はじめる

#小説創作

読んでると、
思わず胸がギュッとしめつけられる、
そんなポエムを集めました。

全24作品・

*タイトルは最後に書いてある短編小説です。
*暇潰しにでも読んでもらえたら嬉しいです。





空の主人公が太陽から月へとバトンタッチする夕暮れ時。

現在は5時半ぐらいだろうか。正確な時刻は分からないが体内時計はそう示していた。

いつもならばこの時間帯は自宅に帰っている時間だが、私は民家がポツリポツリとある道を歩いていた。

「なんで誰も分かってくれないんだろ」

ため息混じりに言葉を吐く。この先、到底明るい未来なんて見えやしない。

今、私は高校3年生。それに今は受験シーズン真っ最中。世の中3と高3が1番苦しむ時期だ。

重りでも背負ったかのような足を動かしながら先程の父母と担任....大人たちの言葉を頭に思い浮かべる。

『どうして高学歴を狙わないの?あなただったら有名大学にだって行けるのに!』

『これは皆、あなたのために言ってるの』

『悪いことは言わないから、もっと上を目指しなさい』

その言葉をハッキリと思い出し、首がもげるのではというぐらい頭を振る。私の考えを頭ごなしに否定する身勝手な大人たち。

「ああ、もう!ムカつく!」

私は怒り任せにダッフルコートに入っていたスマホをすぐ近くの家に投げつける。当然スマホは大破だ。

しかし、今の私にはどうでもよかった。スマホを投げつけた家に目を奪われていた。

まるでおとぎ話に出てきそうなメルヘンじみた家。恐る恐るその家に近寄る。

「え、これお店なの?」

古ぼけた、埃を被ったような看板には食堂とだけ書かれていた。食堂の前には文字があったようだが黒いマーカーで塗り潰されていた。

私はうーんと頭を捻る。今はちょっと早めの夕食時刻。幸いにも財布は手元にあるし、ちょうどお腹も空いてきたので大きな好奇心とちょびっと不安を抱えながら私はその食堂に入った。

カランカラーンと鈴の音が食堂内に鳴り響く。食堂の広さはそこまで広くはなく、こじんまりとした感じ。

これで経営やっていけてるのかな。そんなことを不意に思った。

『はーい!いらっしゃい、お姉さん。ちょっと叔母さん!久しぶりに来たよ、お客さんが!』

私より年下の中学生ぐらいの女の子が慌ただしく厨房から出てきた。そして叔母さんという人物を呼んでいた。

「はーい。今行くからちょっと先に案内してて!」

違う場所から、その叔母さんと思われる中年女性の声が返ってきた。

女の子は私の方へ駆けよって『ごめんなさい、先に案内しますね』と丁寧に案内をしてくれた。

私は案内された先へと座り、出されたお冷やを一口、口に入れた。

「すごいですね。親戚のお手伝いしてるんですか?」

私は感心しながらそう言った。

『あ、いえいえ。私と叔母さんは親戚ではありませんし、私は正式にここで働いてますよ』

私はえ、と驚いた。中学生はまず労働はできないし...それじゃあ何故?

そんなことを思っていると叔母さんと思われる人物がお盆の上にお椀を乗せ、厨房から出てきた。

「ごめんなさい。用意が遅くなりまして。冷めないうちにどうぞ」

叔母さんはそう言って私の前にうどんを置いた。これにも私は驚いた。

「あの、まだ私頼んでませんけど?」

『今のお客さんにはこれが1番ってことだと思います』

女の子が横から叔母さんの足りない言葉に付け加えるように言った。私はまじまじと目の前のうどんを見つめる。

とても美味しそう。これはこれでいいかと私は開き直るようにうどんに手をつけ始めた。

「美味しい....いつも食べたことがあるようなうどんなのに、すごく幸せな感じになれる」

どこにでもあるような味なのに、どこが違う。

「でしょう?うちの食堂はちょっと特別でしてね。それは幸せうどんと言って幸せな気持ちになれるんです」

幸せうどん....普段だったら胡散臭いの一点しか思わないけれど何故かこれは本物だと思えた。つい、口から本音が漏れだし始めた。

「私、ずっと悩んでた。周りの同意を得られなくてどうしようって。でも、同意を得られなくて諦めるなんてもったいない。今ならそう思える」

私がそう言うと叔母さんと女の子はうんうんと頷いた。

「そうですよね。やはり今の年頃なら悩みはたくさんありますよね。でも、本当は誰にだって乗り越える力はある。それに人間はいつだって気がつかないままでした」

『周りの同意なんてあっても無くてもどのみち変わりはないですから。結局は自分の意志の強さ次第』

私はその2人の言葉を聞いた途端、ガタッとカウンターを立ち上がった。伝えなくては、全身全霊を込めて。そう思ったのだ。急いで財布を取り出す。

「ありがとうございます。代金は...」

「要りませんよ。ここでは金銭は無意味ですから」

「え、でも...」

ここにもまたまた驚きだ。代金を取らない店なんてあるわけない。ましてや金銭には価値がないなんて。

『お姉さん、それよりも急いでるんでしょう?早く行かれたらどうですか?』

女の子は私の背中をトンっと押しながらそう言った。

「....はい!」

私はそう言って食堂を飛び出し、来た道を駆け出し始めた。自分の意思を伝えなければならないのだから。

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『行っちゃたね。というよりか叔母さんさ...』

叔母さんは先程のお客さんが完食したお椀を洗いながら此方に視線をよこした。

「なぁに?」

『さっきのお客さんに出したうどん、幸せ入ってなかった只のうどんだよね?』

私は叔母さんに詰め寄りながらそう言った。叔母さんのにこやかな表情を見るとそれは外れてはいないようだ。

「流石ね。やっぱり同じ店員の目は誤魔化せなかったか」

『まぁこれでもざらにここの店員やってないからね。幸せの匂いがしなかったから。でも、どうして普通のうどんを出したの?』

私は叔母さんの意図が分からず訪ねた。叔母さんは洗い終わったお椀を布巾で拭きながら答えた。

「あのお客さんは隠し味が無くても大丈夫だと思ったから...ぐらいかしら?ほら、病も気からってよく言うし信じこめば大丈夫かなって」

『そんな理由?でもまぁ久しぶりのお客さんだったからいいけど。とりあえず一件落着だしね』

「そうね。次はいつ来るのかしらね」

そう叔母さんが言ったところで私はふと思い出す。

『ところであのお客さんのスマホ、大丈夫かな...』




ここは他の食堂とはちょっと変わった感情を隠し味にしている食堂。

[感情食堂]

この食堂では、色々な都市伝説的な噂が存在します。

中学生ぐらいの女の子と中年女性の店員は人間ではない何かだったり、この食堂は必要としている人間にしか見えなかったり、金銭は取らないだとか....

全ては根も葉もない噂かもやしれませんが...火のない所に煙は立たないと言いますよね?

全てはあなた様の目でお確かめください。

あなた様のご来店、機会がありましたら是非お待ちしております。




*ここまで読んでくださった方、いらっしゃったらありがとうございます!

*誤字ありましたら教えてくださると助かります。

菜乃花 このアカウントは現在使われておりません。・2018-12-22
小説創作
感情食堂
シリーズ化したい



友情というものに固定概念は必要なのだろうか。

漫画、アニメ、小説。

あらゆるもののほとんどの男女の主人公が登場するものは皆、片想いや恋仲に発展する。

大抵がそういったオチだ。


そうじゃなきゃ駄目なのだろうか。

そうじゃないと誰も求めてくれないのだろうか。

そうじゃないと世間は受け入れてくれないのだろうか。


低学年の頃は『男女仲良く』なんて呪文のように説くのに。

呆れた話だ。


一人だけ居た。[妙な関係]と言われたものを一緒に持った人物が。

その人物は一風変わった考えの持ち主で母国愛ゼロで絶対に僕との縁を断ち切らなかった。


その周りから[妙な関係]と言われたものにその人物と二人で名付けた。

なんだったかな。友情なんてありきたりな名前じゃおさまらなかったもの。

ああ、そうだった。

『「この関係の名前は....」』

菜乃花 このアカウントは現在使われておりません。・2019-01-12
小説創作
冒頭

感情食堂第2話(ご感想・シリーズ化希望の声をありがとうございます)
*興味がある方は1話から読んで下さると嬉しいです。
*ですが、1話区切りが多いのでここから読んでも大丈夫です。
*暇潰しに読んで下さると嬉しいです。




街灯数本がチカチカと点滅し今にもとぎれ、消えてしまいそうな道を、夜が深まった時間帯に一人で歩く。

手には新社会人の証しとも言わんばかりの新品同様のビジネスバッグ。服装は綺麗に整ったシワひとつないビジネススーツ。今は暗闇だから分からないが。

そう、僕は今年からお気楽に過ごせていた大学生を卒業し社会人へと進級のようなものを果たした。

スマホをズボンのポケットから取り出し、現在の時刻を確認する。大方、見当はついているが。

デジタルで表示された時刻は11時23分。ふっと、いやそれよりももっとはるかに大きいため息が口からモワァッと漏れる。

「本当、大学生までは何にも考えずに楽しかったな」

辺りに明かりがあまりないためか、夜の空にはいくつかの星が輝きを放っていた。

現実はそう甘くはなかった。毎日残業、無い日はごく稀だ。

くだらない上司がやりたいだけの飲み会につきあわされ、叱責される。

こう社会の現実とやらをこの目で見てしまった今、正直日本は腐りかけたゴミのように見えているのが僕の心情の現状だ。

「とりあえず、何処かで夕飯を済ませなきゃな....って、あれ?」

僕はスマホから目を外し、周囲を確認する。辺りには民家と思われる家が数件だけ。というかこんな道通ったことすらない。これは...

