はじめる

#趙雲

読んでると、
思わず胸がギュッとしめつけられる、
そんなポエムを集めました。

全6作品・


「妄想バトン」



ひと昔前に、ネットで流行った「◯◯バトン」をご存じですか?
出された特定のお題に沿った回答を、自分のSNSやブログに掲載し、リレーのバトンのようにお題を渡していくという遊びです。

その中のひとつに「妄想バトン」というのがありまして、本当は前の人がキャラを指定するらしいですが、「誰でもいいよ」ということだったので、誰にしようかさんざん迷った挙句、一番妄想できるキャラということで趙雲サマを選んだのでした(笑)。

先日、趙雲サマの小説をアップしたら、こんな過去記事を思い出しました。
寝酒のオツマミに、ご笑納くださいませ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

●朝、起きたら「趙雲」がとなりに寝てました。さあどうする?
 え?これって夢?(つねってみる)痛っ!じゃ、ほんと?うっそ~~~!マジ?本物?実体?…と、ひとしきりドタバタした後、思いっきり抱きつく(笑)。

●そんなことしてると「趙雲」が目覚めた!どうする?
 突き飛ばされたらどうしよう。いやいや、もしかしたら槍で一突き!されちゃうかも(汗)。「すみません、すみません、ごめんなさい」とか言いながら、それでもしっかり抱きついて離れないだろうな。

●「趙雲」につくってあげたい自慢料理は?
 自慢料理なんて、あったっけ?まあ、肉じゃがとか酢味噌あえとか、そういうお惣菜系ですかね。

●「趙雲」とドライブ、どこに行く?
 二人で行けるんならどこでもいいけど(笑)、大阪~神戸のベイサイドかなあ。海を眺めながらのんびり走りたい。

●「趙雲」があなたにひとコト言ってくれるって!なんて言ってもらう?
 「あなたの槍になるために来たよ」……どういう意味にとればいいのでしょうか(核爆)。

●「趙雲」があなたのために歌ってくれるって!
 井上陽水の「いっそセレナーデ」。耳元でささやくように歌ってくれたら、もうそれだけで昇天しそう。
あるいは、上田正樹の「悲しい色やね」。案外、関西弁が似合いそうじゃない?

●「趙雲」があなたになにかひとつしてくれるって!時間は5分
 5分しかないの?……う~む。熱い抱擁とキス。制限時間いっぱいまで!

●あなたが「趙雲」にひとつだけなにかしてあげられます。時間は5分
 これまた5分か~。やっぱり、熱い抱擁とキス。他に何をせよと?

●「趙雲」にひとコト。
 大好きっ!(ほんとのひとコトですな……笑)でも、本当に大好きです。趙雲だったら、白でも黒でもグレーでも、何でもオッケーよ。

●次に回す人。
 拾って下さる方があれば、どなたでも。キャラ指定はしませんので、楽しく妄想してくださいませ。

◯◯さん、バトンありがとうございました。
我ながら、何という答でしょう!年甲斐もなく、恥ずかしいったら(笑)。
でも、楽しかったです♪

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

…と、こんな感じで妄想大爆発😅
そもそも、なぜ趙雲なのか?
姜維や関平ではちょっと若すぎて、「萌え」はするけれど「燃え」ないし(妄想というからには燃えなくては)、孔明サマは妄想などという不謹慎な気持ちを抱く対象にはなりえません。
てことで、やっぱり、趙雲! だって大人なんですもの~~。
さらに、近づきがたいという雰囲気でもないし、こちらの想いを優しく受け止めてくれそう。
趙雲なら、あ~んなことやこ~んなこと(どんなこと?)も、ちょっぴり照れながらもやってくれそうな気がしませんか。
ああ、妄想200パーセント!(笑)




🍸️

千華・2021-06-21
三国志
趙雲
妄想バトン
万年妄想乙女


「星に願いを」 -プロローグ-





ほら
あれが 夏の大三角形

わし座のアルタイル
こと座のベガ
天の川をはさんで分かたれた ふたつの星

そして
隔てられた空間をつなぐ架け橋のごとく
銀河に輝く はくちょう座のデネブ

..........................................


