はじめる

#小説

読んでると、
思わず胸がギュッとしめつけられる、
そんなポエムを集めました。

全16445作品・

       とみよしの犬


 家を出て左に向かって、さらに左の角を曲がった二軒先。
『とみよし』という貸本屋がある。

 いつものようにガラガラと引き戸を開けると、今日も本達が蝶のように狭い店内をパタパタ羽ばたいている。その奥に四畳半の畳の間があって、小さい紙の札を三人で囲んだ輪の中の座布団に投げては一喜一憂しているおばちゃん達。

「てっちゃん、またアイスかい」、と紙の札を投げていた狆を膝に抱き抱えた浴衣姿の老婆。この店の主人だ。
 ちっちゃいけど本が大好きな僕は本だらけですごいな、うらやましいなといつも思うものの、まだちっちゃいからなにが書いてあるのかぜんぜんわからなくて、僕の興味は専ら店の外で売っているアイスクリームだ。

「はいよ」、とファファファと前歯の無い笑顔の店主が言って百円お代を払う時に、ウーと狆が唸るので逃げ出したい気持ちになったけど、我慢してたまごアイスを買った。

 持って帰っておばあちゃんに見せたら爪楊枝の先でプスッと刺して、たまごアイスを出してくれた。
「まぁまぁ、あそこの犬の毛だらけで、もうあそこでは買われんね」、そうおばあちゃんが言うので、僕はまた一人で店主の抱いた狆と向き合わなきゃならないのです。

慧兎・2025-06-13
小説
とみよしの犬


       あとかた


 「ハートの真ん中の凹みはね、違った2つのまぁるい心が引っ付いて、愛が深まると1つの丸い心になるのを現してるの」

 そう言って開いた本のページでハートを作った君は、少しずつゆっくり両側のページを指で上げてゆく。

 「ほら、もう少し上に上げたらもっと丸くな……あ!」

 ハートは弾けて、ページはあるべき場所へと戻った。

 残念そうに、ただの平坦な本になったページを見つめる君に、
 「見てて」、「今度は僕の番」

 ページでハートを作って、○に近くなるギリギリまで指で上げる。
 「どうせまた弾けちゃうよ…」小声で君が言う。

 2枚のページが離れるかという所まで上げて、重なった部分をクリップで留めた。

 目をパチッと見開いた彼女は、「あ、そんな手があったの、すごいすごい!ん~、でも、ちょっと狡い」と、笑う。

 「そうだね」と、僕も笑うと
 「ハートが愛ならさ、ハートが弾けてしまわないようにしてるこのクリップは、喩えれば何になると思う?」
 「うーん、、、」と、考え込む彼女。
 「思い遣りとか労りとか、、子どもだったり?、、一口では言えそうにないわ」
 「君は頭がいいよ、言ってしまえば、『大切に想う気持ち』、じゃないかな」
 「あ、そうね!」
 僕は微笑むと、熱い珈琲を淹れて彼女に渡した。

 「あの、、さ、君の花嫁姿を早く見たいな」
 そう言うと、彼女はほんのり頬を染めて
 「もう、来週なのに、、待てないの?」
 「うん」と、微笑んだ。
 しばらく二人で僕が作ったハートを眺めてた。

 珈琲が冷えきった頃に彼女は席を立った。
 「じゃあ、帰るね」
 「よぉし、駅までこの騎士《ナイト》がお送り致しますぞ、姫君」
 二人で笑って彼女を駅まで見送った。

 部屋に戻ると、僕はそっとクリップを外した。
 それはすぐにただの本に戻った。

 彼女と、彼女の選んだ人の幸せを祈りながら外した。

 激しい突然の想いが一気に僕の心に噴き出すと、僕は抗うこともできないまま慟哭した。
 今は解けて離れてしまった開いたページに残る跡。
 それは、この想いを気取られぬようひた隠しにし、君とずっと友達の関係で居続けた僕というクリップが、外すのを躊躇う内に最後に残してしまった痕だった。

慧兎・2025-06-05
小説
物語
創作
再掲
あとかた

忘れたくない。

覚えていたい。

もう覚えていない誰かに
今日もしがみついている。

尾崎紗彩・2025-04-30
記憶
小説
ただ好きだと。

これらの作品は
アプリ『NOTE15』で作られました。

他に16445作品あります

アプリでもっとみる

でも最近
絵を描くことが辛くなった。
先生や親は、
「絵ばかり描いてないで、もっと勉強しなさい」と言う。
友達は、
「将来絵描きで食べていくなんてムリだよ」
と笑う。
夢を見ることは、いつの間にか子供の特権になり、
大人になるに連れて
手放さなければならない物のように感じ始めた。

浅葱・2025-04-17
ロベリアの真実を捜すにはもう遅すぎる
青年期の自己理解
小説
創作
先生
友達
大人
辛い

絵を描くのが好きだった。
色とりどりのクレヨンを握りしめて、頭の中に浮かんだ風景や人物を夢中で描き出す瞬間が、なによりも好きだった。
空の青、草の緑、夕焼けのグラデーション
指先から生まれる色彩の世界は、瑠璃にとっての秘密の場所だった。

