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#独り立ち

読んでると、
思わず胸がギュッとしめつけられる、
そんなポエムを集めました。

全12作品・

少しばかりの反抗心と

照れくさいような嬉しさと

もらった言葉を詰め込んで

背中にせおって踏み出した

ふたり・2017-06-04
独り立ち
大切な人



鈴は未亡人だ。


俺の親友光矢と恋に落ち結婚した。


あの時の二人の幸せそうな顔は


今でも忘れられない。


本当に似合のカップルだと思ったものだ。


程なくして鈴の胎内には


まだ見ぬ子どもが宿る。



誰がどう見ても順風満帆だった。






だけど新婚一年も経たぬうち


会社へ向かう途中で



光矢が事故に合った。




即死だったらしい。




そこから俺たちの運命は


動き出した。






「パパー」


可愛い声とは裏腹な


重圧が眠る俺の胃を直撃する。



「ぐぇっ、くそ、ひかり!」


「怒った?」


「怒った!」


「怒ったらパパはどうするの?」



この流れがここ最近のひかりのお気に入り。


俺はひかりの脇の下をガッチリと捕まえて


地を這うような声を演じる。



「はっはっはっはっ!パパは怒るとー」



「おーこーるーとーーー」



「こちょぐり大魔神になるのだあ!」



脇の下から脇腹から顎の下


ありとあらゆるところをくすぐってやると


ひかりはむせるほど、声を上げて笑う。



窓から差す朝日に目をやると



ああ、今日も空は青い。




「ほーら、ひかり、早く幼稚園に行く準備しなさい」


「えー、もうちょっと」


「だめ、早くしないとバス来ちゃう」


「はあい」


僅かに寂しそうなひかりの頭を


くしゃくしゃっと撫でて


俺はまたごろんとベッドに横になった



……のも、つかの間。


「理くんも起きて」



鈴の笑い声が飛んできた。


「こんなに朝が強いの鈴くらいだよ」


「見習って」


からからと笑う鈴。


本当は朝が弱いことを俺は知っている。




光矢のいる空へ手を合わせ


光矢の遺骨で作ったダイヤモンドの


ネックレスにキスをする為に


眠い目をこすりながら


毎朝、どんなに疲れていても


光矢の事故があった朝5時に


鈴は起きるのだ。





鈴の中から


光矢の存在が薄れる事は


この先も一生ないだろう。






俺は、光矢が逝った後


死にそうなほど泣いて苦しんだ鈴に


何かしてやれた気がしない。


ただ、声もかけられず側に居続けた。


時折、背を撫でてやると


鈴は堰を切ったように泣きじゃくる。


その姿が頼りなくて


触れた手を離せばたちまち


死に向かい歩み出しそうで恐かった。




「死ぬなよ…鈴。お腹の子の為にも」


「光矢がいないのに、誰がこの子の誕生日を祝ってくれると思う…?一番喜んでくれるはずだったのに…」


「俺は…嬉しいよ」


「え?」


「光矢はもういない…でも鈴と光矢の血を継いだ子が生まれる…それはやっぱり……嬉しいよ」


「理……くん……」


その気持ちに嘘はなかった。


でも、もっと大きかった気持ちは


光矢を大切に思う誰かを


もう無くしたくなかった。


俺一人になるのが、怖かったんだ。



そよ風にも折れてしまいそうなほど


弱った鈴を支え続け、ひかりが生まれた。



立ち会いこそしなかったが


まだ分娩室の分娩台に横たわる鈴と


その隣で泣きあげるひかりを見た時は


滝のように涙が溢れた。



「……私より、泣いてどうするの」


「ごめん……ごめん、でも、鈴、ありがとう」



あの言葉は、本当に俺の言葉だったろうか。


オカルトは信じない質だが


もしかしたらあれは


光矢が俺の体を介して


鈴に伝えたかった言葉


だったのではないだろうかと


今なお、真剣に考えたりもする。




ひかりが生まれて


退院の前日


俺は鈴に提案した。



「一緒に暮らさないか」


「え?」