今日は七夕
幼い日に 母から聞いたおとぎ話

天帝の怒りにふれ
遠く引き離されてしまった織姫と彦星が
年に一度だけ逢瀬を許された日だという

人はみな恋人たちの悲しい運命(さだめ)に
涙するけれど
わたしは
今 頭上に輝くふたつの星に嫉妬さえ覚える


一年に一度でもいい
あなたに逢うことが叶うなら

夢でもいい
あなたをもう一度
この手に抱きしめることができるのならば、と

叶わぬこととは知りながら
今宵はせめて
星に願いをかけてみようか

もう一度 あなたに逢えますように
あなたに わたしの思いが届きますように


翠蓮――



◇◆◇


数いる三国武将の中でも、姜維や関平と並んで大好きなのが趙雲です。
最初に三国志にはまった頃は、孔明さま一直線!だったのですが、いつの間にやら孔明サマは別格(神棚の上の方)になり、趙雲が一番になりました。
その後、姜維によろけ、関平に萌え……(笑)。
いろいろはまってきましたが、やっぱり今でも趙雲さまが好き!
ということで、まだ七夕には早いのですが、素敵なphotoが3枚出ましたので(笑)、ずっと前に書いた七夕趙雲小説を、こちらにもアップしようと思います。


ところで趙雲というと、しばしば「女嫌い」というふうに解釈されていることがありますね。
実際にはどうだったのか、知るよしもありませんが、もし彼が一生妻帯しなかったのだとしたら、それはそれで趙雲らしいなあという気もします。
乱世に生きる男の心構えとして、いつ戦場で果てても悔いはないという覚悟だったでしょうから、妻子など必要以上に未練となるものを持ちたくなかったとしても不思議ではないし、残される者の悲しみを思えば、最初からそういう関わりを持たないように心がけていたかもしれません。

何よりもお仕事第一の真面目な趙雲のこと、女性なんかにかまけている暇はなかったということでしょうか。
まして、その場限りの女性を相手にする、というような不実な行為は、彼にはできなかったんじゃないかな(……と、ものすごい聖人君子だと思い込んでいる私)。
後に趙雲の後を継いだ趙広、趙統も、実子ではなく養子だったとも考えられますし。

で、「女嫌い」なんてレッテルが貼られたりするわけですが、私としては、どうしてもそれでは納得できないんです。
妻帯しなかったのは事実かもしれない。浮いた噂も聞かないし。
でもそれは、女が嫌いなんじゃなくて、あまりにも深く愛しすぎた女性がいたから……。
一生をかけて、一人のひとを愛し抜いたからだ、ってそんなふうな解釈はできないでしょうか。

そんな訳で、私の脳内設定では、趙雲が愛したただひとりの恋人というのが存在します。
この詩に出てくる翠蓮というのが、その人(もちろん、拙サイト限定設定です)。
けれども彼女との恋は、結局悲恋で終わってしまい、趙雲はその後翠蓮の面影だけを守り続けて、死ぬまで妻帯しませんでした。
もう、想い出の中でしか逢うことのできない女人の、寂しげな笑顔を思い浮かべる度に、趙雲の胸は激しく痛みました。
ひとを愛したのは、おそらく、それが最初で最後だったのですから。

――たとえ一年に一度でも、逢うことが叶うのなら……。
なんとうらやましいことでしょう。
そんな趙雲の切ない思いを、七夕の宴に託して。
では、本編をどうぞ。



🌌

千華・2021-06-18
三国志
趙雲
遥かなあなたへ
星に願いを
七夕小説
歴史語り
姜維と香蓮/前日譚
創作文
万年妄想乙女


「星に願いを」 〈2〉





次の日の朝、逡巡しながらも、昨夜の翠蓮の言葉に背中を押されるようにして、趙雲は軍師府に諸葛亮を訪ねた。
「では、ようやくその気になっていただけたのですね」
「いや、まあ……」
はっきり口に出して言われると、後ろめたい思いもある。断りきれずにしぶしぶ承知した、というのが正直なところだった。
そんな趙雲の胸中を知ってか知らずか、諸葛亮はことさらににこやかな表情を見せた。
「これはめでたい。何よりも、殿がお喜びになられましょう」

かれはさっそく妻の桂華を呼ぶと、趙雲と趙家の息子たちとの対面の手配をするように申し付けた。
「承知いたしました。すぐに準備をいたしますわ。ちょうど明後日は七夕。内輪の者だけで、星を愛でる宴という趣向はいかがでございますか」
「それはよい。では、すぐに趙家に使いを」
「ひとをお引き合わせするのに、これほどよい日はございませんわね」
部屋を出て行きかけた桂華の後を追いかけて、趙雲は声をかけた。
「奥方。かような私事でお世話をかけて申し訳ありませぬ」
「いえいえ、わたくしは元々こうしたことが好きなのです。どうぞお気遣いはご無用に」
婉然とした笑みを浮かべると、
「本当にいい子たちですのよ。趙将軍にもお気に召していただけるとよろしいのですけれど」
いそいそと奥の部屋へと下がっていった。