「もしかして迷ったのか?」

どうやら発動してしまったようだ。僕の最悪な秘技、ド方向音痴が。

僕はスマホをもう一度起動し、懐中電灯代わりに道を戻ることなく前へと進む。こうなっては仕方がない。方向音痴は生まれつき。この際受け入れたのだ。

人気がなくこの世の者ではない何かが飛び出して来そうな不安を持ちつつ足を進める。

数分もしないうちに家と思われるような建物が目に入り、すぐ近くには看板が置いてあった。僕はスマホの電源を落とし忍び足で近寄る。

看板には食堂と書かれてあった。その前に何か文字が書かれてあるようだが暗闇のせいなのかマーカーのようなもので塗り潰されていた。

「随分と年期が入った看板だな。一応明かりもあるけど、この時間帯に食堂なんて開いてるのか?」

食堂には明かりはついていた。僕は不信感を持ちつつも飛び込むような思いで食堂の扉を開けた。

「すみません。まだ開いてますかね?」

恐る恐る足を踏み入れ、小声で遠慮がちに尋ねる。食堂内は客席スペースは小さいがごく普通の食堂だ。奥の厨房の方には一応明かりはついている。

(頼む、出てきてくれ)僕は祈るような気持ちでいた。

『はーい、すみません、今行きますね!ほら、叔母さん起きて。テレビ消して!』

僕は返ってきたその返事に一先ずほっとした。どうやら返事が来る感じ人ではあるだろう。バタバタと厨房の方から駆け歩いて来るような音が聞こえてきた。

『いらっしゃいませ。深夜にくる方ってだいたい決まってる方なので....久しぶりに常連客じゃない方だったので驚きです』

「え?」

僕はその食堂店員を目にし言葉を失った。どう見たって目の前の店員は中学生の少女。三つ編みを綺麗にまとめエプロンを巻いていた。

「あの...中学生さん、ですよね。親戚の方と経営しているんですか?」

目の前の少女店員ははっとした表情に変わりまた笑顔に戻る。

『いえ、私と叔母さんは親戚じゃないですよ。よく間違われるんですよね。とりあえず、カウンター席の方へどうぞ』

「はぁ...」

親戚ではないというならばどんな関係なのだろうか。そんなことを疑問に思いながらも少女店員に案内されカウンター席へと座る。

すぐさま少女店員がお冷やを僕の前に出してきた。軽くお辞儀をする。

「ごめんなさい、遅くなって。ちょうどドラマがいいところだったの」

『叔母さん遅い!というかそれは言い訳にならないから!』

ロングの黒髪をサイドにまとめた中年女性の店員が両手にお盆を持ちながらこちらへやって来る。少女店員が叔母さんという人物を叱る。

きっとこの少女店員はしっかり者な一面があるのだろう。というよりも、あの店員が持っているものは一体?

中年女性の店員の持っていたお盆の中には学生が食べるような給食セットが乗っていた。

カレーライス、フルーツ、牛乳、揚げパン。どれも僕が学生の時によく口にしたものばかりだ。

「あの、これは一体?僕、まだ注文をしていないのですが」

おずおずと少女店員と中年女性店員に告げる。二人はその言葉に微笑む。まるでいつも言われ慣れてますと言わんばかりに。

「とりあえず、これを口にしてみてくださいな。口に合わなかったら好きなものを注文してくださって構いません」

中年女性店員にそう言われ、僕は目の前に置かれた給食セットに手をつける。口にした途端、小学生・中学生・高校生時代の思い出や気持ちが溢れ出してきた。

どうしてだろうか。社会人になって何度でも食べたものもあるのに。こんな気持ちは初めてだ。

自分が嫌いだったこと。嫌いだった大人。なりたくなかった大人。

それが今はどうだ?いつの間にか自分が嫌いだった大人になってしまっていた。

へこへこと自分のミスではないのに頭を下げ、理不尽に絶える毎日。これが僕が描いていた未来。なりたかった大人だったのだろうか?

僕はポツリと言葉を話し出す。

「転職します。今のままだったら子供の時の自分に顔向けできません。僕を、僕をここで雇ってください!」

僕は咄嗟に勢いに任せてそんなことを言った。二人の店員は驚いたような顔を一瞬見せ、また微笑みに戻る。

『ここで働いてくれるのならばすごく嬉しいですよ』

「でも、ここじゃお客さんの力は発揮できません。それにまだお客さんはこちら側に来るには早すぎる。これから何十年生きてみてそれでも気持ちが変わらなかったらまた来店してください。ずっと、いつでも私たちは待ってますから」

二人の店員はそう僕に言った。僕はそれにまたうるっときてしまった。そして心に誓った。いつかまた、ここに来ようと。

「ありがとうございます。お会計は...」

「いりませんよ。ここでは金銭は価値はないものになるので。お体に気をつけて過ごしてください」

「えっ、そうなんですか。ありがとうございました」

金銭に価値はないなんて、やっぱり不思議な食堂だ。僕は夜の外へと歩き出した。

自分が子供の時に描いていた最高の大人になるため。世間に抗ってみようではないか。

夜空に雲はひとつなかった。まるで忘れていた何かを取り戻したように。

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『さっきのお客さんには懐かしさの感情を隠し味にしたんだよね、叔母さん』

私は先程のお客さんが完食した食器を拭きながら叔母さんに話しかける。

叔母さんはカウンターテーブルを布巾で拭いていた。

「当たり!やっぱり貴方は侮れないわ。すぐ隠し味を当てるんだもの」

『まぁね。でも、さっきのお客さんがここで働きたいなんて言うとは思わなかったな」

「そうね、私もびっくり。でもねこのお仕事はまず生きてる人間には無理。あのお客さんがこのお仕事に就くにはあと五十年は必要になる」

食器を棚に戻し私はホウキとチリトリをロッカーから取り出す。途端に小さな埃が舞う。

『うん、だよね。というか叔母さんはさっきまで何見てたの?私は本読んでたからわかんなかったんだけど』

「録画しておいた今日から僕は!!っていうのを見てたの。それがすごく面白くてね」

叔母さんは声に笑いを含めるが反対に私はガクッと落胆する。

『はぁ....こりゃダメだ。でも、頑張れ、新社会人のお客さん。』

私は一度手を止めそう呟いた。


*ここまで読んでくださった方、いらっしゃったらありがとうございました!

*誤字ありましたら教えてくださると助かります。

菜乃花 このアカウントは現在使われておりません。・2018-12-30
感情食堂
小説創作

これらの作品は
アプリ『NOTE15』で作られました。

他に24作品あります

アプリでもっとみる

*タイトルの無い短編小説です。
*暇潰しにでも読んでもらえたら光栄です。






「ほんと、どうしよう」

真冬の寒空の下で私は嘆いていた。

今、現在の時刻は午後の10時。だが、都内だからなのか街の明かりは消えないまま、全て吸い込んでしまいそうな真っ暗な夜空には星一つ見えない。

私はトボトボと重い足取りで帰路を歩いていた。

私はあと数ヵ月で大学を卒業する。なので現在は遅めの就活中なのだ。でも...

「採用される気がしない」

口をついて、そんな言葉が漏れる。と言っても採用されたくないのだが。

「夢を追うことはいいこと」などとほざいてたくせに就活生になった途端に「定職に就け」「現実を見ろ」だの大人は言う。

周囲の大人や親類に何度言われたことか....そんなことをふと思い出しているといつの間にか自分の自宅に着いていた。

鍵を差し込み回してギイッと錆びたようなかすかな音を立てながら玄関からリビングと行く。

ふんわりとした柔らかな触感が気に入っているチェアに倒れこむように座る。

さて、一息つこうかと思った瞬間、スマホにコール音が鳴り出し、急いでバックの中から取り出す。

「もしもし、お母さん?」

『ええ、そうよ』

一体こんな時間にどうしたというのだろう。

「どうしたの。こんな時間に」

『あなたがちゃんと就活してるかなって心配で...定職に就かないと食べていくのが大変よ。とくにフリーターなんてもってのほか』

あぁ、なんだ。そういうことか。

「してるけど」

『そう?それならよかった。いい報告待ってるわね』

ガチャッと通話が終了すると、途端に疲れがどっと増す。

何も音がしないリビングで一人思考を巡らせる。

母が私を心配するのは分かる。しかし、こんなことで電話をされるとプレッシャーが余計にかかる。

ゴソゴソとバックを再度探り、古い年季のはいったカメラを取り出す。

最新式のカメラなど今はたくさんあるのに、何故このカメラなのかと聞かれると私は必ずこう答えた。

「お父さんがくれたから」と。

父はもう居ない。私が中学3年生の時にこの世を去ってしまった。

父と一緒に写真を撮るのはなによりも楽しかった。嫌なことも辛いことも全て忘れられた。

今思えば私はお母さん子ではなく、お父さん子だったかもしれない。

父は病院で最後にこう言った。

『このカメラを持ってろ。お前に預ける。それが父さんとお前を繋げるものだ』

この言葉も、カメラも捨てられず私は成長と共に写真を撮り続けた。

高校生の頃からはいつしか人を感動させられるような写真を撮りたいと写真家を夢見ていた。

「結局誰にも将来の夢、言えなかったな」

母の生活も、いつ崩れてしまうか分からない。諦めて就活に専念して、定職に就くしかないのか...

