はじめる

#雲隠の月

読んでると、
思わず胸がギュッとしめつけられる、
そんなポエムを集めました。

全36作品・

「可惜夜」


午前一時五十六分。

電気もつけずに玄関で一人、深呼吸をする私。

家族は皆眠っていて、誰の気配もない。

(玄関をそっと開けるだけ。音をたてずに、ゆっくり・・・)

そう思う度に、呼吸が荒くなる。

時計の針の音がやけによく響く。暗闇に目が慣れてしまったのか、足元が見える。靴の色まで分かるほどに。



カチッ。



午前二時になった音がした。

(今だ!)

音をたてずに開くドア。目の前に広がる電灯の光。





あぁ、私。










「家出しちゃった!」

無月・2021-01-24
ぴったり200文字で小説書いてみようチャレンジ
小説
家出
少女
真夜中
電灯
題名「あたらよ」って読みます
雲隠の月

『私と貴方の二人だけ』


光が差し込む花園に、宙に浮いてるティーカップ。

はしゃぐ私に微笑む貴方。

「この世界はおとぎ話さ。夢に不思議にハッピーエンド。これをおとぎ話と言わずに何と言う?」

口から溢れるは屁理屈ばかり、だけどもとても魅力的。

「さぁ、早く紅茶を飲んで。おとぎ話はすぐ終わる。」

踊り始めた貴方につられて、私の足も動きだす。

歌う小鳥に笑う太陽。

夜がなければ雨もない。


きっとここは本の世界よ、

なんて素敵なワンダーランド!

無月・2021-02-21
ぴったり200文字で小説書いてみようチャレンジ
小説
ワンダーランド
語呂の良さを追及しました
こういうの好き
雲隠の月

【恋文】



『お慕いしておりました。ずっと、ずっと昔から。』

そんな見切り発車で書いた手紙を、貴方は静かに読んでいる。

日の光が貴方の背中を照らす。あの頃の分厚い学ランとは違う、薄いワイシャツ。いつか焦げてしまいそうだ。


手紙は次の紙に移った。

『最初は何とも思っていなかったのに、いつしか目で追うようになっていて。同じ背丈の人を見ると、期待して心臓が高鳴って。』

触ると壊れてしまいそうな文字で書かれた文章。貴方は瞬き一つせずに文字を見つめている。

あぁ、私はその姿が好きだった。

いつになっても変わらないのですね、私が好きな貴方のままでいるのですね。

図書室で本を読むときの貴方は、ちょうどそんな顔でした。

そんなに熱心に見てくれるなんて。

ふと込み上げてくる感情は、嬉しさとも寂しさとも違う、何か熱すぎるものだった。


手紙は最後の行になった。

『ただ、こんなことを言っても貴方は困るだけでしょう。貴方は私を好きではない、そんなことは分かっているのです。だからどうか、この本に隠していますから。貴方が最初に見つけてください、私の想いと私の最期を。』