桂華が出てゆくと、後に残されたのは諸葛亮と趙雲の二人きり。
どことなく居心地の悪さを感じつつも、「帰る」とは言い出せずにいる趙雲に、諸葛亮がぽそりと呟いた。
「子龍どのは、未だに荊州での出来事を忘れておられないのですね」
「……軍師どの!」
思いもしなかった言葉に、驚いて顔を上げた趙雲の視線は、冷たく冴えた諸葛亮のまなざしに絡め取られた。
「お隠しあるな。あの時、翠蓮どのとあなたの仲を引き裂いたのは、この私だ。さぞ恨んでおられましょう」
「恨むなどと……。とんでもない!」
趙雲は、心の底から否定した。

あの騒動の後、翠蓮の身は諸葛亮が引き取ってどこかに預けたらしい。
しかし、それからすぐに曹操軍が攻め込んできたため、荊州は戦乱の巷となり、未曾有の混乱に陥ってしまう。
翠蓮の消息も、それきり途絶えてしまったのである。
「荊州でのあの失態。玄徳さま家臣としてあってはならぬ過ちを犯した私です。あの時失うはずだったこの命が今もあるのは、ひとえに殿と軍師どのがお骨折りくださったればこそ。翠蓮のことは、私が自ら断ち切ったのです。軍師どのに感謝こそすれ、恨みに思ったことなど微塵もありません」
「そうおっしゃると思っていました」
趙雲の真摯な態度を見て、諸葛亮は満足げに微笑した。

「将軍の言葉をかけらも疑うわけではありませんが、ならばこそ余計に、あなたがいつまでも独り身でおられることが気にかかるのです。おそらく殿も、私と同じお気持ちでしょう」
――ましてや、と諸葛亮は言った。
「趙家の家門を絶やすわけにはまいりません。子々孫々末代まで、趙将軍の家系は、この蜀漢の重鎮であっていただかねばならぬ」
凛然とした諸葛亮の声に、趙雲は身を硬くしてその場に平伏した。
「むろん、趙統、趙広の兄弟が、あなたの跡を継ぐに足る器かどうかは、明後日ご自分の目でじっくりとお確かめくださればよい。お気に召さねば、この話はなかったことにするまでですから」


◇◆◇
  

明後日七月七日は、星愛づる宵。
曇りがちの日が多い成都だが、その夜は雲ひとつない晴天になった。
牽牛と織女は、今頃かささぎの橋を渡って、年に一度の逢瀬を楽しんでいることだろう。
そして、軍師府に接した諸葛亮の屋敷では、にぎやかな七夕の宴が催されていた。
華やかな歌舞音曲。 卓上に積まれた美酒佳肴の数々。
星を愛でる宴はまさにたけなわだったが、ひとり趙雲だけは、いささか落ち着かない気分で杯を傾けていた。
というのも、桂華が「内輪の者だけで」と言ったとおり、宴席に居並ぶ人たちはみな諸葛家に繋がる人ばかりで、趙雲ひとり場違いな感が否めないのだ。
図らずも彼が主賓のような形になってしまい、皆が次々に挨拶に来てくれるのだが、かえって居心地が悪かった。

やがて、少々座が乱れてきた頃合を見計らうように、諸葛亮は趙雲を誘い出した。
そっと広間を離れ、奥の客室に通された趙雲は、そこで初めて趙統、趙広の二人の兄弟と対面した。
「初めてお目にかかります。趙統と申します。こちらは弟の広です。趙将軍、ふつつか者ではございますが、なにとぞよろしくお願い申し上げます」
緊張に頬をこわばらせながら、挨拶の口上を述べる兄。その傍らで、あどけない笑顔を浮かべる弟。
諸葛亮の横では、妻の桂華がはらはらしながらそんな二人を見守っている。

(よい子たちだ――)
兄弟が、自分の跡継ぎとしてふさわしいかどうか、そんなことはたいして重要ではない、と趙雲には思われた。
身寄りのない者同士が、肩を寄せ合うようにして生きていく。そんな家族の形もあるのだろう。
生涯妻も子も持たぬと誓った自分だが、養子縁組を結ぶことでこの兄弟の後ろ盾になってやれるのなら、それもまたよいかもしれぬ、と今なら思える。
生真面目そうな趙統の顔を見やりながら、いつしか趙雲は、自分がかつてないほど穏やかな気持ちに包まれていることに気づいた。
(翠蓮、これでよいのだな?)
胸の内で問いかけると、夢で見た翠蓮の面影が、静かにうなずいたようだ。

