【約束がほしい】
約束なんて何もしてない。
私の大好きな周平は
もしかしたら
私のことを同居人としてしか
見ていないのかもしれない。
「七花…こっち来て」
「ん」
促されるまま
周平の座るベッドへと赴く。
「ここ、座って」
「ん…」
周平の膝の上に座った私は
彼にぎゅっと抱き締められた。
「ほら、やるよ」
私の顎に指先を引っ掛けて
私の頭を彼の方へ向かせ
周平は徐に唇を重ねた。
歯磨き粉の味。
「んっ…ん、」
唇を優しく食む周平の舌使いが
脳天を甘く刺激した…。
彼にとって私は
ただの同居人なのかもしれない。
彼が寂しい時だけ
心の穴を埋めるパズルの
ピースみたいな、
ただ、それだけの、存在。
舌の温度
柔らかさ
好きだから受け入れる、
周平の要求
はっきりさせることも恐くて
ただ、流されていた。
それでも、限界はくる。
周平が欲しくて
たまらなくなった。
私の目から涙が
ひとつ、またひとつと
溢れ出す。
約束が、ほしい。
周平のものだって証を
心に刻み込みたい。
「キスしかしてないけど、涙が出るくらい、きもちいい?」
そんな意地悪言って
クスッと笑う周平がかっこいい。
この勝負はね
不戦敗よ。
惚れた弱み…最初から私の負け。
「ちがう……」
「何が違うの?」
彼の指先を、ぎゅっと握り締めて
私は、伝えた。
「私…は…周平にとって、なに?」
「ん?七花は俺の酸素かな」
空気ってこと…。
ほら
涙がまた滲んだ。
「つまり…いても、いなくてもいい存在?」
駄目なら駄目で仕方がない。
一番、嫌なのは、中途半端な今。
決定打さえあったら
この家を出て周平を自由にしてあげよう
そう、心に誓って、尋ねた答えは…
「まさかまさか。空気がなくなったら、人間生きていけないよ」
「え…?」
「どうしたの、急に。何が不安なの?」
優しい声が耳元で響く。
きゅっと抱き締めて、
私を覗き込む、心配そうな顔。
「約束……とか何にもしてない、から」
「うん」
「私たち、付き合って……ないからっ」
「そっか」
そうとだけ呟いて、周平は
私をぎゅっと、きつく抱いた。
首筋に埋められる周平の顔。
息遣いを肌で感じる。
「キスしたくなるのも、それ以上も、七花だけだよ」
いつもの周平からは
想像も出来ないような、
甘い響きが耳に残る。
涙が止まらない。
「ちゃんと言葉にしなきゃいけなかったんだな」
周平はそう言って
私を更に抱き締める。
今、私、愛されてる…
体を重ねるよりもずっと。
そう感じられるような包容の後で
周平は、こう言った。
「もう、ずっと前からお前だけ見てる…勝手にもう、付き合ってると思ってたよ、ごめん」
そこまで聞くと
私はもう堪らずに
周平の方に向き直り
彼の腕の中に飛び込んだ。
「うわっ」
勢い余った私を支えきれず
彼の上体ごとベッドの上へ倒れ込む。
「危ねぇなぁ……大丈夫?」
優しい口調とは、裏腹に周平は
少しだけ乱暴に私の顔を持ち上げた。
「ひっどい顔」
周平はぷはっと息継ぎをするように笑う。
「周平は…性格が、ひどいっっ」
「それ救いようないじゃん」
涙の止まらない私の頭を
ぽんぽんと撫でる。
優しさが愛しくてたまらない。
「好き…っ、周平、好き」
ふっ、と息をつき、
周平はまるで子どもを
あやす様に言った。
「俺も、好きだよ」
そして、周平は
ふいに私を呼ぶ。
「七花」
「……ん」
「約束しよっか」
「うん?」
顔をじっと見つめる私に周平は
「大学卒業したら結婚しような」
そう、屈託のない笑顔を見せた。
約束なんて、何もなかった。
いつも不安だった私。
心の中をさらけ出してみたら
彼との間に
「結婚」なんて
夢みたいな約束が出来た。
本当に、
結婚までいけるかな?
ふと見ると周平は
本当に幸せそうな顔で
私の唇を再び食んだ。
ちゅ、ちゅっと
互いの舌を吸う音が
部屋に響き渡る。
徐々に彼の口付けに溶けていくと
心が愛で麻痺していって
ああ、周平となら
幸せになれるかも
そんな漠然とした安堵が
心の中に優しく
広がったのだった。
*
ご心配おかけしました(´・ω・`)
少し落ち着いたので、
リハビリ的小説あげときます
( * ॑꒳ ॑*)
楽しんでいただけたら嬉しいです
幸介