浅葱・2025-04-16
ロベリアの真実を捜すにはもう遅すぎる
小説
創作

声が聞こえる。
小さな子供の声だ。 どうやら泣いているらしい。
真っ暗な闇の中を進んでいくとさらに泣き声が大きくなる。
不意に、足を止めた。
今にも消えそうな小さな炎を抱きしめながら、小さな子供が泣いていた。
その白い帽子には嫌というほど見覚えがあったが、彼はこんなふうに大きな声をあげてなくような奴ではない。 そもそもこんなチビでもない。
そんなことをつらつら考えている間にも、子供の手の中の炎はどんどん小さくなっていく。
「なんで泣いてるんだ」
子供は泣き止まない。
「おい」
泣き止まない。 炎はもうすでに消えかけのマッチの火のようだった。
どうしたものかと頭を掻く。 子供の扱い方なんて知らない。
放っておいて先に進んでしまおうか。
「死んじゃうんだ」
子供が唐突に声をあげた。 子供特有の甲高い声はしゃくりが混ざって聞き取りづらい。
「俺のために死んじゃうんだ。 俺のせいだ」
子供の涙が手の中の炎を消した。 目の前が完全に真っ暗になる。
子供の泣き声がさらに大きくなって反響する。
自分のせいだと泣いている。 愛していたのにと泣いている。 約束をしていたのにと泣いている。
ーーーー置いて逝かれたのだと、哭いている。
ぶわりと、子供がいたところを中心に炎が大きく巻き上がった。
あまりの熱風に顔を覆う。 腕の隙間から見えた景色は、美しく踊る炎のみ。
「俺はあの人のために死なないといけない」
耳にこびりついたあの声がこだまする。 そうだ、俺はあいつを探しにきたのだ。
あの白い帽子を被った、人を喰ったような笑顔の男を探しにきたのだ。
熱風の中で腕を伸ばす。 触れた炎は不思議と熱さを感じなかった。
指先に触れたものを強く握り、思い切り引き上げる。
抱きしめたのは、驚いたような顔をするあの男。
辺りを舞う火の粉がその表情を寸分の影なく映し、いつもは見せないようなその表情を俺の前で見せるのはいい気味だと思った。
俺はお前の過去は知らない。 お前が俺の過去を知らないように。
それはどうでも良いことで、俺たちは今を生きている。
俺はお前の死に方を決めることはできないし、お前も俺に死に方を強要することはできない。
それでも、俺はお前に言うことがある。 だからここまで探しにきたのだ。
「ちゃんと帰ってこいよ」
仮に骨すら残らなかろうと、魂だけにでもなって戻ってこい。
お前の帰る場所はこの暗闇の中でもなく、深い深い海の底でもなく、俺の元なのだから。
俺の言葉にさらに目を見開いたあの男は、しかし次の瞬間今にも泣き出しそうな顔で笑った。
「…………ワガママな奴」
その体を強く強く抱きしめて目を閉じる。 きっと次目を覚ました時、こいつは俺の腕の中にはいないだろう。
俺には待つことしかできないけれど、行けばいい。 それはお前が精算しなければいけないことなのだろう?
それならば、他の誰かが止めようと糾弾しようと、俺だけはお前のやることを肯定してやる。
誰もお前を縛ることはできない。 
お前は誰よりも自由を愛する男だから。
だから、だから行ってこい。
自由になるために。
ゆるゆると解ける意識の中、嗅ぎ慣れた匂いが遠ざかる。
ああ、目が覚める感覚がする。

水蒼・2025-04-19
自由
小説
BL

最初に彼の文章を読んだのは只の偶然だった。

夜中の2時過ぎ、眠れなくてスマートフォンをいじっていたとき、誰かがシェアしていた投稿が目に留まった。

それは何気ない日常の描写だった。
エスプレッソマシンの故障、窓の外のカラス、冷蔵庫の中の古くなったチーズ。
でも、それらが並んでいるだけで、不思議と胸が静かに揺れた。
まるで見えない水面を指先でそっとなぞられたみたいな気持ちになった。

私はその投稿に、簡単な感想を書いた。
「文章、すごく静かで、でも心に残りますね」
特別な言葉ではなかった。けれど、それがきっかけだった。

しばらくして、彼から丁寧な返信があった。
「読んでくれてありがとうございます。ああいうの、あまり人に届かないと思ってたので」

それから、彼とのささやかなやりとりが始まった。
私は日々の小さなことを言葉にして送った。
彼もまた、同じように、静かな話題を返してくれた。
互いに、派手さはなかった。けれど不思議な居心地のよさがそこにはあった。


私のことを、世間は「華やかなタイプ」だと思っている。
こういうふうに言えば鼻につく人も少なくないだろうが、SNSに自撮りを上げれば沢山のリアクションがつく。
食事を載せれば、「どこで食べたの?」「連れてってよ」とメッセージが飛んでくる。変なDMも送られてくる。

だけど、誰も私の文章なんて読まない。
顔に興味を持たれても、心には触れてもらえない。
そんなことに慣れてしまった。
あるいは、慣れたふりをしていたのかもしれない。

だけど彼は、私の言葉に耳を傾けてくれた。

「君の文章って、なんだか、午後の木漏れ日みたいだね。読んでると、自分の呼吸が整ってくる気がする」

そう言ってくれたとき、私は思わずスマホを胸に抱えてしまった。
それは、今まで誰にも言われたことのない種類の言葉だった。

彼のほうはというと、まったく目立つタイプではなかった。
プロフィール写真も、古い本の表紙のような抽象的なものだったし、彼自身も自分のことを
「目立たない人間です」と言っていた。
でも、彼の文章は違っていた。
そこには世界への繊細なまなざしがあり、人との距離の取り方に、やさしい工夫があった。

「なんでそんなふうに書けるの?」と私が尋ねると、
彼はちょっと間をあけてからこう返してきた。

「人から見てもらえない分、せめて自分くらいは世界をちゃんと見ようと思って」

その言葉が、しん、と胸に落ちた。

私には、逆の思いがあった。
世界が私の外側ばかりを見るから、自分の内側がどんどんすり減っていく気がしていた。
だから、誰かが私の言葉に目を留めてくれたことが、本当に嬉しかった。

恋というにはまだ早いのかもしれない。
でも私は、彼の言葉のひとつひとつが、私の中の眠っていた感情を、そっと撫でてくれるのを感じていた。
それはとても静かで、そして、かけがえのないことだった。

人は、目に映るものばかりを信じようとする。
でも本当の美しさは、言葉の奥や、気配のなかにひっそりと息をしている。
私はようやくそれを信じてみようと思えた。
彼と、夜に交わす文章の中で。