「軍師どの。この話、趙雲確かに承知いたしました」
「では、この二人を養子として、趙家にお迎えくださいますか」
「喜んで――」
「ああ、よかった!」
心の底から安堵の声をもらして、趙統、趙広の二人を抱きしめたのは、桂華だった。
彼女は、孤児たちの去就が定まったことを、我が事のように喜んでいる。
諸葛亮との間に子どもが生まれなかった桂華は、亮の甥にあたる喬を養子として育てていた。趙統たちのことを、他人事とは思えなかったのであろう。
「子龍さまとこの子たちをお引き合わせした甲斐がありましたわね」
桂華は子どもたちを別室に下がらせると、あらためて酒肴の用意を整えた。


◇◆◇  


「それでは、正式な縁組の儀式は、後日あらためて、殿ご臨席の上で執り行うことにいたしましょう」
孔明はめずらしく上機嫌で、趙雲に酒を勧めた。
趙雲も、しみじみとよい心地になって杯を重ねる。
こんなに晴れやかな気持ちで酒を飲むのは、久しぶりのことだ。
程よく酔いがまわった頃、 ――ところで。 と、孔明が声音をあらためた。
「実はもう一人、将軍にお引き合わせしたい方がおられるのです」
「もう一人?」
「はい。星愛づる今宵に、ふさわしい人物かと」
「………?」

いぶかる趙雲を手招くと、諸葛亮はそっと奥の部屋へかれをいざなった。
扉を開けると、寝台の上に少女が座っているのが見えた。
桂華とあやとりをして遊んでいた少女は、扉の外に立っている見知らぬ男の姿に、怪訝な表情を浮かべた。
「さあ、子龍どの。どうぞ中へ」
諸葛亮にうながされて部屋の中に入ったものの、趙雲には合点がいかない。
この少女が、諸葛亮が自分に「引き合わせたい人物」なのか?
もう一度、その顔をしげしげと眺めた趙雲の胸に、電流が走った。
形のきれいな眉。人の心を映すかのような深い色の眸子。ふっくらと紅い唇――。
「軍師どの、これは? この子は、まさか……」


予想もしていなかった展開に、趙雲ともあろう者が激しく狼狽した。
自分でも恥ずかしいくらい声が上ずってしまう。
「翠蓮の……?」
趙雲が生涯でただ一度愛した女性。
眼前の少女は、紛れもなく、翠蓮の面影をその可憐な面にとどめているのだった。
(翠蓮の子? では、では、我が娘なのか?)
夢を見ているような心地で、呆然と立ち尽くしている趙雲の肩に、諸葛亮がそっと手を置いた。
「お気づきになられましたか。この子は名を香蓮と申します。お察しの通り、間違いなく趙雲どのと翠蓮どののお子です」
「私の子……」
「はい。荊州での事件の後、私が知り合いに翠蓮どのをお預けした時、すでに身ごもっておられたのですね。それからの経緯(いきさつ)については、私の知る限りのことを、後ほど詳しくお話申し上げましょう。とにかくまずはご対面を」

諸葛亮と桂華にうながされて、香蓮と呼ばれた少女は、恐る恐る趙雲の前に立った。
「さあ、香蓮。この方があなたの父上さまですよ」
「ちちうえ……?」
汚れのないつぶらな眸子が、趙雲を振り仰ぐ。
あどけない笑顔に、愛しいひとの面影が重なる。
この子が一人ここにいるということは、母である翠蓮は、すでにこの世にはいないのであろう。
「そなたが……。そうか、香蓮というのか。よい名じゃ」
目頭が熱くなり、趙雲は思わず、小さな体を抱きしめていた。
香蓮の柔らかな体は、翠蓮と同じ匂いがする。
懐かしさ、愛しさに、言葉よりもまず感情が胸にあふれた。
それとともに、遠い日の苦い過ちや主君の大恩などが思い起こされて、趙雲の涙はいつ止まるともしれなかった。





🌌続きます

千華・2021-06-18
三国志
趙雲
遥かなあなたへ
星に願いを
七夕小説
姜維と香蓮/前日譚
創作文

これらの作品は
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「星に願いを」 〈3〉





「さあ、香蓮。夜も遅いわ。あなたはもうお休みしましょうね」
趙雲のひざに抱かれ、とろんとした目で居眠りしかけていた香蓮に、桂華が優しく声をかけた。
名残惜しそうな父親の腕から娘の体を抱き取ると、桂華は夫に目配せした。
「だんなさまは趙将軍とご一緒に、先ほどの客間へ戻っていただけますか。わたくしはこの子を寝かしつけますわ」
「分かった。では、子龍どの。ここは桂華にまかせて、我らはひとまず退散しましょう」
「承知しました」

