はじめる

#許されざる恋

読んでると、
思わず胸がギュッとしめつけられる、
そんなポエムを集めました。

全4作品・

ひとつ 一夜に 人忍び


ふたつ 二人が 逢瀬て


みっつ 見事に 手を結び


よっつ 夜毎に 恋しくて


いつつ いつかの温もりを


抱いて 夢より 居出まする



はぁーよいよい


はあーよい



むっつ 結びの縁 呼んで


ななつ 七色 幸せを


やっつ 約束しましょうね


ここのつ ここで 逢えたなら


遠く遥かの幸せ


あんたとなら信じ合える



はあーよいよい


はあーよいよい


はあーよいっ






雪が降る寒い冬
赤い和傘を差して
数え歌を歌うマツの声が
透き通って聴こえる。


「強い歌やな」
「あんたとあたしの歌やもの」
「え、そなん」
「…うそ、嘘よ」


和傘を回しながら
おどけて見せるマツの手を引っ張った。

頼りないからだがすっぽりと
俺の腕の中に包まれる。



「あかんよ、竜之介ぇ」
「傘に隠れとるやないか、誰にも俺らだとわからん」
「こないなこと知られたら、あんた殺されてしまうぇ」
「それでもお前を愛したい言う気持ちに嘘はつけん」
「竜之介ぇ、あかんて」



マツは無理矢理、離れていく。
そして一歩先を歩み出す。


その距離がやけに寂しい。




「……そないに高松がええのか」
「そりゃあねぇ旦那はんはお金持ちやし」
「金が…全てやないやろ」
「でもねぇお金は大事なのよ、愛じゃおまんまは食べられへんもの」
「飯なんぞ何とでも…!」


俺が声を荒らげると、マツは立ち止まった。
立ち止まって告げる。


「…ねえ、竜之介、これ以上困らせんで頂戴」


そして、またしゃなしゃなと歩き出した。
俺はしばらく立ちすくみ、
我に返ったところでマツの後を追った。




俺は高松隼乃介に雇われた用心棒。
マツは高松の妾。


俺はマツに惚れていた。
この恋がいけないものだと言うことは
分かっている。

痛いほど、わかっていたが
止められなかった。



高松に俺の気持ちを悟られたら
俺はきっともう二度と
日の目を見ることは叶わない。


それよりも恐いのは
今そこにいるマツともう二度と
会えなくなることだ。


絶対に
知られてはいけないこと。
しかし、恐れながらも
歯止めが効かぬ想いに翻弄されていた。



「竜之介ぇ、あんねぇあたし」
「ん?なんや」
「……何でもない」


なんとなく
マツが伝えたかった想いが伝播する。


「…俺もお前が好きや」
「も、って、何も言うとらんぇ」
「ええさ、俺が想うとるだけや」
「…うん」


マツは歩く。
街で買った高松の薬を持って
高松の元へと帰っていく。


俺が稼いだ金で
やっと買った赤い和傘を差して
高松のいる屋敷へ帰ってゆく。



胸が苦しい。



寂しい…切ない。




行くな


行くなマツ



頼むから



行かないでくれ




「待ちや…っ」
「……ゃっ」


マツの手を掴むと俺は
無造作に後方へと引き寄せる。
マツは女らしい小さな声をあげた。


マツの小さな背中を抱き留める。
花の香りがした。
昼下がりの時分…みだれ髪が
着物をたくった俺の腕に触った。


首筋に鼻をうずめるように
マツをきつく抱き締める。



「マツ、俺を見ろよ…それだけでええ、あとは何も望まん」
「……嘘ばっかり。あんたを見たらそれだけやぁ足りんようなるやろに」


当たり前やないか。
その言葉を飲み込んで、
マツを抱き締めた腕に力を込めた。


わずかな触れ合い。


どうかお天道さん
時を止めてくれ。


どうか雲さんよ
雪を吹雪かせてくれ。

俺達が
誰にも見えんように。


切に、切に祈った。




しかし、無常なもんだ。
時は訪れる。



「さ、竜之介ぇ、ええ子やから離しとくれ」
「餓鬼扱い……せんで」
「離してくれたら大人やのにね」


マツは笑った。
俺の腕をほんのひととき
抱き返して…。



こちらからではマツの表情を
窺い知ることは出来ない。



なあ、マツ
お前、今どんな顔して
笑ってんだい…?



雪はしんしんと降り積もる。


また、俺から離れたマツは
あの数え歌を歌いながら俺に笑いかける。



「ひとつ、一夜に人忍び」



声を合わせて口ずさむ


「ふたつ、二人が逢瀬て…」


許されざる恋の歌。



ああ、切なくって、涙がたまらぁ。

ひとひら☘☽・2020-01-03
riyu
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