SAYONARA・3日前
恋愛
小説
SNS





〈君の知らない話をしよう〉




まだ君と話したいことがあった。


まだ君に見せたい景色があった。


まだ君に伝えたい言葉があった。





これは君と私のたった九日、


奇跡でもなんでもない、



確かに此処に在ったそんな話。





仕事帰りに見つけた花屋。


ふらっと立ち寄った店先で見つけた


小さな白い花。




「カスミソウ、お好きなんですか?」



じっと見ていたせいか


不意に店員さんからかけられた声。



「え、あぁ、まぁ、、」



曖昧な返事をした私ににこっと


微笑んだ店員さんは


ブーケとかも出来るんで、なんて


言い残して行く。



誕生日も何も知らない私が

唯一知ってる君の日。



カスミソウは君の命日の日の花だった。





何となく作ってもらった

カスミソウのブーケ。


緑青の包み紙に真珠色のリボン。




ブーケを手に向かったのは


海の見える公園。




ベンチとブランコがあるだけの


小さな公園。




公園の先、波打ち際。



濡れないギリギリに花を置いて


手を合わせた。



それから持っていたオイルライターで

花に火を付けた。




画面越し。顔も本名も知らなかった。



『初めまして』なんて言葉で始まった


手探りな会話がいつしか楽しくて。




好きな音楽の話をした。



好きなスポーツの話をした。



好きな景色の話をした。




その日にあった他愛ない話をして


タラレバの


それでも夢見る未来の話をした。




『昔ね、死にたかったんだ』



そんな話をした私に『そっか』と言った




君が何を思っていたのかなんて


今も昔も分からない。




目の前の花のオレンジは

もう消えそうで



どうやら感傷に浸りすぎたようだ。



たった九日。


されど九日。



確かに存在した九日間。




「、、、またね」



完全に燃え尽きた花に呟く。




『幸せに生きてな』



背を向けた私にどこからか


聞いたことの無い君の声が




聴こえた気がした。

凰咲 悠舞・2025-05-22
小説
感想くれると嬉しい
君からのメッセージ
ポエム

「ナンパしたい男の人がいるんです」
「だから、初対面の僕に話しかけてるんですか?」
「はい。なんか、優しそうだったので」
「初対面の僕に声をかけられる時点で、相談する必要なんてないと思うんですけど」
「男性って女性になんて言われたらキュンってきます?」
「話、聞いてないですよね」
「質問に答えてください」
「……なんで、声かけたいんですか?」
「顔が好きな俳優に似てるんです。
骨格が似てると声も似るっていうじゃないですか。
だから、気になったんですよ」
「そのまま言ったらいいんじゃないんですか?」
「どういう風にですか?」
「『貴方の顔が、好きな俳優に似てて気になったんです』
って」
「そうですか。そう言われたら、キュンってしますか?」
「まぁ、僕は少なくとも思いますけど」
「だったら、良かったです」
「何がですか?」
「でも、意外です。顔は似てるのに、声は全然違った」
「え?それって」
「貴方の顔が、好きな俳優に似てて気になったんです」
「……その俳優って誰ですか?」
「知りたいですか?」
「知りたいです」
「ついてきてください」
「どこへ行くんですか」
「学食。一緒にお昼食べましょう」
「ナンパですか?」
「はい」

河合・2025-05-17
ナンパ
一目惚れ
大学生
小説
独り言
ポエム

<今宵、貴女をお守りします>後編






「マスター、本当にありがとう」



「私は何もしていません。しかし…警察も警察です。何かあってからでは遅いと言うのに」



「…仕方ないわ。証拠もないし、憶測だけでは警察も行動を起こせないのよね」



「…」



「マスターがそんな顔しないで頂戴。私、本当に感謝してるのよ」



深々と女は頭を下げる。



「顔を上げてください。」



慌てたようにマスターが言う。
女がマスターの所に来た翌日。マスターの言葉通り、二人は警察へと赴いていた。



しかし警察は事情を聞いても「証拠がないことには動けません。防犯をしっかりとしてください」の一点張りで、詳しい調査をしようとはしなかった。



頭上をカラスが横切り、カァカァと嘲笑うように鳴きながら飛んで行った。



「…とにかく、防犯グッズを買ってください。しばらくは一人での行動をなるべく避け、エレベーターなども一人では乗らないようにしてください。それから…」



まくし立てるように伝えるマスターに、女は顔を上げて吹き出した。



「マスター、なんだか人が違うみたいね。そんなに話しているところ、初めて見たわ」



「…そんなことを言っている場合では…」



「そうね、ごめんなさい」



眉を下げて笑ったあと、女は言った。



「心配してくれてありがとう。気を付けるわ。またお店にも顔を出すわね」



「お待ちしております」



「じゃあ、またね」



歩き出した女の後ろ姿を見つめるマスターを、近くの物陰から何者かが見つめていた。






















二週間後の22時。
バー「ローク」には、常連の彼女が訪れていた。



彼女が店を訪れるのは警察に行ったあの日以来だ。久しぶりに訪れた彼女とマスターの会話は弾み、気が付けば話し始めてから二時間ほど経過していた。
マスターは皿洗いやドリンクの提供など、作業の手を止めることは無かったが、それでも女との会話を楽しんでいた。
ふと、話が一段落した所で女が呟いた。