部屋を出ようとした趙雲に、香蓮が小さな声で呼びかけた。
「父上――」
呼び方はまだぎごちないが、その言葉には、少女の懸命な思いが込められている。
「夢ではありませんね? 私が眠っても、消えてしまわれたりなさいませんよね?」
無邪気な問いを発する我が子がいとおしくて、趙雲は、踵を返して駆け寄らずにはいられなかった。
「ああ、夢であるものか。やっとこうして、そなたに会えたというのに」
桂華も諸葛亮も、そんな趙雲の姿に思わず苦笑してしまう。
「香蓮、大丈夫ですよ。お父上は消えたりなさいませんから。安心してお休みなさい」
「はい、奥さま」
素直にうなずいて、
「孔明さま、父上、お休みなさい」
ようやく香蓮は、趙雲の袍を握りしめていた小さな手を離したのだった。


◇◆◇ 


後ほど諸葛亮が趙雲に語ったところによると――。
翠蓮は、諸葛亮の知人のもとに預けられてから、女の子を産んだ。
直後、曹操の荊州侵攻による混乱の中、母子はからくも死地を脱したものの、行方が分からなくなってしまったのだった。
「翠蓮どのが身二つになられたことは聞いていたのですが、戦の混乱で、預けた先の者と離れ離れになってしまわれたのです。それからも八方手を尽くしてお探ししたのですが、結局分からずじまいで……。すべて私の手落ちです。子龍どの、許されよ」
諸葛亮は趙雲に向かって、改めて深く頭を下げた。

やがて、香蓮と名付けられたその子が四歳になった頃、母と暮らしていた里が戦乱に巻き込まれ、翠蓮は命を落としたらしい。
孤児となった香蓮は、偶然、その場を通りかかった孔明の細作頭、陳涛に救われたのだという。
しかし、陳涛も、まさかその幼子が趙雲の娘であると知るはずもなく、それからの年月を香蓮は、陳涛の旅の一座で過ごすことになった。
「それにしても、まさに偶然とはこのこと」 と、諸葛亮は感慨深げに言った。
「今年の春になって、陳涛が再びその地を訪れた際に、翠蓮どの母子の来歴を知っているという者に出会い、ようやく香蓮が将軍のお子であることが分かったのです。驚いた陳涛は、すぐに香蓮を私の下に送り届けて参ったのですが……。さて、どのようにして将軍にお引き合わせしたらよいものか。しばらく我が手元にお預かりして、良き機会を待っていたような次第です」
「そうでしたか」

諸葛亮の口から一部始終を聞かされた趙雲は、今更ながら翠蓮と己との数奇な運命のめぐり合わせに胸を熱くした。
彼女がその身に代えて守った小さな命は、今ようやく本来あるべき場所へ、父親の下へとたどり着いたのである。
「こうして父子の対面が叶ったのも、翠蓮の導きかもしれません」
思えば、先日の夢に翠蓮が現れたのも、偶然ではないような気がするのだった。


やがて新しい酒器を盆に載せた桂華が、静かに部屋に入ってきた。
「香蓮は? 眠ったか?」
「ええ、何とか。それはもう、興奮して大変だったのですけれど、やっと寝付きましたわ。父上さまに会えたのが、よほどうれしかったのでしょうね」
それを聞いて、趙雲はほっと安堵のため息をついた。
そんな趙雲に、桂華は艶やかな微笑を投げる。
「では、ごゆっくり。子龍さま、もちろん今夜はお泊りになってくださいますわね」
「いえ、私は……」
「明日の朝、目が醒めた時に子龍さまのお姿が見えかったら、どれほど香蓮が悲しむことか」
否も応もない。娘との約束を持ち出されては、趙雲も肯んぜざるを得なかった。

妻が酒を置いて退出するのを見届けてから、諸葛亮が真剣な表情で切り出した。
「趙将軍、いかがなされますか。荊州でのことは、もはや時効でしょう。趙家の跡継ぎもお決めになられたことですし、この上は、晴れて香連をお手元に引き取られてもよろしいのでは?」
趙雲はしばらくの間、じっと身じろぎもせずに考え込んでいたが、ようやく顔を上げたかれは、決然とした眸子で諸葛亮の提案を退けた。
「いや――。やはりそれはできませぬ」
「しかし、子龍どの」
何か言いたげな諸葛亮の言葉をさえぎって、趙雲は粛々と己の胸中を語った。
「香蓮にはかわいそうですが、やはり私は、今でもあの時の己の過ちを許すことができません。香蓮は言うならば『罪の子』です。もちろんあの子自身には何の罪科(とが)もありません。しかし、私は私自身への戒めとして、香蓮と父子の名乗りをすることは許されぬと思うのです」
一旦こうと思い定めれば、梃子でもこの男の決意は動くまい。それが趙雲なりの、けじめのつけ方なのであろう。