そんなことを考えていたら、また電話が鳴り出し、見てみると相手は非通知だった。不審に思いながら電話に出る。

「はい、もしもし」

『柚葉か?』

その声に私は驚愕した。本来ならばもう二度と聞くことができない声。

「お父さん!?」

『よかった、柚葉か。通じてよかった』

「いや、どうして!?」

『父さんが今話せてるのはお前が大事に持ってくれてるカメラのおかげだ。それでお前を見つけられた』

私は思わずスマホが手から滑り落ちそうになるのをなんとかこらえる。

『父さんと柚葉がこうしてまた会話ができるのは今日が最初で最後だ。今日は大学4年生のお前に伝えたいことがあって電話をかけた。だからよく聞いてほしい』

「伝えたいこと?」

何を伝えたいのだろうか。こうして話せるだけで十分だというのに。

『単刀直入に言うぞ。お前は今、夢をとるか現実をとるかで迷ってるよな。だが、夢を追いかけたっていい。母さんや皆が言う通りに定職に就かなくたって柚葉の存在価値は変わらない』

その言葉を聞いて思う。父は私の悩みを察して電話をかけてきたのだと。

『皆現実見ろって言ってばかりでうるさいよな。でも、父さんは思うんだ。そんなことを言う人たちは本当は弱い人なんだって』

「どういう意味?」

父の言っていることは私にとっては理解しがたかった。

『夢を諦めて安定した人生の方がそりゃ安全だ。でも、夢を追いかけてる人には保証がない。人生の保証が。それでも人生かけて周りの反対を生きて生きる人の方が何千倍もかっこいいと父さんは思う』

その言葉は、私が聞いたことのない言葉だった。世間はいつも同じ言葉しか私に言ってこなかった。

その父の言葉で私の迷っていた何かが弾けとんだ音がした。

「お父さん、やっぱ私現実ばっか見て生きる生き方って向いてないや。半分以上は...夢見て生きていいかな!?」

『ああ、それが1番お前に合ってる。周りがどれだけ反対しようと父さんだけはずっと応援してるぞ』

父のその暖かな言葉に涙が流れ、頬を伝う。あぁ、やっぱり父は優しい声をしている。

「私ね、人を感動させられるような写真を多くの人に届けたいんだ。それが夢なの。初めて人に言ったよ」

『そうか、写真家か。写真が誰よりも好きなお前に1番向いてるだろうな』

「うん。いつかそっちにいったときに見せてあげるよ。だからあと何十年か待っててね」

『あぁ、楽しみに待ってるとも。じゃあな、体調崩すなよ!』

「うん、ありがとう!」

通話終了の音がし、着信履歴を暗闇の中で確認する。

確かにそこに父との電話の記録が残されていた。夢じゃないという記録だ。

カメラを手にベランダの外へと出る。

外は明るいままで上の空を見上げても相変わらず星は見えないまま。

でも、それでもよかった。自分の中の星が見え、また輝き出したのだから。

それだけで十分だった。

私は大きく背伸びをし、頬の涙を拭う。

「さて、明日の面接予定全部蹴らないとな」

そう言って私はポケットに入れていた面接説明用紙をベランダから投げ飛ばした。


この元就活生が人々を魅了し感動させるような写真を数多く撮り、

NOTE15を彩るのは、

まだ少し先のお話。




*ここまで読んでくださった方、いらっしゃったらありがとうございました!

*誤字ありましたら教えてくださると助かります。

菜乃花 このアカウントは現在使われておりません。・2018-12-16
小説創作
短編小説

*タイトル...いつもと違って考えてます。
*今回は短編ではなく、アイディア小説です。
*暇潰しに読んでくださると嬉しいです。






「貴方の目は、長くもって二ヶ月です」

そのたった一言に私は打ちのめされた。

自分の中にあるものが全て砕け散るような音がした。

砕け散るような感覚がした。

だった、筈なのに.....

「なに、これ」

あの主治医の一言で、希望と未来は消え去り、視界を奪われる私の目には...

「人の感情なの、これ」

人の感情が全て色に見えていた。

残された時間はあと僅か。

刻一刻と、視界のタイムリミットが迫ってくる。

『君のその能力、誰かの救いになるかもしれない』

少女の前に現れた、一人の少年。

「こんな能力が一体誰の救いになるっていうの!?その前に私を救ってよ!私はあと少しで何もかもが見えなくなるのに!」

喜び、怒り。悲しみ、楽しさ。

少女の目には感情の色が見えた。

しかし、反対に少年の目には

『僕は一度、視界を失った。そのあとからなぜか、人の言葉の真意が見えるようになったんだ』

言葉の真意が見えていた。

視界の寿命が迫ってくる少女の目には一体、何が映ったのか。

これは、感情が見える少女と言葉の真意が見える少年の物語。


[視界感情]


*ここまで読んでくださった方、いらっしゃったらありがとうございます!

*誤字があったら教えてくださると助かります。

菜乃花 このアカウントは現在使われておりません。・2018-12-01
アイディア
小説創作

*短編小説ではなく、アイディア小説です。
*タイトル考えてます。
*暇潰しに読んでくださると嬉しいです。



あなたにとって、学校があるのはごく普通ですか?

それとも...




現在、2032年。

2000年代から討論になっていた数々の問題。

その中でも、不登校生は数年で爆発的に増加への一歩を辿った。

対応しきれなくなった文部科学省は2022年、ある打開策を発表した。

それは、

(義務教育制度、廃止!?)

文部科学省は、登校制度を廃止し家庭学習制度を生み出した。

しかし、

それでも日本にたった一つだけ、学校が存在した。

『私、学校に行くってこと体験してみたい!』

マイペースがモットーの小学5年生、有野星海。

「まぁ、周りがしてないことをしたいだけでここに来てる」

無愛想が通常運転の中学3年生、香林優気。

「経験しておいても、損はない」

何があっても冷静すぎる高校2年生。綾世陸久。

『学校は本当に意味のなかったものなのか調べたくてここに来てるの』

お姉さん肌の大学1年生、清瀬 華菜。



年齢も、学年も、性別も、それこそ性格もバラバラの4人。

日本にたった一つの学校に通うこの学生たちは、

この学校生活の中で、

『どうして、この制度が無くなったのか知りたくない?』

何に出会い、何を見つけ出すのか。

無くなってしまった、未来の青春。


[日本にたった一つのだけの学校]


*ここまで読んでくださった方、いらっしゃったらありがとうございました!

*誤字があったら教えてくださると助かります。

菜乃花 このアカウントは現在使われておりません。・2018-12-02
アイディア
小説創作

*素人が書いた超短編小説です。
*タイトル決めてません。
*暇潰しにでも見てもらえたら光栄です。



広い、広い世界。

ある人の目には汚く見える世界。

またある人の目には美しく輝いて見えた世界。

しかし、この少女の目には...

色を失った世界に見えていた。


重くなった、重りでも付けたかのように重い足を、前へと進める。

雨が容赦なく降り続ける。そんな中、傘という雨避けの道具を持たず、どこかのブレザーの制服を着た少女は誰も居ない川沿いの道を一人で歩いていた。

少女は気がついてしまった。

「この世界に、意味なんてない。意味があるものなんて一つもない」ということに。

少女は雨で濡れきったセミロングの黒髪を手で、触り、その手を見つめながら言った。

「自分を押し殺して生きるなんて、そんなの死んでるのと同然じゃない」

そう言ったのと同時に、少女の目から一筋の涙が溢れた。

自分は間違ったことなど、一切していない。

それをなぜ、誰も分かってくれないのだろう。

少女は目に入ってきた川へと駆け寄り、足を踏み入れた。

「自分を押し殺して生きるのなら死んでしまおう」

そう言って、顔を川へと沈めようとした。その時だった。

「意味ならあるさ。あたしが知る限りたった一つだけ」

何処からか少し幼い女の子の声がしてきた。それを聞いた少女は後ろを振り向き、声の主を見つけた。

雨の中でも、何故かハッキリ見えるその少女の容姿。背は小学校低学年ぐらい。金色の髪を腰まで伸ばしている白いワンピース姿の女の子。

「どういう、意味?」

少女はその女の子に問う。一体何故、今まさに生を絶とうとした者に何故、そんな言葉を掛けたのだろうと思いながら。

女の子は笑って答えた。

「あなたは言葉の意味を知ってる?言葉の存在意義を知ってる?」

「....いいえ。言葉に意味なんて」

「あるよ。言葉はね、誰かに思いを伝える為の手段。これがあるからこそ、世界は成り立っている」

そう言いながら、女の子は何処からかスマートフォンを取り出し、私に差し出した。

そして、差し出しながら言った。

「この世界は宇宙にとっては小さい星。だけど、人類にとってはとてつもなく広い。だからね、あなたの言葉もきっと誰かに届くよ、絶対に」

私はスマートフォンに表示されている画面を見た。

「これって....」

私がスマートフォンから顔を上げたら、いつの間にか女の子は居なくなっていた。

不思議に思いながら、少女は明るくなってきた空を見上げた。

空には虹が架かっていた。

少女は再び、画面の一言に目を向ける。

『あなたの日常が、誰かの支えになる』




これは一人の、たった一人の少女の、

NOTE15との出会いの物語。



*ここまで読んでくださった方がいらっしゃったらありがとうございます!
*誤字脱字あったらすみません。

菜乃花 このアカウントは現在使われておりません。・2018-11-23
小説創作
短編小説

*短編小説です。
*暇潰しに読んでもらえたら嬉しいです。





[平成最後]

今年もあと、1日もない。近ごろこの言葉をよく聞く。

平成最後だからなんだと言うのだろう?