「ストーカーの件なんだけどね、犯人がわかったの」



女の言葉に、マスターのグラスを拭いていた手がピタリと止まり、マスターは顔を上げた。



「本当ですか?」



「えぇ」



先程の明るい表情とは打って変わって女の顔には影が落ちている。
躊躇いがちなそれから、いつ切り出そうかと迷っていたことが伝わった。



「やっぱり、例の部下だったわ」



「そうですか……なぜ分かったのですか?」



「先日貴方と警察に行った時、沢山アドバイスをくれたでしょう?」



「それをできる限り実行していたのだけど、玄関に設置した防犯カメラに…ポストに手紙を入れる彼の姿が映っていたの」



「…そうでしたか」



「これを警察に届け出れば、もう悩まされることはないわね」



そう笑う女だったが、笑顔はぎこちなかった。
予想はしていたとはいえ、身近な人間がストーカーであったという事実が相当応えているのだろう。



「まだ警察には届けていないのですか?」



「えぇ。映像を見たのが今日、ここに来る前だったから。明日届けるつもりよ」



「そうですか」



沈黙が二人の間を包む。
と、マスターが声を上げた。



「そういえば、貴重なお肉を先日頂いたんです。良ければ食べていきませんか」



「いいの?」



「はい。少し早いですが、ストーカー事件解決祝いということで…いかがですか?」



「それじゃあ、お言葉に甘えて。是非いただくわ」



マスターは口元に微笑を浮かべ



「かしこまりました」



恭しく一礼をした。














店内に食欲を誘う香りが漂う。



「お待たせいたしました。当店自慢のひと品です」



マスターはコトリと女の前に一枚の皿を置いた。
白い皿の上には、レア目に焼かれた肉が三切れ、見栄えよく置かれていた。肉の近くにはカリフラワーと人参が置かれ、肉の周りをソースが取り囲んでいる。



「いい匂いね」



うっとりと女が目を輝かせる。



「これは…カリフラワーと人参かしら」



「その通りです。火を通してソテーにしました。ソースには味噌とバルサミコ酢を使用しております」



「美味しそうね」



女はキラキラとした目でマスターを見る。
普段よりその幼い顔を見ながら、マスターは女にナイフとフォークを手渡した。
ありがとう、と言いながら女は受け取る。



「いただきます」



丁寧に手を合わせた後、女は早速ナイフを肉に入れた。



なかなか切りずらいようで苦戦しながらも、一口大にカットし、口へと運んだ。



「美味しい…!」



女の顔が綻び、急かされるように次の一口をカットしにかかる。



五分後には皿はすっかり空になっていた。



「ご馳走様。とっても美味しかったわ」



「お粗末さまでした。気に入って頂けたようで何よりです」



マスターは空になった皿を下げた。



「美味しかったのだけど、今まで食べたことの無い味だったわ。何のお肉なの?」



興奮冷めやらぬ様子で女はマスターに聞いた。
マスターは皿を洗う手を止めることなく、告げた。



「人です」



店内をマスターが皿を洗う水音だけが支配した。
それ以外は何も聞こえない。時間すら止まったように思えた。
いや、実際、女の周りの時間は止まっていたかもしれない。



マスターは皿を洗い終えると、蛇口の水を止めた。
そのまま何事も無かったかのように、手頃なグラスを拭き始めた。



「今…なんといったの?」



女の震える声が空気を横切る。



「人です。今、貴女は人肉を食べたのです」



その言葉を聞いた瞬間、女は口に手を当てた。座っていた椅子から崩れ落ち、その場に吐瀉物を吐き出す。



「大丈夫ですか」



マスターがカウンターが出てきて女に駆け寄る。
背中を撫でようと手を伸ばしたが、



「触らないで……っ!」



女はその手をはたいて拒否した。
キッとマスターを睨みつけ、またも込み上げる吐き気に抗えず、胃の中をひっくり返した。



どれほどの時が経っただろうか。
マスターは女が座っていた椅子に座り、遠い目で何処かを見つめていた。
すっかり憔悴しきった表情の女。目線はぼんやりと地面を捉えている。口から、言葉が零れ落ちた。



「どうして…こんなこと」



その言葉に、マスターはピクリと眉を揺らした。



「こんなこと?」



普段と変わらないトーンの中に静かに怒りが込められた一言に、女の肩がビクリと震えた。



「貴女をこんなに怖い目に遭わせておいて、”こんなこと”ですか?」



得体の知れない恐怖で、カタカタと女の体が震える。
こんなマスターは、知らない。
蛇に睨まれた蛙のように、女は動くことが出来なかった。蛇など、この場に存在しないのに。



マスターは席から降り、しゃがみこんで女を見た。



「あぁ…そんなに震えないでください」



女の頭をそっと撫でる。女は拒否することが出来なかった。
地面を捉えている瞳にマスターは映っていないのにも関わらず、どんな表情をしているのか想像が出来てしまう。



「貴女を危険な目に遭わせた輩を、放っておくことなど出来ましょうか」



いつも通りの口調が、こんなにも恐ろしい。
ふと、女は気付いた。



「危険な目に遭わせた輩って…まさか……」



ゆっくりと顔をマスターの方に向ける。
その表情は愕然としていた。



「お見せしますよ」



意味深な一言と共にマスターは立ち上がった。
カウンターの中に入り、奥の事務所に通ずる扉を開け、中へと入っていく。
ガサガサと物を動かす音がして、何かを引きずりながらマスターが扉から出てくる。