諸葛亮は嘆息しつつも、かれの意見を認めざるを得なかった。
「そうですか。将軍がそれほどのご決心であるというのなら、もはや何も申しますまい。いや、あるいは、そう仰るかもしれぬと思わぬこともなかったが……」
「せっかくのお心遣いを、申し訳ござらぬ」
いやいや、と孔明は手を振った。
「子龍どののお気持ちは、この孔明、誰よりもよく分かっているつもりです。では、香蓮は、私の養女としてお預かりすることにいたしましょう」
「まことですか?」
諸葛亮の申し出は、趙雲にとって願ってもないことだ。ようやくめぐり合えた我が子を、このまま手放すのはいかにも辛い。
「表立って父子の名乗りができぬとはいえ、香蓮は正真正銘子龍どののお子。私の手元に置いておけば、いつでも遠慮なく会っていただくこともできましょう」
「かたじけない。軍師どの、香蓮のこと、なにとぞよろしくお願い申し上げます」
趙雲は心からの感謝を込めて、怜悧なまなざしの軍師に頭を下げた。


◇◆◇


翌朝、趙雲は、改めて香蓮と対面した。
「父子の名乗りもしてやれぬが、決してそなたやそなたの母をなおざりに思うているのではないのだ。それだけは、分かってほしい」
過去の経緯。
今も変わらぬ翠蓮への愛、娘への思い。
そして、苦渋の決断――。
わずか十歳になったばかりの香蓮に、趙雲の真情が伝わったかどうか、それは分からない。
それでもかれは、ひざに乗せた我が子の手を握りしめて潸々と落涙し、滂沱の涙の内から、幼い娘にこう言い聞かせた。

「香蓮。これよりそなたは、昼夜をわかたず軍師どののお側近く仕えて、きっと軍師どのをお守りせよ。私は、かたじけなくも一軍の将としての重責を担っている身ゆえ、常に親しく軍師どのに近侍するというわけにもゆかぬ。されば、そなたが父に代わって、必ずこの任を果すのだ。よいな」
果たして、父の言葉の意味を理解できたのだろうか。
香蓮は、あどけない笑顔でこっくりとうなずく。
「軍師どのは、我ら父子にとってはまさに大恩人。このこと、きっと忘れるではないぞ」
「はい」
父も哭き、子も泣いた。
傍らにあった諸葛夫妻もまた、二人の運命の厳しさに哀惜の涙を禁じ得なかった。
だが、その日のことは、どこまでも四人だけの密かごととして、それぞれの胸の内深く収められたのである。


その日は一日、父子水入らずで過ごし、夕刻になって趙雲は、ようやく軍師府を後にした。
「将軍」
騎馬を待つ間、内門まで送って出た諸葛亮が趙雲に問いかけた。
「七夕の夜に、何を願われた?」
「え?」
「香蓮はもう十日も前から、手習いの短冊に『父上に会えますように』と書いておりましたよ」
「私は……」
夕焼けの空を見上げた趙雲の胸に、鮮やかによみがえる愛しい面影。

――夢でもよい。もう一度、翠蓮に会いたいと……。

彼のひとはすでに死んだと聞かされてもなお、もしかしたら、という一縷の望みにすがりたくなる。
昨夜、翠蓮のことを思って一睡もできなかった己の女々しさが、我ながら腹立たしかった。

「いや、何も」
趙雲は、わざと感情を押し殺した声で答えた。
「そう言う軍師どのは? 何を願われたのです?」
「私ですか。私はもちろん――」
諸葛亮は、手にした羽扇をゆっくりとあおいだ。
「殿の武運長久。蜀漢による天下統一。……というのは表向きで」
「は?」
稀代の軍師は、悪戯っぽく片目をつぶってみせた。
「早く桂華との間に子が欲しいと」
「それは、また……」
一瞬の沈黙の後、二人は、顔を見合わせて哄笑した。
茜色が次第に深い藍色へと変わっていく西の空には、宵の明星が明るく輝いている。


諸葛亮のこの願いは、その後十年近く経ってから叶えられることになるのだが、むろんこの時はまだ、誰にも分からぬことだった。





🌌<完>

千華・2021-06-18
三国志
趙雲
遥かなあなたへ
星に願いを
七夕小説
姜維と香蓮/前日譚
創作文


「星に願いを」 〈1〉





「趙雲、いいかげんに色よい返事をしてくれぬか」
「と申されましても……」
困りきった顔で自分を見つめる劉備を前にして、趙雲は途方にくれた。
主君より直々の急用と聞き、とるものもとりあえず駆けつけてみれば、縁談だという。

――まったく、これで何度目だ?