そこで手紙は途切れていた。

あぁ、やっと見つけてくれた。
あの頃のままの恋心を。

辺りは静寂に包まれていた。呼吸する音すら邪魔だった。

「・・・君はいつもそうだ」

不意に、貴方が口を開く。

「勝手に託さないでほしかった。君の最期なんて最初に見つけたくないよ、君を見つけるのは最後でよかった」

視線は手紙に向かっていたけれど、手紙を見ているわけではない。もっと別の何かを見ている、そんな虚ろな目をしていた。

涙が一粒、目からこぼれた。貴方はハッとしたように、手で残りの涙を潰してしまう。

文字が滲んで見えなくなった。

「・・・あの頃の君は、もう死んだんだね」

そう口にした貴方は、見たことのない表情で微笑んだ。

私の知らない貴方だった。

ふと、貴方が私に話しかける。

「すみません、急に押し入って本を探したいなんて言って。」

「いえ、大丈夫ですよ。本当はその手紙を探してたみたいですけど」

「そうなんです。ずっと昔から探していて」

「・・・大事なものなんですね」

「えぇ、まあ。中学生の拙い恋文ですけど」

そうして笑った顔は、もう全くの別人だった。

あぁ、貴方も死んだのですね。
あの頃の二人はもういないのですね。

「じゃあ、僕はこれで。本当にお邪魔しました」

「いえ、良ければまた」

軋んだ音をたてて図書室の扉が開く。まるで現実と過去の境界線みたいだ。

「また縁があれば来ます」

そう言って貴方は出ていった。
窓辺から風が吹いてきた。

ついに私は一人になった。

涙が溢れて止まらない、あの人のように上手く潰せない。

あの人が私に気づかないで良かった。もし気づいていたら、あの手紙の意味が無くなってしまう。

最後まで酷い女でごめんなさい。最後まで我儘でごめんなさい。

貴方が私を見つけたいのと同じくらい、私も貴方を見つけたかった。貴方の最期を見たかった。

ただそれだけだったんです。


「・・・ずっと、お慕いしておりました。」

口から絞り出した言の葉は、ただの少女の本音だった。




ただの拙い恋文だった。

無月・2021-09-12
小説
伝えたい想い
雲隠の月

これらの作品は
アプリ『NOTE15』で作られました。

他に36作品あります

アプリでもっとみる

【今年こそは】



「今年はどんなチョコ作るの?甘いやつ?」

世間はもうすぐバレンタイン。
当たり前のようにチョコをねだってくる、君。

「・・・作らないよ」

「え~、何で~?」

「めんどくさい」

「そこを何とか!」

「嫌」

頬を膨らませても無駄だ。今年は絶対作らない。

「毎年チョコくれてたじゃん」

二つにくくった栗色の髪を人差し指でいじりながら、君が言う。
馬鹿野郎。僕が毎年どんな気持ちでチョコをあげたと思ってるんだこいつは。

「ねえ」

「なに?」

顔を近づけて囁く。

「僕にはチョコ、くれないの?」

一瞬目を見開いたかと思うと、君の顔は真っ赤になった。

「バレンタイン、楽しみにしてるね。」


















『君が初めて作ったチョコは、ちょっと炭の味がした。』

無月・2021-02-11
バレンタイン
小説
幼なじみ
チョコ
どうやって書いてたか分からんくなってきた
200文字になるはずだった(ならなかった)
雲隠の月

『夜』


夜の散歩が好き。

肌寒くて、空気が澄んでいるから。嫌なことや辛いこと、全部忘れられる。

誰も通らないような細道を通って、月明かりだけを頼りに歩いてみたり、小さな公園でブランコを漕いでみたり。

たまに猫の集会にも参加してみる。私は猫語を知らないから、順番に猫達を撫でるだけなんだけど。

全部素敵で特別な時間。




けれど。




「ごめん、待った?」

「・・・遅い。ココア奢ってよね」








君との丑三つ時の逢い引きが、一番愛しい。

無月・2021-02-11
ぴったり200文字で小説書いてみようチャレンジ
小説
丑三つ時
逢い引き
散歩
読みづらいのは見逃してください
圧倒的語彙力不足ッッッッッッ
雲隠の月

『指切り』


「感情はね、欲望なんだ。」

私のほうを見ずに、君はそう言った。

「・・・どういうことですか」

洗濯物を畳んでいた手を止め、君に視線を投げかける。

「うん。これは僕の持論なんだけれど」

自分の考えを噛み砕いて柔らかくしているのだろう、君の言葉に少し間が空く。

「悲しいという感情は、次はこんな目に遭いたくないという欲望だし、嬉しいという感情も、もう一度こうなりたいという欲望だと思うんだ。それで、欲望というのは厄介だろう?欲望のおかげで戦争が起こることも、誰かが死ぬこともある」