女はその間指一本動かすことが出来なかった。
祈りにも近い思いで、扉から出てくるであろうものを見つめていた。



扉からマスターが引きずってきたものを視界に入れた瞬間、女から絶望の声が出た。



「あぁ…そんな……」



マスターが引きずってきたものは、スーツを着た一人の男だった。
顔は赤く腫れているが、女の部下に違いなかった。



「貴女のストーカーです。よく見てください。何かに気付きませんか?」



マスターが言う。口元に微笑を添えながら。
女はそんなマスターを見やり、男をゆっくりと見る。
刹那、目が見開かれた。



「嘘……右手が……」



男のスーツの右手の裾が赤く染っている。
袖から見える右手。本来であれば五本指があるそこには、中指、薬指、小指がなかった。



「ぁぁ…ぁ……」



声にならない声が女の口から漏れ出る。
マスターはそんな女の様子を見て心底嬉しそうだった。



「気付きましたか」



「どうしてこんなことを…」



「貴女を怖い目に遭わせたからですよ」



マスターは繰り返し言った。
女の方へ歩み寄り、目線に合わせて屈んだ。



「貴女には幸せでいて頂かないと、私が困るのです」



「……どういう……」



「そのままの意味です」



優しく、赤子に話しかけるように、マスターは続けた。



「貴女は唯一無二の存在です。高嶺の花であり、守られなければいけない存在です。だからこそ、こんな男が貴女を怖がらせているということが、許せなかった」



「貴女がミスをフォローしてくれた日から、貴女のことが好きだったようですよ。貴女に好意を寄せるだけでも烏滸がましいのに、危険な目に遭わせるなんてもってのほかです」



後半は言葉に怒気が篭っていた。
と、


「こんな目に遭うのも当然でしょう」



先程とは一転して優しく言った。
マスターは、自分がしたことが悪いことだとは一ミリも思っていないようだった。



「どうやって……」



女の口から掠れた声が漏れる。



「今日、貴女の自宅からこの男が出てくるところを見ましてね。そこを捕らえたのですよ」



「貴女がこんなにも早く映像をチェックするとは思わず、少し焦りましたが。結果としてやりたいことは出来たので、満足です」



「満足って……」



「この男の一部が貴女の中に入ることは苦痛ですが、致し方ないですね。これで貴女に手を出そうなどとは思わないでしょうし」



「貴女からストーカー被害に遭っていると聞いた日から、周囲の人間を警戒していた成果が出ました。貴女に近付くから悪いのです。貴女は幸せにならなくてはならない。幸せになるべき人なのです。そしてそれは誰にも邪魔させません」



言い切り、心底安心したような笑みを浮かべるマスター。女の身体がカタカタと震える。身体が警報を鳴らしている。だが、逃げようと思っても、身体に力が入らなかった。



マスターが手を伸ばし、女の顎にそっと手を添える。



「貴女のことは私がお守りします」



「これからもずっとね」



女の瞳が恐怖に染まる。
数秒後、店内に悲鳴が響き渡った。






<終>

榊 夜綴・2025-05-22
やっと書けた
雑な気がするーいやだーー
独り言
小説
君からのメッセージ
まだ見ぬ世界の空の色は

「本に書いてることは大抵、嘘だ」
小説に出てくるギャングは言った。

紺碧・2025-04-21
小説
ギャング
だから私は本が好き
強盗

あおはる .. 僕らの物語 。
※ こちらの小説は fiction です 。
第3話



あれは..そう..6年前の話だった。
私は水戸くんに恋をした。
理由は..
乃絵『ねえねえねえ!!!』
恋乃『どしたー?』
乃絵『りぼん付けたのー?可愛ーね』
そう、乃絵が言っている“りぼん”とは
私はふたつの三つ編みにりぼんの
ゴムで結んでいた。
ぴんくのチェック柄だった。乃絵の
好きな色でもあった。
乃絵「ええ、ほしーな、貰っていい?
余ってないー?」
恋乃「ごめん!これ以上はないんだ」
乃絵「えーひとつありゃいーっしょ?」
と言って眉を吊り上げて椅子に座っている
私を睨みつけてきた。
恋乃「ええ、だって、これ高くて、
人気なものだし、
誕生日プレゼントだから」
乃絵「ええー、私りぼんのゴム欲しい!!」
大きな声を上げられて戸惑うと
奏斗「何してるの?」
乃絵「あ、いや」
奏斗「そういうことしちゃだめだよ」
乃絵「っ..ぃ、はい。」
今にも泣き出しそうな顔で乃絵が謝る。
そして、奏斗は「気をつけて」と
だけ言って友達の所へ行った
前から優しい子だと思ってた
まさか、私が恋する相手だとは
思いもしなかったのに。



ー ある日 ー

勇人「ねー」
肩をぽんと優しく叩かれて振り返る奏斗
をたまたま見かけて眺めると
奏斗「はやとー?」
勇人「かなとってーどんな人がタイプー?」
恋乃「っ」
奏斗「んー、しっかりした人..かな」
勇人「へー、じゃあ、乃絵とかみのり、
恋乃とかの元気系よりもー、
沙織とかみこの方がタイプなのー?」
奏斗「まー、そーなのかなー」
恋乃「!!?」

その日から私は
しっかりした人になろうと努力した


ある日

奏斗「来月転校します」
突然発表された。
それから、1度も会わなかった。
「さよなら」も言えないで





放課後私は公園へ行った。
何となくまっすぐ家に帰りたくなくて
恋乃「はぁ..」
ひとつため息をついてから。
ブランコに乗る。
ただ、灰色の地面を見つめる。
「ねえ」
恋乃「へ!!?」
第3話 end

ₙₑₓₜ ..

果譜.・2025-06-03
あおはる..僕らの物語。
ぽのポエムෆ‪
魔法の言葉✧*。
フィクション
小説
物語
𝕊𝕋𝕆ℝ𝕐


<今宵、貴女をお守りします>前編






時刻は19時40分。都内のオフィス街は、仕事を終え帰宅する人で溢れかえる。
皆北風に急かされるように足を運んで、帰路を辿っていた。



そんな都内のどこかの裏路地。大通りから少し歩いたそこには、知る人ぞ知る小さなバーがある。



外観はレンガ、扉はステンドグラスで出来ている。曇りがかかっていて、中は見えない。所々ひび割れていて、どことなく古びている。ドアノブにはCLOSEと書かれた紙がぶら下がっている。



扉の近くには椅子。椅子の上にはランタンと、木で出来た看板が立て掛けてある。看板の文字は「ローク」。それがこのバーの名前である。



某マップで「飲食店」と検索しても出てこないこの店は、仕事で疲れた人たちにお酒とご飯を提供するために20時から開店する。
ちなみに閉店時間は朝の5時である。



と、一人の男が現れた。痩せ型で、背が高いのは間違いないが、縦に長いという表現の方が合っているかもしれない。10年は着ているであろう古びた黒いコートに、黒い靴を履いている。傍から見たら不審者である。
その男は大通りから真っ直ぐに歩いてくると、迷うことなく躊躇なく店の方に向かってくる。



古ぼけたコートの中から鍵を取りだし、扉を開けた。
店内はとても狭く、カウンター席が5つ程あるのみだ。
男はカウンターの方へと歩いていき、カウンター内の扉から店の奥へと姿を消した。