劉備が趙雲に薦めた縁談は、一度や二度ではない。
「殿。前にも申し上げましたとおり、それがし、妻帯するつもりはないと――」
趙雲が言いかけたとき、真面目くさった顔で笑いを噛み殺していた諸葛亮が口を開いた。
「趙将軍。今回は、縁談は縁談でも養子縁組の話です」
「はあっ?」
「殿はどうしても、趙将軍の家系が絶えてしまうことを避けたいとお考えなのです。しかし、どのように薦めてもご妻女を娶ってはくださらぬ。それならば……と、趙家の養子として恥ずかしくない若者を選んで引き合わせようと、常々ご腐心なさっておられたのですよ」
「養子、ですか――」

一気に気持ちが萎えてしまった趙雲に向かって、劉備はここぞとばかりに熱弁をふるった。
「父親は益州の豪族で趙温といい、儂が成都に入る折には、何かとこの地の有力者たちへの橋渡しに力を貸してくれたのだ。豪胆な漢であったが、それから間もなく病を得て他界してしまった。母親も先頃身罷ったそうじゃ。残された二人の息子を、何とか取り立ててやりたいと思うていたのだ」
「趙統、趙広と申されるご兄弟です。歳は確か、十六と十二でしたか」
「そなたの養子として、恥ずかしくない者たちだと思う。一度会うてみよ」
「はあ……」
気のない返事を返したものの、これは君命だ。
途方に暮れたまま、趙雲は重い足取りで成都城内の館に帰った。


◇◆◇


(確かにまあ、この広い屋敷に妻子がおらぬのは、いささか寂しい気もするが――)
成都に移ってからは、蜀漢の五虎大将として恥ずかしくない邸宅を与えられていた。
しかし、共に暮らす家族もおらず、使用人の数もそれほど多くはない。
がらんとして人気のない屋敷の佇まいは、夕暮れ時などはことに侘しいものがあった。

「だんなさま。どうなされました? 難題を背負うておられる顔じゃ」
出迎えたのは、趙雲の身の回りの世話をしている、もう腰の曲がりかけた老婆である。
「するどいな、婆婆は」
「荊州の新野にいるころから、お前さまの面倒をみておるのじゃぞ。わからいでか」
小梅という名の老婆は、歯の抜けた皺だらけの口を開けて笑った。
「困りごとなら、この婆婆が相談に乗ってやるぞ。言うてみい」
「婆婆に話して何とかなるのなら苦労はせぬわ」
苦笑しながら、趙雲は事の次第を話して聞かせた。

「よいお話ではありませぬか。会うだけでも会うてみられたら」
「しかしなあ。そのような面倒臭い話は、どうも苦手だ」
「まったく、だんなさまの我儘にも困ったものじゃ。女子はいらぬとて、殿様がお薦めくださる縁談もみんな断ってしまうわ、跡継ぎも定めぬわ、このままでは趙の家門も絶えてしまうのじゃぞ」
ぶつぶつ言いながら趙雲が脱いだ衣服をたたんでいた小梅が、急に声を落とした。
「それほどに、あのお方が忘れられんのか?」
とたんに、趙雲の顔色が変わる。
「婆婆! その話はするなと言うたであろう!」
「まったく。四十路も越えたというに、だんなさまの頭の中はいつまでたっても黄嘴の豎子じゃな」

手早く衣服を片付け、小梅は、記憶をたどるように遠い目をした。
「翠蓮、というたか。確かに、女子のわしの目から見ても、美しいお方じゃったが」
「もうよい」
「しかしのう、だんなさま。どれほど男の操をたてようと、翠蓮どのとの事はもはや遠い過去のこと。翠蓮どのとて、このまま趙家の血筋が絶えてしまうことを喜ばれはすまいぞ」
「うるさい! もうよい、というのが分からぬか! 用が済んだら、さっさと出てゆけ!」
日頃、滅多なことでは怒らない趙雲が、戦場ではかくやと思われるほどの形相で怒りを露わにした。
他の者ならそれだけで恐れおののいてしまうところだが、小梅は相変わらず苦々しい表情で主人の顔を眺めている。
「まったく。年寄りは敬うものじゃ……」

小梅が出ていくと、急に部屋ががらんと広くなったような気がした。
ふいに息苦しさを覚えて、手近の小窓を開けた趙雲は、ほっと深いため息をついた。
開け放した窓から涼やかな風が吹き込み、季節がようやく秋に移ったことを告げている。

