蝶番・2023-09-11
self-portrait
解き放つ
自分を守るため
痛みを切り離す
できることに
限りはあるから
にじんで あせて
消える
あとかたもなく
何も変わらず
青空
動き出せないなら
そのまま抱えてていいんだ
小脇にさ あえて気軽な感じで
ずっと考え続けなくてもいい
時々下ろして、ちょっとだけ考える
しっくりこなかったらまた抱える
その繰り返し
そのうちモヤモヤする
えいや、って投げ捨てたくなる
そうできるならそれもいいさ
ご飯を食べて ゆっくり歩く
本を眺め 歯を磨く
日々を重ねながら 下ろしては抱え
抱えては下ろしを続けるうち
ふっ、と足が一歩出る感覚
顔を上げると世界にいた
風が吹き抜けていく
わたしの時間を刻む
時計は光を知っている
彼方の朝を運ぶのは
寄り添うわたしと覚悟するわたし
他の誰でもないわたしたちの
まっすぐに
無いかもしれないものを
求め走っていた
そうじゃないと
足を止めてしまえば
すべてが終わってしまうと思っていた
誰にも語らず紙に書き付けた熱情
あんなに怖いことを
良くできてたと思う
見たこともない宝石を
その原石と信じるものへ
遮二無二手を伸ばして
ひとりだから、できた
叱咤し抱き締める
わたしとわたしで見ていた光の尾
そのハレーションは
ほんとに本物だったかな
共犯の鏡像を女神に祭り上げる
それもしたたかで舌を巻く生命力だけど
わたしの一番わたしらしい
チャームポイントって
無邪気なところなんだと
良くも悪くも
思い知る今日も
言葉じゃなくて
体を動かして
空に溶かすことができる人間だったなら
部屋中
家中
ピカピカになってるね今頃
食べて眠る
日々を営む
それだけじゃいけない気になるのはなぜなんだろう
あてもなく歩く
歌をうたう
躓いたら空見上げて
感情をなぞる
書き留める
意味なんてないことばかりが心を埋める
あたたかいコートを着る
首もとにきゅっとマフラーを巻けば
ちっとも寒くない
体感3度、宵の口
紺色の空は
小さな鈴を縫いとめて
楕円の月が虹光を纏う
風をよけて
人をよけて
ひとりきりなら
どこまでも行けそうだけれど
そうじゃない方を選んだわたしと
わたしとが見つめ合っている
うっかり半身にぶつかった夕方
いつの間に日が落ちた台所で
急ぎ鍋を火にかける
強力な魔法に対抗する呪文を
自己愛だのなんだのと並べてみても
気づけば棒立ちになって
このまま このまま
顔を向けたまま後ずさる
そっと全景が見える位置まで
あなたに降る雪の手前まで
毛布をどれだけ重ねても
足が冷たい午後
怒りは諦めに変わり
悲しみに支配される
青くて切れそうに美しい
久しぶり
って、手を取り微笑う
謙虚というあなたの評に
鼻白む午後
ほめられてるんだよね
なぜかな
あまりうれしくない
どうせなら素直って言われたい
口をとがらせ
やっと打ち明けた少女に
天を仰ぐ
うん、もう起きよう
お茶をわかそう
今日も一日が始まるよ
ある俳人が昨今の短歌ブームについて語っていた
俳句は感覚を伝えるもの
短歌は感情を伝えるもの
いいねを押し共感を主軸とするSNS社会は、だから短歌にはまりやすいのだ、と
(蛇足ながら補足すると、俳句は季語含め17音と短い音数で成り立っているため、感情までは伝えきれないこともある むしろ、その部分が受け手の想像力に任されることで、視点は「わたし」から離れ、より普遍的な主体を持つこともできる 対して短歌は、+14音の分しっかりと個人的感情まで伝えられる、というところだろうか)
どおりで、わたしには短歌が作れないわけだ
31音がしっくりこないのもあるけど
自作の詩はもとより
絵本も音楽もドラマも
説明過多をとても嫌う
大体が魅力と混在してるから
これがなければなぁってがっかりしてしまう
受け手を信じて委ねて
余白を塗りつぶさない
でも、情景描写はつぶさにしたい
個人的感覚は具体的でなければ
平面的な羅列を抜け出せないと思うから
感情の共有ではなく
他者の感覚を追体験し
感情はそれぞれ持ってくれればいい
…なんて言いながらも、極めて薄められた匂いをかぎとって一輪の手紙が届くのを待っている、ところもないとは言い切れないから、こうしてわたしは虚空に向かって言葉を投げかけるのだろうと思ったりもするのですが。。
雲ひとつない空
はっきりするって
やっぱり満たされる
わたしには暴きたい欲があるんだな
心は曖昧なままで
許容できるようになった
むしろそれを美徳と微笑めるけど
体の中は見透かしたい
細部まで開いて
真にわたしの体をわたしのものに
言葉じゃない
そんな時に限って
文字をこねくり回し
余計がんじがらめになる
泣けずにふて寝のフリ
一体誰に虚勢を張っているのか
さびしいって思うのすら
なんだか癪にさわって
目が覚めてしまえば
すべて色を失う恐怖
そんなとき
視覚でも痛みを感じる
わたしという器に祈りを捧げたくなる
いつまでも続くとは思ってなかった
ほら、ね
懐かしいくらいの暗転
この足を止めたら
動けなくなる
もう一度 もう一度
って、何回立ち上がればいいの
今は目が開いてても何も見えない