「・・・はい」

まるで物語を話すように、君は滑らかに言葉を紡いでいく。

「特に恋愛感情とかいうものは厄介だ、理性がすぐに崩れてしまう。嫉妬心で同性の人間が憎らしくなったり、誰かを呪おうとしたりするからね」

「では、あなた様は、感情なんていらなかったと、そう言いたいのですね」

「・・・そうだね。」

微笑みを顔に浮かべて、君は私の顔を見る。
光の無い目だ。ずっと見つめられると、黒く恐ろしいものに吸い込まれてしまう気がする。

「最近、外の様子はどうなのかな」

「雨の日が続いています、太陽は暫く見れそうにもありません」

「梅雨の時期か、いいね。紫陽花が綺麗だろう?」

「はい。庭が紫色に染まっています」

満足そうに、君が頷く。庭に花を植えたのは君だから、無事咲いているのが嬉しいのだろうか。
例え自分の目で見れなくても。

「足が動いたら、君と一緒に見れるんだけどね」

そう言って静かに傷痕を擦る。

「・・・なかなか消えませんね、その傷。」

「うん。・・・執着心の塊みたいだ」

前の恋人につけられた傷。
二度と動けないように深く抉られた傷。
ずっと一緒にいてほしいからなんて、浅はかで傲慢な理由で。

「ねえ」

ぽつりと、君が独り言のように呟いた。

「君だけは、僕を好きにならないでね」



雨が降っていた。

酷くうるさい雨だった。

無月・2021-06-06
小説
短編小説
感情
久しぶりすぎて下手くそだぁ....
雲隠の月

【逃避行】




フラペチーノ片手にアスファルトを歩く。セーラー服のスカーフが風に揺れた。



塀の上でうたた寝する猫。



少し逸れた道の、小川の音。




白い雲がのったり流れている。



木漏れ日の匂い。




バス停の少し掠れた文字。



ミスバニーのキーホルダーが揺れる。いつもは重い学生鞄も、今日は何にも入ってない。






明日の予定も、あの人への返事も、今だけは少し遠くにいた。






地面を蹴った。ふわりと舞い上がるスカート。


















身体が、浮いたみたいに軽かった。

無月・2023-05-14
ぴったり200文字で小説書いてみようチャレンジ
小説
雲隠の月
学校
テスト勉強が嫌だという気持ちです、はい

『白銀の世界』


真っ白な世界での君はとても綺麗で、ガラスのように脆く見えた。

「寒くないの?」

「平気だよ。私、寒いのには慣れてるの。」

そんなことを言っているけれど、君の鼻先は少し赤くなっている。

「雪、綺麗だね」

君が鈴を転がすような声で呟いた。初めて見る雪に、外の景色に、感動しているのだろう。

「そうだね」

相づちをうちながら、気づかれないようにそっと手を繋ぐ。




君の瞳に映る雪を見ていた。





それは、この世で一番美しい白だった。

無月・2021-02-16
ぴったり200文字で小説書いてみようチャレンジ
小説
タグ考えるのが下手くそです()
雲隠の月

【泡沫夢幻】


私とあの人は夜にしか会えない。

開けっ放しの窓から木枯らしが吹く。瞑色に染まった月白のカーテンが、夜の訪れを告げるように揺れた。

本を読んでいた手を止め、ベランダへと向かう。時計はもうすぐで五時を指す。夕日はもう、西の空へにじんで消えそうだった。


今日は、冬至。


夜が一等長くなる日。


ガウンの袖を返して、部屋の明かりをそっと消した。

彼との逢瀬を思い、目を閉じる。

今日も、会えますように。

目が暗闇を受け入れるのに、さほど時間はかからなかった。



肌寒い空気に目をあける。冷たい匂いと、椿のむせかえりそうな甘い香り。

青白く輝く明けの三日月が、明かりの消えた部屋を照らした。

「やあ、久しぶり。」

ハッとして声のした方を向く。

そこに、あの人がいた。

雪を欺くほどに白い肌。ベランダの柵に体を預けて、鴉のように黒い髪をなびかせている。海の底のように青い瞳は、私を真っ直ぐに捉えていた。

「遅くなってごめんね。ほら、おいで」

彼が、ゆっくりと腕を広げる。細く、氷のように透き通った指は、私のほうをむいていた。

吸い込まれるように、彼の腕の中へ向かう。

なにかに化かされているかのように、頭でうまく考えられない。ただ心臓のどくどく鳴る音だけが、頭の中で反芻していた。

あと数センチで届く距離。

それすら今は愛おしい。

笑顔で迎えてくれる君。身を預けた瞬間に、椿の香りが鼻をくすぐった。

「もう、遅いよ……」

「えぇ、酷いなぁ。これでも頑張ったほうだよ?」

そう言ってくすくす笑う君。私も思わず笑い返した。

さっきまでの肌寒さが嘘のように、暖かさが身体中に広がる。その腕で囲まれてしまえば、私はもうなすがままだ。

あぁ、愛しい。この時間がずっと続けばいいのに。

太陽なんか、覗かなくていい。

月の光に照らされて、彼の姿が私の瞳に映る。たった一人の、私の懸想人。

「こうしてると、二人だけの結婚式みたい」