困惑した表情で俺を見つめる鈴がいた。



「この子の、父親になりたい」



「でも…」


ふと、窓際のサイドボードの上


輝く結婚指輪に目をやる鈴に


俺は食い下がった。



「光矢が、ずっと自分の父親がいないこと、コンプレックスに感じてたの鈴も知ってるだろ?」


「…うん」


「自分の子に自分と同じ想いをさせることをあいつは一番嫌がるんじゃないかって…そんな気がする」


本当は親のどちらかが欠けていたって


気に病むことも恥ずかしがる事もないのに


どういったわけか父親がいないことを


悲しんで、闇に囚われることもあった。



そんな光矢が明るく前を向いたのは


鈴と出会ってからだったわけだが


それまでの


光矢の落ちっぷりを知っているだけに


ひかりにそんな想いをさせたくないと


その一心で俺は、鈴に訴え続けた。



「結婚はしなくていい、ずっと光矢を想ってくれていい。体の関係も要らないんだ、ただの同居人でいい。でも、ひかりには父親だと、思わせておいて欲しい」

「…理くんは、それでいいの?」


「ああ」


「それで……幸せ?」


「ああ」



迷いはなかった。


俺は親友の愛した鈴と


その子どものひかりを守っていく。



「……それでもいいよ、でも条件がある」



「条件……って」





月日は流れた。


瞬く間に流れた。


星屑が流れるより早かった。


もう数ヶ月もすればひかりは小学生だ。






条件の期日が近付く。


あの日、鈴が出した条件



それは



「小学一年生にあがった日、ひかりには本当のことを話す」




それでもいいと、俺は了承した。



小学一年生


まだまだ赤子に毛が生えた様なものだ。



言えるわけがない、と


はじめからたかを括ってた。



でも成長するにつれ


ひかりはどんどん利発になっていく。


言ったことは1度で覚え


きちんとこなせる力がある。


疑問に思うことは自分で考えて


間違えていようが正しかろうが


その答えに近づこうとする強さもある。


人に寄り添う優しさも


人を明るく出来る才能もある子だった。



きっと、俺が


本当の父親でないと知ったところで


すぐに順応出来るだけの何かを持っていた。



そして何より、鈴の気持ちが


変わらない。



幸せな毎日を手放すのが怖いのは


どうやら、俺だけのようだった。




「ねえ、理くん」


「んー?」


「もうすぐだね、入学式」


「んー」


「もうすぐ、自由になれるね」


「んー…」


自由ってなんだ。


幸せを代償にして得られる自由なんて


願い下げだ。


俺は苦笑いをひとつして


その日の勤務に出かけた。









「パパーーー!」


「ぐぇっ、くそ、ひかり!」


「怒った?」


「怒った!」


「怒ったらパパはどうするの?」


「はっはっはっはっ!パパは怒るとー」


「おーこーるーとーーー」


「こちょぐり大魔神になるのだあ!」




いつもの朝。


いつものやりとり。


でも昨日までとは違う。



春休みで私服だったひかりは


朝からおめかし。


ライトグリーンの


フォーマルに身を包んで


今日からピカピカの一年生。



「おー?かわいいなあひかり」


「でしょー、パパに買ってもらったお洋服だよ」


「食べちゃいたいくらいかわいいなあ、ここらへん美味しそうだなあ」


俺はひかりのほっぺたを指先でくすぐった。




なあ、ひかり


今日でパパとは


お別れなんだよ。





涙が出そうになって


慌てて上を向いた。



利発なひかりは


そんな俺に気がついて


気を利かせる。


「パパ?泣いてるの?大丈夫?」


「なんでもないよ、大丈夫」


「ほんとにほんと?」



可愛い声


大好きなひかり


パパと呼んでもらえる幸福


仮染めの家族。



涙を留めようとするほど


涙が湧くように目じりに溜まった。



「ほら、ひかり、早くしなさい」


「ねえ、ママぁ、パパ泣いてるー」


「そー」


「なんで泣いてるの?」


