[向日葵が咲く頃、また君と]
『太陽の花って何だと思う?』
陽が消えたばかりの時間帯に
君は笑顔で余韻に浸りながら振り返る
『ひまわり、かな』
『正解』
桜が満開になり始めで
向日葵が咲く季節でもないのに
彼女の瞳にはしっかりと
向日葵が浮かんでいる。
『向日性って言う性質で』
『太陽を追っかけるんだよ』
太陽は向日葵を知らないのに
向日葵ばかりが太陽を追いかける姿
想像した自分は、曲がってる
黙りきってしまった彼女の後ろ姿を
只管に見つめる
いつもいつもそうだった
彼女にかける言葉が見当たらない
いくら探しても
いくら考えても
何度だって消えてしまう
彼女の瞳はいつも輝いていた
彼女は僕の知らない世界で
僕の知らない輝きを自分で見つけた
そんな彼女を誰よりも尊敬していた
時計の針が一周した辺りで
帰路に着いた
道の端で咲く菫にも
咲き始めの桜にも
彼女は目をくれなかった
でこぼこな田舎道のずっと先を
真っ直ぐに見つめている
夏の暑い日に彼女を連れ出した
久しぶりの遠出に彼女は、
ずっとニコニコと窓を見つめていた
小さな太陽が沢山に咲き誇る場所へ
「ここだよ」
暑さと涼しさを含んだ中途半端な風が
彼女な焦げ茶の髪を揺らす
長袖の白いワンピースと麦わら帽子も
陽の光に綺麗に照らされていた
「ねぇ、どんな風?」
「太陽の花みたいだよ」
「一度、見てみたいなぁ」
そんな寂しそうに言わないでよ
見えてしまう自分を酷く恨む
どうやったら君に伝えられるかな、
どうやったら君の瞳に映るかな、
そんなこと何度考えたって
いいアイデアなんて思い浮かばないよ
彼女が見る世界は
僕が見る世界と違う
でも、彼女はそれでも歩く
隠れて泣いているのを見たこともある
でも、彼女はそれでも笑う
20歳を迎えた夏の日
僕は彼女にプロポーズをした
結果は、断られた
平然を装って彼女を遠ざけた
気がついたら冬が終わって
気がついたら夏がやってきた
二度と会わないことを決めた、
はずだったのに会いたくて仕方なかった
小さい頃から側にいて
小さい頃から何も出来なかった
でも、見る世界が違っても
彼女が好きだった
25度目の夏にまた、彼女を連れ出した
遠出なのに寂しそうな顔をしていた
無理して話題を作る僕と
無理して笑顔を作る彼女で
向日葵を見た
「ねぇ、結婚しよ」
「ごめんね」
「ここに999本の向日葵があります」
「え?」
「生まれ変わりが存在するとします」
「もし、君が生まれ変わった時に」
「すごい悪党になっても」
「気が合わないやつになっても」
「声が聞こえなくても」
「耳が聞こえなくても」
「目が見えなくても」
「目が見えても」
「きっと、君に恋をする」
「君がいいんだ」
結婚式場を小さな太陽が彩る
右を見ても左を見ても
新郎新婦を見ても
太陽が輝きを失うことは無い
曲がりくねった道だから
真っ直ぐな君の道へ繋がったかもしれない
僕も真っ直ぐな道だったら
掠りもしないかもしれない
「今年も行こうか」
「うん」
何度目かの夏も彼女を連れ出す
小さな太陽が沢山に咲き誇る場所へ
向日葵 999本の花言葉
何度生まれ変わっても君を愛す