君の胸に顔を寄せながら、ぽつりと呟く。君の心臓は静かだった。

「本当に、してしまおうか?」

冗談っぽく笑う君。

「したいって言ったら、してくれるの?」

「君が望むなら、ね。」

そっと、腕が離れる。君の唇が瞼に触れた。

指が絡み合う。君の爪の緋色が、私の指ににじんでしまいそうなほどに。

どくどくと鳴る心臓の音だけが心の中を照らす。

私の瞳はきっと、あなたが溶けてしまいそうなほど、熱をもってあなたを貫いているのだろう。

あなたの顔が近づく。私の熱を冷ますように、首元に優しく口づけをする。

そっと離れていくその冷たさに未練を覚えた。

「唇には、してくれないの」

裾を掴んでねだる。徐々にはっきりしてくる頭。夢の直路の終わりを告げていた。

困ったような微笑みを浮かべて、あなたは幼子を諭すように言う。

「駄目だよ、それは。君が戻れなくなってしまう」

君を縛り付けたいわけではないんだよ。

そう言った彼の輪郭は、どこかぼやけて見えた。

硝子を触るように、あなたの人差し指が私の唇に触れる。

「ここは、大人になってから」

笑った彼の顔は、もうほとんど見えなかった。

透けた彼の身体の向こうで彩雲が見える。日の出が、きてしまう。

あぁ、夜が来るのはあんなに遅いくせに、太陽はそんなに急いで来てしまうのか。

まだ、明けないでほしい。まだ茜さす日にならないで。

かろうじて見える彼の白妙の腕に口づける。

「まだ行かないで、私まだあなたに……」


愛してるって言えてない。









記憶はそこで途切れた。












深い闇の中から引っ張りだされたように目が覚める。

さっきまでの逢瀬が嘘のように、うらうらと日差しが部屋に入っていた。

今日もまた、言えなかった。

いつも、見えない何かが私を守るように、愛してるの一言だけが言えないまま夜が終わる。いつも通りの朝が来る。

自分の気持ちすら伝えられない。

それがどうしようもなく嫌だった。

「……起きようかな」

布団から出ようと体を起こす。


かすかに、甘い香りがした。


頭の中にあった霞が一気に取り払われる。

ベランダの窓を思いきり開ける。無防備だった足が冷えるのが分かった。それにも構わず外に出る。あの人の跡を見つける方が大事だった。


そこに、椿の花が落ちていた。


ここには無いはずの、椿の花。昨日嫌という程に嗅いだ、甘ったるい香り。

思いがけない落とし物に笑みがこぼれる。これじゃまるで、恋文じゃないか。

花弁が落ちないように、そっと椿を持ち上げる。

そのまま彼がするように、真っ赤なそれに口づけた。


















『例え泡沫でも、私はあなたを愛しています』

無月・2022-12-22
小説
遠距離恋愛
両片思い
エモい古語辞典っていうのを買いまして
調子乗って書いちゃった
雲隠の月

【秘密】


あの子のお葬式があった。厚い雲が、太陽の光を遮っていた。

「あんなに、いい子だったのに」

担任がハンカチで目元を抑えながら話す。いつものジャージとは違う、真っ黒なスーツに身を包みながら。

ぽつりぽつりと、先生はあの子の思い出を語った。
蒸し暑い空気が私達を包み込む。先生の声だけが、静寂の中響いている。

いつもは明るい声でハキハキ喋る先生。笑顔が絶えない優しい先生。そんな人も、今日は言葉を詰まらせ、顔を悲しみで歪ませながら話している。

「いつも明るく元気で、勉学に一生懸命で、それで、それでいて、皆のことを考えられて・・・!」

ついにこらえきれなくなった涙が、先生の目から溢れた。

それに応じるように、周りからも音が聞こえ始める。悲しさで満ち溢れた音。
あの子の名前を口に出す人、ただただ涙をこぼす人、大きな声であの子の死を嘆く人。

先生は一人で話し続ける。一人で悲しみに酔っている。


皆悲しみに酔っている。


私だけが、ずっと前を見据えていた。

「・・・とても悲しいです、〇〇ちゃんのいない教室は。だけど、だけど、あの子はきっと皆の笑顔を見たいはずです。だって、誰かの笑顔のために頑張れる子だったから。どうか、安らかにお休み下さい。」


二年五組一同。


そう締め括り、先生の弔辞が終わった。
拍手が起きたわけでもない。のに、称賛のような何かが辺りに漂った。

お通夜ももうすぐ終わる。あの子とのお別れの時間がくる。

皆の泣き声がいっそう強まった気がした。

空はまだ曇っている。どこかで蝉が鳴いている。

「・・・俺が、アイツのことをもっと分かってやれてたら」

隣でそんな声がした。横を向くと、あの子の彼氏がそこにいた。

「そうしたら、こんなことには」

俺がアイツともっと喋っていれば、俺がもっと一緒の時間を過ごしていれば。

俯きながら、そんなことばかりずっと呟く。私より高いはずの背がとても小さく見える。涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃだった。