「きっとひかりが大きくなったのが嬉しいのよ」



鈴が助け舟を出してくれた。


ひかりは鈴の声に導かれるように


リビングへと駆けていく。



俺はベッドに横になり


顔を隠そうと腕を持ち上げる。



その時、見えた俺の左手の薬指は


空っぽだった。



鈴にはちゃんとあるのに。



光矢との愛の証が


左手の薬指にも


鈴の側にも。



「あーーあ……情けね。光矢、なんでお前死んじまったんだよ。鈴の心ん中にはお前しかいねー…よ」



堪らずに投げかけた言葉は


やはり真っ青な空へ登っていった。





入学式は素晴らしかった。


あんなに小さかったひかりが


あんなに泣き虫だったひかりが


あんなにあんよが遅かったひかりが


花紙のアーチをくぐり


威風堂々、歩いてくる。



少し緊張しているのか


口元には力が入って


目玉はキョロキョロと動いていた。



それでもあの感動は


光矢と鈴の結婚式の時以来だ。



「泣いてるの?」


「うるさいよ、ちゃんと見ろよ」


「はいはい」


鈴だって、大したものだ。



ひかりが産まれる前に


夫を亡くし


それでも立ち上がった。


立ち上がってひかりを


優しく育て上げた。


一度も頭ごなしに怒っている姿を


見たことがない。



良い母親だ。





入学式で泣いたのは俺だけだ。


鈴もひかりも終始笑顔で


理くんは涙もろいのねなんて


鈴は俺をからかい


俺は口を尖らせる。



ひかりは


「パパがたこさんになったー!」


と、喜ぶ。





入学式後のクラスでの


あれこれを済ませたひかりを肩車して


俺は鈴とひかりと食事に出かけた。






きっと最後の、飯だ。


「個室でゆっくり、家族向」


これが売りの料亭にした。




本当は行きたくない。


一歩一歩が重かった。




でも、行くんだ。



最後の思い出を作ろう。


楽しい思い出で彩ろう。


仮染めでも、俺たちが


家族だった、証を残そう。



俺は涙を押し込めて、



店では笑おうと思っていた。






「ひかり、ご飯何がいい?」


店につきあぐらをかくと


ひかりはちょこんと俺の膝の上に乗ってきた。



やれやれ、さてさてと、


メニューに目を通す。




すると、鈴が俺に言った。




「ねえ、理くん」


「んー?」


「理くんは、私たちと一緒にいられて楽しかった?」


「なに……飯も、食わせてくんないわけ?」


「はっきりさせておきたいの」


俺はメニューを置いて息をつく。



「……楽しくなかったら六年も一緒にいないだろ」


「重荷じゃ…なかった?」


「幸せだったよ…ちがう、今も幸せだ」


俺はまっすぐに鈴の目を見つめて、伝えた。


今、終わろうとしているこの時間すら


狂おしい程に愛しい。



寂しくて辛くてたまらないのは


今がとても、幸せだからだ。



鈴の目に涙がにじむ。



「私はずっとこわかったの」


「何が?」


「理くんの足枷になること」


「枷なんて思わない」


「光矢が亡くなって絶望してた私を包み込んでくれた。私たちを受け入れてくれた。理くん優しいもの……幸せになって欲しい、理くんの幸せ……考えて欲しい」


とうとう、鈴は泣いた。


母になってからはじめての鈴の涙だ。


強く生きてきた鈴の、尊い涙だった。



戸惑っていると、ひかりが


くるりと後ろを向いて


俺の顔を見つめながら言う。




「ねーパパ、ひかりね知ってるよ」


「え?」


「ほんとのパパのこと」


「は?」


「ママに聞いたの。ひかりの本当のパパは天国にいるんでしょ?」


「なん…で?」



俺は鈴の顔を見つめた。


鈴は涙を拭うと、ひかりに言う。



「ひかり、パパにちゃんとお話出来る?」


「うん、出来るよ!」


「聞いてあげてくれる?」


鈴は俺に向き直り、そう告げた。




ひかりは俺の膝の上を離れると


すぐ側に行儀よく正座をして笑った。



