*タイトルは最後に書いてある短編小説です。
*暇潰しにでも読んでもらえたら嬉しいです。
空の主人公が太陽から月へとバトンタッチする夕暮れ時。
現在は5時半ぐらいだろうか。正確な時刻は分からないが体内時計はそう示していた。
いつもならばこの時間帯は自宅に帰っている時間だが、私は民家がポツリポツリとある道を歩いていた。
「なんで誰も分かってくれないんだろ」
ため息混じりに言葉を吐く。この先、到底明るい未来なんて見えやしない。
今、私は高校3年生。それに今は受験シーズン真っ最中。世の中3と高3が1番苦しむ時期だ。
重りでも背負ったかのような足を動かしながら先程の父母と担任....大人たちの言葉を頭に思い浮かべる。
『どうして高学歴を狙わないの?あなただったら有名大学にだって行けるのに!』
『これは皆、あなたのために言ってるの』
『悪いことは言わないから、もっと上を目指しなさい』
その言葉をハッキリと思い出し、首がもげるのではというぐらい頭を振る。私の考えを頭ごなしに否定する身勝手な大人たち。
「ああ、もう!ムカつく!」
私は怒り任せにダッフルコートに入っていたスマホをすぐ近くの家に投げつける。当然スマホは大破だ。
しかし、今の私にはどうでもよかった。スマホを投げつけた家に目を奪われていた。
まるでおとぎ話に出てきそうなメルヘンじみた家。恐る恐るその家に近寄る。
「え、これお店なの?」
古ぼけた、埃を被ったような看板には食堂とだけ書かれていた。食堂の前には文字があったようだが黒いマーカーで塗り潰されていた。
私はうーんと頭を捻る。今はちょっと早めの夕食時刻。幸いにも財布は手元にあるし、ちょうどお腹も空いてきたので大きな好奇心とちょびっと不安を抱えながら私はその食堂に入った。
カランカラーンと鈴の音が食堂内に鳴り響く。食堂の広さはそこまで広くはなく、こじんまりとした感じ。
これで経営やっていけてるのかな。そんなことを不意に思った。
『はーい!いらっしゃい、お姉さん。ちょっと叔母さん!久しぶりに来たよ、お客さんが!』
私より年下の中学生ぐらいの女の子が慌ただしく厨房から出てきた。そして叔母さんという人物を呼んでいた。
「はーい。今行くからちょっと先に案内してて!」
違う場所から、その叔母さんと思われる中年女性の声が返ってきた。
女の子は私の方へ駆けよって『ごめんなさい、先に案内しますね』と丁寧に案内をしてくれた。
私は案内された先へと座り、出されたお冷やを一口、口に入れた。
「すごいですね。親戚のお手伝いしてるんですか?」
私は感心しながらそう言った。
『あ、いえいえ。私と叔母さんは親戚ではありませんし、私は正式にここで働いてますよ』
私はえ、と驚いた。中学生はまず労働はできないし...それじゃあ何故?
そんなことを思っていると叔母さんと思われる人物がお盆の上にお椀を乗せ、厨房から出てきた。
「ごめんなさい。用意が遅くなりまして。冷めないうちにどうぞ」
叔母さんはそう言って私の前にうどんを置いた。これにも私は驚いた。
「あの、まだ私頼んでませんけど?」
『今のお客さんにはこれが1番ってことだと思います』
女の子が横から叔母さんの足りない言葉に付け加えるように言った。私はまじまじと目の前のうどんを見つめる。
とても美味しそう。これはこれでいいかと私は開き直るようにうどんに手をつけ始めた。
「美味しい....いつも食べたことがあるようなうどんなのに、すごく幸せな感じになれる」
どこにでもあるような味なのに、どこが違う。
「でしょう?うちの食堂はちょっと特別でしてね。それは幸せうどんと言って幸せな気持ちになれるんです」
幸せうどん....普段だったら胡散臭いの一点しか思わないけれど何故かこれは本物だと思えた。つい、口から本音が漏れだし始めた。
「私、ずっと悩んでた。周りの同意を得られなくてどうしようって。でも、同意を得られなくて諦めるなんてもったいない。今ならそう思える」
私がそう言うと叔母さんと女の子はうんうんと頷いた。
「そうですよね。やはり今の年頃なら悩みはたくさんありますよね。でも、本当は誰にだって乗り越える力はある。それに人間はいつだって気がつかないままでした」
『周りの同意なんてあっても無くてもどのみち変わりはないですから。結局は自分の意志の強さ次第』
私はその2人の言葉を聞いた途端、ガタッとカウンターを立ち上がった。伝えなくては、全身全霊を込めて。そう思ったのだ。急いで財布を取り出す。
「ありがとうございます。代金は...」
「要りませんよ。ここでは金銭は無意味ですから」
「え、でも...」
ここにもまたまた驚きだ。代金を取らない店なんてあるわけない。ましてや金銭には価値がないなんて。
『お姉さん、それよりも急いでるんでしょう?早く行かれたらどうですか?』
女の子は私の背中をトンっと押しながらそう言った。
「....はい!」
私はそう言って食堂を飛び出し、来た道を駆け出し始めた。自分の意思を伝えなければならないのだから。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
『行っちゃたね。というよりか叔母さんさ...』
叔母さんは先程のお客さんが完食したお椀を洗いながら此方に視線をよこした。
「なぁに?」
『さっきのお客さんに出したうどん、幸せ入ってなかった只のうどんだよね?』
私は叔母さんに詰め寄りながらそう言った。叔母さんのにこやかな表情を見るとそれは外れてはいないようだ。
「流石ね。やっぱり同じ店員の目は誤魔化せなかったか」
『まぁこれでもざらにここの店員やってないからね。幸せの匂いがしなかったから。でも、どうして普通のうどんを出したの?』
私は叔母さんの意図が分からず訪ねた。叔母さんは洗い終わったお椀を布巾で拭きながら答えた。
「あのお客さんは隠し味が無くても大丈夫だと思ったから...ぐらいかしら?ほら、病も気からってよく言うし信じこめば大丈夫かなって」
『そんな理由?でもまぁ久しぶりのお客さんだったからいいけど。とりあえず一件落着だしね』
「そうね。次はいつ来るのかしらね」
そう叔母さんが言ったところで私はふと思い出す。
『ところであのお客さんのスマホ、大丈夫かな...』
ここは他の食堂とはちょっと変わった感情を隠し味にしている食堂。
[感情食堂]
この食堂では、色々な都市伝説的な噂が存在します。
中学生ぐらいの女の子と中年女性の店員は人間ではない何かだったり、この食堂は必要としている人間にしか見えなかったり、金銭は取らないだとか....
全ては根も葉もない噂かもやしれませんが...火のない所に煙は立たないと言いますよね?
全てはあなた様の目でお確かめください。
あなた様のご来店、機会がありましたら是非お待ちしております。
*ここまで読んでくださった方、いらっしゃったらありがとうございます!
*誤字ありましたら教えてくださると助かります。