「・・・使いなよ、ハンカチ」

ハッとしたようにそいつはこっちを向いた。私が差し出したハンカチを、なにか珍しいもののように見つめている。

「・・・ありがとう」

そう言ってハンカチをそっと取った。目を擦るようにしながら涙を拭く。
薄いピンクのハンカチが、コイツには不釣り合いだと思った。

あの子の方が似合っていた。

「落ち着いた?」

「あぁ。・・・ごめんな、ハンカチこんなにして」

「別にいいよ。次会った時にでも返して」

前を見てそう答える。コイツはクラス内ではそれなりにモテるほうだった、らしい。あの子から聞いただけだから定かではないけれど。でもそんなことを言うあの子も男女問わず人気があったし、好意を持つやつは少なからずいただろう。

それで、あの子とコイツはお似合いカップルだのなんだの言われていた。どっちもモテるから、なんて理由で。

「●●はすごいな」

「え?」

不意に吐かれた言葉に驚く。それが私に向けられた言葉だと理解するのに、少し時間がかかった。

「●●はさ、アイツがいなくなって寂しくないのか?」


お通夜始まってから、一回も泣いてないだろ。


それがさも珍しいことのように、泣くことが当たり前のように、この男は言い放った。

なんて非道いことを言うんだろう。私が寂しくない?馬鹿を言わないでほしい。

あの子のいないこの場所に、もう価値なんてないのに。

「・・・あの子はさ、いつも笑顔だったし、周りの人も笑顔なのが好きだったじゃん」

思ってもいないことを口から出す。

いつも笑顔だったなんて、嘘。

私はあの子の涙を知っている。

「だから、皆泣いてるんだから、私くらいは笑って見送りたいんだよ」

そう言いながら口角を上げる。嘘くさい笑みを顔に貼り付ける。
それが良かったのか、コイツには私が涙を我慢しているように見えたらしい。

「そうか・・・そうだよな。お前だって寂しいし、我慢してるよな。・・・アイツだって望んでないよな、皆が、俺が泣いているのは」

独り言のようにそう呟く。何かを考えている様子の瞳と焦点があう。

ソレはまるで哀れなものを見るように、慈愛を込めて私を見つめてきた。

「なあ、難しいかもしれないけどさ。時間があったら、アイツの話一緒にしないか?料理が得意だったとか、可愛いものが好きだったとか、そんなのでいいからさ」

悲しみしか浮かべていなかった顔が、少しだけ笑みを見せた。

「・・・そうだね、難しいかもだけど」

哀れなやつだなと、思った。

あの子の彼氏だからって、あの子に一番近かったわけではない。だから、コイツじゃあの子の代わりにならないし、あの子との思い出を語る相手にはならない。


私はあの子との日々を誰かにあげたりしない。


だいたい、お前はあの子のことを全然知らない。あの子は料理が得意じゃなかった。特にお菓子作りなんか、焦がしたり、生地がちゃんと混ざっていなかったりしてた。でも一所懸命に作ってる姿が可愛くて、「下手くそだなぁ」なんて笑ったりして。私しか知らない大事な時間だった。

お前が見ていた料理上手のあの子は、頑張って練習した後のあの子なんだ。本当のあの子じゃない。

あの子の本当を知っているのは私だ。私だけだ。

あの子の短所も涙も何もかも、私だけが見られる特権だった。

きっとあの子もそう思っていた。だから私とあんな約束をしたんだ。

確かあの日は雨が降っていた。電気を消した薄暗い教室。雨の音だけが響いていたそこで、あの子は言った。



『一緒に自殺しよう』



あのときのあの子の綺麗な顔は今でも覚えている。

あぁなんて、あまりに汚くて、許されない、特別すぎる約束なんだろう!