5分ほどで出てきた男は、不審者のような風貌から黒い蝶ネクタイに黒いエプロンを身につけ、マスターへと姿を変えていた。



カウンターの壁に取り付けられたスイッチを押す。豆電球の光が店内を照らす。窓がないため、明かりが付いたとはいえどことなく店内は薄暗い。
電気を付けたあとに一通り店内を掃除する。カウンターの机と5・6席の椅子を磨き、箒で床を掃く。



一通り掃除を終えるとカウンターの中に戻り、壁一面に飾られたお酒の在庫の確認をする。足りないものは補充していく。食材の確認も欠かせない。



20時になると、扉に頭をぶつけないよう、身体を屈めながら外に出た。椅子の上のランタンに火をつけ、扉の紙をひっくり返し「OPEN」にする。
これがマスターの毎日のルーティーンだ。



店の中に戻りしばらくすると、チリンと扉のベルが鳴り、一人の女が入ってきた。



「いらっしゃいませ」



カウンター席の中でも向かって一番奥の席に座ると、持っていたカバンを隣の席に乱雑に置いた。パンツスーツにハイヒール。ひとつに束ねた長い髪。カバンからは書類が何枚も見えている。



「マスター、いつものを頂戴」



女は一言そう言うと、束ねた髪を解いた。
ふぅとため息をつく。



「かしこまりました」



マスターは手馴れた手つきで棚からお酒を取り出し、カクテルを作った。



「お待たせしました」



「ありがとう」



スッと自分の前に置かれたカクテルを女は一気に飲み干した。



「相変わらず美味しいわ」



空いたグラスを置き、女はニコリと微笑んだ。



「ありがとうございます」



マスターは飲み干されたグラスを回収しながら聞いた。



「本日は随分とお疲れですね」



「そうなの」



ふぅと一呼吸置いて、女は話し始めた。



「部下が仕事でミスをしてね。私がフォローをしたの」



「ミスをしてしまうことは誰にでもあるから気にしていないんだけど、上司が嫌味な人でね。ネチネチと説教じみた事を言われて疲れちゃって」



「もっとましな言い方は出来ないのかしら。ほんと嫌になっちゃう」



はぁとため息をつく女の顔には嫌悪と疲労が滲み出ていた。



「それは大変でしたね」



「えぇ。本当に」



「だから今日は沢山飲みたい気分なの。いいかしら?」



「もちろんです。長い夜は貴女の味方ですよ」



「上手いわね」



小さく笑うと、女は



「マスターのおすすめを頂戴」



そう言った。












「ごめんなさいね。沢山愚痴を吐いてしまって」



すっかり夜も更けた頃、女は身支度を終え席から立ち上がっていた。



「気になさらないでください。ここはそういう場所ですから」



「ありがとう。この場所があるから、私は明日からも頑張れるわ」



スッキリとした顔で、女は優しく微笑みながら言った。



「どうか無理だけはなさらぬよう」



「えぇ」



隣に置いたカバンを掴み、女は財布を取り出した。



「これ、お代よ」



女はカウンターにお金を置いた。
マスターをチラリとお金を見やり、



「こんなに高くはないはずですが」



「愚痴を聞いてくれたお礼よ。受け取って」



返事をしながら女はそのまま扉に向かって歩いていく。



「またねマスター」



女が扉の向こうに消え、チリンという音と同時に扉が閉まる。
静寂に包まれた店の中、マスターは返事が出来ずに扉を見つめたままだった。



「……またお待ちしております」



マスターの小さな声が、誰もいない店内に響いた。














「ストーカーですって?」



ピクリと眉をひそめてマスターが声を上げた。
いつもよりも大きく、それでいて驚いたような声だった。



「えぇ、多分ね」



マスターの前には女。先日愚痴を吐いていた常連の彼女である。
雑談を交わしている最中、女が言ったのだ。



「私ね、ストーカーをされているかもしれないのよ」



それを聞いたマスターの反応が先程の通りである。
明らかに顔を顰めるマスターに対して、女は飄々としている。怖がっている様子は見られない。



「それは…大丈夫なのですか?」



「今のところはね」



「何か被害は?」



「家のポストが荒らされていたり、見張っているような手紙が届いたり…それくらいかしらね」



「警察には?」



「言ってないわ」



さも当然、という風に女は答えた。



「届けなくて良いのですか?」



「特に実害はないし、大丈夫よ」



「ポストといい手紙といい、家が知られているのですよ」



いつもより強い口調でマスターは言った。
女は少し驚いた顔をしたが、すぐにいつもの顔に戻った。



「大丈夫よ。マスターは優しいのね」



「……」



「何かあったらすぐに警察に言うわ」



何かあってからでは遅いのでは。
マスターはそう言いたげな顔をしていたが、女の「甘めのカクテルを一つ頂戴」と言う言葉にすぐに仕事の顔に戻った。


















数ヶ月後、時刻は22時。チリンと扉のベルが鳴る。



「いらっしゃいま…」



グラスを拭いていたマスターが扉に声をかけながら顔を向けると、そこにはいつもの女が立っていた。
しかし、明らかに様子がおかしい。



「…どうされたのですか」



青ざめた顔のままフラフラと歩み寄り、いつものカウンター席に腰掛けた女は、何も言葉を発さなかった。
マスターも何も話さず、そのまましばらくの時が流れた。



どれほどの時が経ったか、女がポツリと言った。



「私、殺されるかもしれないわ」



気まずい空気が一瞬にして凍りついた。
空気だけでなく時間も止まったような。
そんな空間が訪れる。



「詳しく聞かせてください」



有無を言わさぬマスターの口調に、女はゆっくりと口を開いた。



「先日、ストーカーについて話したでしょう?



