千華・2019-06-22
花よ
紫陽花の頃
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紫陽花が好き
広くて明るい庭より
日陰の路地裏に咲いている
青空よりも
優しい雨が似合う
つつましやかで
芯の強い女性のような
そんな紫陽花が好きです
紫陽花みたいに
自分の色を変えるなんて
器用なことはできないの
私はわたし
枯れて散るまで
この色で
ようやく
紫陽花の似合う季節に
なってきたね
そう言って笑うキミは
紫陽花色のワンピース
梅雨空に咲く
あでやかな花のよう
笑顔のしずく
振り撒きながら
梅雨入りはまだだけど
そろそろ田植えの季節
一昔前は
一面の田んぼに水が入ると
広々とした水面に
周りの山や空が映って
とてもきれいだった
今は次々に埋め立てられて
住宅や駐車場の隙間に
切れぎれの空しか
映らなくなってしまった
懐かしい風景が
どんどん消えていく
寂しさが募る今日この頃
紫陽花の花の色のように
移り気な君の恋心を
気まぐれな
6月の雨が濡らす
湿っぽいそんな恋とは
夏がくる前に
サヨナラしなよ
うつりゆく
紫陽花の色に
重ねても
恋の終わりは
寂しきものぞ
大昔にね
沖田総司の小説を書いていた頃は
労咳でもう長く生きられない、というのが
どんな気持ちなのか
本当のところは分からなかった
その後、食道がんで連れ合いを見送ってからは
命の残りを見つめながら生きることが
どれほど辛いか 苦しいか
それを見守る回りの人間の空しさ やりきれなさも
身をもって分かった
今、大昔に書いた小説を
あらためて読み返してみて
当時の自分の甘さがよく分かる
今ならもっと、違う総司が書けたかもしれない
もっともっと激しくて 汚くて
どろどろした男の命の叫びや
醜いあがきを描けたかもしれない
でもやっぱりそれは
私の思い描く総司じゃないんだ
甘くても きれいごとでも
私にはこの総司しか書けないんだと
改めて自分の心にうなずいている
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実は―
紫陽花が好きなのには、もうひとつ理由があって。
司馬遼太郎さんの小説「燃えよ剣」で、主人公 土方歳三が恋人のお雪さんと初めて結ばれた時、彼女が住む長屋の庭先で紫陽花が雨に濡れていた、というシチュエーションにころっと参ってしまったのだ。
それ以来、紫陽花のパステルブルーを見ると、歳三とお雪の幸福なひとときを思い浮かべてしまう。
やっぱり土方歳三が好きだ。
戦う男が好きだ。
ひたすら前を向いて、走り続ける男が好きだ。
この季節、路地裏などにひっそりと咲く紫陽花を見るたび、まっすぐに風のように駆け去っていった男と、その男を追い続けた女を思い出す。
―お雪さん。
それが、全くの司馬さんの創作の産物だったとしても、これ以上歳三にふさわしい女性はいないと思ってしまうのは、私だけではないだろう。
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