もちろん私は頷いた。首を横に振る選択肢は最初からなかった。

それからは色々試した。二人で自殺するのは上手くいかなかったから、先にあの子だけ自殺を図った。結果がこの日だ。

あの子はきっと喜んでいる。計画が成功したから。そんな素晴らしい日に、どうして泣いてなんていられようか。


次は私の番。


ふと、遺影のあの子と目が合う。花のように笑みをあふれさせた顔。この場所には不釣り合いだと思った。

君は、もっと綺麗なところで笑うべきだよ。

それで、その笑顔を一番近くで見るのは私がいい。

誰にも聞こえやしないその独り言を、口の中で咀嚼した。

いつの間にか雲は去り、太陽の光が控えめに差し込んでいる。


私はポケットの中の、あの子とはんぶんこした薬を握りしめた。


大事な秘密を守るように。



















『・・・それでは、続いてのニュースです。豊後中学校二年五組全員の死亡が確認されました。全員が異なる場所で同じ死因をしており、警察は事件性を視野に入れながら捜査しています。・・・』

無月・2022-07-25
小説
雲隠の月
好きな人
地の文ま〜〜〜じむずかったです
短編小説

【逃避行】


雨が降っていた。

部屋の窓から外を覗く。窓越しでも分かる冷たさが空気を包んでいる。世界に私だけのような錯覚がする。

目を閉じた。水音だけが響いていた。


「お嬢様」


不意にかけられた声に振り向く。頬に熱がこもった。


「なあに」


「そんなところにいては、風邪をひいてしまいますよ」


心配そうな微笑みを浮かべ、両手をそっと広げられた。

何も言わず、腕の中に引き込まれる。









部屋中に温かさが広がる。










世界には私達しかいなかった。

無月・2022-11-23
ぴったり200文字で小説書いてみようチャレンジ
小説
テスト勉強してたはずなんだけどなぁ?おかしいな
反省はしてます。後悔はしてません。
雲隠の月

『ずっと一緒がいい』



「前世ってほんとにあるのかなぁ」

「・・・それ、今する会話?」

デートの途中の喫茶店で、彼女は俺にそう話しかけてきた。

彼女は多分、ちょっと普通じゃない。何でそう思うかって、水族館で魚を見たあとに寿司屋に行きたがるし、ケーキ食べたあとに納豆を食べたりするから。

それで、そんな彼女の普通じゃない個性は、今日も爆発していた。

「今しないといけない会話だよ、これからの人生がかかってるんだから」

「そんな重要なこと?」

「そうだよ、私はいっつも重要なことしか言ってない」

いや、この前「でかいカエル見たからペットショップでおたまじゃくし買っちゃった」って言ってただろ。あれはどう考えても重要じゃないぞ。

「君は考えたことないの?前世からの運命とか因縁とか」

「ない」

「は?夢ないなぁ」

「うっせ」

つまんないの、と文句を言いながら、彼女が耳についているピアスを指で転がす。

平日の昼間だからだろう、そこそこ有名な喫茶店だったが、人はあまりいない。だから注文した食べ物がくるのも早かった。
お待たせしましたという声と共に、ウェイターがパフェとコーヒーを持ってくる。

「ありがとうございまーす、うわ、めっちゃ美味しそう」

彼女はパフェが目の前に置かれるやいなや、スプーンで生クリームに溺れている苺を救い出す。そのまま苺は食べられた。かわいそうな苺。

「うっっっっま」

「良かったな」

よくそんな甘いの食べれるな、俺は絶対無理だ。

上にはたくさんの苺と生クリーム、その下にはスポンジ、チョコレート、アイスクリーム、地層みたいに色も模様も変わっている。

「ふぉれふぇふぁっきのふふきなんふぁけふぉ」

「飲み込んでから喋れ」

何言ってるか全然わからん。

「ごくっ・・・それでさっきの続きなんだけど」

「おう」

「前世があるんだったらさ、私達も生まれ変わるわけじゃん」

「そうだな」

「魂ってそのままだと思う?」

「・・・は?」

「だからぁ、魂ってそのままで身体だけ変わるのかなって!」

何を言ってるんだろう、こいつは。

俺が黙りこくっている間にも、彼女はパフェを食べながら話し続けた。

「私はねぇ、魂って1回死んだらぐちゃぐちゃになると思う。神様が切って切って切りまくって、思い出も考え方もぜーんぶバラバラにしちゃうの」

「・・・全部バラバラにしたら、生まれ変われないだろ」

「それが違うんだなぁ、他の人のバラバラになった魂と合体させるんだよ。パン生地こねるみたいなかんじで、偏りがないように混ぜ合わせちゃう。それで新しい命のできあがり~。生まれ変わり成功だよ」