あれからも手紙がずっと届いてね。



それ以外に直接何かされたことはなかったから、放って置いたのだけど…



……一週間くらい前から、手紙の内容がどんどん過激になっていて。その、所謂…殺害予告じみたものにね。



流石に警察に相談するべきか悩んでいたの。



そして…今日家に帰ったら、ポストに、これが…」



女から差し出されたスマホ。




「……これは…」



スマホを覗き込み、マスターは息を飲んだ。
そこに写っていたのは、女の自宅のポスト。その中で無惨に息絶えている、血塗れのカラスだった。
傍らに置かれた手紙には赤い色で文字が書かれている。



「…おまえもこうしてやる」



呟くマスターに、女は小さく頷いた。カウンターの上で組まれた腕は、カタカタと震えている。
こんなにも怯えているのに、スマホで撮影して証拠を残すとは、女の行動には感服させられる部分があるなとマスターは思った。



「…これを見て、警察に行こうと思って、交番に向かって歩いていたら……信号待ちをしていた時に、道路に突き飛ばされたの」



「なんですって?」



大きな声に女がビクリと身体を震わせる。
しまった、とマスターはすぐに言葉を紡ぐ。



「すみません、大きな声を…お怪我は?」



「幸い、怪我はないわ。車通りもなかったから」



「何よりです。ただ、」



区切られた言葉に女は顔を上げてマスターを見た。
不安げに揺れている瞳の中に、マスターだけが映っている。



「道路に突き飛ばすのは殺人未遂です。今度こそ警察に言うべきかと」



「そうね…そうするわ」



「ストーカーに心当たりはありますか」



「…えぇ」



気まずそうに揺れた瞳が、しっかりとマスターを捉えた。



「先日話した私がミスをフォローした部下のこと、覚えてる?」



「覚えております」



「彼だと思うの。話した日以降、ニヤニヤと気味悪く私を見つめて来て……証拠は、ないのだけど…」



「なるほど」



考え込むような表情をするマスターに女は言った。



「ごめんなさい、急にこんなこと…困るわよね…でも、私、どうしたらいいか分からなくて…気付いたらここに来ていたの」



マスターを見つめる瞳は揺れている。
不安なのだ。当然だ。誰かに命を狙われ、その犯人が自分の知り合いかもしれないと来ている。不安にならない方がおかしいだろう。




「頼って頂けて嬉しいです。そんなにご自分を責めないで下さい」



続けてマスターは言った。



「今日はもう遅いです。ここでお休みになってください。奥の事務室に、小さいですがソファーがあります。一晩寝る分には問題ないでしょう」



マスターの言葉に女は目を見開いた。



「でも…流石に悪いわ」



有難いけど、と小さく女は続けた。
女の言葉にマスターは首を振る。



「そのような危ない目に遭った貴女を一人で帰す訳には行きません。ここで休まれて下さい」



未だ躊躇するような表情を浮かべる女に、マスターは追い打ちをかけるように言った。



「ストーカーが、貴方をまた攻撃するかもしれないのですよ」



その言葉に、女の表情が変わる。驚愕、怯え、恐怖。
そのような感情が入り交じった表情。
女の顔を見て、マスターは打って変わって柔らかく言った。



「明日の朝一番で警察に相談に行きましょう。私も同行します」



その言葉の柔らかさの中には、相手を洗脳出来そうな、そんな得体の知れなさが秘められているような気がしたが、女の顔にはようやく安堵の表情が浮かんだ。



「ありがとう、マスター。とても心強いわ」



「当然のことです。さぁ、今夜はもう休みましょう。ソファーにご案内します」



「えぇ」



女はカウンター席から立ち上がり、マスターに続いて事務室へと入って行った。
事務室は本当にこじんまりとしている。
三畳ほどの空間にパソコンが置かれた机に椅子、ソファーが置いてある。机はパソコンを埋めつくしそうなほどの書類が置かれていた。
その他にカウンターに置ききれない食材のストックや、経営に関する本などもあった。
沢山物が置かれているため、三畳よりも狭く見えた。



マスターは女をソファーへと座らせると、椅子の背にかかっていた毛布を女に渡した。



「お使い下さい。私は扉の向こうにいますので、何かあれば遠慮なく仰って下さい」



「ありがとう。助かるわ」



「おやすみなさい」



「えぇ。おやすみ」



事務室の扉を閉め、マスターは入口の扉を施術した。
念の為、外に怪しい人物がいないか確認することを忘れずに。



施錠をしてからカウンター席に戻り、マスターは何かを考え込む。
その瞳は、何かを決心したかのように、深く、黒く沈んでいた。




(続く)

榊 夜綴・2025-04-25
久しぶりの小説です。
どうしても今日上げたくて前後編に分けた
お気づきかもしれないですが丁寧な口調の女の人が好きです
小説
独り言
大切にしたいこと
まだ見ぬ世界の空の色は

あおはる..僕らの物語 。
※ こちらの小説は fiction です 。
第1話



ここは中高一貫高校。
高校1年生の瑞希 恋乃は
今、学校に着いたところなので
これから教室に向かう。
恋乃「おはよう」
涼葉「おっはよー!」
このクラスになって11日が経った。
涼葉「まぢ眠いわ」
恋乃「朝だから..?」
涼葉「それもあるなー
前は朝はシャキっとタイプだったよ
私もこのちぃのように!!!でも!!!
好きな小説があってさーーー
つい寝るのが遅く..」
恋乃「ああー..小説か。
気持ちもわからなくないけども..」
涼葉「んねー」
そして、教室に着くと
恋乃は鞄を掛けて、
ヘアゴムを鞄の中から出して、
右手首に付けて、
三つ編みをしてから、
お団子ヘアにした。
涼葉「お団子最高だよねー」
私は涼葉と前後の席だ。
涼葉が前で、私は後ろ。
恋乃「ねー、邪魔にならないのいいよね」
そして、私の後ろの席の子が言った。
乃愛「ねー、このちゃーん!」
__このが振り返る。
乃愛「うちさー、鈴野乃愛です!!
実はーこのちゃんと仲良く
なりたい!!って思っててさー
もし、よかったら話そー!かなって」
恋乃「ぜひ」
と、私は笑顔になった。
乃愛「えー!ほんと!!よし!よろしく!
このちゃんってしっかりしてて
憧れてたよー」
恋乃「ほんと?ありがとう」
乃愛「てか、急に『ねー、このちゃーん!』
って馴れ馴れしかったよね?ごめんね」
と、乃愛は両手を合わせて
右頬の近くに手を当てて
眉を下げる。
恋乃「うんん。全然。」
乃愛「ほんと?よかった
てか、呼び名変えていいかな?」
恋乃「うん!!」
乃愛「 こーのち とか?ネーミングセンスが
なくてごめんね」
恋乃「え、最高!!私、 のあのあ とか?」
乃愛「ないすぅ!じゃ決定?」
恋乃「いえす!」
乃愛「いえーい!改めてこれからよろー!」
恋乃「ょ、ろー?..!」
そして、前を向くと涼葉がこちらに向いて
涼葉「友達出来たね!おめでとー」
恋乃「ありがとう!優しくて
面白そうな人ね」
そして、私たちの物語が始まる