くだらない世界が何か変わるわけでもない。

「新橋」

「あ、はい!」

突然名前を呼ばれ、体が跳び跳ねるように反応する。

いけない、今は授業中だということをすっかり忘れていた。

「この問い、前に出て解け。さっきの説明を聞いていたらできるはずだ」

俺はその言葉を聞き、冷や汗をかきはじめる。まずい、俺はただでさえ数学が苦手なのだ。

いつの間にか、周囲...というかクラス全体の注目を集めてしまっていた。俺は腹を決め、おそるおそる手を挙げる。

「すみません、聞いてませんでした」

すると教師は「だろうな!悪かった、意地悪い質問をして」と軽く笑いながらそう言った。

教師のその言葉にクラスもどっと笑いに満ちた。と、同時に授業の終わりを告げる予鈴が鳴る。

「おい、新橋!お前さっきの面白すぎ」

「焦ってたの丸分かりだったぜ」

俺とそこそこ親交のある高田と西阪が俺の机の周りを囲む。

「まぁな、ちょっと...」

俺は曖昧に答え、視線を泳がせる。

「今日、大晦日だよな。お前ら何する?」

高田が俺と西阪に尋ねる。

「笑ってはいけない見てオールするに決まってんだろ!」

西阪がそう言うと、高田は「おぉ、だよな!平成最後だし!」と言った。

俺はその平成最後という言葉を耳にするとスクールバッグを手に席を立った。

「お、もう帰るのか?」

「別にいいだろ。もう6時限終わったし」

俺はそっけなく、そう言って教室を出た。

現在、時刻は5時30分。冬なので、当たり前のように上の空は暗い。空気と気温が冷たく俺の体に当たる。

そんな寒空の中に一人、俺は高良山の展望台にたたずむ。

今年も残すところあと、数時間。平成最後の大晦日。

「だからなんだってんだよ」

俺は拳をギュッと爪が食い込むほど握りしめる。

「もう俺には新しい1年も、平成のその先の時代を迎える資格なんて無いんだぜ」

アイツは....ある日突然、雪が溶けるように居なくなってしまった。

僕はその雪のような存在...冬春をどう守ればよかったのだろう?

「わかんねぇ、わかんない」

俺はストンッと展望台にポツンと置かれてあるベンチに座った。

それに今さらその答えが見つかっても....もう遅い。

優しすぎて、正義感が強すぎたアイツ。

クラスは高校に入ってから違った。アイツは...いじめられてる奴を助けたらしい。そのせいで標的にされた。

『やめなよ、いじめなんて。誰も得しないよ!』

お前ならこう言ったはずだよな。冬春はいじめに耐えきれずこの世界から居なくなってしまった。いじめが原因の筈なのに....冬春は遺書すら残さなかった。

「なんで、俺に何も言わずに...」

寒さなど微塵も感じず、そっと目を閉じるといつだってアイツとの出来事が鮮明に思い浮かぶ。

『秘密のヒーロー結社作ろうよ!』

「はぁ?」

冬春のヒーロー憧れすぎには呆れた。中学生になってあんなことを言い出すとは。

『すごい、輝世くん!手相にソロモンの星がある!この手相を持ってる人って世界を変える人に現れるらしいよ!』

「中二病なのかよ、それ」

『私さ、ヒーローになれたかな!?輝世くんのヒーローに!』

「知るかよ、てかなんで俺」

ヒーロー...今思うとお前は本当に俺のヒーローだった。

『いつか、輝世くんも誰かのヒーローになってね!』

「ヘイヘイ....気が向いたらな」

俺はまた、目をそっと開く。

いじめのことを、書き残さなかったから冬春の死はいじめが原因ではないと処理された。

嘘をつかずに、いつも誰かの為だった冬春。だけどアイツは、一度だけ今俺に嘘をついた。

『輝世くん、一緒に平成最後の大晦日迎えようね。んで、初日の出見に行こう』

俺はいつの間に降ってきたのだろう、雪も気にせず座り続けた。

ずっと握りしめ続けていた拳を緩め、ぞっと手のひらを見つめる。

その手にはアイツが教えてくれたソロモンの星が確かにあった。

平成最後なんてくだらない。世界は本当の夜明けを迎えていない。この偽りだらけの世界が冬春を奪った。

アイツをいじめた奴らも学校も、平然と生きてる。

そして....俺も。

『誰かのヒーローになってね!』

冬春との約束じみた言葉が蘇る。

「誰かの、ヒーロー」

俺はそう呟き、勢いよく立ち上がった。

「お前言ったよな、誰かのヒーローになれって。それなら俺はお前のヒーローになる。なってやる。このまま死んだって、そっちでお前と会わせる顔がないからな!」

最後は叫ぶように俺は言い切った。

俺はビシッと人差し指で空に輝く一番星を指差す。

「だからお前、そこで目をかっぽじって見てろ!」

この世界が新しい一年を迎えたって何も変わらない。

平成を終え、次の時代になったって何も変わらない。

今だって誰かが誰かに嘘をつき、世界が壊れる音がする。

俺はそんな変わらない世界を少しずつ、変えてみせる。いきがってるって思われても、中二病だと言われたって構わない。

このアイツが見つけてくれたソロモンの星と、輝く世界という由来の「輝世」という名前に恥じないように生きてみせる。

展望台を下りようと階段に足をかけようとしたしたとき、『それを言うなら耳をかっぽじる、だよ。目をかっぽじったら何も見えないよ』と微笑みを含んだ声が聞こえた。

*ここまで読んでくださった方、いらっしゃったらありがとうございました!

*誤字あったら教えてくださると助かります。

菜乃花 このアカウントは現在使われておりません。・2018-12-08
短編小説
小説創作

*タイトル考えてません。
*暇潰しに読んでくださると嬉しいです。



普通とは一体、何だろう?

普通とは一体、何の基準だろう?

私の頭ではそんな疑問が駆け巡っていた。

廊下で一人、水道で手を洗いながらそんなことを考えていた。

考え事をすると私は何かをしていないと落ち着かない癖があるのだ。

ほんと、変な癖だ。

「普通って何のためにあるんだ」

そんなことを呟くと、昨日の母の言葉が頭をよぎった。

「あなたって本当おかしいわね。あなたが普通じゃないせいで周りにどれだけ迷惑がかかっているのか分かっているの!?」

怒気を含んだ母の声。私は一人、屋上へと向かいながら思い出している。

昨日、私は学校から徒歩で下校していた。その途中、正面から二人乗りをしている男子学生が私をからかうように衝突したのだ。

もちろん、すんどめだったのだか。

そんなことを思い出している途中に、屋上へと着いた。もちろん、授業中に来ているので誰も居ない。

手すりに手を置き、昨日の出来事を思い出し続ける。

二人乗り自転車を私は追いかけ、バッグや足で殴ったり、蹴ったりした。

そこを警官に見られ、母が学校に呼び出された。それも昨日が初めてではない。

「柚原さん、なにも相手に暴行しなくてもいいでしょう。やり返したら同じですよ。普通じゃない」

教師たちのその言葉も何度耳にしたことか。

私は勉強なんかより、知りたいことが山ほどある。

年上を敬うのが当たり前の風習は何故か?

親に「産んでくれてありがとう」なんて台詞を吐かなきゃいけないのは何故か?

事故でどう見ても歩行者が悪いのに轢いた側が悪いとなる理不尽は何故か?

いい学校、安定した職業に就くのが幸せと言ってくるのは何故か?

政治家は何故あんなにも汚いのか?

普通って何なのか?

仕方ないって何なのか?

知りたいその答えを、学校は教えてくれない。

「腐ってるな、こんな世界」

そう呟き、青々しい空を見上げる。

将来の夢とか、そんなものはない。けれど、この青空は見ていたい。

理不尽だらけで、下らないこの世界。

『従うのが嫌なら、ルールを変える側になれ』

どっかの偉そうな奴が言ってた。

「変えてみよう。そしたらちょっとはこの青空も長持ちするかな」

彼女はそう言って、青空に向かって生徒手帳を投げた。



『従うのが嫌なら、ルールを変える側になれ』

まさか、この誰かの一言を成し遂げる人物が現れるとは誰も思ってはいなかっただろう。

だが、この一言が少女を本気にさせた。

現在、2018年。

この12年後、日本最年少、同時に日本初の女性総理大臣が誕生する。

その総理は後に腐りきった世界をも変えていく。

皆さん、安易にあの言葉を子供に言わないように。

子供はそれを本気で成し遂げようとする子も居るので。

少なくとも、この少女は成し遂げました。

これは後の女性初の総理大臣、柚原叶夢の物語。

彼女が日本だけでなく、世界をも変えるのは、

まだ少し先のお話。



*ここまで読んでくださった方、いらっしゃったらありがとうございます!

