『あ。たんぽぽの綿毛が飛んでる!』
【僕に映るもの】
『あはは。本間に最高やわ』
笑ってたりとか
『もう知らない…っ』
怒ってたり泣いてたりとか
『お腹空いたぁぁぁぁ』
大きな独り言を発してたりとか
『死にたい』
助けを求めてたりとか
いっぱい聞こえる
いっぱい見える
いっぱい無視をしてしまう
花の気持ちなんて
たんぽぽの気持ちなんて
滅多に考えることなんて無いでしょう
だから気づかないと思いますが
たんぽぽにも感情はあります
笑ってる人を見たら
嬉しくなったり
怒ってたり泣いてる人を見たら
心配したり、不安になったり
大きな独り言を言ってる人を見たら
自分も声を出したいな、って思ったり
助けを求めてる人を見たら
分かってあげたい、とか
助けてあげたい、って思ったり
一見軽く飛んでるように見えるけど
心の中はそれなりに重くて
色々なことを抱えたまま
地に落ちて
次へと命を継ぐ
この一生は
とても長く とても短い
超音波なんて無いから
近くに植物が咲いてても
会話なんて出来ない
ずっと一人で喋ってる
でも孤独かと問われれば
そんなことはない
だって
僕を見てくれる人が居るから
『たんぽぽだぁ』
優しい声でそう言って
ふぅーっと息を吹きかけてくれる
それだけで幸せ
何処へでも行けるんですから
風に身を委ねて
遠い遠い所まで飛んでいける
そして色々なことを体験する
辛いことも
楽しいことも
生きてきた分いっぱい体験する
自由を身に感じて
荷物を背負いながら
一生懸命生きていく
それが、僕にとっての幸せ
人間は『空を飛びたい』と言います
空を飛べたら
自由だから 楽だから って
みなさん口を揃えてそう言います
実際には自由だけど
楽では無いのかもしれません
人間の一生の感情も
たんぽぽの一生の感情も
結果的には同じものですから
辛いし 楽しいし 嬉しいし
不安になるし 絶望するし 幸せだし
命を継ぐたびに
心の中に生まれるのは
生きることに対する 愛好 と 嫌悪
生まれたときに
泣き喚いて
"産まれたくなかった"
なんて伝えることは出来ないけど
生まれたときに
茎を折って 花を枯らして
"生まれたくなかった"
って伝えることは出来る
そうしている植物が少ないのは
沢山の愛情を
注いでもらっているから
温かい心を持っている太陽と
苦労を超えたものが詰まっている水と
人が頑張って生きて吐いた息で
精一杯前を向く
みなさん頑張って生きている
『出来損ないだ』
そう言って絶望した何処かの誰かも
二酸化炭素を吐いてくれている
その二酸化炭素が
僕達、植物を育ててくれる
だから決して無能なんかじゃない
決して出来損ないなんかじゃない
君は 貴方は
生きているだけで役に立っている
こんな世界でも
頑張って息をしてくれる貴方達の
努力のおかげで
僕はここまで生きることが出来ました
僕の命はここで尽きるけど
僕の綿が残して出来た命は
この先も沢山生まれます
来世へと
そのまた来世へと
受け継いでいく僕の生命
きっと誰かに伝わる日は
来ないのだろうけど
今はただ願って言います
ありがとう
『あ。たんぽぽの綿毛が飛んでる!』
明日もそのまた明日も
来年も再来年も
君が 貴方が
精一杯生きた証は残るから