「パパ、今までありがとう。ひかりはすごく寂しいけど、パパがうんと幸せになるためならひかり我慢できるよ」


涙が、とまらない。


こんなの、反則だ。



俺が本当の父親じゃないと知って驚くのは


ひかりだったはずだろ…?


どうして俺が、驚いてるんだ。




「理くん…今まで守ってくれてほんとに…ありがとう。私たち、もう大丈夫だよ」


ちがう、違うんだ。


俺は、義務感でここにいたわけじゃない。



拭っても拭いきれない涙をたずさえて


俺は鈴とひかりに想いを吐露した。



「俺は……俺の本当の幸せは……ここにしかないよ。鈴とひかりと居たい。それが俺の幸せだ。君たちが側にいなきゃ俺は…抜け殻になっちまう、今のままがいい、今のままで俺はうんと幸せだよ、俺の幸せを思ってくれるなら離れていかないでほしい…っ」



それを聞いた鈴は、声を上げて泣いた。


ひかりは笑って


「パパが蝉の抜け殻になったらひかり困っちゃうなあ」


と、マイペースを貫く。



そして、ひかりは俺に歩み寄ると


小さな手で頭を優しく撫でて


鈴がよくひかりにするように


「泣かない泣かない」


そう言っては


やはり可愛らしい笑顔を向けた。










「パーパー!!!!」


「ぐぇ、くそ、ひかり!」


「怒った?」


「怒った!」


「怒るとパパはどうなるの?」


「はーっはっはっはぁ!!怒るとパパはー」


「おーこーるーとーーーー!?」


「こちょぐり大魔神になるのだあ!!」


「やーーー!!へんたーーーい!!」


「変態!?おい、それ反則っ!」


「やだ、理くんへんたーい」


「ぐぅっくそ、二人して!」



妻と娘に翻弄されて朝が始まる。


いつもの朝だ。


変わらぬ朝だ。


でも、一年前とはちがう。




俺たちは、本物の家族になれた。


紙切れの問題じゃない。


心を分かち合って本音を伝え合い


本当の家族になったんだ。







光矢、ごめんな


もう少しそっちで待っててくれ。


愚痴は俺がそっちに行ったら


いくらでも聞くよ。


鈴とふたりで


ひかりを独り立ちさせるまで


俺、頑張るから


土産話、楽しみにして


待っててくれると嬉しい。




なあ、光矢。


可愛いよ、お前の娘。


ひかりの中にある確かなお前の存在


鈴と一緒に守ってくからな。












__空はその日も、青かった。







おしまい♪

ひとひら☘☽・2020-01-17
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海にひとしずく・2021-10-02
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これらの作品は
アプリ『NOTE15』で作られました。

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秘密さん・2020-05-25
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・2020-05-10
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ずっと私の後ろにいて

守ってあげなきゃって

そう思ってた

けど、知らないうちに大きくなって

私の後ろにはいなくて。

守られてるだけのお姫様じゃなかったんだね

1人で歩くって凄いことだけど、

もう少しだけ

もう少しだけ

守らせて欲しかったなぁ

なんて我儘を

未明 明烏・2021-10-26
守る
独り立ち
お姫様
我儘
未明

離陸も怖いし着陸だって怖いのに
どうしてみんなは、あんなに飛び立てているのかな

美優・17時間前
独り立ち

死んだ祖母。白血病の娘。不治の病でなくなった父。交通事故でなくなった母。ありがとう。育ててくれて。そして、頑張ってね。

いちごヌーピー✩のnote cafe🔒・2019-11-04
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