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菜乃花 このアカウントは現在使われておりません。・2018-11-29
短編小説
小説創作

*短編小説です。
*暇潰しに読んでもらえたら嬉しいです。






「疲れるだけだな」

ハアッとこの日には合わない深い溜め息をつく。

誰もいない、ガランとした空間を包み込むのは静寂さのみ。

私は俯せに顔をふせ、今日の出来事をそっと目を閉じながら思い出す。

「まったく、木原さん。貴方は一体いつになったら覚えるの?というか貴方からこの仕事に対するやる気が感じられないわ」

上司の、田口さんからの厳しい説教が頭ごなしに降りかかる。

「すみません」

「まったくもう、これだから今どきの高卒は.....」

ブツブツと小言文句を口の中でもごもごさせながら、田口さんは仕事の定位置へと戻っていく。

私は糸が切れたかのようにバタッと椅子に倒れこむように座る。

「高卒だからって、差別するのはどうかと思うんだが」

ボソッと誰にも聞こえない声量で呟き、口からいつもの溜め息が漏れる。

そう、またクレームが来てしまったのだ。もちろん、態度が悪いというあたしに対してだ。

中学・高校とやらかしまくってしまった。いわゆる不良というやつだ。

私だって好きで働きにでたわけじゃない。口調も男口調だし、愛想笑いも苦手。

しかし素行不良だったあたしは到底大学に進学などできなかった。別に進学したいとも、思わなかったが。

そんな高卒という履歴の私を雇ってくれたのがここ...郵便局だ。

『213番の方、どうぞー』

愛想のよい私の先輩にあたる方々のベテランの声が局内に響く。

私は書類をトントンと束ねながらこの仕事に就いたときに言われた母の言葉をボンヤリと思い出していた。

『あんた、仕事なら真面目にせんといけんよ。ただでさえ、あんたは苦労するんやけんね』

クレーム来まくって、仕事仲間から差別されて陰口の対象。それでも手出しできない。

「もう、ほんとどうすりゃいいの」


ハッと今日の出来事を思い出し終え、時刻を確認する。

現在、10時過ぎ。もちろん、誰も来る人はいない。今日はあの日だから、というのもあるだろう。

「誰も来ないよねぇ。イブの日に郵便局に用事なんてそうそう...」

じわっと目尻が熱くなるのを感じでまた、顔をふせる。

不良なんてダサい。だからやめようと思い立った。

だが、待っていた現実は想像を遥かに越えていた。イブに最悪すぎる一人っきり。

仕事に意味なんて微塵も感じない。

「第一、今はもうLINEやネットがあるんだし、手紙なんていらないだろ」

誰も返事は来ない。しかし次の瞬間、私は水を被ったかのように驚く。

『お姉ちゃん、起きてますか?』

「はっ!?」

子どもの声がし、顔をバッと上げ目の前を確認する。

目の前にはダッフルコートを来た黒髪の6、7歳の女の子が立っていた。

いや、待て。どう考えたって、子どもがこんな時間にいるなんておかしいだろうが。

「お嬢ちゃん、一人でどうした?」

あたしは最大限の笑顔を作る。

女の子はニコッと純粋な笑みをあたしに向けて『プレゼントがお姉ちゃんにあるの!』と言いポケットからクリスマスらしい封筒を取り出した。

『お姉ちゃんにあげたくて』

私は驚いて固まった。何故、こんな子どもがあたしに....?

「お嬢ちゃん、何でこれをあたしにくれるんだい?」

私は驚きながらも、その子の手紙を受けとる。

しかし私は疑問に思う。あたしにあげる理由は何だ?...と。

『お姉ちゃん、前に美樹ちゃんに届けようと思った手紙を届けてくれたから!すごく嬉しかったの』

女の子照れながらそう言った。だが、あたしはその言葉を理解できずに飲み込めなかった。

「美樹ちゃんって誰だい?」

『お引っ越ししちゃった私の友達!初めて送る手紙だったけどお姉ちゃんが大事に受け取ってくれたから!そのお礼に!』

女の子は元気にそう言った。冬なのに寒さなど気にしないかのように。

私は言葉を見失ったかのように、黙ったまま。こんなことで、お礼を言う奴なんているのかよ、これがあたしの仕事なのに。

『あ、外でお母さん待たせてるから...またね、お姉ちゃん!』

女の子は手を振り、走り去っていこうとした。

あたしはとっさに「待ってくれ!」と言い、女の子は再びこちらを向いた。

「お嬢ちゃんにとって、手紙は必要なものなのかい?」

女の子は一瞬キョトンとしてそのあとに『うん!手紙が私と美樹ちゃんを繋げてるから必要かな!』と満面の笑顔で言い、去ってしまった。

私はお嬢ちゃんから受け取った手紙の封を開ける。手紙の内容を確認する。

とたんに涙が、溢れだしてきた。ここまで、こんななんとも言えないような不思議な暖かさに包まれたことなどあっただろうか。

手紙にはこう一言、覚えたての絵と字で書いてあった。

[お姉ちゃん、お手紙届けてくれてありがとう!お正月も年賀状があるのでよろしくお願いします。メリークリスマスです]

トナカイとサンタと....あたしと思われる人物が描かれてあった。

漢字も難しいのがある。きっと両親に教えてもらいながら書き込んだのだろう。

「ヤベェな。最高のクリスマスプレゼントなんだけど」

高校生を卒業したあたしにはサンタは来なかった。

だけれど、小さなサンタがやって来た。

「こうしちゃいられねぇな。あのお嬢ちゃんの為にも正月もダラダラしてられない」

あたしがそう言ったのと同時に手には大きな段ボールを抱えた人が入ってきた。

「大きい贈り物、ご苦労様です。速達ですか?」

とりあえず、あのお嬢ちゃんが来なくなる日まではここで働くとするか。

*ここまで読んでくださった方、いらっしゃったらありがとうございました!

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菜乃花 このアカウントは現在使われておりません。・2018-12-06
短編小説
小説創作

