甘い恋なんて知らない。
俺の恋はずっと苦いから。
俺の過ちは女に生まれて
来られなかったことじゃなく
きっと……。
性と言う名の鳥籠シリーズ
MIRROR´MIRROR~スキナヒト
第二話
グレイのリボン
セーラー服を羨みながら
袖を通した襟口の硬い学ラン。
僅かながらの
息苦しさに首を伸ばして
登校したあの日
中学の入学式で
俺は脩哉と出逢い
電光石火の恋をした。
小学生の頃どんなに
両親が望むような
“男らしい男”を目指しても
滲み出るモノは隠せなかった。
男から滲む“女らしさ”
小学生は
そういったものに
すぐに反応する。
「お前、なんかキモくない?」
そんな一言から
俺はいじめられた。
ドラマに出てくるような
ひどいものではなかった。
ただ、俺が何か言おうとすると
クスクスと笑い声が聴こえたり
ことある毎に
「オネエ」
そう笑われた。
父親に相談したこともあったけど
男なんだから
自分で解決しなさいと言われ
からかわれる度に
俺はむきになって拳を振り上げ
同級生たちを
追いかけ回す日々だった。
同級生からしたら
いじりだったのだろう。
むきになる俺が
おもしろかったのかもしれない。
それでも小さな心が
悲鳴をあげるには
充分なほど
あれは“いじめ”だった。
そんな“いじめ”は
入学式が終わり、
クラスでのHR前の
数分でも俺に牙をむいた。
「おーい、真央ちゃん」
六年の頃のクラスメイト
矢田晴臣が
俺に話しかけてきたのだ。
「……なんだよ」
「かっこいい人いたぁ?」
「は?なんだよそれ」
あっさりと流そうとした、
俺の反応が気に入らなかったのか
矢田は大きな声で俺を揺さぶった。
「なあー、みんな聞いて。こいつ、オネエなんだぜ」
「ちが、」
「だってほら」
そう言って
机に出していたペンケースの中を
物色し始めた矢田は
俺が隠し持っていた、
可愛いうさぎ柄のケース付きの
消しゴムを見つけた。
「こんな女っぽいの持ってんじゃん」
矢田はつまむように
消しゴムをもつと
高々と掲げる。
背の低い俺はどんなに手を伸ばしても
消しゴムを取り返すことができない。
最悪だ。
入学式初日で
中学三年間
終わった
そう思った時だった。
矢田と頭一個分
更に背の高い男子が
消しゴムをひょいと取り上げ
「あ、これ?俺の」
あっさりとそう笑う。
「え、は?」
呆気に取られる矢田を後目に
そいつは俺に白い歯を見せた。
「ありがとな、見つけてくれて」
「え」
「探してたんだよ、助かった」
そう言葉を重ねウインクのような
目配せをされてはじめて
ああ、俺を庇ってくれたんだ
そう思った。
名札に目を落とすと
そいつこそ、
支倉脩哉だったのだ。
何かの気まぐれだったのか
正義感のかけらだったのか
とにかく脩哉に助けられた俺は
瞬間でこの男に恋をした。
人気者の脩哉は
よく俺を気にかけてくれて
どういったわけか
中学を卒業するまでには
俺たちは自他共に
認める親友になっていた。
「真ー央」
「何」
「やりたい」
「口開けばそれ、猿かよ」
「ウキーッ」
脩哉はおどけて笑い
俺の唇を奪った。
「脩哉」
絶え間ない戯れの隙間から
やがて俺は呟く。
「好きだ」
「あ、それ久々に聞いた。今日はどーした?そういう気分?恋人ごっこする?」
「抱けよ」
「真央くん、大胆」
好きなんだよお前が。
なんて、そんな視線を送ると
涙が浮かんで脩哉の姿が歪む。
何を、間違ったんだろう。
過ちとすれば
女に生まれて来られなかった事じゃない。
きっとあの日
こいつに口を滑らせなければ
こんなことにはならなかったんだ。