そう話し終わると、彼女はパフェの生クリームとチョコレートをスプーンで混ぜ始める。

ちょっとした静寂が訪れた。厨房からの音や遠くにいる数少ないお客の話し声は聞こえたけど、少なくとも俺達2人の間には静寂があった。

「私はね」

そっと、でも力強く、彼女は言った。

「死んだら君の魂と混ざりたいな」

「・・・え」

「生まれ変わっても一緒がいいもん」

まるでそれが愛の告白とでも言うように、彼女の頬は赤く染まる。なんか照れるね、とか言ってる。あほか。

「あっそ」

すっかりぬるくなったコーヒーをすする。ミルクが混ざったコーヒーだからだろう、少し甘い。

「反応薄いなぁ、別にいいけど」

彼女が、かき混ぜられ過ぎてぐちゃぐちゃになったパフェの残りをスプーンにのせて食べる。

「っていうか、魂切られてる時点で俺らの意思とか関係ないだろ。神様のさじ加減ってことで」

「はぁ、これだから君は駄目なんだよ。そういうロマンの欠片もないことばかり口にして」

「ほっとけ、これで俺は十数年生きてきた」

「あっそ」

つまらなさそうに彼女は頬杖をつく。

「・・・でも本当に、一緒になる魂は私だけにしてよね、嫉妬しちゃうから」

こいつの嫉妬するところが意味わからない。そこは他の女子と喋らないで!とかじゃないのか、いやそれはそれで迷惑かもしれない。

・・・まあ、多分普通じゃないんだろう。こいつも、そんな奴に恋してる俺も。

「別に、そんなこと言わなくても」

自然に笑みがこぼれる。こんな甘ったれた台詞、姉貴の少女漫画でしか見たことなかったけど。

そんな馬鹿みたいなお前が愛しいし、




「ずっと一緒にいてやるよ。」

無月・2021-06-27
小説
恋人
好き
ここまで長かったぁ(遠い目)
雲隠の月

【白縹】



夢だと思った。

駅で見かけた君は唇に薄く紅をひいていて、それが恐ろしく綺麗だったから。

「ひ、久しぶり」

思わずかけた声に君は振り向く。

「よっ、久しぶり」

喋ってしまえばいつもの彼女で、さっき憶えた感情なんて忘れていた。

だから、つい聞いてしまった。

「お前、今日の服珍しいな、白のワンピースなんて」

「あぁ、」

君が当たり前のように答える。



「白い着物は無かったから。」






『二学期最初の学校に、君の影は何処にもなかった。』

無月・2021-09-16
小説
ぴったり200文字で小説書いてみようチャレンジ
自殺
雲隠の月

『梅妻鶴子』


「私をめとってはくれないのですね」

「うん。ごめんね」

ごめん、なんて。思っていもいないくせに。

「僕には、この子がいるから」

梅の木をいとおしそうに触りながら、貴方は言う。
その瞳の中に、もう私の姿は無かった。

貴方の特別になりたかったわけではない。ただ、貴方の日常に寄り添えたら、それで良かった。

「・・・酷い」

私の声に気づいたように、梅の枝がかすかに揺れる。
それすら、憎らしく思えた。






『彼を獲ってごめんね』

無月・2021-03-22
ぴったり200文字で小説書いてみようチャレンジ
小説
フィクション
貴方
失恋
題名がですね「梅と鶴を家族にして穏やかに暮らす」って意味で
創作意欲どぷどぷになりました
久しぶりすぎて下手くそだぁぁぁ.....
雲隠の月