――翠蓮。

懐かしい名を、胸の内でつぶやいてみる。
それは、二度と再び口にすまいと、心に決めた名であった。


◇◆◇


趙雲は、生涯妻を娶るつもりはなかった。
若いころは、戦から戦へ転々とする日々であったし、いつ戦場に屍をさらすやもしれぬわが身を思えば、そんな気にはなれなかったのである。
ただ一度、翠蓮という名の女人との許されざる恋だけが、今も趙雲の心を疼かせる想い出であるといえた。

それは、劉備がまだ荊州の劉表のもとにあって、新野城の代官を務めていた頃のこと。
趙雲は、ひとりの女人と激しい恋におちる。
が、それは許されざる恋であった。
なぜなら趙雲が愛した翠蓮という女性は、劉表の家臣楊某の妻だったからだ。
妻といっても側女にすぎず、主からひどい扱いを受けていた。
そんな翠蓮の身の上に同情した趙雲の気持ちが、いつしか愛情へと変わっていったのも自然な成り行きだったといえる。

だが、事はそのままでは済まなかった。
妻の不倫に気付いた楊が、怒りにまかせて二人を[殺]そうとし、反対に趙雲に斬り[殺]されてしまったのだ。
劉表の庇護を受けている劉備にとって、部下である趙雲の不始末は命取りにもなりかねなかった。
それでなくても、劉表の家臣の中には、劉備が荊州を乗っ取ろうとしているとして警戒する者、その人望の大なるがゆえに不安を抱く者も多くいたのである。

血気ゆえの過ちか――。
我にかえった趙雲は、自己の失態の大きさに愕然となった。
責任を負って自害しようとしたかれを押し止どめたのは、ほかならぬ主君劉備玄徳だった。
劉備の奔走によって、この事件は表沙汰にならずにおさまり、趙雲もまた武士の面目を保ち得たのだった。
それ以来、かれは、愛する女人の面影を胸に思い描くことすら罪悪であると固く自分に戒めて、二度と翠蓮に逢うことはなかった。

(俺は、そなたを哀しませることしかできなかった……)
もう、想い出の中でしか逢うことのできない女の、寂しげな笑顔を思い浮かべる度に、趙雲の胸は激しく痛んだ。
ひとを愛したのは、おそらく、あれが最初の最後ではあるまいか。

窓の外では、ようやく暗さを増した空に、ひとつふたつと星がまたたき始めた。
立秋も近い。
趙雲の館でも、家僕たちが、ささやかながら七夕の宴の準備を整えている。
趙雲は、幼い頃に母から聞いた七夕の伝説を思い出していた。
愛し合う男女が、天帝によって遠く隔てられ、一年に一度、七夕の夜だけ逢うことを許されるという悲しい恋の物語。
(一年に一度でも……そなたに逢うことが叶うのなら――)
牽牛と織女の二人が、うらやましくさえ思えるのだった。


◇◆◇  


その夜、寝苦しさに転々としていた趙雲は、にわかに部屋の中に涼風が吹き渡るのを感じて目を開いた。
寝台の横に立って、自分を見下ろしているぼんやりとした影。
影はしだいにはっきりとした輪郭になり、趙雲のよく知っているものの姿になった。
懐かしい笑顔。

――翠蓮?

「これは、夢か?」
思わず口をついた問いに、翠蓮は穏やかに微笑してうなずいた。
「夢でもよい。そなたは、私に逢いにきてくれたのだ。私はそなたに何もしてやれなかったのに」
(子龍さま、わたくしのことを、今でもそれほどまでに想ってくださっているのですね。うれしゅうございます)
彼女はしゃべってはいない。それなのに、趙雲の耳には、懐かしい声が確かに聞こえる。
(でも、いつまでも、ご自分をお責めにならないでください。わたくしは、あなたさまに会えた、それだけで幸せでした。どうぞ、これからはご自身のこと、趙家のことを第一にお考えくださいまし)
「殿の話を受けよと?」
(そのお子様たちにお会いなされませ。わたくしからもお願いいたします。きっと、よいご縁になりましょう――)
翠蓮は、それこそ蓮の花が開くように微笑むと、次の瞬間、淡い光の中に溶け込むように趙雲の視界から消えてしまった。




🌌続きます

千華・2021-06-18
三国志
趙雲
遥かなあなたへ
星に願いを
七夕小説
姜維と香蓮/前日譚
創作文

「 桃 園 結 義 」




兄弟の契りは深い…

禮-Rei-・2021-05-03
劉備
趙雲
関羽
三国志

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