‘君との時間を、星空を見上げて
強く願う’
初めてこの地に来たときは、
とても感動した。
でも2回目となる今は、感動よりも
なんとも言えない嬉しさだけが
ただそこにある。
『ねぇー、今指数どのくらい?』
「40だよ。前来たときより低いみたい」
少し残念そうに言うと、彩の顔にも
それが移った。
『えー、そうなのー?』
今回の旅行は、星空を目的としていた。
一人で来たときよりも、星空指数は
低いようだ。気象協会とやらによると。
今は黄昏。前回来たときは、
この時間でも少しは星が
見えた気がする。
「夕食とってから、もう一度外に
出てみよう?山の天気は変わりやすい、
そう言うじゃん?」
『うーん、まあそうだね!夕食
楽しみだなぁー』
隣で咲く笑顔が、作られたものである
ことを知っている。
ごめんね。せっかく誘ったのに……
そう、静かに思う。
声には出さない。きっと君は、
大丈夫と言って僕を気遣う。
夕食をとる場所に向かいながら、
彩の後ろで揺れる髪を見る。
僕がこの旅行に誘ったのは、
たった3日前だった。ずっと片思いだった
同じクラスの清水彩。ふと噂で、
星空が好きなことを知った。星空観察の
趣味が同じだったことと、何回か
話したことがあるのが背中を押し、
勇気を出して誘った。
流石にだめかな、と思ったけど、純粋な
彩はYesを口に出してくれた。
どうやら親は出張中らしく、貯めていた
お年玉の使い道に悩んでいたらしい。
そうして僕らは、ここにいる。
『美味しかったなぁー、旅館の人って、
こんなに優しくしてくれるんだね!』
「そうだね。でもあれだけの量、
よく食べられたな」
そう言うと、彩は少し、困ったように
笑った。
『まあね、こういうところ、来たことが
なかったから。つい嬉しくて……』
そう、だよな……
余計なことを聞いてしまった。
彩は親の仕事のせいで、あまり人と
でかけたことがないらしいのだ。
そう、彩の親友に聞いた。
『ねえ、もう外に出てみようよ!』
黙っていると、ふと明るい声が耳を
刺激した。
もう21時か。
「そうだな……」
僕の声は、最後、聞こえ辛かった
かもしれない。本当は、
心配だったのだ。指数は低いし、
雲があったらいくら明るい星でも
絶対に見えない。
『きっと見えるって。山の天気は
変わりやすい。そうでしょ?』
僕の顔を覗き込んで微笑む君は、
どこまでも優しくて――
好きだな、と強く思った。
僕は昔から顔に出にくく、どんな
杞憂も認めてもらえなかった。
そのせいで友達は離れていき、
人と話すのが怖いと思った時期も
あった。でも、そんな僕の心情を
わかってくれて笑ってくれる、
それが彩だった。
「行こうか、彩」
『うん!』
満開の花を咲かせた彩は、
僕の手を取る。
途端にドキドキしてしまって、
俯いた僕にどうしたの?と声をかける。
よし、と思い、
そのドアを開いた。
誰もいない屋上は、予想以上に暗かった。
それでも彩のいるところはわかり、
そばによった。
『あ!星、見えるよ!こんなにいっぱい!』
わかってるよ、彩。
同じ夜空を見上げている。
「うん、すげー」
見渡す限りの星が、僕たちを迎える。
『あれ、でも指数40とか
じゃなかったっけ?』
言われて思い出した。
彩がスマホを取り出すのを見て、
気になって画面の光を覗く。
『あれ?40のままだ』
あ、と気づく。
「ちょっと貸して」
小さな右手が、大きめのスマホを
差し出す。
「ほら」
画面を見せると、一層華やかな
笑顔が咲いた。
“○月27日 星空指数 90”
「更新、してなかったみたい。」
『あ、そういうことか』
そう言って嬉しそうな彩。
山の天気は変わりやすい――
かつて言った自分の言葉と、彩の
声が重なった。
誰にお礼を言えばいいのかな。
ふと、そんなことを思う。
頭上で煌めく星たちが、
とても綺麗に見える。
もう一度、よしっと小さく言って、
目の前の一人だけを見る。
「あのさ彩、ずっと、言おうと
思ってたんだ。」
切り出した言葉は、ありがちで。
まるで映画のようだと思った。
「俺、彩のことをずっと
前から見てた。好きなんだ。
君のことが」
緊張で手が震える。
きょとんとした彩の目が、
次第に見開かれる。
時間が永遠みたいに流れたけど、
実際は数秒にも満たなかったと思う。
『ずっと前からって、どのくらい?』
少し下を向いてた彩が、
いたずらしたみたいに笑った。
「え、2年前、くらいかな……?」
すると、彩は面白そうに笑い出した。
「な、なんで笑うんだよ!?」
だめだったの、かな……?
『ごめんごめん。あのさ、
これから私が話すこと、
向こう向いて聞いてて』
どうして……?
そう言うと彩は後ろに回り、
僕の背中に、ピッタリと自分の
背中をくっつけた。
『ばーか』
突然聞こえた小さな声に、
振り向いてしまいそうなる。
「ど、どこが馬鹿なんだよ?!」
『私はもっと前からだよ?』
質問には答えずに、優しい声を放つ。
『私は優のこと、3年前――
会ったときから
ずっと好きだったんだよ』
今、初めて名前で呼んでくれた……?
ていうか、今なんて……?!
『あー、振り向いちゃだめだって言ったのにー!』
ぷくーと頬を膨らます彩が可愛くて。
顔が真っ赤になっているのを見て、
今度はこっちが笑う番だった。
「彩、耳まで真っ赤」
『う、うるさいし!』
恥ずかしがる姿が可愛すぎる。
『し、しかもさぁ
こんな綺麗なところで告白なんて、
ずるすぎるよ!』
僕は、つい意地悪したくなって聞く。
「僕への返事は?」
また彩が、後ろを向いてしまう。
『オッケーに、きまってるじゃん』
もう、嬉しすぎるよ、彩。
『『「「あ、流れ星」」』』
二人の声が、重なった。
『何かお願いした?』
今度は、僕が赤くなった。
それを見て彩が、隣で笑う。
何千個、いや、無限に輝く星の中で
僕は答える。
「彩と、同じこと」
嬉しそうに微笑む彩。
どこにも転がってそうな言葉だけど、
どんな星よりもきれいだと思った。
君の横顔が。
君の心が。
そして、たった一つの二人の願いを
この時間に、この星空に託して
顔を合わせて笑った。
Star Leaf‐27 writer・2019-06-22 #StoryOfPhoto #掌編小説 #“君との時間を、星空を見上げて強く願う” #胸キュン
