる。喉が乾いた。だが状況はまな板の上の鯉だ。落胆してため息を着いていた時に扉からノックが聞こえた。返事をする間もなく入室とは・・・話せる口も今は持ち合わせて居ないので、どうでも良く思える。
どうやらさっきの看護婦と医師が入って来たようだ。看護婦に声掛けされながらベットのリクライニングが動き出す。
そこからは何とも言えぬ私が倒れてから今までの話が淡々とされた。
6日間も寝てた事には驚いたが、何なら1週間丸々寝ていた方がキリが良かった。なんてどうでもいい事を考えながら話を右から左へ聞き流す。
私は営業マンとして日夜休みなく働いていたサラリーマンだった。給料はいいが、ノルマがあり売る物も20kg程ある。車移動とは言え持ち運ぶのは骨が折れる。
売り上げを出しては居たが、上司と仲が悪く仕事の話はああ言えばこう言われる様なやるせない日々の中で私は倒れたらしい。
仕事場から連絡があり、無事にクビを宣告された。
泣きっ面に蜂。踏んだり蹴ったりで呆れ返る1日を過ごした。
断食状態だった為、夕食に重湯を飲んだ。スタミナを求めてガツガツしたモノを食べていたあの時とは天と地程の差がある。しかし、優しく染み渡る何とも言えない味が休んで良いのだと静かに語りかけて来た。
3日程経ち身体もずいぶん良くなった頃、1000万を超える貯蓄はあるが、職が無い今では無くなるのも時間の問題だ。だからと言ってもう馬車馬の如く働くのはごめんだ。
そうだ。人生の方向転換をしよう。
残暑の厳しかったあの時とは違い外は少しずつ過ごし易い気候になっていた。
このまま秋に向けて起業なり何なりを始めるのは悪くない。
産まれてこの方人並みの幸せに憧れながら無い袖を振り必死に努力して懐に余裕が出来れば時間が無限に消え失せついぞ倒れた私だが、七転び八起きでもう一度頑張ればいい。
その後、会社は成功するまでは又別のお話で・・・
私なんかじゃなくて私だから出来ること
才能とか大袈裟なことでなくても
さりげない気配りとか貴方を大事にすること
過去があったからこそ今ありがとうと想える
そうだ。
逃げることだって、大事なんだ。
どうせ行き止まりなのに、限界までつらい思いをして壊れるより、すぐ方向転換したほうが早く安全にゴールに着く。
『精神的にも辛くてもう耐えられない』
そう思ったら、逃げたっていいんだ。
こんなに辛い思いをするまで頑張ったんだから、ここで逃げたって何も恥ずかしいことは無い。
見えなかった違和感の答えを
身体で感じた時
自分のいる場所じゃないと確信した
幸せになるために離れた
決断に後悔はない
この瞬間から
方向を変えるのも悪くない
未来は私の手の中に在る