『秋めくラブソング』



「ラブソング作りませんか!?」

「・・・急にどうしたの、気でも狂った?」

テストも無事終わり、校庭の木が赤く染まり始めた日。

最近涼しいな、読書日和だなんて思いながら、僕は自分の席で本を読んでいた。
そんな僕の至高のひと時を、君は大声で破ってきた。

「ラブソング!!作りませんか!!」

「うわうるさっ、さっきも聞いたよそれ」

君は興奮冷めやらない様子で目を輝かせている。手もブンブン振り回している。当たったら絶対痛いから止めてほしい。

興奮すると手を振り回すのは、君の悪い癖だと思う。何回その餌食になったことか。しかも毎年強くなっている。この馬鹿力。

とりあえず君を座らせて、お茶を飲ませて、深呼吸させる。こうすれば君は基本落ち着く。

「落ち着いた?」

「うん、あのねあのね、ラブソング作りたい」

・・・どうやら駄目だったらしい。

こうなると君は言うことを聞かない。僕が「うん」と言うまで一生喋り続ける。

小さいときからずっとそうだ。僕は部屋で本を読んでいたかったのに、僕の家を顔パスできる君は勝手に入ってきて外へ連れ出そうとする。拒否すると泣く。

君の泣き顔には弱いので、だいたい言うことを聞いてしまう。

「・・・ラブソング作るってなに」

しぶしぶ君に尋ねると、君の顔は分かりやすく明るくなった。漫画だったら『パアッ』みたいな、そういう擬音がつくくらいに。

「えっとねえっとね、今って秋じゃないですか」

「そうですね」

「秋って、ラブソング少なくない?てか聞いたことなくない?」

「それはまあ、そうだね」

「だからね、作りたくない?私と君で秋のラブソング」

まるで何かのプロデューサーのように、僕を指さして君はウインクした。

もしこれが告白なら五点だな。

「う~ん、却下」

「なんで!?」

断られると思っていなかったのか、本気で驚いた声をあげる。
いや、逆になんでそんな驚けるんだ。それはちょっと僕をなめすぎじゃない?

「理由はね、三つあるよ。一つ目、めんどくさい。二つ目、多分探せば出てくる。三つ目、僕達って楽器できたっけ?」

最初の理由は僕の圧倒的個人の理由だけど、三つ目の理由は結構大事なことじゃないかな。

そう、僕の記憶が正しければ、僕達は楽器なんて弾けない。

「昔ピアノやってて~」とかもない。家に置いてすらいない。楽譜も読めるかどうか怪しい。

強いていうならリコーダーはできるけど、リコーダーを使ったラブソングなんて聞いたことがない。しかも僕も君も下手くそだから、誰かへの愛を歌っているときに『ぷぺ~』なんて音が鳴るのは、さすがに間抜けすぎる。

「ふっふっふ~、分かってないなぁ」

これで諦めるだろうと思っていた僕の考えとは裏腹に、君はニヤニヤしながらこっちを見ている。なんか気味悪いな。

「めんどくさい?そんなのやってる間に忘れる。探せば出てくる?私たちで作るからいいんじゃんか!楽器ができない?これがあるでしょうが!!」

そう言うと、君はリュックから何かを取り出した。
それは・・・タブレット?

「そう!文明の利器!これさえあれば大丈夫!」

両手で持ったそれを僕の机の上に置く。なんか手でキラキラ~とかしてる。何やってるんだこいつ。

でもそうか、タブレットか。そういえばあったな、音楽作れるアプリ。

楽器を打ち込むだけで曲ができるとかで、一時期それの制作過程を見せる動画が流行ってた気がする。「えっ、アプリで打ち込んでるんですか?すごーい!」みたいなコメントも、見たことある気がする。

確かにこれなら、楽器ができない僕らでも、一応曲っぽいものを作れるだろう。音楽の教科書とにらめっこすれば、ちゃんとした曲が完成するかもしれない。

・・・でもなぁ。

君は知らないかもだけど、僕は存外めんどくさがり屋だ。昔は君の泣き顔と迫力に負けていつも付き合ってただけで。けど、もう高校生だし、僕も断る力をつける良い機会かもしれない。

そう、きっとこれは神様が僕に与えた試練。

甘やかしてばかりではいられないってこと。

「あのね、タブレットがあっても僕は・・・」

そこで僕の言葉は途絶えた。

「・・・やっぱり、だめ?」

そう言って、君が上目遣いで僕を見ていたから。

今でこそ泣かないけど、小さいときは泣く前にそんな顔をしていた。

昔から変わらない、僕にお願いごとをするときの顔。

昔から変わらない、愛しい顔。

あぁ、ずるいなぁ。そんな顔でそんなこと言われたら、僕は頷くことしかできないじゃないか。

神様、ごめんなさい。僕は誘惑に負ける弱い男です。
そう思ってため息をついて、僕は少しほほえんで言った。

「まあ、テストも終わったし、しばらくは暇だしね。・・・いいよ、やろうか」

さっきまで少し曇っていた君の顔が、晴れたみたいな笑顔を浮かべる。

初めて聞く季節のラブソングが君と作ったもの、か。

それもまあ、良いのかもしれないな。










『完成した曲はあまりに変な音を出すものだから、僕達は目をあわせて笑ってしまった。』

無月・2022-09-18
小説
雲隠の月
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