感情食堂第4話。

*これはシリーズものです。

*第3話後半のところから始まります。









『いやいや、来るの早すぎない?普段は失礼極まりない真夜中の時間帯に来てるよね』

私は布巾を片手に扉の前に平然としている見覚えのある人物二人に声を投げ掛ける。

「すまない。体内時計が狂ってた」

『右に同じく』

今のご時世には珍しい青系統の寒色と赤系統の暖色の袴を身に付けている高校生ぐらいの容姿の男女はそう言う。

一人は黒髪に碧眼。もう一人は白銀の髪色の碧眼。

『それは言い訳にならない。とりあえずカウンター席にでも座りなよ。如月、水無月』

二人から視線を外し、お冷やを入れる。と言っても、必ず何か注文するであろうことは既に分かっていた。彼らはうちの常連だ。

「二人とも、今日もあの用件?」

叔母さんが二人に暖かな視線を向ける。

「それ以外ここに来る用件がないからな。毎月毎月、同じこと聞くけどな...お前ら人間と深く関わったりしてないな?」

如月の言葉に外見では平静を装っていても内心ドキリとしてしまう私。

それと反対に叔母さんはなんなく「してないわよ」といつもの調子で返事を返す。

如月はその返答を疑う訳でもなく「そうか」と言って受け入れた。

如月はもうちょっと疑い深くなった方がいいかもしれない。どちらかというと相棒的存在の彼女、水無月の方が勘が鋭く追求がある。

『毎度、ごめんなさいな。これでも此方側の世界の管理局をやっていると真っ先に疑いや容疑を掛けられるのがこの食堂なの』

お冷やを口に入れながら水無月はほぼ無表情のまま口を開いた。

「まぁそれは仕方がないことだと私とこの子は割りきってるわよ。ね?」

私と叔母さんは人と呼ばれる存在ではない。かつては人だったが。

彼方側の世界はこれといった法律は無いが、一つだけあるのだ。

人間と深く関わるのを禁ずるというもの。

まぁ、死んでいるから仕方ないことなのだろう。

私は叔母さんの言葉に頷きながら視線をカウンター席に腰を下ろしている二人に向ける。

『如月、水無月。二人とも飲み物は何かある?』

『酒と焼酎』

秒で答える水無月にガクッと崩れる。効果音までついてきそうなぐらい。

その隣の如月は「グレープフルーツジュース」とまぁなんとも子供らしい注文。

『水無月。貴方はその姿で飲む気?どう見たって未成年でしょ』

事情を知らない端から見た者でも水無月が未成年の少女だと認識できるだろう。

『でも...』

『いや無理だから。現世にいるときぐらい此方の法律に従いなよ。生きてる年齢がいくら見た目を上回っていても。というかさ、如月も止めてよこの人を』

この不毛な会話は二人が来店したときは必ずしていること。当の如月は他人事のように叔母さんからグレープフルーツジュースを受け取っていた。

というかここは居酒屋ではない。れっきとした食堂だ。

.....まぁちょっと変わっているけど。

それでも麦酒はともかく酒と焼酎って。

見た目高校生女子が発言するものではないだろう。

「まぁまぁ二人とも。水で割ったものなら大丈夫でしょう。それでいいかしら?水無月ちゃん」

私と水無月の会話を聞きつけた叔母さんが水無月に助け船を出す。無表情から一変、碧眼を輝かせながらこくっ水無月は頷いた。

叔母さんが例のアレを厨房から持ってき、水無月へと差し出す。

飲む度に顔が徐々に赤く染まっていく水無月。

私と叔母さんも冷蔵庫から烏龍茶を取り出し、二人で...正確にはもう飲んでいる彼らも合わせ四人で乾杯する。

世間話や自分の身に起こった近況報告などに会話を弾ませる。こういったときだけは一段と賑やかになるのがこの食堂の特徴。

管理局の者はほぼ私と叔母さん、それとこの食堂を目の敵にするというのにこの二人、如月と水無月だけは違う。普通に接してきてくれるいい奴だ。

『そういえばずっと気になってたことがある』

杯を片手に顔を赤くした水無月が唐突に言った。

「『なに?」』

水無月を除く全員が口を揃えて彼女へと視線を向ける。

『二人がこの食堂を造ろうと思ったきっかけっての何?』

その言葉に過剰に体が反応してしまう。右手に持っていたグラスを滑らし落としそうになってしまった。

「たしかに。もうずっとこの食堂に来てるけど二人から聞いたことはないな」

水無月から私と叔母さんへと視線の先を変える如月。此方へじっと特徴的な碧眼を向ける水無月。

「きっかけね....」

口角を少し上げ笑みをこぼしている叔母さんの表情からは何も読み取れなかった。

私が口を静寂が押し寄せる前に開く。

『この食堂を造ろうと思ったきっかけは----------- 』



*ここまで読んでくださった方、いらっしゃったらありがとうございます!

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菜乃花 このアカウントは現在使われておりません。・2019-01-13
感情食堂
小説創作
小説

感情食堂第3話

*これはシリーズものです。

*暇潰しに読んでくださると嬉しいです。



『えっと、お嬢さん?』

三つ編みできちんと纏めた中学生のお姉さんが戸惑いながらあたしの顔を除きこむ。

それでもあたしはカウンター席で俯いたまま。

『なんで、どうして食べてくれないの!』

お姉さんが嘆き声を上げている。こんな状況になったのはほんの数十分前に遡る。


『ね、梓ちゃん。お友だち同士なんだから仲良くしよう?』

静寂で包まれていた教室で事情も何も知らない先生がそう言った。あたしはしかめっ面をしたまま自分の隣に居た子を睨む。

「だって先生が言ったじゃん。言いたいことはハッキリ言えって!あたしはそれを藍ちゃんに言っただけだよ」

隣に居るのは藍ちゃん。小学校に上がって3年。藍ちゃんのことはもとから苦手...というか嫌いの分類に入るぐらいだ。

先生は深いため息をついて『いい?梓ちゃん。先生はそういう意味で言ったんじゃないの』とあたしに告げる。

きっと長々とお説教というものが始まるんだろう。前にガラスを割った男子が長い時間、戻って来なかったのを覚えている。

「先生、どうしても分かってくれないんだ」

あたしは手足をブルブルと震わせながらそう言い放ち、閉まっていた扉を力いっぱい乱暴に開き、廊下を駆け出した。

『梓ちゃん!』

後方からあたしを呼ぶ声がするが振り向かない。ランドセルも荷物も全て置いてきたまま。それでもあたしは走り続けた。

少し痛む足を必死に走らせた。

「あれ、ここ...どこ?」

あたしは一度長い長い一本道で立ち止まり、息をついた。冬だというのに全力失踪したせいか汗が地へと滴る。

さっきから知らない道を走っていたが、ずっと風景が変わらない様なまま。

日も傾き始め、空の色も変化し始めた。泣きたくなる気持ちを必死で堪え、足を進める。

きっとお父さんとお母さんにも連絡がいってる。今更引き返せない。

あたしは足が痛むのもあり、寂しさと不安が溢れついにはしゃがみこんでしまった。

「お父さん、お母さん」

両親の名前を呼んでも、現れてはくれない。が、前方から足音が耳に入った。

『こんばんは、お嬢さん。こんなところにこんな時間、どんなご用?』

「え」

不意にその声に反応し顔を上げる。すると私の目の前には中学生のお姉さんが笑顔をあたしに向けていた。

『え、泣いてらっしゃる!?えと、もしかして迷子さん?って、デリカシーのないこと聞いたらダメだ私!』

お姉さんは私の泣き顔を見て焦り始めたが迷子なのは事実なのでこくっ頷く。

お姉さんはそれを見て、『そっか。じゃあお腹空いてるかな?ここの道は一本道だから引き返せば元の道に出られるからいつでも帰れるよ。ご飯食べたらお家に帰ろうか』と言い、あたしの手を引いて近距離にある家に入っていく。

『叔母さんー!?次はどんなドラマ見てるか知らないけどお客さんですよ!』

お姉さんはあたしの手を引き、カウンター席へと誘導する。こんな席があるということはここは飲食店というものなのか?そんな疑問を抱えたまま席へと座る。

お姉さんはあたしにお冷やを出し厨房奥へと大きく叫ぶ。

「お姉さんはここでバイトっていうものしてるの?」

『ううん、違うよ。私は正式にここの食堂で働いてるの』

「そっか、ここって食堂なんだね」

あたしがそう呟くとお姉さんは頷く。ということはその叔母さんという人物とは親戚なのだろうか。正式に働いているということはそれ以外考えられない。

「はーい、お待たせしました。あら、今回は小さなお客さんなのね」

厨房からトレーを抱えて出てきた叔母さんという人物はあたしのお母さんとさほど年齢は変わらないように見える。

「はい。どうぞ、冷めないうちに」

そう言ってあたしの前に置かれたのは家でもよく食べるオムライスだった。温かさと匂いで食欲が湧くがあたしは手をつけないまま。

『えっと、お嬢さん?』

お姉さんに尋ねられてもあたしは黙りこんだまま。

『なんで、どうして食べてくれないの』

お姉さんが嘆き出したところであたしは口を開く。

「だって、知らない人からもらった食べ物食べたダメだってお母さんが」

その言葉にお姉さんはズコッという効果音をつけたかのように落胆する。隣の叔母さんはあたしに微笑んだまま「一口だけ食べてみるのはどうですかね?」と尋ねる。

「でも、」

「不味かったり、変なものが入っていたらお母さんに言っても大丈夫ですよ」

叔母さんの言葉に揺らぐ気持ちに決心をつけ、オムライスに手をつける。

「美味しい...」

口に一口入れただけで卵の旨味とチキンの食感が広がる。何度も食べたことがあるオムライス。正直言ってこのオムライスはお母さんのよりも美味しい。

ふと、食べている間に藍ちゃんのことが頭をよぎる。ちょっとキツく言いすぎたのかもしれない。そう思った。もう一度、伝えることはできるだろうか。

自然とそんな温かい勇気が湧いてきた。

「ありがとう、お姉さん。叔母さん」

あたしが二人にお礼を告げると二人とも微笑んだままだった。

「えっと、それとごめんなさい。あたし、お金持ってないんです」

恐る恐るあたしはお金を持っていないことを白状した。

「必要ありませんよ。ここでは金銭は無意味で価値がないんです」

あたしは驚いて目を見開く。お金が要らないお店なんて初めてだ。予想外な返答だったが今のあたしにはよかった。

「ありがとう!」

そう言ってあたしは食堂の外へと出た。空には星が顔を出し始めている。

藍ちゃんへ、きちんと伝えるのだ。一つ深呼吸をしあたしは学校へと駆け出した。


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『今回は小さなお客さんだったね、叔母さん』

私はカウンター席を布巾で磨きながら皿を洗っている叔母さんに話しかけた。

女の子が泣いていたのは驚きだったが、笑顔が戻ってよかった。

「そうね。でも、ここにはいろんな方が来店するから」

『人間ではない人も....でしょ』

「あの方たちはごくたまによ」

カウンター席を磨き終わり、布巾を水道で洗う。冷たい水が容赦なく手に降りかかる。

『今回は勇気の感情を隠し味にしたんでしょ?』

私は叔母さんにそう尋ねると叔母さんは私の顔を見て大正解だと言わんばかりの表情をした。

「当たり!あのお客さんにそれがピッタリだと思って」

二人で会話しながら片付けをしている真っ最中、ベルが鳴りドアが開く音が食堂内に響いた。

「邪魔するよ、二人とも」

私はその聞き覚えのある声に瞬時にドアの方へと視線を向ける。

『貴方は...』

「あら、もうそんな月だったかしら」

ドアの前にはそのまさに噂をすればの人物が立っていたのだ。


*ここまで読んでくださった方、いらっしゃったらありがとうございました!

*中途半端と言われるかもですがこれは第4話に続きます。

*誤字ありましたら教えてくださると助かります。

菜乃花 このアカウントは現在使われておりません。・2019-01-06
感情食堂
小説創作

*素人が書いた短編小説です。
*タイトル考えてません。
*暇潰しにでも読んでもらえると嬉しいです。




皆の、僕以外の人たちの目には、この世界がどんな風に見えているのだろうか。

この世界は汚いものなのだろうか?

それとも、とても美しいものなのだろうか?