第1話 end

ₙₑₓₜ ..

果譜.・2025-05-30
あおはる..僕らの物語。
ぽのポエムෆ‪
魔法の言葉✧*。
フィクション
小説
物語
𝕊𝕋𝕆ℝ𝕐
第1話
next

【短編】
この1秒だけは。



祐希「雪の写真は、本当に綺麗だよ」
私の写真を撫でるように見つめる。
彼の名前は近藤 祐希。高校1年生の写真部
小さい頃からカメラに触れているせいか、彼の撮る写真はどれも光に満ち溢れている。
私のお気に入りは彼が何年もかけて準備をして撮った天の川の写真だ。その写真はまさに「奇跡」と言えるだろう
雪「ううん。こんなの祐希の写真に比べたら全然だよ。でも、確かにこの写真は好きかもしれない」
謙虚になって彼の写真を棚に上げる。
私は、笹上 雪。祐希と同じ高校の1年生。そして写真部。
祐希「これだけじゃない。この前撮ってた夜景も先月撮ってたコンクリートの上にある水溜まりの写真も。全部全部綺麗。俺なんかとは違う」
雪「俺なんか、とか言わないで?祐希の写真は人を惹きつける 私みたいな人をね」
こんな事言うのは私らしくないけど、照れくさく笑う祐希には私も吊られて恥ずかしくなってくる。
祐希「雪のそういう所、やっぱ好き」
雪「…え?」
冷静さを保ってた私でも聞き捨てならない一言が。
傍から見たら私たちは部活で話す程度の友達でしかなかった。でも私はそれ以上の感情を彼にもってたし彼も同じなんだろう。そう、一年以上前から勘づいていた。
雪「それは…えっと、」
祐希「急に変なこと言ってごめん、、。つい、」
雪「…祐希の写真、もっとみたいな」
祐希「あ、うん。いいよ」
何も、考えたくなかった。両思いだと知れて浮かれるのは当たり前のことだと思ってたのに。私は人とは違うみたいだった。
祐希の赤くなった、なんにも考えれなくなってそんな顔が実に可愛くて、好きだった。なのに現実から逃れたくて仕方なかった
雪「私は、祐希の写真が大好きだよ。たとえそれが祐希にとって厄介な言葉だとしても言い続ける」
祐希「うん、うん…。」
雪「私は祐希の写真を見て、祐希の性格を少しづつ知ったような気がするの。そしたらね、祐希のことが好きになってて。でも付き合おうなんて考えてなくて」
彼に対する気持ちをダラダラと言い続けていくうちに彼の目には涙が浮かんでた
雪「…写真には全部映るから。全部全部。」
私は知ってた。彼の全部を。だから彼の気持ちに答えなかった。答えられなかった。
祐希「バレてたんだね」
雪「バレバレだよ」
彼は、3年前交通事故にあってた。そこで1部記憶を失ってそこからは過去撮ってた写真と、これからの写真で記憶を取り戻そうとしていた。幼なじみだった私は毎日祐希の病室に行って私にプレゼントしてくれた写真を見せに行った。時にそのプレゼントを思い出すためにお返しすることもあった。その度に昔話をしたり、祐希のことについて話してた。2人が中二になる時にはもう祐希は退院してて私も部活に熱心に取り組んでた。祐希は私の部活に来たら毎回「雪ちゃん、雪ちゃん」と言う。中三の頃は急に「雪」と呼ぶようになった。そして記憶を全部思い出したって嬉しそうに話していた。
でもね
雪「祐希、私の名字、わかる?」
祐希「、、」
雪「ねえ、祐希…。嘘はつかないで。水溜まりの写真は私が撮ったものじゃない。祐希が撮って私にプレゼントしてくれたもの。渡した時は思い出したって言ってくれたけど嘘だよね?あれ
本当は今も何も思い出してないでしょ」
祐希「雪、ごめんね。俺、君が病室に来てくれる度にドキドキしてて、、でも、好きかどうかわかんなかった。その記憶もないから、。
俺、なんもわかんない。雪が誰なのかどういう人なのか…。周りからは幼なじみって聞くけど退院してからは部活でしか話さないから茶化されてるのかと思ってたんだ。」


雪「この1秒だけは思い出して欲しかった」

たった1秒のその瞬間を収めたものは何も役に立たなかった。それでもその1秒はとっても大切だった。

❤︎・2025-05-25
小説

他に16445作品あります

アプリでもっとみる

その他のポエム

独り言
1049285件

好きな人
337584件

ポエム
568240件

805件

468255件

恋愛
207907件

自己紹介
102271件

辛い
195482件

片思い
191273件

49823件

失恋
113087件

幸せ
55840件

片想い
238315件

トーク募集
93666件

7480件

ありがとう
60558件

好きです、なんて言えない
9419件

寂しい
37399件

62508件

好き
201278件

苦しい
64574件

すべてのタグ