皆なら、僕以外の皆なら今はわからずとも、いつかその問いに対する答えを知ることはできる。

しかし僕は、その答えを知らない。

いや、知ることができない。

「おはよう、母さん。僕にはわからないけど、今日はとてもいい天気みたいだよ」

僕は一人、和室の隅に置かれてある仏壇に置かれているであろう、写真の母に語りかける。

だいぶわかってきたかな。

僕は生まれつき、目が見えない。だから、天気も写真の位置あやふや。母の顔すら見たことがない。

一人では広すぎではないか、というぐらいの広さのリビングに戻る。

一人ソファーへと座り、朝の情報番組へと耳を傾ける。

ニュースキャスターの一言に耳が反応した。

「そうか。今日は七夕だった」

今日は2012年7月7日。七夕だということをニュースキャスターが知らせる。

各地で子供たちが参加する七夕祭りを開催するようだ。

「すっかり忘れてた。もう七夕なんて、短冊も学生時代の時に数回やっただけだし...でも、気になるなあ。あの短冊で願いが叶った人っているのかな」

独り言をコーヒーを飲みながら呟く。話し相手が居ないのでいつもこうだ。

学生時代といっても、数年前のこと。今僕は22歳。高校まで進学したが、大学は諦めた。

母さんが病で他界したのも理由の1つだが、なによりこの目があるからだ。

僕はそんなことを思いながら、コーヒーを飲み終え、リモコンでテレビの電源を切り、服装と身だしなみを整え、ギターと母さんから貰った使い古しのバッグと白杖を手に、家を出た。

きっと変わらない、いつもの町並みを行く。そんないつもの町の風景すら僕は見ることができない。

周りからは僕が通る度にいろんな声がする。

「あの人、きっと視覚が...」

「若いのに大変よねぇ」

近所のおばさんたちだろう。こんなものはもう慣れっこだ。生まれてから22年もこの生活なのだから。白杖は僕にとっての相棒的存在だ。

だからどんな時だって、外出時は手放せない。

僕は白杖をギュッと握るように持ち、最寄り駅へと入っていった。


いろんな歌声が聞こえる中、僕はハッとした。慌てて、時計を確認する。

「嘘だろ。もうこんな時間か」

時刻は7時23分。チョウド今日は七夕祭りでたくさんの明かりが灯っているだろう。

僕は何時間もカラオケに籠っていた。

基本、僕は自作の歌をここでギターを使いながら歌う。

人に見られることなくできるから。今まで生きてきて、音楽にだけ興味を持てたのだ。

そのせいか、音楽の成績はいつも5だ。

「さて、もう帰るか。夕飯どうしよう」

僕はうーんと頭を抱えた。ここで食べるのもアリだが、昼もここで食べた。しかし、今日が七夕だということを思い出した。

「屋台で何かにつけて買って帰ろう」

僕は会計を一目散に済ませ、カラオケチェーン店を出た。

七夕祭り会場に近くなってきたとき、不意に足を止めた。

僕は人の気配を感じながら、念入り深く感じとる。

誰も居ないと感じ、近くの川沿いの石階段に座る。

「たまには、一度くらいは密室じゃない場所で弾くのもいいかな」

そう言って、ギターで弾き、歌いだす。

気持ちのよい風が体に当たる。すごい、公の場で誰も居ないけど、謡うのがすごく楽しい。

「こんにちはお兄さん。ん?いや、こんばんは、かな」

ポンッとその言葉と同時に肩に手が置かれた。

「うわっ、誰だ!?」

思わず飛び上がりそうな衝動に駆られる。

すると、あはは!と元気な笑い声が僕の隣で聞こえた。

「あはは!ビックリしすきだよ」

「えっと、君は?」

僕はその声の主に尋ねた。声からして、小学校低学年ぐらいの声。

多分、七夕祭りに参加しに来たのだろう。

「あたし?名前は教えない。でも、どんな子か教えるよ。背はお兄さんより小さくて、金の髪が肩ぐらいまであるよ!ちなみに服は愛用の白いワンピース!」

「そ、そうなんだ。教えてくれてありがたいよ。でも、何故僕に声を掛けたんだい?」

一体何故僕に声を掛けてきたのだろうか。髪色のことも気になったが、それよりもこっちの方が気になる。

「お兄さんの歌、すごくいいなって思ってね!それ、自作だよね?」

僕はビックリして、「どうしてわかったんだい?」と聞いた。

「だって歌詞に思いが込められてるから。あたし、そういうのってわかるんだよ。あたしの特技!」

女の子は元気よくそう言った。

「そんな特技ってあるものなのかい。でも、嬉しいよ。ありがとう」

「うん!それにしても今日は天ノ川の影響でいつもよりすごく星空が綺麗だね」

僕はその言葉に顔を曇らせる。

「どうしたの、お兄さん」

僕の感情が顔に出でいたことに気がついたのだろう。女の子が尋ねた。

「いいね、君は。他の皆が僕は羨ましい」

「どうして?」

彼女はそう聞き返す。

「僕には目が見えない。だから、いつも過ごしている日常がどんなものかもわからないんだ。神様って本当に不公平だよ」

僕がそう言うと、女は黙った。まぁ、幼いこの子にはまだ重い世界だろう、この話は。しかし、

「だったらお兄さんは言葉と心と音楽の目で世界を見て!」

その言葉に僕は「え?」と聞き返す。

「目が見えない?でもまだたくさんの目がある!目は物理的に見てるだけ。言葉の目、心の目、音楽の目。その目で世界を見て!」

「他の目で世界を、見る?」

「そう!お兄さんのその音楽はきっと誰かの支えになる!子供のあたしがそう感じたんだから。100人?1000人?いや、10000人の人を支えることだってできる!」

彼女、女の子は嬉々としてそう僕に言った。

不思議と何故か「できるかな、僕に」という言葉が口から出た。

一度してみようと思ってたこと。全てこの目のせいにしてきた。本当はできたかもしれないのに。こんな僕にでもできることがあるのだろうか。この問いも、やってみなくちゃわからない。

「うん、あたしが保証する。お兄さんのこれからを近いけど遠いところで応援してるね」

女の子はそう言った。どんな表情をしているかは、やっぱりわからない。

「ありがとう。君は...」

そう言いかけて、言葉を切った。女の子の、彼女の気配がしない。

僕は人の慌てて立ち上がって、辺りを駆け歩いた。

不思議と心の何処かで驚いていない気がした。

幽霊だとか、そんな考えは微塵も浮かなかった。

僕は目に映らない、綺麗なんだろう天ノ川が輝いているであろう星空を見上げる。

風に乗って七夕祭りの子供たちの歌声が聞こえてくる。

「何者だったんだろう。あの女の子」

僕は一人、そんなことを呟きギターを手に七夕祭り会場へと向かう。

作詞・作曲。他にもたくさんの音楽分野。

「音楽の道、考えてみようかな」

これは目の見えない...けれど言葉の目、心の目、音楽の目を持つある一人のせいねんの物語。

これから誕生するNOTE15のBGMを作り、NOTE15を支えるのは

まだもう少し、先のお話。


*長いのにここまで読んでくださった方が居たら本当にありがとうございました!

菜乃花 このアカウントは現在使われておりません。・2018-11-26
短編小説
小説創作
NOTE15

感情食堂第5話

*これはシリーズ物です。

*興味がおありの方は1話から読んでくださるとありがたいです。

*暇潰しに読んでくださると感激です。

簡単あらすじ。
突如押し掛けるかのように来店した来たのは見慣れた少年少女二人組。
如月と水無月。
水無月にこの食堂を立ち上げた理由を問われ、少女店員の彼女はその理由を話すのか...。



『この食堂を造ろうと思ったきっかけは----------- 』

そこまで言葉を放った途端、鈍い衝撃が頭に感じた。

突然の事に驚愕と何が起きたのかという動揺が入り交じったよく分からない感情のまま、すぐさま後ろに目を向ける。

『痛い...なんで叩くの叔母さん。さすがにトレーで叩かれるのは勘弁だけど』

バシッと容赦なく私を叩いたのは、後方に居た叔母さんだった。叔母さんは微笑した表情を崩すことなく、トレーをゆっくりとカウンター上に置いた。

「ごめんなさいね。ただ、貴方が勝手に話そうとするから...ついね」

ふふっと笑っていて、てへぺろ等というふざけた効果音が付きそうな口調で言う。

『知られたらまずいことでもあるの、叔母さん』

間髪入れずこの微妙な空気に言葉を差したのは他でもないこの質問をした水無月だった。

酒の手を緩めることなく、ましてこの状況にたじろぐ様子など一切せずに私と叔母さんを交互に見た。

隣の如月はこの修羅場的展開に開いた口が塞がっていないが。

かくいう私も正直ビックリだ。それも、面を食らうほどのレベル。叔母さんとはまぁまぁの年月を、日々を、日常を過ごしてきたが手をあげられたのは今日が初めて。

沈黙という名の凍りついてしまいそうな静寂の予感がしたが、最悪のその空気は叔母さんの空気で免れた。

「いいえ?まずいことなんて一つもないわ。ただ、同じ店員としての私の同意と許可なくいきさつやきっかけを話そうとするから。本当ごめんなさいね」

叔母さんはそう言って私に軽く頭を下げてきた。そのせいで叔母さんの表情が見えないせいでどんな感情を抱いているのかまったく分からない。

ひとまずここは私も非は少なからずもあっただろうし、謝るのが最善策だと思い、『いや、叔母さん。私もごめん....なさい』

小声の若干震え気味の声音でありながらもそう謝罪すると叔母さんと私は同時に顔を上げた。

あまりのハモりに思わず吹き出してしまう。

「似てるわね。私と貴方」

『逆だよ、逆。叔母さんが私に似たの!』

先程までの北極かと思うレベルの凍りつく感覚と緊迫は何処へやら。

和やかな雰囲気が戻ってき、ほっと私も如月も胸を撫で下ろしていた。

だが、まだ終わっていなかった。

「まぁ、それはそうと水無月ちゃん」

『なに』

叔母さんに名前を呼ばれたことで酒を飲む手を止め、再び視線を合わせる二人。

「あまり...人の過去に踏み込んじゃ駄目よ。昔、教わらなかった?人様の事に首を突っ込むなって」

『....そんなこと教わってない。というか教わる相手も親も居ない』

一見普通の会話をしているように聞こえるがその場に居る私と如月は思った。

ヤバイ、これはまずい。一触即発の危機だということを察知していた。

双方口調は喧嘩腰。どちらも引く気は無いのだろう。

『はいはい、はーい!ストップです。叔母さん、水無月!二人とも一旦落ち着いて』

「そうだ、彼女の言う通りだ。二人とも落ち着け。叔母さん、貴方が何を抱えて考えてるかは分からない。だが、年齢ともかく容姿が少女の者にムキになるな。そして、水無月。水無月の何気ない質問に興味本意で同調した我も悪かった。だが、これ以上の追求はよそう」

ガバッと同時に席を立った私と如月は両方を押さえつける。

『うん、如月の言うことは正論だよ。それに叔母さん、ここの食堂内で喧嘩したら店内荒れるでしょう!?手をあげるのは外でして!』

私は叔母さんの手を、如月は水無月の手を取りながら叫ぶように言う。

「おい、外でしていいというわけでもないだろう。第三者を巻き込むな」

はっと如月の言葉に反応し、『それも、そうだね。ごめん、如月』と如月に告げる。

数分ほど経っただろうか。すこし落ち着きを取り戻した二人はふっと息をついた。

叔母さんはお冷やを取りだし、水無月はカウンター席上の手元の酒を一口飲んだ。

「ごめんなさいね、取り乱して。私もまだまだ幼いところがあるのかも」

『それを言うなら私の方も。今度から少し自重する。それとさっきの質問は忘れて、叔母さん。聞いてはいけない禁忌の質問だったかもしれない』

落ち着きを払った二人の様子に私と如月もふーっと冬なのにでこの汗を拭う。

「お互い、大変だな」

『うん。そうみたいだね』

そう言って如月と私は顔を見合わせてはにかんだ。

「水無月ちゃん。本当のこと言うとね、話しても全然大丈夫なの。ただ...」

『ただ....?』

「今はまだ、話す時期じゃないと思うの。だからまた来てくれたときや、話そうかなーっていう気持ちになれたら話させてもらえる?ちょっと我儘な私の気まぐれに付き合ってもらいたいの」

そう叔母さんが言うと水無月は数秒考えるように黙ったが『うん、分かった。承知した』と笑みを浮かべた。

「ありがとう。で、如月くんもそれで構わないかしら?」

叔母さんがそう如月にも問いかけると「分かった。好奇心抱えて待っておく」と言葉を濁さず返した。

叔母さんはその二人の返事に満足したような顔つきになり、ちょうど飲み終えた如月と水無月の飲み物を下げ出した。

「さぁ、二人の飲み物片付けて食堂内綺麗にしないと。明日もまた誰かがこの食堂を必要として来店してくるかもしれないしね。手伝ってもらえるかしら?」

そう言って真横に立っていた私の顔を覗き見てくるように尋ねた叔母さん。

『うん、もちろん。私もここの一員ですから』

私がそう返事を返した途端、ガタッと椅子を引くような音が鼓膜に届いた。

視線の先を叔母さんからカウンター席に腰を下ろしていた二人に向けた。

すると二人は既に席を立っており、出入口扉へと足を進めていた。

二人は一度此方を振り返った。

「店員や食堂の明日に備えての準備を邪魔しちゃ悪い。それに此方もまだ業務が残ってる。ここらでおいとまさせていただく」

『え、そんなに残ってるの。やりたくない』

表情をげんなりとさせた水無月を如月は一喝する。

「あのなぁ、水無月。お前が全部我に業務を押し付けたこと、全部上に筒抜けなんだ。だから本来の倍以上あるんだ。水無月のせいなのに何故か我まで...」

如月の嘆くような声が私の耳に届く。相変わらずこの二人はでこぼこコンビだろう。

「代金は不要なことは二人とも知ってるわよね?」

「あぁ、もちろん。それ以前に此方の金銭など一枚たりとも手元に持ってないからな」

「そう。じゃあお気をつけて」

そう叔母さんが言うと二人は踵を返した。

『水無月!』

私は扉が閉まる直前水無月の名を精一杯の声量で叫んだ。

私の声に反応し、水無月は何事かと此方を振り返る。

『また来てね!』と声には出さず...しかしそう告げるかのように手を振る。

水無月も声には出さずふっと笑うように手を小さく振り返した。

パタンと古びた扉が閉まる音を確認し、厨房へと叔母さんと共に移動する。

厨房付近の窓には空気が乾いた影響で月と星が透き通るかのように煌めいていた。

彩っている明日を予感させるかのように。




*ここまで読んでくださった方、いらっしゃったらありがとうございます。

*誤字脱字ありましたら教えてくださると嬉しいです。

菜乃花 このアカウントは現在使われておりません。・2019-01-27
感情食堂
小説創作

*タイトル考えてません。
*暇潰しに読んでくださると嬉しいです。



幸せってなんだろう。

この世界って何のためにあるんだろう。

人って何のために生きているんだろう。

全部最初から無いものならば....

幻想だったらよかった。


夕日が傾き、静かな空間の図書室を照らす。とても眩しいけれど、どれだけ眩しくても私の心に光は届かない。

たくさんの本に囲まれている机に一人、文字をノートに書き込んでいく。

でも、どれだけ逃げ込んでも現実での出来事は頭から拭えない。

「本当、あんたってうざいやつ」

「その無神経なところが癪に触るんだけど」

今日いわれたことばが頭に蘇り、グッとシャーペンを持つ手に力が入る。

今は12月で、高校受験の追い込み時。皆、不安と緊張でストレスが溜まってるのは私にもすごく分かる。

私も同じ、受験生だから。

でも、

「言葉は人を傷つけるものじゃない。誰かを支えるために本来あるものなのに」

私はポツリと誰も居ない空間に呟く。もちろん、肯定も否定も返ってこない。

ハズ、なのに。

『本当、お姉さんの言う通りだよ!』

「えっ!?」

何処からか、女の子の声が耳に入った。思わずガタッと椅子を動かし、立ち上がる。

立ち上がって声の主を探す。意外にも、声の主はすぐ見つかった。

小学校低学年ぐらいの背丈の金色の髪で、白いワンピースの女の子。

「えっとあなたは?というか、ここは中学校よ?あなたが来るにはまだ少し早いわ」

私はやんわりとその女の子に接げる。

『やっぱりこの姿だと子供って見られるよね。まぁ、いっか。それよりも、お姉さんは言葉は好き?』

女の子は私の問いを無視して逆に質問してきた。しかし私はその問いに答えずにはいられなかった。

「大好き!でも、最近は好きじゃないかな」

『皆、人を傷つける言葉を使ってるから?』

「どうしてわかるの!?」

思わず驚き、声を上げる。

女の子はクスッと笑いながら『お姉さんの言葉から伝わってくるから』と言った。

『どうしたらもう一度言葉を好きになれそう?』

「え?えっと、言葉が好きな人や求めてる人が集まれる場所があったら、かな」

素直に私は自分の想いを述べた。

『そうだよね!じゃあお姉さんが作ってよ!』

女の子はニッコリ笑いながらそう言った。

「え、どうやって?第一そんなものができるものなんて」

私にはそんなことできない、と首を横に振る。

『大丈夫!もう少し時が経って人類の文化が発達したらスマートフォンっていうのができるの。それだったらきっとたくさんの人が集まってくれるよ』

女の子はそう言いながら、『手のひらぐらいの大きさだよ』と右手を挙げた。

「えぇ...」

聞き慣れない言葉に頭が混乱してしまう。スマートフォンって何?

『約束、してくれる?』

女の子はそう言いながら、小指を差し出してきた。私は数十秒迷った。だけど、その小指に私も自分の小指を差し出した。

「うん、言葉が好きな人のことなら....約束する」

『本当!?ありがとう』

彼女が満面の笑みを見せたとき、急に眩しい夕日が図書室を照らした。

「あっ、あれ!?あの女の子は...」

女の子は私の前から姿を消していた。一体、何者だったんだろう。

幽霊?未来人?それとも....神様だったり?

なんでもいい。あんな素敵な約束を交わしたのだから。

もし、その言葉に関して人が集まるところに名前を付けるならと、私はノートに名前を書いた。そこに書かれた文字は...

『NOTE15』

理由は言葉はノートに表すもの。15はあの女の子と出会った歳を忘れないという単純な理由から。

いつか言葉が好きな人と一緒に作ってみようか。

「あの子との約束を果たすためにまず、高校受験頑張らないとね」

私はそう言って、ノートを手に図書室を出た。

これはNOTE15の誕生が約束された物語。

*ここまで読んでくださった方、いらっしゃったらありがとうございます!

*誤字があったら教えてくださると助かります。

菜乃花 このアカウントは現在使われておりません。・2018-11-30
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